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兄上とは

「お前はいつからそんな愚かな男になったのです」


「あ、あ、兄上。ど、どうして、ここに」


ディーンの言葉に周囲が一気にざわめいた。


「兄上ってまさか?!」

「そんなはずは!」


そんな声が耳に入ってくるがアリーヤはそれどころではない。衝撃すぎて今までの騒動なんて頭から吹っ飛んだ。


ーーなんで?!どういうこと?!


同じ言葉がぐるぐる回る。

兄上と呼ばれてそこに立っているのは、自分のお側付きであるはずのカインだったからだ。

神官用のローブではなく、正装姿に王家の紋様が入ったマントをまとうその姿は紛れもなく王族の一員で、それをカインは違和感なく着こなしていた。というより、ものすごく似合っている。


カインはディーンを無視してニコラスに礼をとった。


「お待たせしました、父上」

「問題ない。まずは皆に紹介しよう。私の息子、第二王子のアルカイン・イル・デ・リグラータだ」


その瞬間、全員が一斉に頭を下げる。アリーヤもそれに倣ったのだが気が動転している。


ーー嘘?!嘘でしょ?!そんなことってある?!


叫びだしたいのを必死で堪えた。散々軽口を叩いてきたカインが王子だなんて本当かと、胸ぐらを掴んでゆすりたい気分だ。

自分の横に目を向けると神官長以外みんな目を丸くしている。従妹であるはずのカトリーナも知らなかったようで若干顔が青い。それを見て、少し落ち着いた自分がいた。


「よい、楽にしてくれ。アルカインは幼い頃から神力が強くてな。アナスタシア様がいらっしゃった神殿に預けておった。神力が安定するまでは表に出すべきではないと、皆には病弱だと伝えていた。もうずいぶん前から安定していたが、本人が神殿での生活を望んでいたのでな」

「ええ。神力が安定しなかった私を、アナスタシア様始め皆様が支えてくれました。だからこそ神殿内がどれだけ潔白であるか、私はよくわかっています」


穏やかな口調でアルカインは話していたのだが、突如ディーンに鋭い視線をぶつけた。ディーンはびくっと肩を揺らす。


「ディーン、お前は自分が何を言っているのかわかっていますか?」

「あ、あ、兄上」

「四聖も神官も、悪しき行動をとれば力を失うことはお前も知っているはず。それでなぜ、不正が行われていると声高に言えるのですか?」


ディーンの顔は真っ青だ。なぜかすごく怯えている。

それに構わずアルカインは冷たい笑みをディーンに向けた。美形なだけに余計凄みがある。


「先程の話。セイレーン様の寵愛が王家にあるなどと、くだらないことを言ったのはなぜですか?」

「あ、そ、それは」

「聖女はカトリーナ嬢が相応しいとは?なぜお前に決める権利があるのですか?」

「あ、あの、あの」

「女神セイレーン様を侮辱するその行為。お前はセイレーン様が与えてくださっている大陸の加護を、失くすつもりですか?」


その言葉に周囲から悲鳴が上がった。


ディーンは「あの、その」と青を通り越して白い顔になり後退った。脂汗を掻き、ただ首を横に振っている。怯え方が尋常ではない。先程の威勢はどこにいったのか。


そんなディーンの横をすり抜け、アルカインはアリーヤに向かってくる。

ディーンほどではないにしろ、気が動転しているアリーヤも一歩下がろうとしたのだが、アルカインはそれを阻むようにアリーヤの手を取った。


「それから皆さんにお伝えします。こちらのアリーヤ・クレスタ様は現在誰よりも聖なる力がお強い方。アリーヤ様は女神セイレーン様の寵愛を一身に受けておいでです。この国に、この大陸に、必要な尊い四聖に間違いありません」

「ほほう。それはまことか?」


ニコラスがアリーヤを興味深そうに見てくる。


「はい。アルカイン・イル・デ・リグラータの名において、誓いましょう」

「ハハハッ!そうか、そなたの名に誓うのだな、アルカイン。それなら間違いないだろう。神力を持っているそなたの言葉は誰よりも信頼に値する。そしてディーン、お前は少々暴走がすぎるな。大陸を守護してくださっている四聖にそのような態度をとるお前は、一体何様のつもりだ?」

「い、いえ。あの……」


ディーンは口ごもり、青ざめさせた顔を下に向けた。

そんなディーンをニコラスは一瞥しただけでそれ以上は追及せず、アリーヤに目を向けた。


「巫女アリーヤ、愚息が大変失礼した」

「い、いえ!気にしていませんから!」

「ふむ。今代の四聖もお心広く素晴らしい人格者であるようだ。では皆の者、女神セイレーン様の寵愛を受けておられるアリーヤ殿に、盛大な拍手を送ってくれ」


その言葉で歓声がわあっと沸き上がり、拍手が巻き起こる。

国王にまで敬称をつけられ、アリーヤは引きつりそうになる顔をなんとか動かして、今できる精一杯の笑顔を作った。




その後はずっとアルカインがそばにいた。守られていた、と言ってもよいかもしれない。


煌びやかに飾られたパーティー会場に移動すれば、先程は訝しげな視線を送っていた当主達がえらく好意的になり、自分の息子を連れてわらわら寄ってくる。


「婚約破棄されたと伺いました。元婚約者殿は見る目が無いようですね。私なら~~」


自分アピールをしてくる子息達を、アリーヤが返事をする前にアルカインがやんわり遠ざけてくれる。おかげで面倒な話をせずに済むので大助かりだ。


さらにアルカイン目当てで寄ってくる令嬢達には、アリーヤの素晴らしさを延々と語るので令嬢達が去っていく。一応令嬢達も四聖のアリーヤに気を遣ってくれたようだ。


だが中には強者もいる。


「ルガッタ王国第一王女ローズマリー・ルガッタです。お会いできて光栄ですわ、アルカイン殿下。わたくしのことはローズとお呼びください」


ルガッタ王国はリグラータに隣接しており魔術が盛んな国だ。その第一王女がとても美しいと噂には聞いていたが、間近で見るとそれはもうびっくりする程とんでもない美人である。どうやら王女はアルカインを気に入ったようで、隣のアリーヤは完全にいない者扱い、まさに空気と化した。

だが結局それもアルカインが躱したので、アリーヤの周りはようやく静かになった。


「お気遣いありがとうございます、アルカイン殿下」


他人行儀なアリーヤにアルカインは眉を下げる。


「アリーヤ様、後程お時間いただけますか?」

「……わかりました」

「それから愚弟が失礼しました」

「それは全然大丈夫です」


ディーンはパーティー会場にはいないようだった。あんなことを言い出して裏で叱られているのだろう。どうでもよいことなのでアリーヤは気にもしていなかった。

それよりも。


ーー王子様に私のお側付きをさせておくなんて。無理よね


「こちらも美味しいですよ」


アルカインはいつもと変わらない笑みを浮かべて料理を勧めてくれる。それをアリーヤは無言で食べた。


美味しいはずなのに、なんだか味がしなかった。

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