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お披露目会

シシリーの洗礼を終えて以来、アリーヤはシシリーと過ごすことが増えた。


午前中は祈りの間で二人はそれぞれの役割、結界と浄化の祈りを大陸中に届けている。

それとは別に、治癒と豊穣の祈りも捧げていた。

本来の巫女が祈れば治癒は青みがかった、豊穣は緑がかった色味を帯びるのだが、アリーヤ達にその力はないので光は白いままだし力もそれほどない。

それでもやらないよりはましだろうと、未だ洗礼を終えていないカトリーナとアロマの代わりに一心不乱に祈りを捧げ、二人の光を共鳴させてなんとか力を届けていた。


その後は湖に浸かって力を整える。


「まさか四聖になるなんて思いもしなかったわ」

「それは私もだ。四聖なんてガラじゃない」

「あら!シシリーが銀の光を放っている姿はとても素敵よ!誰もが見惚れるわ!」

「それをいうなら神々しい金の光をまとっているアリーヤは神秘的すぎて感動するよ!」


褒め称えあっている自分達がおかしくて、二人でクスクス笑った。

気さくなシシリーに、友人とはこういうものだろうかとアリーヤは毎日楽しく過ごしている。



それからしばらくして、四聖のお披露目会が行われることになった。


初めての王城はアリーヤを圧倒させた。まさに豪華絢爛。だがアリーヤは質素だが温かみのある神殿の方が自分好みだと思った。大きな声では言えないが。


城の一室で着替えをすませた後、カインと二人でお茶をしながらその時を待つ。

四聖の正装は幾重にも布が重なった白いローブだが、四人とも少しずつ形が違うらしい。髪は下ろしたままで、首からロザリオを下げている。


「よくお似合いですよ」

「ありがとう。でもさすがに緊張するわね」

「無理もありません。国王陛下に謁見するのですから」


謁見の間には国内の当主夫妻も勢揃いしている。いくらマナーを身につけたとはいえ、ただの男爵令嬢には荷が重い。

両親も来ているはずだがあの二人は目立つことが苦手なので、隅で空気と化しているだろう。


「謁見さえ済んでしまえばあとはパーティーですからね。せっかくですから美味しいものを食べてきてください」


それを聞いたアリーヤは顔をパァッと輝かせた。


「さすがカイン!いいこと言うわね!普段食べられない豪華な食事を堪能してくるわ!」

「それがよいでしょう。それではいってらっしゃいませ」


クスクス笑うカインに見送られて他三人と合流した。



「アリーヤ!よく似合っているよ!」

「シシリーも素敵だわ!」


開口一番、お互いを誉め合う。アリーヤはフレア気味のローブだが、シシリーはストンと落ちたラインで、それがまた凛々しいシシリーを格好よくさせている。


とはいえ、やはり一番はカトリーナだろう。元が美人なので清貧の中にも華やかさがあり人目を引く。巫女どころか、聖女といわれても納得できるほどの気品と貫禄があった。

その隣にいるアロマはふわふわ笑いながらカトリーナに話しかけているが、あまり相手にされていないようだ。

アリーヤはあいかわらず嫌われているので声をかける隙もない。


「では皆様、準備はよろしいですね」


神官長が先頭に立ち、儀式の結果順、すなわちアリーヤ、カトリーナ、シシリー、アロマの順に、謁見の間に入場した。


壇上には国王ニコラスが腰を掛け、その隣に王太子グレインが立っている。部屋の両脇には当主夫妻がずらりと揃っていた。


アリーヤは粗相しませんようにと願いつつ、神官長の後ろをしずしずとついていく。

だが好意的ではない視線をビシバシ感じた。これまで名前が出てこなかった男爵令嬢のトップ通過に、訝っているのが伝わってくる。


ーー私の場合は自分で自分の首を絞めたってやつね。仕方ないわ


大勢の前に出されてかなり緊張していたが、マイナスからのスタートだと思うと逆に冷静になれた。


指定の場所に着き、横並びに並んでから一斉に胸に手をあて神殿の礼をとる。

国王ニコラスからお言葉を頂戴した後、一人ずつ名前を言えば謁見は終了。


そのはずだったが。


「父上、お待ちください!」


どこからか颯爽と現れたのは第三王子ディーンで、アリーヤのすぐ前で立ち止まった。

当たり前だがこんな近くで見るのは初めてだ。


しかも後ろには四聖候補だったあのジェシカも伴っている。


「ディーン、どうしたというのだ」

「此度の四聖ですが、選出方法にいささか問題があったと耳にしました。これまでずっと聖なる力の低かった者が最後の儀式になって突然選ばれたとか。力の無い者が私欲のために結果を誤魔化したとすれば、これは由々しき問題です!」


振り返ったディーンはアリーヤを睨み付けた。

そのせいでアリーヤはさらに注目の的となり、ひそひそと囁く声も聞こえ出す。


アリーヤにしてみれば、いきなり何を言い出したと驚くばかりだ。だが相手は第三王子、突っ込むわけにもいかない。


ちらりと神官長を見ると安心しなさいとでもいうように頷いてくれたので、とりあえず黙ることにした。


「ふむ。ディーンはこう言っているが?神官長よ」

「恐れながら申し上げます。そのような事実はまったくございません」

「フン、神殿内のことはこちらには見えん。どうとでも言えるだろう!」


ディーンは最初から神官長の言葉を聞く気はないようだ。ずいぶん否定的である。


「それではお伺いしますが。どのような方法で選出を誤魔化したのでしょう?」

「そんなこと私にわかるわけがないだろう!だが本来なら選ばれる者が弾かれた。そうだな!ジェシカ・レニュー嬢!」


呼ばれたジェシカが少し前に歩を進めた。以前に比べると少し痩せたようで顔色もあまりよくない。


「レニュー嬢、君は神殿に上がってからずっと四位だった。そうだな?」

「……はい」

「だが四聖を決める最後の儀式のみ、五位に落ちてしまった。間違いないな?」

「ですがそれはっ!」

「間違いないな!」

「……はい」


てっきり糾弾側かと思いきや、無理矢理言わされている感満載だった。

ジェシカは俯き加減で眉を寄せ、唇をきゅっと結んでいる。どうやらここで証言することは本意ではなかったようだ。

こんなことに引っ張り出されて可哀想ではあるが、儀式後の後悔と反省が本物だったと分かり少し安心した。


だがそんなことを知らない周りはざわついた。「まさか神殿で不正が?!」そんな声がちらほら聞こえてくる。


「神官長、これが事実だ!」


勝ち誇った顔をするディーンに神官長は呆れたように溜息をついた。


「結果だけ見れば殿下の言ったとおりです。ですがそこに行き着くまでには過程があります。なぜジェシカ様が五位になってしまったか。なぜ別の候補者が四聖に選ばれたのか。ジェシカ様はお分かりになっているはずです」

「いい加減なことを言うな!そもそも前四聖が選ばれたときも、四人全員高位貴族の令嬢ばかりだったというではないか!聖なる力の強い者は王家に近い者!男爵令嬢ごときが四聖に選ばれるなどおかしいに決まっている!」


ディーンはアリーヤをビシッと指差し、再度睨み付けてきた。完全に敵認定している。


ーー話したこともないのに、なんでこんな目の敵にされてるのかしら


アリーヤにはよくわからない。

代わりに神官長が声を張り上げた。


「お待ちください!聖なる力のある者は女神セイレーン様がお選びになります!過去には平民が聖女に選ばれることもありました!王家に近い者が選ばれるという解釈は間違っております!」

「お前こそが間違いだ!我がリグラータから四聖候補が生まれる!これはセイレーン様が王家に寵愛をくださっているからだ!」


ここにきてディーンはとんでもないことを言い出した。

リグラータ王国に四聖候補が生まれるのは、初代聖女がリグラータ人だったからだ。それを王家の寵愛などと、セイレーンの意思に反する思想になる。

神官長は慌てて訂正するよう伝えるが、ディーンはいっこうに聞く気がなく持論を展開していた。


ほったらかしにされているジェシカは少しずつディーンと距離をとろうとしている。神殿にいた者ならディーンの思想はただの危険人物でしかない。


「王家に近い者!それは我らと同じ血を引くカトリーナに他ならない!聖女になるべきはカトリーナだ!」


色々ごちゃごちゃ言っていたがディーンは急にカトリーナ押しをしてきた。そこでやっとアリーヤはわかった。


ーーディーン殿下は私を蹴落としたいのね。カトリーナ様のことが好きなのかしら?


アリーヤは一人ごちた。


「な、なんと恐ろしいことを…!」


神官長は唖然としていた。聖女は神託で選ばれる。なのにそれを自分勝手に決めつける。事の重大さをわかっていない。


「よいか!王家はお前が四聖などと認めない!わかったならこの場からさっさと立ち去れ!不届き者がっ!」


またしてもディーンはアリーヤを睨み付け、手で追い払うような仕草をした。


そんなことをされたアリーヤはどうするべきか考えた。言い返すのは馬鹿らしいのでそれは却下。素直に出ていっても全然構わないが、それはそれで後々問題になりそうだ。


それにしても元婚約者のキールといい、ディーンといい、アリーヤにとって三男は鬼門のようである。


そこに静かな声が響き渡った。


「私の弟はいつからそんな愚か者になったのですか」


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