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ゴブリン騎士と農民姫  作者: 照喜名 是空
戦の章:7年目・夏
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第一次ゴブリン王国紛争その①調査依頼

 

 ◎調査依頼


 始まりは、ゴブリン騎士が後から思い出すとこの朝だったように思う。

 その日、ゴブリン騎士はオーク詩人と共にギルドに来ていた。


「いい依頼はあんまりないねえ、平和すぎるってのも考え物だ」

「ちがいない。腕が鳴るようなものは少ないな……河岸を変えて大森林に狩りにでも行くべきか」


 そこに同じく依頼を見ていた烏羽の騎士が声をかける。

 いつものように鋭角的なデザインの金属兜アーメット板金を裏打ちした(ギャンベゾン)コート姿だ。

 季節は秋。重装備でも戦える時期になった。


「貴公、それならば私の依頼についてきてくれないか?何、金は出す」

「ふむ、他ならぬ貴公の話だ。ぜひ聞かせてくれ。良いか?オーク詩人」

「ああ、リーダーはあんただからね。つきあいも大切さ」

「では説明がてら食堂でお茶でもしよう。来てくれ」

「ああ」


 食堂は庇をおろし、日陰ながらも石造り故か涼しい。外の明るい景色からの照り返しでほの暗い食堂はなお涼しげに見えた。


「コーディアルの炭酸割りを3つ。それからジンジャーブレッドも」

「わかったよーすぐにもってくるからね!」


 エルフのおかみさんは今日も快活で若々しかった。

 やがて出てきた血のように赤いイチゴとハーブのシロップを炭酸で割った冷たいドリンクに、クッキー。

 ドリンクが出たのをきっかけに他愛ない世間話を仕事の話に切り替えていく。


「それで、貴公ほどの凄腕が補助を求めるほどの依頼とはどのようなものなのだ?」

「まずはざっと説明しておこうか。北方の鉱山からドワーフの国に抜ける道があるのは知っているな?」

「ああ、今はあまり使われていないのだったか」

「そうだ。だが、通る者がいないわけではない。だが……ここ最近、この道を通ったらしき者達が立て続けに行方不明になっている」

「おだやかではないな」

「北の鉱山……まさか、あいつらかい!?」


 オーク詩人の顔色が変わった。そう、ゴブリン王国のゴブリンたちに追われたのもそこだ。


「可能性は高い。最近、その辺りのゴブリン討伐依頼がすくない。……平定され、集結していると考える事もできる」

「なるほど……だが、可能性の話では、あまり人は出せまいな」

「そうだ。そこで私に依頼が来たのだが……もし実際に複数の集団を平定できる規模のゴブリンがいるとなると……一人では厳しい。故に腕の立つ冒険者が必要だ。ちょうど貴公らは奴らに因縁があることだしな。どうだ?受けてくれるか?」


 ゴブリン騎士はバイザーを少し上げて隙間からコーディアルを飲む。氷でよく冷えたイチゴの味と、炭酸の刺激が実に心地良い。

 頭を冷やすには良いドリンクと言えるだろう。


「ゴブリン騎士の旦那、受けさせてくれ。あたしもあんたもあれから強くなった。討ちたいんだ、みんなの仇をさ……」

「うむ、私とてやつから背を向ける選択はない。だが、無策で当たるのは危険だ。烏羽殿、仮にそれがゴブリン王国であったとして、もし見つけたらどのように?」

「ククク、逸る気持ちは理解するぞ。だが我々はいわば斥候だ。たった3人で少なくとも数十から数百と野戦をするのは危険だ。とりあえず規模を調べて……それがたいしたことがない数ならばむろん殲滅だ。焼き討ちをかける。『ゴブリン殺し』の毒を撒き、脂を撒いて火をかける。刃向かう者は切り捨てる……どうだ?悪くない話だろう」

「ああ!やつらの悲鳴を早く聞きたいもんだね!」

「うむ、それも良い。なんとかできる数ならば私もそうする。だが、仮に千や万を越える数であれば?すでにやつは7年の時間をかけてる。7年だ。ゴブリンがそれだけ時間があればどれだけ増えることか」


 ゴブリン騎士がオーク詩人の肩に軽く振れ、落ち着かせる。


「ああ、それも当然想定に入れておくべきだろう。いや、むしろそのために貴公らを雇うのだ」

「ほう?」

「万一、対処しきれない数である場合……敵に見つからなければそのまま引き返し、ギルドに報告する。そうなれば近々大規模な討伐が企画されるだろう。それも良い。だが……見つかった場合は命がけで退却し、情報を持ち帰る必要がある」

「しんがりになれって?たしかにあいつらは殺したい。けど犬死にはごめんだね」


 ゴブリン騎士に習い、頭を冷やすように冷たいコーディアルを飲む。文明の味だ。ここに来なければ飲めなかった味だ。

 だが、今はそれよりも復讐の味が欲しい。


「無論、見捨てはせんさ。戦法はあとで解説するが、強行突破する。だが一人では囲まれて終わりだ。飛び道具も欲しい。支援もな。そこで貴公らだよ。オーク詩人、馬で逃げながら後ろ向きに弓を撃つことは?」

「ああ、できるさ。やってやる」

「ゴブリン騎士、追いすがり、先走り、孤立した追手を討つことは?」

「可能だ」

「ならばそれで行こう。前に敵が居れば……言うまでもないな」

「ああ」

「ならば決まりだ。あとは報酬だが……これでどうだ」


 烏羽の騎士が懐から革袋の財布を取り出し、金貨を積み上げていく。

 10枚。20枚。30枚。


「お、おいおい烏羽の旦那……前金でそんなに?」

「それだけ数がいる可能性が高いと私は踏んでいる。妥当な報酬だ」

「命がけってわけだね……それで装備を揃えろってかい」

「そうだ。なんならコボルト術士を連れてきた方が良い。その場合も加算するし、待つぞ」

「いや……やめておこう。万一があった場合、彼は生きていた方が良い。全滅は避けるべきだ」

「クックック……それも懸命な判断だな。死ぬ覚悟はもはやできているというわけか」

「ああ、言っただろう。ゴブリン王は私の仇敵。騎士として背を向けるわけにはいかん。いかん、が……テイマー殿や妻子がな……オーク詩人、貴公も降りるならば今のうちだぞ」

「いや、やってやるさ!あんたに騎士の誇りがあるなら、あたしだってオーク戦士の誇りがある!」


 ゴブリン騎士は後半、口ごもってしまう。家族を得て強くなることもある。だが、弱くなった面もある。

 彼には守るべきモノが多いのだ。


「ククク……守るべき家族が多いというのも、難儀なことだ。まあいい、最低限貴公ら2名がいればなんとかなろうさ。回復役も欲しいがな。まあ、私がやろう。できんこともない。ソロだからな」

「かたじけない。では、そのようにしよう。無事の帰還を」


 ゴブリン騎士は冒険者達のよく使う聖句を唱える。すなわち、契約成立でありこれから仕事にかかるというわけだ。


「狩りの成就を」


 対して、烏羽の騎士は彼の流派が使う合い言葉を口にした。

 いずれにせよ、賽は投げられた。

 故にゴブリン騎士はこのことを後に長い戦いの始まりだったと回想することになる。

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