勇者からのクエストその⑦剣王
◎剣王
もはやまばらになった幽鬼たちをかいくぐり、剣王に近づく。
「はっはっは!疾く倒れぬか剣王よ!」
「……!」
凄まじい剣戟だ。無数の斬撃が飛び交い、刃がぶつかり合い、勇者の魔法を剣王の特大剣が打ち消す。
勇者にも細かな傷や疲労の様子は見られるが、すぐに聖女の回復魔法を受けて回復し、無限とも思える戦いを続けていた。
「凄まじいな……」
「ああ……だが、やれるだろう?友よ」
「ああ、もう恐れはない」
「ならば行こう、我が友重装騎士よ」
「ああ、行こう。我が友ゴブリン騎士よ!」
「『かりそめの刃』!」
「『真空刃』!」
誰も入れなかったその戦いに、今ゴブリン騎士の狙い澄ました『かりそめの刃』によるナイフの投擲が行われる。
無数の斬撃の隙間、避けざるを得ない頭部めがけての攻撃。
さらに重装騎士の真空刃がゴブリン騎士を守るように立ちふさがる。
「……!」
「ほう?」
果たしてナイフは見事に剣王の頭をかすった。
わずかに身体を構成するモヤを削っただけだが、それでも一撃は一撃。
反撃として飛んでくる斬撃も重装騎士の真空刃で勢いを削がれ、うまく二人は逃れることができた。
「剣王よ。どうやらそろそろ祭りもお開きらしい。ここまで他の剣士が来れた。そろそろ本気を出すが良い。案ずるな、受け止めてやる」
「……」
咆哮。剣王から放たれた咆哮を浴び、ゴブリン騎士は古竜のそれを思い出した。
「ハッハッハ!見事!見事なり勇者よ。今の今までこの剣王を前に立ち続けたこと、賞賛に値する!そして……そこの二人。名乗られよ」
「……ゴブリン騎士、アラン」
「重装騎士、ジーク!」
「ほう……ゴブリンの騎士か。時代は変わったモノだな……貴公もまた、人の世を守ってくれるのか?」
「語るに及ばず!このゴブリン騎士、卑しき産まれなればこそ、騎士の誓いを破ることなし!」
「この重装騎士、彼の友としてその真実を誓おう!」
「おお、それはよかった……アラン、ジーク、そしてオレリアス。さらに今この場にいる全ての戦士達よ!よくぞここまで戦意を絶やさず立ち続けた!貴公らの手向け、深く感謝しよう!」
それは戦場全てに響き渡る大声だった。幾たびの戦を越えた声は、不思議と遠くまでよく通るものだ。
「誉れは貴公らにあり!褒美として、この戦いが終わった後、貴石を手にするが良い!そして、その力で混沌より人界を守るのだ!」
それはほぼほぼ例年通りの挨拶ではあるのだが、紛れもなく剣王の本心でもあった。
そして、三人を燃えるような目で見る。
「さて……もう幾ばくも時はないが、今しばしつきあってもらうぞ。戦士達よ!」
言葉を喋る代償なのか、それとも本気を解放したせいかはわからないが、剣王の白い幽鬼の身体はぼうぼうと燃えるように少しづつ解けている。
「話が長いわ、剣王よ」
「胸をお借りする!」
「ああ、剣王に誉れあれ!」
そして、戦いが始まった。
熊ほどもある剣王の身体、そして墓標のように長いグレートソード。
それがまるで暴風のように軽々と動く。
戦士達は誰に言われるまでもなくそれぞれの役割を理解していた。
勇者が攻撃役、重装騎士が防御役、ゴブリン騎士が遊撃だ。
「なるほど、今代の勇者もなかなか……!」
「なんの!目の前にいる私を忘れてもらっては困る!」
重装騎士は鎧と盾でとにかく前に出続け視界と注意を引く。
「ほう、ならば受け止めるが良い!」
「隙ありだ剣王殿!『立待月』!」
ゴブリン騎士が重装騎士が倒れぬように剣王の注意を引きつける。
「良い剣だ。練り上げられている。ゴブリンの身でよくぞここまで!」
だがそれも軽々と振り回されたグレートソードで払われる。
「だが、好機!食らうが良い!剣王!『英雄の一撃!』」
勇者の黄金の魔力に光り輝く切り払いが剣王に深く刺さる。
「ぬうん!」
しかしそれだけで倒れてくれるほど甘い相手ではない。剣王の開いた手が勇者の胸を殴る。
「ぐうっ!」
「こちらの番だ」
勇者の攻撃に合わせてゴブリン騎士たちが下がった隙に各個撃破を狙われる。
まずはゴブリン騎士であった。
なんの変哲もなく、しかしわかる者からすればまるで隙がない切り払い。
(速い!避けれぬ!受ける?できん!これは、死……?)
濃密な死の気配に、ゴブリン騎士の脳は極限までの集中を可能とした。
迫る刃がゆっくりと見え、そして目で見る風景に重なるように全てが透き通った世界を見た。
その世界に見える物が魔力の流れなのだとゴブリン騎士は理解した。
そして、自然といつのまにか盾を迫る刃に合わせていた。
「ぐうっ!」
ゴブリン騎士はボールのように吹き飛ばされるが、不思議と傷はなく、骨も折れていなかった。
そうだ、テイマーの加護だ。以前も、こんなことがあった。
「ゴブリン騎士!」
「大事ない……!」
「ほう?鑑定の魔眼に目覚めたか。いいぞそれは。敵の闘技を盗める」
「ゴブリン騎士、一端下がるがよい!魔眼に目を慣らしておけ!」
剣王が感心したようにうなずき、勇者が叫んだ。
「すまぬ……!」
どうやら、死に瀕して魔眼に目覚めたようだがそれどころではない。
「ゴブリン騎士よ!学べ!貴様の目ならば剣王や俺からも学べるはず!そして追いつくのだ!」
「ならば我が友よ!我が技も!なあに、少しくらいであれば耐えてみせる!『大鉄壁』!」
「……すまぬ、すまぬ!すぐに、戻るゆえ……!」
「任されよ!」
そこから、ゴブリン騎士は逸る心を抑えながら「見」に徹した。
見て、盗むのだ。この場のあらゆる技を。
そしてそれは成功した。
「わかる、わかるぞ……『こう』か!」
「ほう、我が足運びを……予想以上に成長が早い!」
剣王と英雄の技を見て理解した。効率的な魔力の回し方、身体の強化の仕方というものを。
魔眼の使い方を。これがあれば身体の動きよりも速く敵の意が解る。
そして、時間にしてわずか数分。馴らしが終わった。
「なるほど、こうか!こうするものなのか!」
「ほう、見事」
「だろう?これならば今回は勝ちが拾えるというものだ!」
身体は軽く、力がわき出る。
ひらり、ひらりとゴブリン騎士は剣王の刃を躱せるようになっていた。
ゆっくりとだが、形勢が勇者たち側に傾いていく。
「友よ!今だ!」
そして、どれほどたっただろうか。その時は訪れた。
勇者と友が作った好機、ゴブリン騎士は必殺の一撃を繰り出した。
「三刀必殺、一刀目『足削ぎ』!」
すぱん、と剣王の幽体の足が斬れた。バランスを崩した剣王に追撃が迫る。
「二刀目、『背這い』」
「なんの!」
ゴブリン騎士の二撃目は剣王の特大剣に阻まれ、反撃の刃が迫る。
「やらせん!」
「『英雄の一撃』!」
重装騎士の真空刃がその剣を剃らす。
そして、天高く跳んだゴブリン騎士による剣王の首への一撃と、勇者による心臓への一撃が重なった。
「三刀目『首撫で』!」
「……みごと、なり……」
そうして、剣王の幽体はかき消え、特大剣は墓標のようにその場に突き立った。
後には、素早く離れた勇者とゴブリン騎士、そして重装騎士が残された。
「やった……のか?ゴブリン騎士、私は生きているのか?」
「ああ……やったのだ我が友よ……!」
「やれやれ、俺としても、しばらく身体がうごかん……やれやれ……」
やがて、戦場のそこここで幽鬼たちの身体が消えていく。
祭りは、終わったのだ。
勇者は息をととのえ立ち上がると、天に拳を突き出して宣言した。
「この戦い、我らの勝ちだ!ここに剣王祭の終了を宣言する!戦士達よ、よくやった!」
そして、勇者はどっと疲れたように大の字で倒れる。
「そして、今しばしは皆休むがよい……!」
ゴブリン騎士も、重装騎士も今はそれに否はなかった。
「ハア、ハア……やった……生きている!生きているぞウワハハハーッ!」
「ああ、そうだ。生きている。信じられん。我らの、勝ちだ……!」
剣の丘は昼下がり。戦いが終わりゆっくりと日が傾きつつあった。
西日に貴石がキラキラと輝き、無数の剣が静かに突き立っている。
美しかった。




