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ゴブリン騎士と農民姫  作者: 照喜名 是空
芽吹きの章:二年目・春
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勇者からのクエストその①剣王祭への誘い

 ◎獣狩りと勇者パーティー


 それから、ゴブリン騎士とコボルト術士、オーク弓手はバランスの良いパーティーとして活躍した。

 やはり後衛が二人いれば安定度と手数が違ってくる。

 彼らは多くの討伐クエストを成功し、名声はますます高まり、安定した収入を得た。


 そして、ゴブリン騎士はいつものようにギルドに来ていた。

 やはり春先の季節は混んでいる。新人と遠征から帰ってきたパーティーでごった返すのだ。


「お前がゴブリンの騎士か」

「そうだが、貴公は?」

「獣狩りだ」


 烏羽の騎士と同じく、ヘルムにコートというスタイルの男は冷たい声でぶっきらぼうに答えた。


「そうか。何用か」

「お前は人に害成す獣、ただのゴブリンか。それとも世間の言うように騎士か。確かめに来た」

「私はゴブリンだが、人に徒なす気はないし、誰よりも騎士たらんとしている。とはいえ、証立てといっても白の騎士神に誓うくらいしかできんが……」

「白教の誓いか。ならば白教の祈祷で確かめてもかわまないな」

「ああ、それで貴公の疑いが晴れるならば」


 獣狩りは無言で小さな杖を構え、ゴブリン騎士に突きつける。


「『真実トゥルース』白の騎士神に尋ねる。このゴブリンは人に害なす存在か」


 窓から一瞬、白く眩しい光が差し込み二人の目の前に白い羽が落ちてきた。

 羽には一文字だけ書かれていた。『否』と。


「……『敵看破センスエネミー』我が敵は、人に害なす全て。敵はいるか」


 何の反応もなかった。しいていえば廊下の隅を飛んでいる蚊ががわずかに赤く光ったくらいだ。


「……最後に聞く。正統防衛以外で人を殺したことは?」

「ない。死体漁りや、夜盗を殺したことはある。無辜の民に襲いかかってくる賊の類いも何人、いや何十人か」

「……そうか」


 少し考え、獣狩りは杖を下ろした。


「邪魔をした」

「そうか。疑いは晴れたか?」

「ああ」

「それはよかった」


 そこに廊下の向こうからきらびやかなパーティーがやってきた。

 仰々しく派手な鎧、眉目秀麗な男女達。


「ふはははは!だから言っただろう獣狩り!賭けは俺の勝ちだな!」


 リーダーらしき金髪の男は豪快に笑う。若く、美形だ。


「おほほほほ!あらもう知り合いがごめんあそばせ~!この人ほんともう無愛想でごめんなさいね~!悪気はないんですのよ~!」

「噂のゴブリン騎士が君かい!良いデザインの鎧だね!太陽の鍛冶屋で買ったのかい?」

「やかましわ全員!ほら見てみいゴブリン騎士くん引いとるやないかい!」


 見た目も豪華だが、全員が全員成金のような豪快な人物たちのようだ。

 獣狩りはため息をついて懐から金貨を一枚取り出すと、ピンと弾いて金髪の男に投げて渡した。


「……掛け金だ」

「まあそう拗ねるな獣狩りよ!そして初めましてだなゴブリン騎士!俺は勇者オレリアス!黄金の羽というパーティーを束ねるものだ」

「ほう、貴公がかの高名な勇者か。ご存じだろうが、私はゴブリン騎士。お会いできて光栄だ」


 勇者、そして彼のパーティー黄金の羽。

 その功績は街でよくささやかれている。

 曰く、一太刀で魔族領との境目となる大渓谷を作った、とか。

 王都にある城よりもでかい巨人の軍団を倒した、とか。

 魔族領で群雄割拠する魔王を何人も討ち取った、とか。

 人がする冒険というよりは、神話の出来事のような壮大な話が多い。


「わはははは!殊勝な態度よな、気に入った!ゴブリン騎士よ俺は今夜クエストの募集をする。金と名誉が欲しいならば来るが良い」

「お誘い感謝する。実際に行くかどうかは内容とパーティーの都合によるが」

「かまわん。それからこの話、ぜひ広めておけ。此度もなかなかに楽しい冒険だとな!」


 そう言うと、勇者は先ほど獣狩りから受け取った金貨をゴブリン騎士に弾いてよこした。


「うむ……承った」

「ではな!邪魔をしたな!」


 勇者に続いてパーティー達がぞろぞろとついていく。


「おほほほ、ごめんあそばせ~!」

「今晩また会おう!その時は話を聞かせてくれえたまえ!」

「ほなな、ほんますまんな!」


 そう言うと、勇者は賑やかなパーティーと共に嵐のように去って行った。


「あれが勇者か……」


 英雄豪傑ともなれば実に濃い面子になるのだな、とゴブリン騎士は独りごちた。


 ◎勇者のクエスト


 その夜、ゴブリン騎士達は顔なじみの冒険者達と共に酒を飲んでいた。


「それにしても何だろうな、勇者さまのクエストって」

「でも私たちがついて行けるかしら……」


 少女術士に少年猟師。


「時期からすれば……ふーむ、剣王祭ではないか?」

「あー、ありそうじゃのう。あれは命がいくつあっても足りないのじゃあ……」

「だとしたら俺はゴメンだぜ。祭りの主役なんてガラじゃねえ」


 重装騎士たちのパーティー。さらには新人達と大勢が酒場にごった返している。

 隅の方では獣狩りと烏羽の騎士が静かに呑んでいた。

 ゴブリン騎士は律儀にも勇者のクエストについて広め、その結果がこれだ。


「友よ、剣王祭とは?」

「ふむ……友は知らなかったか。あれはな、言ってみれば戦祭りよ」

「ほう……」


 重装騎士は天井の方を見て、夢見るように語り出した。


「その昔、剣王グレイは混沌から民を守るために人柱となった。その地には彼の愛剣が墓標のように突き立っているという。

 彼を偲び、多くの引退した剣士たちが己が剣を奉納したのが始まりだ。

 やがて剣士の遺族が供養のためにと剣を捧げたり……

 今では無数の剣が突き立つ剣の丘となり、剣王をその魔力で守っているそうだ。

 いざとなれば無数の剣が宙をサメのように飛び回り混沌を駆逐する。そのような場所だ」

「ほう、すばらしいな。ロマンを感じるぞ」


 ゴブリン騎士はその英雄的な物語に懐かしさと高揚を覚える。

 彼にとって英有譚とはかつては寝物語であり、今や収集を生き甲斐とする趣味なのだ。


「そうだろうとも!そして数年に一度、剣王と奉られた剣たちを偲び慰めるために戦祭りが開かれる。

 剣王の力により、剣達は幽鬼のようなかりそめの肉体を得て集まった猛者たちと戦いを繰り広げる。

 もちろん、剣王自身もな。

 そこで剣たちを砕く事で戦いの興奮のうちに葬ってやろうという催しよ!どうだ、心が奮い立ってこないか?」

「うむ、素晴らしい催しだ!ぜひ参加したい。だが……予算がな」

「それは案ずるな友よ!祭りが終われば剣の丘に落ちている特別な貴石を袋に詰め放題だ。大きな声では言えんが、500金貨にはなるだろう」

「なんと……夢のような催しだな」

「もしそうだったら、ぜひやりましょうね!」

「おお、テイマー殿。ありがたい。行きたいものだな、剣王祭か……」


 そんな事を話しているうち、勇者たちが酒場に入ってきた。


「おお、集まっているな。この勇者オレリアスから貴様らにクエストがある!」


 しん、と酒場が静まった。


「剣王祭に行きたいか!俺が連れて行ってやる!奮って参加せよ!」


 うおおお、と酒場が沸き立った。

 勇者は満足そうにうなずくと、手で皆を制した。


「とはいえ、剣王祭が何か知らぬ者も多いだろう。そういうわけで聖女エヴリンよ、説明を頼んだ」

「はいよ、今紹介されたエヴリンや。黄金の羽でヒーラーをつとめとる。よろしゅうな。そいで剣王祭やけど……」


 古いエルフ訛りで喋る銀髪の聖女はつらつらと剣王祭について説明をしていく。

 おおむね先ほど重装騎士が行ったとおりだ。


「言っとくけどそんなウマい話はないからな!あいつらマジで殺しにかかってくるで!まあ、即死せんかったらウチが完璧に治したるわ。そういうわけでヒーラーも募集やでー」

「……というわけだ。クエストを受ける者は俺が実力を試す。連れて行っても死ぬような実力であれば大人しく帰るがいい。さあ、それでもなおクエストに参じようという猛者はいるか!」


 真っ先に手を上げたのはゴブリン騎士だった。


「受けよう!剣王の無聊を慰めるという催し、気に入った!今こそ私の武勇をごらんに入れようではないか!」


 ゴブリン騎士の目線を受けて重装騎士が笑って手を上げた。


「友が行くというならば、私も負けてはおられん!この重装騎士ジーク、ぜひ参じよう!」

「しょうがないのう、ヒーラーとしてわしもやるんじゃよー」


 次々に手が上がっていく。その中には少年猟師もまたいた。

 勇者は満足そうにまたうなずくと、すらりと剣を抜いて掲げた。


「よろしい!では今すぐ試しを行う!練兵場に来るが良い!」


 おおお、と歓声と共に冒険者達もまた剣を抜いて掲げた。

 それはまるで、これから行く剣の丘のようであった。

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