新人研修その②のどかな旅路
◎旅路
「それじゃあルートを確認しましょう。出発はここ、サイラス辺境伯の城塞都市からずーっと街道沿いに行って……行き着く先は国境の砦です。
だいたい馬で1日、15里くらいですね。宿場街はその間6つ。一日一村やっていけばまあ余裕があるかなと思います」
「途中に我々の村も通るな」
仕事の途中に家に帰れる。思わぬ収穫にゴブリン騎士は鎧の奧の顔がほころぶ。
「ええ、なので真ん中の一日は我々の村で休日を挟みます」
「しかし一日一村か……いささか強行軍では?」
「なので多少伸びても大丈夫ですよ。差し引きすればじっくり討伐をやった方が得ですからね」
「そういうものか?」
「そういうものです。私が時間管理をちゃんとしますから、皆さんは討伐に専念してください!」
「うむ、任された」
皆は馬車に、カナリアンテに乗ったゴブリン騎士は御者席のテイマーと顔を合わせて話し合っている。
馬の速度はゆったりとしたもので、冒険の始まりというにはあまりにも牧歌的であった。
城塞都市にもっとも近い最初の村の依頼は都市部ということもあって『ぬるい』ものであった。
「おお、冒険者さんか。今年は新人がよく入ったなあ。実は魔牙猪が出てきちまってよ。情けない話、俺らじゃ見つけても仕留めきれん。勢子はやってやるから、頼めるか」
「はい、よろしくお願いします!」
テイマーの答えに村の猟師は気の良い様子で笑う。いかにものんびりした初老の男だ。
「えっ、冒険者って依頼人に協力頼んでいいものなんすか?」
少年猟師が驚いた様子で尋ねた。
「何しろ時間が限られてますからね。痕跡を見つけたりするのは地元の猟師さんのほうが上手いんですよ」
「なんだかお手伝いみたいね」
少女術士は顔をしかめるが、テイマーは笑顔で首を振る。
「そこはほら、普通の獣と魔物の違いですから」
「えーっと、まず強くて、人を恐れず、闘技を使う……でしたっけ」
「そうです。魔物はとても強いんですよ。頑丈なんです。だから冒険者の火力が必要なんですね。その分見つけやすいんですが、獣がベースの魔物は隠れるのも上手いですからね。だから猟師さんに協力して貰ったほうが早く済みます」
「なるほど……それで私たちは何をすればいいのか?」
魔法剣士はやはり少しぼんやりした様子で尋ねた。
「猟師さんが勢子をやるので、皆さんは待ち伏せですね。こういった大勢でやる場合はまず魔法使いが魔法を打ちまくって弱らせます。敵が近づくまでは前衛は魔法使いを守りつつ戦いの準備をしてて……弱るかこっちに来た場合は前衛が出てトドメを刺します」
「なるほど……テイマーさんは?」
「私は三足鴉や妖精狼で敵を発見しつつ、勢子の皆さんを手伝います。水妖馬で伝令をしつつ、ですね」
「なあに、テイマーさんやゴブリン騎士には毎年お世話になってんだ。こっちも勝手はわかってるよ」
「うむ、普段はよく三人でこういった狩りをする。私は貴公ら新人を守る故、存分に皆、暴れられよ」
「わかったわ!私の魔法の出番ってわけね!」
「狩りの『待ち』をやるのか……ひさしぶりだから上手くできるかなあ……」
「私の故郷の狩りに比べれば随分楽なんだが?」
「まー上手くやろうねー」
そういうこととなった。
山に分け入り、上空から三足鴉が、地上から妖精狼が索敵し、さらに扇状に猟師達が包囲していく。
まず山に入るというだけでかなりの道のりであった。何しろ道なき道を上らねばならない。
「カァ!カアカア!」
三足鴉の鳴き声で猟師達は獲物の位置を知り、作戦に移るわけだ。
ぴーぷー、とそれぞれが持つ笛を鳴らし、笛の音で合図を出し合う。
「見つけたようだ」
「だねー、猪っぽい匂いがこっちに来てるよ」
「リズ、やり方は覚えてるよな?」
「もちろんよ!見えたら撃つ。見えたら撃つよね……!」
「そう焦らずとも狩りはできるのだが?それより誤射に気をつけるのだが」
「わかってるわよ……!」
皆、茂みに身を隠しその時を待つ。どどどど、と巨大な足音が聞こえる。
向こう側の木々が揺れている。
「まだだ、まだ見えていない」
「うう……」
「リズ、落ち着くのだが」
そうして、魔牙猪が姿を現した。大きい。四足の状態で直立した人間並をやや越えるくらい。
その名の通り、牙は水晶のように透き通っているが、ねじくれ、長く伸び、いかにも恐ろしい。
それがこちらをめがけて突っ込んでくる。
「今だ!撃て!撃ちまくるのだ!」
「す、『癇癪玉』!『癇癪玉』!『癇癪玉』!」
「『氷精よ、その息吹を一矢となせ。その一矢、雨と成せ『氷柱の雨』』」
3つの爆発と、つららによる無数の矢が魔牙猪に直撃する。
だが止らない。
「んー、これは……『■(すくめ)』」
コボルト術士による『恐怖』の咆哮も直撃し、すんでのところでパーティーのすぐ横を魔牙猪が横切る。
魔牙猪はひるんでパーティーを避けることにしたのだ。
「何、次はない。安心されよ」
そう言うゴブリン騎士はすでに月明りの小剣の血を振り落としていた。
ゴブリン騎士の一瞬の抜刀で魔牙猪は後ろ足を切断されていたのだ。
「ぶるるっぶるるっぶるるるるるる!!」
だがそれでも。
爆発により内藏をかき回されても、つららにより無数の氷矢が刺さっても。後ろ足を一本取られても。
それでもモンスターというものは生きている。いずれは死ぬだろう。
だがそれまでに半日はかかる。
ゆえに、今トドメを刺さねばならないのだ。
「少年猟師!腹だ!腹を刺せ!」
「お、おう!!やってやらあ!」
少年猟師は鉈を構えて突っ込んで行く。
さらにそれをコボルト術士とゴブリン騎士が援護する。
「うおおお!!」
少年猟師は鬼気迫る顔で何度も何度も魔牙猪の腹を刺す。血しぶきが彼の顔にかかった。
「こっちだ!化けイノシシめ!」
ゴブリン騎士が後ろに回り、さらにもう一太刀。また足が飛んだ。
「こっちだよー『またたく閃光』術士ちゃんは脳を狙ってねー」
「わ、わかったわ!『癇癪玉』!」
どん、と爆裂音が鳴り、魔牙猪は鼻から脳髄を吹き出して、倒れた。
死んだのだ。
「はあっはあっ…やったわ!」
「うん、死んでるねーまずは一件終わりだね」
「えっ、まずは……?」
「この後はこの村に毒蛇の巣窟の駆除と大毒花の駆除、それから大ネズミの駆除があるのだが?」
「一日で!?」
「強行軍だが、残りはどれも巣がわかっている。時間的には問題ない。あとは気力の問題だ。貴公ら平気か?」
「ぜんぜん平気よ!」
「ま、まだ大丈夫だ!」
「無理はいけないのだが?私はまだ平気だが……」
ゴブリン騎士とコボルト術士は顔を見合わせ、うなずいた。
「……昼食にしよう」
そう、ゴブリン騎士は言った。




