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ゴブリン騎士と農民姫  作者: 照喜名 是空
出会いの章:一年目・春
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竜と戯れると実際死ぬ

 ◎竜と戯れると実際死ぬ


 古竜の咆哮。それはただのあくび程度であっただろう。

 しかしそれでも単純に音の量だけで人を麻痺させるに至る。


「ぐ、ぐうっ……」

「それでも……できることはあります!『従魔へのささやき』!」

<ふわあ……うーむ久々に立ち上がると節々が痛むね……年はとりたくないものだ>


 そのとき、ゴブリン騎士の脳に古竜とは異なる『声』が響く。


<ゴブリン騎士さん、相手は油断しています!本格的に攻められる前に指示を!受け答えは考えるだけで良いです!>

<わかった。どうすればいい?>


 テイマーの小さな、しかし優しい声が響く。それだけでゴブリン騎士のこわばった足に力が戻る。


<私は気をそらせるので、ゴブリン騎士さんは前に出て攻めて下さい!>

<ブレスなどの遠距離攻撃にはどうする。何か私を主の前に呼び出す呪文でもないか>

<あります!……けど基本は散会して避けましょう!>

<わかった、いざとなればためらうな!私を盾にしろ!>

<……わかり、ました>


 その間に古竜はテーブルや邪魔になった品を指先に光る魔法一つで片付けてしまった。

 雑多な品々があっという間に横穴にしまわれる。


<おっと、お片付けもしなきゃね。さて、と……作戦会議は終わったかな?そろそろいい?>

「ああ、おまたせした」

「いきます!『発火』!」


 テイマーは魔法のポーチから火炎壺を投げる。これは火薬を素焼きの壺につめただけの簡単な爆弾だ。

 それでも、一瞬気をそらせるくらいの事はできた。


<おっ、爆弾かー。ちゃんと道具を使えてえらいねえ、おおよしよし>


 一にらみ。ただそれだけで空中に爆弾が静止し、圧壊した。

 しかしゴブリン騎士は止らない。全力で駆けていく。


「うおおお!」

<よーしよーし。元気が良いねーいい子だいい子だ。でもまっすぐに来るだけじゃこうなるよ?>

「■■■」


 初めて古竜は言葉を発した。それは人の身に聞き取ることができない竜語の魔法だ。

 古竜の顔の周囲に蛍のような光点がきらめくと、震えながら光を増し、やがて光波レーザーを発した。


「子細なし!」

<おっ、よけるねえー。うんうん、じゃあもうちょっと足そうか>


 幾筋もの光波をゴブリン騎士は緩急をつけた動きで左右に蛇行して走ることで避ける。


「■■・■」


 四方八方から降り注ぐ光波レーザーに加えて、今度は羽虫のように舞う光点が加わる。

 いやらしいことに、最初は蝶のようにゆっくり向かってくるかと思えば一定距離まで包囲すると一気に向かってくる。

 追尾性能まである嫌な魔法だった。


「子細、なし!」


 これは小円盾バックラーで殴りつける事により防ぐ。それでも、何発かは被弾してしまう。

 よろけてしまうほどの衝撃が走るが、それでも前へ、前へ。


<おおいいねいいね、じゃ、これもやってみようか>


 木の葉のような形の魔法の光が形成されると、ちょうど飛ぶ斬撃のように何枚も飛んでくる。

 足をなぎ払うように、時に袈裟懸けに、時に頭上から斬り下ろすように。

 それらを時にジャンプして、時に転がり回り、時に見切り器用に避けていく。

 光波レーザーに舞う光点も避けながらだ。


<ふふふ、やるね。だけどテイマー君はどうかな?>

<主よ!>

<大丈夫です!前へ!>

<承知!>


 だがその一瞬が命取りだった。


「■・■・■!」


 咆哮。魔法の言葉を含んだそれは、ゴブリン騎士を簡単に出発地点に押し戻す。


<さ、続けようか>

「こ、こんな……」

「主よ、私はやるぞ。今しばし、たえてくれ」

「わかり、ました!」


 そんな事が何度かあった。

 今度はテイマーもアイテムを使い、簡易な防御陣地を作り、ゴブリン騎士は攻めに専念する。

 その上でテイマーもナイフや火炎瓶を諦めずに投擲し続けた。

 飛んで炎を吐かれた。魔法障壁を張られた、疲労したところに魔法が雨あられと降り注いだ。


<こんなもんかな。よくがんばったよ。英雄にすら手をかけてるくらいだよ。じゃあ、そろそろやめにしようか>

「う、うう……」

「……うごかないのか。古竜どの。あなたこそ、こんなものか?」

<ほう?>

「竜とは無双のちからこそ暴威ときく。あなたは、じぶんのからだでたたかわないのか?うんどうなのだろう?」

<ふうん、まああと一回くらいはいいか……こういうとき、どう言うべきかな……根性を称えたものかな?それとも欲しがりさんめと笑ったものかな?>

「この野郎」

<ん?>

「この野郎、でいいのだ古竜どの」

<ふ、ふ、ははは……この野郎め>


 そして、初めて古竜による肉弾戦が始まった。


「主よ!ありったけの加護バフを!」

「わかりました!『従魔の癒やし』!『魔力最大化』『三重詠唱』『従魔への加護:盾・盾・盾』!」


 ごうん、ごうんと引っ掻き攻撃が空を切る。その風圧だけで体が砕けそうだ。

 しかしゴブリン騎士はその恐るべき攻撃を見切り、時に加護のかかった盾でいなし、ついに到達した!竜の足下へ!


「巨人殺し流、三刀必殺!」


 足への攻撃、浅い。硬い皮膚に阻まれた。

 背中への攻撃、わずかに突き立てることには成功。

 頭に上り、額から渾身の力を込めて叩きつける。


<あいてっ>


 わずかに一滴。血が垂れた。


<わかった、わかった!降参だよ降参。痛いなもう>

「どうだ、ひとあわ、ふかせてやったぞ……!」


 ふらりと竜の頭上でゴブリン騎士がよろめき、落下する。


<おっと>

「■」


 竜の魔法がゴブリン騎士をやさしく下ろし、地面に横たえる。


「ゴブリン騎士さん!」

「主よ、やってやったぞ……!」

<まったく無茶をするね。だが、君達はよくやった。まあ、体の傷は治してあげるから、しばし休みたまえよ>

「■・■■■」


 淡い光が恵みのように空から注ぎ、二人の体を癒やした。

 小さな擦り傷すらない。


<ああいたた……全く年甲斐もないことはするものではないね。しかしいい汗はかけた。約束のご褒美だ。これをやろう>


 テイマーの足下にまた小袋が置かれた。


「ありがとうございます、これは……?」

<えーっとゴブリン騎士くんには私の鱗にいらない貴石の詰め合わせかな。あと君に役立ちそうなマジックアイテムをあげたよ。ああ、それからこれも書いておこう>


 古竜がごろりと寝っ転がり丸まると、どこかから羊皮紙とペン、判子が飛んできてさらさらと3枚の書類を書き上げた。


<表彰状ね。一枚はギルド用。残りは個人的に君達に。ギルドに出せば功績になるんじゃないの?>

「あ、ありがとうございます……」


 それは竜からすれば、幼子に渡す手作りの表彰状にすぎなかったが、古竜の古式ゆかしい文体で書かれたそれは後にギルドに提出されてえらいことになる。


<いい汗かいたね。ところでゴブリン騎士くん。なぜ私を挑発してまで続けたんだい?君達からすれば死ぬような目だと思うんだけど>


 竜の指が発光すると竜の口元には小さな家ほどもあるタルが、二人の足下には黒い炭酸水の入ったビンが置かれた。

 手に取ってみると、よく冷えている。

 ゴブリン騎士はバイザーをあげて口元を出すと、炭酸水を一口飲んで答えた。


「きまっている。騎士たるもの、なめられたままでいられるか……!」

<ははは!それで竜にまで挑んじゃうわけだ!いいねー男の子だねー。ははは、はははは!>

「ふふ、あははは……」


 洞窟の円形広場に笑い声が響いた。

 よく冷えた炭酸水が、心地よかった。

 ともあれ、一撃入れてやった。小さくとも、成し遂げたのだ。

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