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ゴブリン騎士と農民姫  作者: 照喜名 是空
躍進の章:一年目・夏
31/83

ソロ依頼を受けよう!

◎鍛錬


ゴブリン騎士の朝は早い。

夜明けと共に、幽霊剣士との鍛錬が始まる。


「基本を教える前に……今すぐ使える小技を教えよう……近々、ソロ依頼にも出るのだろう?こういったものも必要だ……」

「はい、先生。そのつもりです」

「では、手本を見せる……」


そう言うと幽霊剣士はそのへんの拳ほどもある小石を拾っておもむろに握りしめる。


「『黄金の大樹、巡る生命、あふれ出す力。『つかの間の剛力』……ふん!」


小石は幽霊剣士の手の内で砕け散った。まるで土塊を握りつぶしたかのようだったが、まぎれもなく固い石だった。


「それは!?まるで怪力を得たようにみえました」

「その通り……これはほんのつかの間、剛力とそれに耐える頑健さを得るだけの技だ……時には、こけおどしが必要な時もあろう……単純な筋力が解決する問題もある……戦いの中で全てを絞り出す時も……使い方はお前次第だ……」

「おお!必ずやものにしてみせます」

「うむ……魔力を回す事から始めるのだ……これは魔法というより魔力の精妙な操作で行う技……『闘技』という。杖もいらず、慣れれば詠唱も省ける……さあ、始めるぞ……」

「はい先生!」


気がつけば、もうずいぶんと太陽は昇っていた。

朝食の時間だ。


「ゴブリン騎士さーん!ごはん竈に置いておくッスね-!」

「ああ、すまない錆猫どの」

「はいはーい」

「食事もまた、肉体作りの一つ……ゆっくりと食してくるがいい……」

「はい先生!」


肉と粥、野菜スープの良い香りがした。

今日もまた、一日が始まるのだ。

そして、ゴブリン騎士が「つかの間の剛力」を習得するのに一週間もかからなかった。


◎新しい一歩


その日、ゴブリン騎士はテイマーたちとギルドに来ていた。

テイマーは錆猫と買い物に行く帰りによくこうして冒険者ギルドで依頼を見て行くのだ。

今回はそれに剣の手入れを頼んでいたゴブリン騎士もついていったのだ。


「ふむ、いろいろな依頼があるものだ。字がよめるようになると世界がひろがるな」

「おめえ字が読めるようになったのかよ!一体いつの間に……」


後ろから黒い皮鎧に禿頭スキンヘッドの男が近寄る。

小悪党じみた顔だが、一応先輩冒険者だ。


「ああ、黒皮鎧の斥候どのか。じつはコボルト術士どのにならったのだ」

「へえー、あのコボルトちゃんがねえ……まあ魔術師だからな、学はあんのか」

「うむ、コボルト術士どのはあたまがよいぞ」


ゴブリン騎士は興味深げに依頼が張り出されている大きなコルクボードを眺める。

手の平より少し大きなほどの羊皮紙たちがピンで留められてまばらに貼ってあるのだ。


「じゃあお前、もうソロで依頼に行くのか?」

「うむ、もうちょうどよい頃合いかと思ってな」

「最初は無難なのにしとけよー。何しろ依頼人とのやりとりが面倒なんだよ。依頼を確認して何すりゃいいのか聞いたりな」

「ほう……」


黒皮鎧の斥候は先輩風を吹かせながらも、冒険者の心得を教えていく。

この男、味方には面倒見が良いのだ。

なお、その間テイマーたちはギルドの受付でおしゃべりという名の情報収集に励んでいた。


「……とまあそんなもんだ。まあそんなに気張りすぎんなよ。適当にやりゃあいいのさ」

「うむ……勉強になる」


そこに早めに依頼から帰ってきた狐人巫女と重装騎士が加わった。


「おお!我が友、ゴブリン騎士ではないか!貴公、ソロ依頼を受けるのか?」

「ほーう、もうそんな時期なんじゃのう。短命種は成長が早くて驚くのう」

「うむ、我が友重装騎士。そして狐人巫女どのも息災そうでなによりだ。ああ、どれを受けたものか悩んでな……」

「ならこれとかどうじゃ?」


狐人巫女が取った羊皮紙には「護衛任務」とあった。


「見せてもらおう」

「うむ、よく読むのじゃよ」


依頼書にはこうある。


<父がまた遺跡の探索に行きたいと…どうせ見つからんだろうが老体一人で探索に行かせるわけにもゆかぬ。護衛をお願いいたす。場所はティリスターの小山近く。日程は3日間。食糧持参のこと、アントリー村の代官屋敷まで来られよ。 アントリー村代官ケネス・アントリー>


ゴブリン騎士は依頼書をよく読み、それがずいぶんと丁寧な文官のものだと理解した。

代官というだけであって教養のある人物なのだろう。


「あー、ケネスのおっさんか。悪いやつじゃないし、この依頼のじいさんってのも知ってる。ジジイの道楽だよ。ピクニック気分で行ってくりゃいいんじゃねえのか」

「うむ、我らもこの依頼、一度受けたことがある。気の良いご老人であった。野生の獣からご老体を守り、遭難せずに帰れば良い。そうだな……『共呼びの鈴』があれば問題なかろう」

「それは?」

「よくあるマジックアイテムだ。一対の鈴でな。魔力を通せば、片方がどの方向にあるのか解るのだ。山で迷わぬためには買っておいた方が良い」

「そう高いものでもないしのう」

「なるほど、助言感謝する。ならばこの依頼を受けてみようと思う」

「おう、がんばれよ!」

「うむ、無事の再会を祈っているぞ」

「無理せずにのう」


そうして、ゴブリン騎士はテイマーの元に依頼書を持って向かっていった。

やがて、ゴブリン騎士はその依頼を受けるだろう。


闘技「つかの間の剛力」

魔力を消費し数十秒の間だけ岩をも持ち上げる剛力と、

それに潰されないだけの剛体を得る。

単純な筋力により片付く問題を解決するのには良いだろう。

あるいは、こけおどしが時に必要なこともある。


アイテム「共呼びの鈴」

一対の鈴。魔力を通せば鳴り、片割れの鈴がある方向はひときわ高く鳴る。

主に山歩きにおいて使われるものだが、時に縁起物としても贈られる。


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