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ゴブリン騎士と農民姫  作者: 照喜名 是空
躍進の章:一年目・夏
26/83

辺境伯の招待状

 

 ◎辺境伯からの召喚状


 武家者との名残を惜しみつつ、テイマー一行は拠点ホームである黒い森の城塞都市に帰って行く。

 夕方、帰りがけに冒険者ギルドに寄ったテイマーたちに渡されたのは、城塞都市の領主であるサイラス・ラスター・ドリーマー辺境伯からの招待状だった。


「えっ、領主さまから招待状ですか?なんで?」

「なんでも何も、また交易都市で活躍したじゃないですか。その感謝を伝えたい、だそうですよ。悪いことではないので安心して行ってきてください」


 受付嬢は苦笑しつつ招待状を渡す。辺境伯家の封蝋つきの豪華な手紙だ。


「おっ、良かったじゃねえか。きっとご褒美だぜ」


 話を聞きつけた黒皮鎧の斥候が酒場からジョッキを上げて笑う。


「ほう、領主さまにお目通りが叶うとは。いやあめでたいな。貴公の栄達に乾杯だ」

「それで何が書いてあるのじゃ?辺境伯からの手紙って興味があるのう」


 黒皮鎧の斥候と冒険後の酒を飲んでいた重装騎士と狐人巫女が騒ぐ。


「ええっと……じゃあ読んでみますね。なになに……『モンスターテイマー殿、およびその従僕へ。先日の交易都市での活躍、聞き及んでいる。交易都市のアイランズ伯からも感謝の言葉と金一封金貨30枚が貴殿に贈られている。私自身からもささやかながら何か日頃の活躍を称えたい。一人一つ、願いを述べられたし。近日中に来られることを望む。夕餉の宴を共にしよう。冒険者の服装でかまわない。日程については冒険者ギルドに伝えられよ。城塞都市領主、サイラス・ラスター・ドリーマー』……ですって!」


 おおー、とギルドの中が盛り上がった。


「おお、おお……よかったな!テイマー殿!ゴブリン騎士殿!いやあめでたい」

「コボルトちゃんも活躍したんだってな。歌になってるぜえ!」

「ほんと!?やったあ!よかったなあ。ボクも夢が叶ったよ!」

「よかったな、コボルト術士どの。しかしお目通りとは……わたしが、いいのだろうか?ゴブリンたるこの身が……」


 ざわざわと喜びの声があがる。


「クックック……それについては問題なかろう。ドリーマー伯はまれに見る好人物だ。呼ばれたのだから、行ってきたまえよ」


 酒場の隅でちびりちびりとリンゴ酒(シードル)を飲んでいた烏羽の騎士が笑った。


「おお、烏羽の騎士どの……よいご領主だとは聞くが……」

「ゴブリンといえど、貴公の人柄であれば問題なかろう。あれはそういう男だ。せいぜい鎧を磨いて行くのだな」

「ああ……光栄なことだ。助言、かんしゃする」

「クックック……何を願うか考えておくことだ」

「何を願うのじゃ?金貨三十枚程度じゃのう……」


 その問いにテイマーは笑顔でこたえた。


「それなら……決まっています!三人の夢のために使います!」


 そうして、テイマーは3日後に領主の城に行くことを受付に伝えてギルドを後にした。


 ◎ドリーマー城での出会い


 3日後の昼下がり。テイマーは馬車を水妖馬ケルピーに引かせてドリーマー辺境伯の城へと向かう。

 城は街の中心にあるが、街と城の間には堀のように十分な広さの庭園がもうけられ、最後の砦である城へは跳ね橋からしか行けないようになっている。

 もしもの事を考えてつくってある堅牢な城だ。


「これが城か……うつくしい」


 ゴブリン騎士はその壮麗な外観に圧倒されていた。

 白い石壁、尖った尖塔。角度の厳しい切妻屋根。

 全体的に白く明るく、質素と言えるほど上品な城だ。


「すごいねえ、いざというときは立てこもるようになってるんだねえ」

「うむ、これを落そうと思えばなんぎだろう」


 馬車は進み、門の前につく。衛兵が声を上げた。


「止られよ!何者か!」

「冒険者のモンスターテイマーです!今日はご招待をいただきまして……」

「ああ、ゴブリン騎士の。噂は聞いてるぜ。話も通ってる。まだ宴まではちょいと早い。城でも見てくか?案内するぜ。おいブッチャー!執事さんに伝令だ!客が来たってな」

「チッ、まーたてめえは美味しい仕事ばっかしやがってよー。まあいいさ。おごれよ今度」

「ああ、わかってる」


 門番の衛士は若い男たちだった。声はよく通り、活力に溢れている。

 辺境伯の軍は精強なのだと最初の一歩からわかる男達だ。


「おいおいフェーロ、ブッチャー。門番は俺一人か?」

「ブッチャーはすぐに戻ってくるさ。休憩は大目に回して良い」

「たーくまたリーダー気取りかよ……しゃあねえな。早く戻れよ!」

「ああ。……っと悪かったな。話はついた。時間もあるし案内するよ。俺は衛士のフェーロ。よろしくな」

「あっ、はい。テイマーです」


 衛士のフェーロはさわやかな金髪美男だった。

 帽子のように顔の見えるサレットと呼ばれる兜をつけ、軽装ではあるが金属鎧を着こなしている。


「なあにゆっくり見て周りながら客室につけば丁度良い時間になるさ。馬車はあずかっとくぜ。ここに止めときな」

「わかりました。ケルピー!ありがとうね!」


 水妖馬ケルピーは一声ヒヒンといななくと幽体に戻って消える。


「すげえな。召喚術か何かか。あっ、いや冒険者の手札は秘密なんだったな。悪い」

「いえいえ。餌もあまりいらないので助かってるんですよ」


 ゴブリン騎士とコボルト術士も馬車から降りてテイマーの後ろを歩く。


「へえ、あんたがゴブリン騎士か。ははっ、本当に騎士みたいな格好してるな」

「ああ、貴公は騎士なのだろうか?」

「あー……いいや、まだ騎士じゃない。いずれはなるけどな!」

「そうか。最初は騎士かとみまちがえた。兵であるとするならば、辺境伯どのの兵はずいぶんと精強なのだな。この街のものとして、あんしんした」


 ゴブリン騎士の言葉にわずかに棘と賞賛が入り交じったのは、フェーロがずいぶんと軟派なので警戒したためだ。

 しかしそれを差し引いても明るい態度や立ち居振る舞いは好青年といえるもので、ゴブリン騎士本人は好感を抱いている。


「へえ、ずいぶん褒めてくれるんだな。衛士相手にお世辞なんかいらないぜ?」

「いや、じじつだ。貴公の立ち居振る舞い。兵として素晴らしい物だと思う。やや軟派かもしれんがな」

「ははっ、テイマーさんは素敵なレディだけど、別に口説こうとか思ってないぜ。安心しろよ」

「そうか……しんじよう、無礼であった。すまない」

「いいって!あんたもゴブリンにしちゃあずいぶん話せるやつだってわかったしな。それに強いだろあんた」

「貴公もな。体幹にぶれがない。鎧のつけ方もしっかりしている」

「はははっ、よく見てるじゃんか。お客じゃなきゃ手合わせといきたかったけどな」

「ああ、もし後日きかいがあれば、胸をお借りする」

「おう、楽しみにしてるぜ」


 そこにはもはや警戒はなかった。たださわやかな戦士達の友誼があった。

 そんな雑談をしながら一行は庭園を見物していく。

 緑の芝、見事な生け垣、美しい花壇。あるいは時に練兵場や小さな菜園を見たり。

 どこも生き生きと人々が働き、手入れが十分にされていた。

 辺境伯の家臣達の士気の高さがうかがえる。


「みんな生き生きしてるねえ。どこも綺麗に手入れしてあるし」

「おっ、わかるかコボルトさんよ。辺境伯はすばらしいお人でさ。すごいんだぜ。毎週孤児院に顔を出してお土産まで持ってきて子供達の相手をしてくれる。日頃から俺たち兵士や家臣にも声をかけてくださるしな。待遇だっていい。十分な給料に余裕のある人員、休みもしっかりだ。みんな辺境伯のためなら命を捨てられる。そういうお人だ」

「へえーすごく良い人なんだね」

「ああ。良い人さ……でも心配はいらないんだ。良い人で、強いお人だ。俺が尊敬するたった一人の男だ。男の中の男だぜ。孤児だった俺たちを取り立ててくれたのにも感謝しかねえ」


 フェーロは暖かな笑顔で語る。心から尊敬する男の話をする男の顔だ。


「本当にすごい人なんですね……フェーロさんの今の顔を見ればわかります。ああきっと本当に良い人なんだなって。実際この街住みやすいですしね」

「そうだろ!?これも辺境伯ご本人が街に出て細かい調整をしてくれてるからなんだぜ。きっと楽しい宴になるはずさ。気楽に……とは言わないけどさ。楽しんで来てくれよな」

「はい。お仕事中なのに案内ありがとうございました。楽しかったです!」

「あ、ああ……いいんだ。これも仕事だからな。じゃあこの部屋で待っててくれ」

「はい!」


 テイマーも心からの笑顔でフェーロを見送った。今はまだお互いに好感を持っただけだ。

 だがもし、これからも会う機会があれば、また別の展開もあるだろう。

 そんな出会いだった。

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