第9話 動物園は貧乏です! 男爵のもふもふガーデン
さて、今日は”ポチコーロ男爵のもふもふガーデン”がオープンする日。
発案者として、ポチコーロの奴を笑いに……もとい、運営状況を、視察に行くのだ。
オレは自分の仕事を片付けると、午後3時……一番来場者が多い時間帯だ……に、”もふもふガーデン”特設エリアに向けて移動していた。
「あ、レオくんも見に来たんだ! 副園長として、新トラクションの視察を……といいながら、わたしも見たいからだけど♪」
「ふふ、楽しみだねっ」
ルナも同じことを考えていたのか、途中で一緒になる。
ふっ、ヒロインとエンカウントしがちな主人公属性を持つオレだから(職場の人数が少ないので当然である)、抜かりなく着替え済みだぜ!
さすが、几帳面なルナもすでに着替えており、かわいい私服姿である。
豊かな金髪をポニーテールにまとめ、トレードマークである大きな若草色のリボンで止めている。
トップスは夏らしく、レースのついた白いシャツ。 ボトムスは水色のスカートであり、とてもさわやかな印象を与える。
すらりと伸びた日焼けしらずの白い脚……足元には少しヒールのある、茶色のコインローファーを履いている。
なにが言いたいかというと、超かわいい! 超萌える! 超清楚!
この格好をして、南国の海のような深い蒼の瞳で、オレに微笑んでくれるのだ!
しかもこれでスタイル抜群とか……ああ、これはもう……この世の天国といっても過言ではあるまい!
……ん? まてよ……学校終わりの午後3時……年頃の男女が精一杯のおしゃれをして、ふたりで動物園にお出かけ……思わず触れ合う手……ドキドキの予感……
こ、これはもう! デートと言っても過言でないのでは!?
「レオくん、早く行こう?」
むにっ
オレが悶々と妄想していると、ルナのしっとりとした潤いのある柔らかい小さな手(強調表現)が、オレの手を掴む。
ああ、またあとでトイレに行かないと……相変わらず無自覚天使なルナに手を引かれるまま、オレ達は”ポチコーロ男爵のもふもふガーデン”特設エリアへむかった。
*** ***
「おお! 行列ができている!」
「すっご~~い!」
園内の何もなかった広場に囲いを作り、もふもふ系の動物を放し飼い。
入場者が自由に触れ合えるようにした”ポチコーロ男爵のもふもふガーデン”は、大盛況だった。
動物たちへの負担を考慮し、動物も入場者も入れ替え制、入り口と出口では消毒もしてもらっている。
安全対策はバッチリだ。
しかも、事前に”アニマルトーク”を使い、参加の意思を確認。 OKがもらえた動物達のみを参加させている。
おいしいご褒美付き。
「結果的に、ほとんどの動物たちが協力してくれたな。 これも、ルナやみんなが愛情を持ってお世話してきたおかげだ」
「えへへ、せっかく”シルバー・ケイオス・ガーデン”に来てくれたんだもん。 色々不自由な思いもさせちゃってるし、せめて愛情だけはたっぷり注がないと」
オレの言葉に、ルナが嬉しそうにはにかんでいる。
うむ、ちょうかわいい。
「それじゃあ、わたしたちも並ぼっか! レオくん、こうしているとデートみたいだねっ!」
「!!」
油断していたタイミングで繰り出された、ルナの無自覚天使小悪魔な一撃に、オレの色々なところが大破したのだった。
*** ***
列に並び、待つこと30分。
オレ達は”ポチコーロ男爵のもふもふガーデン”に入場することができた。
「わあ♪」
ルナが、思わず歓声を上げる。
場内には、ふかふかの芝生が敷かれ、ウサギ、リス、レッサーパンダ、赤ちゃんペンギンなど、もふもふの動物たちが思い思いに歩いている。
「おかーさん! ふわふわ、ふわふわだよ!」
「ふふ、ペンギンさんは優しく持つのよ」
小さな女の子と母親が、無邪気に喜んでいる。
「うおお! 珍しいグラン・フクロウよ! ああ……天然の羽毛布団……もうこのままここで寝ようかしら」
おばさまたちが、フラン・フクロウのふかふか羽毛に感激している。 グラン・フクロウとは、フクロウの大型種で、体長3メートルにもなる。
もっふもふだが、ひんやりとした通気性の良い羽根で覆われており、抱きつくと超気持ちがいい。
彼らは1週間ほどで大量の羽毛が生え変わるので、抜けた羽毛を入れたクッションも大人気である。
ただ、何より一番人気なのは……
「てやーっ、じごくのけるべろすめー! かくごー」
「がうがうがう! [よく来たな人間よ! 貴様の命運もここまでだ!]」
「くらえー」 ぺちっ
「がうがうがー [やられたー]」
しゅわわわ……
「うわー、だんしゃく、かわいい!」
もふもふもふ
”じごくのばんけん、けるべろすごっこ”を子供たちと繰り広げる、ポチコーロ男爵だった。
彼は、子供たちにもみくちゃにされながらも、とても楽しそうだ。
最初の1週間は皆さんに体験していただくため、ポチコーロ無料開放週間なのだ!
「ふ……なんやかんや言いつつ、ポチコーロの奴、楽しんでいるようだな」
「えへへ、男爵は意外に子供好きだからねっ」
「それにしても……いい光景だなぁ……アイディアを考えてくれて、ありがとうレオくん!」
目尻に涙を浮かべながら、感激してくれるルナ。
この笑顔が見えるなら、どんな苦労も苦労じゃない……オレは素直にそう思った。
「ねっ……せっかくだから写真撮っておこうよっ!」
ぐいっ
「ととっ……」
パシャリ!
ルナはオレの腕を抱き寄せると、魔導カメラを取り出し、この楽しい風景を写真に収めるのだった。
ああ……もう、この生活、最高だ……!