第8話 動物園は貧乏です! イベント案を考えよう(下)
「ああ、いい加減”そっち”方面からは離れよう……」
ガシガシと頭をかくと、オレはコーヒーを一口飲んだ。
ふぅ、芳醇な香りが、混乱した脳内を解きほぐしてくれるようだ。
「あはは、じゃあいったん休憩にしようか」
こういう時にはいったんインターバルを置くに限る……
議論が袋小路に入ったときはメンタルリセットが重要です。
思い切って休息を取りましょう……オレは先日購入した、できる社会人のディスカッションについてのハウツー本を(以下略)
それにしても……”恐怖の魔獣ダンジョン、キミは生きて出られるか!”やら、”めくるめく官能の宴! どの[ピー]がお好み?”やら……あらためて見ると酷い案ばっかりだ……
なにか……家族連れでも楽しめて、しかもお金のかからない良い企画案はないモノか……
もふもふもふ
オレは、無意識のうちに手を伸ばし、手ごろな位置にあったモフモフを撫でていた……う~ん、実家のマロン、どうしてるかなぁ。
……マロンとは、オレの実家で飼っているゴールデン・レトリーバーの事である。
子犬の頃から飼っているが、ずっとバカ犬で……それがまたカワイイのだが……ん? なんでこんなところにモフモフがある?
[き、貴様! 誇り高き我の頭を、気安く撫でるなど! あ、こら、やめんか!]
……おお、気が付いたらポチコーロ男爵の頭を撫でていたぞ……ふむ、ケルベロスの毛並み……手触りが最高だな……そうだ! その瞬間、オレの頭の中に天啓が浮かんだのだった!
「”ポチコーロ男爵のもふもふガーデン”?」
休憩後、会議が再開すると同時にオレが提出した案に、こてんとルナが首をかしげる。 か、かわいい……。
「レオくん、それってどういうものなの?」
「ああ。 この”シルバー・ケイオス・ガーデン”には、ポチコーロ男爵をはじめとして、もふもふ系の動物が大勢いるだろ?」
「うん、そうだね! ウサギさんとかレッサーパンダ君……あと赤ちゃんペンギンも! 最高の手触りなんだよねぇ……」
動物たちの手触りを思い出したのか、ふにゃふにゃと相好を崩すルナ。
「動物たちをモフモフしまくれる、至高のひと時……しかも、リピーター獲得に向けて、ポイント制を導入するんだ……10ポイント溜めたお客様は、特別に伝説の魔獣”けるべろす”をもふもふできます! これだ!」
「ふおお! レオくん、それいいね! 減るもんじゃないし」
[減る! 減るぞ主に我のプライドが!]
がうがうとポチコーロの奴が抗議しているようだが、ふん……貴様、この誘惑を拒否できるかな? ゆけ……ルナ!
「男爵……ダメ? ”ガーデン”のためなの……」
一の矢……ルナの上目遣い攻撃。
[ぐ……うぐぐ]
オレの合図とともに攻勢を始めるルナ……アイツの無自覚上目遣い攻撃は効くぞ……ああいうのが将来小悪魔ちゃんになったりするのだろうか……恐ろしい想像に、思わずオレは首を振る。
次は……トドメだ!
すっ……
オレは、懐から対ポチコーロ男爵最終兵器を取り出す。
[!! き、貴様……それはっ!]
そう! ”だんけちゅーる 極”!
更に素材からこだわった、至高の逸品である!
[ふ……男爵……お前がもふもふ100人を達成するたびに、コイツを進呈しようじゃないか]
[くっ……ぐぐぐ…………致し方ない。 これもルナのため……我も一肌脱ごうではないか]
ちょろいな……ルナのためとか言ってたが、左右の頭は欲望にまみれた目をしていたぞ……よし、これで一つ目は決まりだ。
「あ、それなら……ジョン君の”遊覧飛行”を、もっとアクションチックにアレンジするのはどうでしょう?」
一つ案が決まったことに触発されたのか、アリシアさんが提案してくれる。
なるほど……ジョンの”遊覧飛行”は、そこそこ人気のあるアトラクションだが、基本のんびりとガーデン上空を飛ぶだけであり、マンネリ化していたのも事実だ。
「どんな風にアレンジするんですか? アリシアさん」
「はい。 まず、重量は軽いですが強度の高い魔導アルミニウムでしっかりとした座席を作ります」
アリシアさんは、ホワイトボードに図を描きながら説明してくれる。 ふんふん、とてもわかりやすい。
「座席では、しっかりと安全ベルトを準備し、お客様の身体が外に放り出されないようにします」
「そして、ジョン君は遊覧飛行ではなく、竜戦士ばりの激しい動きを体験してもらいます! 更なるスリルをお求めのお客様には、追加料金でスカイダイビングも……!」
アリシアさんは興奮してきたのか、目をキラキラさせながら”スリル”を強調する。
なるほど……帝都にある魔導遊園地に最近オープンした遊具……確か”ジェットコースター”とか言ったか。
家族連れにも若い男女にも大人気らしい……それにワイバーンのジョンに協力してもらえれば毎回飛行コースを変えることもできる……これは良い案だな!
[ジョンは大丈夫か? そこそこ大変だと思うが]
[? 全く問題ありませんよ。 訓練校や、最初に配属された職場では一日15時間は飛ばされてましたからね……ふふふ]
お、おう……ジョンは快く承諾してくれたが、ワイバーンの世界もなかなかブラックのようだ。
「ということで、ジョンも大丈夫とのことなんで、アリシアさんの案、やってみましょう」
「やった♪ ふふ……これで次のデートはいただきよ……くふふ」
少女のように喜んだかと思うと、不気味な笑いを漏らし始めるアリシアさん。
……大人の女には色々あるのだ。 ここは触れてあげないのが男というものだろう。
結婚が決まる前にいろいろ苦労していた姉を持つ弟としては(以下略)
「ふふっ♪ 良い案が出来そうだね! ん~、できればあと一つくらいは考えときたい所だけど……」
司会役のルナが嬉しそうに微笑む……そうだな。 あと一つ、できれば女性向けの企画がベターだろうか?
[ふん、それならこのオレサマが提案してやるぜ]
ユニコーンのウニが何か言ってるぞ……こいつは会議の前半でさんざんエロネタをぶっ込んできたから聞きたくないんだが。
[名付けて”ユニコーンのフラワーフェスティバル”……どうだ?]
[ネーミングはまともだな……女子のフラワー(意味深)とかじゃないだろうな]
[ふん……なんでもエロく聞こえる脳みそピンクのエロガキは浅はかだな! これは、”花占い”だ!]
お前にだけは言われたくない……自分のことを棚に上げるウニに呆れるオレ……ん? ”花占い”だと? 意外にまともだが……
[女の子は俺に触れてもらう……オレはその子に祝福と、占いの結果に応じて”花”をプレゼントするんだ。 どうだ、まともだろう?]
「へー! ウニ君、すてき~! むしろわたしもやりたいな―!」
「……いいね、花は女子のあこがれ……むしろラフレシアとかもアリ」
「花……ブーケ……いいわね……くっ! あの時あと30センチ手を伸ばしていればっ!」
……オレが通訳したところ、女性陣の反応も良好だ。 ちなみに説明するまでもないが、それぞれルナ、メリッサ、アリシアの反応である。 細かい点はノーコメント。
これが姉と妹に挟まれて育った男子の(以下略)
「それじゃ、この3つのイベントをやってみましょー! みんなで”ガーデン”を盛り上げよう! おー!」
ルナの元気な締めが響き渡る。
オレ達”シルバー・ケイオス・ガーデン”は、当面の資金不足解消のため、これらイベントの準備を開始するのだった。