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第4話 苦労人ワイバーンと帝国の苦境

 

「よし、今日も飼育員の仕事頑張りますか……」


 今日もさんさんと南国の太陽が降り注ぐ。

 すごく暑い。


 昨日は、もふもふケルベロスことポチコーロ男爵と()()()()を結んだ後、他の動物に給餌を行った(基本的にサイやカバなどの普通の動物だった)


 一通り仕事が終わった後、ルナにポチコーロ男爵について聞いてみたが、バレンティ自治王国には伝統的に上位ランクの魔獣が出現するため、人々は彼らを崇拝し、極力トラブルにならないように努めてきたそうだ。


 その縁で、この”シルバー・ケイオス・ガーデン”には、何体かの上位魔獣が棲みついているらしい。


 ここの経営が厳しいのも納得だ……事情をよく知らない者から見れば、魔獣が出現する文字通り”ケイオス”な場であるし、奴らの食費もばかにならないだろう……王国の人たちは基本的に善良なので気にしていないようだが……


「レオく~ん、今日はワイバーンのジョン君を紹介するね~!」


 どうやら、昨日は狩り?に出ていて不在だった魔獣を紹介してくれるようだ。


 相変わらず元気に作業着姿のルナが、ぶんぶんとこちらに手を振ってくれる。 そのたびに、上着からこぼれ落ちそうな胸が揺れる……しかし! 今日は出勤前にきっちりと”済ませて”来たので、このレオ! 紳士的にふるまえるはずである!


「あっ、そうだ! レオくん、わたし新しいイヤリングを買ったの! 帝国通販で買ったんだけど、ようやく届いたんだ~」


 うきうきとはしゃぐルナが、豊かな横髪をたくし上げ、かわいい耳にぶら下がるイヤリングを見せてくれる。


 魔導を使って耳に吸着するので、耳たぶに穴を開けなくてもよい、最新型のイヤリングである。

 ハート形の枠に、紫色に輝くアメジストがきれいだ。


「ああ、ルナ……良く似合っているよ、かわいい」


 おお、無邪気に見せてくれるが、彼女は後ろ髪をハーフアップにしているため、白く透き通ったうなじが丸見えである……だ、大丈夫だ。

 いまのオレならこのくらいは耐えられる……ん?


「おっと、ルナ……首に虫刺されが出来ているぞ……薬をつけておいた方がいい」


 生返事をしていたオレは、ルナの首筋に虫刺されの跡を見つけてしまった……こういうのは、見つけたらすぐに指摘した方が良い。恥ずかしがって言わなかった場合、後から文句を言われる理不尽が待っているのだ。


 姉と妹に挟まれて育ったオレが(以下略)


「ふええ? あ~ほんとだ! まってね、いま虫刺されの薬付けちゃうから……」

「んん、届かない……」


 ちょっ!


 ……虫刺されの薬を自分でつけようとしているルナだが、場所的に服が邪魔で指が届かないらしく……上着をはだけて……ああ、そこまで肩を見せたら……ブラの肩紐まで……


「うう、ごめんねレオくん、薬付けてもらっていい? あれ、なんで前かがみなの?」


 オレの”紳士さん(たまに野獣)”は、ルナの無自覚攻撃に無事大破したのだった。



 ***  ***


「ふぅ……」


 先ほどの騒動の後、お手洗いに行って一息ついたオレは、ルナの元に戻ってきた。

 一息とは何だって? それはツッコまない約束だ……健康的な18歳男子といえば、分かるだろう?


「あ、レオく~ん、ジョンが戻ってきたよ~」


 ルナはすっかりいつも通りだ。


 ……ちゃんと対策をしておかないと、毎日前かがみになるな……オレがそう心に決めていると。



 バサバサッ!



 砂塵が舞い上がり、上空からワイバーンが降り立った。

 でかい! 体長10メートルはあるだろうか。


 真っ赤な鱗を持った屈強な身体、大きな翼は天を覆うようだ。


 威風堂々の体躯と対照的に、人懐っこいくりくりとした小動物的な瞳を持ち、眼鏡まで掛けている。


 コイツがジョンか……”ガーデン”の一員ならば、きちんとコミュニケーションを取っておくべきだな……オレは”アニマルトーク”のスキルを発動させた。


[あ、どうも。 ボク、ジョンっていいます。 こちらに居候させてもらってるワイバーンです]


[これはご丁寧にどうも……新人飼育員のレオです]


 勇壮な見た目に反して、腰の低いジョンに、思わず俺もぺこぺこしてしまう。

 ポチコーロとは正反対だな……


[ジョンさんは、なぜこの”ガーデン”に?]


 こういう常識人相手には身の上話だ! オレは先日購入した、社会人心得のハウツー本を思い出し、会話を振る。


[いやあ、100年ほど前の”魔導大戦”の前までは、竜戦士も人気ジョブで、戦士の伴侶たる我らがワイバーン一族も引く手あまただったのですが、転移魔法と飛行魔法の普及で失業しちゃいまして]


[悪いことに、ボクたちは戦争の拡大を見越して大量養成された世代でして、ワイバーン余りになっているんです……魔獣界では、”氷河期世代”とか呼ばれてるんですよ……]


 うう、採用試験で失敗して地方に追放されたオレには、身につまされる話だ……思わずジョンに同情してしまう。


[途方に暮れていたところを、この”ガーデン”の園長さんに拾われましてね……遊覧飛行などをお手伝いさせてもらってます]


 なるほど、それは面白いアトラクションかもしれない。

 どちらにしろ、ジョンは良い奴のようだ……仲良くなれそうでよかった。


[ただ、大勢を乗せるとどうしても肩が凝ってしまって……ほら、基本ボク、一人~二人乗りですから]


 やけに人間臭い仕草で、肩をぐるぐる回すジョン。


 うん、ここは”リミテッドヒール”で癒してやるべきだ。


 オレがスキルで彼の肩こりを治してやると、ジョンは大喜びで”ガーデン”へのさらなる協力を約束してくれた。


「う~ん、男爵もジョンもいい魔獣(ひと)なんだけど、なぜか配属された飼育員さんがすぐ辞めちゃうんだよね。 なんでだろ~?」


 すっかりジョンと打ち解けたオレに、満足そうに頷きながら、ルナはう~んと頭をかしげている。


「いやいや、王国の国民にとっては崇拝対象かもしれないが、他の地域の人間にとっては恐怖の上位魔獣だぞ……ここの客が少ない理由も、その辺に解決のカギがあるのかもな」


「えっ? そうなのっ!? 驚いた……やっぱり外から来てくれた人の意見は参考になるなぁ」


 オレ達は、談笑しながら事務棟に戻るのだった。



 ***  ***


 帝国領対共和国北部戦線 中央司令部

 帝国北部方面軍総司令官ことブルーノは、前線からの報告に苛立っていた。


「共和国魔導士が、新型魔法を使っただと! 直接の魔導打撃ではなく、体内に毒素を発生させ、内臓を侵す魔法とか……聞いたことが無いぞ!」


 ダンッ!


「……はっ! 野戦医療班の報告によると、Aランクの治癒魔法でも治療が困難とのことです……罹患者の後送にマンパワーを取られ……このままでは前線が崩壊するとの報告が!」


 イラついて机をたたくブルーノに、参謀よりさらに悪い知らせがもたらされる。


 くそ、Aランクの治癒魔導士でもダメなのか! Sランクの治癒魔導士は帝国でも数人しかいない……とても前線には回せない……まてよ、先日帝都に戻ったときに面接したひよっこ共の中に、Sランクの治癒魔法の使い手がいたような……


「敵襲! 敵襲! 敵魔導機動部隊の長距離狙撃です!」


 ブルーノがその可能性に思い立った瞬間、共和国魔導士の長距離狙撃魔法が、司令部ごとブルーノを吹き飛ばしていた。



 ***  ***


「共和国の新型服毒魔法に、前線のリソースを削られた所に長距離狙撃を食らい、司令部全滅……数年ぶりの前線後退か……」


 帝国軍の苦境を知らせる官報(一応帝国執務員なので、一部の情報が回ってくるのだ)を読みながら、オレは優雅に朝のコーヒータイムを過ごしていた。


 回復魔法の使い手を臨時募集する新聞広告も連日掲載されている。


 まあオレは、使えないSランクスキル”限定治癒”を持つだけのしがない4級執務員ですので、()()()()()沿()()()()()()()()()


 よーし、まだまだこの南国でがんばるぞー!


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