第2話 レオくん、追放先で美少女に面談される(これなら大歓迎!)
「さあ、こちらですレオさん! うふふふ」
なにがそんなに楽しいのか、ルナと名乗った少女は、歩きながらくるくると回っている。
そのたびに彼女の豊かな金髪と、短めのスカートが翻り、ほっそりとした健康的な脚がのぞく。
身長は150センチに届かないくらいか……ふわふわの豊かな金髪の後ろ髪は大きな緑色のリボンで束ねられている。
白い清楚なワンピースが、豊かなふくらみを示す胸を覆い、意外に発達したプロポーションを際立たせる。
ころころと表情の変わる大きな紺碧の瞳は、完全無欠に愛らしい。
ただ、先ほど”副園長”といったな……この容貌で、オレの上司なんだろうか……もしかして、今流行りのロリババアというヤツか!
うう、すこしドキドキしてきた……性癖は普通と自認しているが、なるほど”ぎゃっぷもえ”というのはこういう事なのか!
おもわず、世の真理を悟ってしまったが、まずは適度な会話が必要だ。 当面ご厄介になることだし、信頼関係は必要だろう。
「あの、初めまして……レオといいます。 ルナさんは、副園長という事ですが、お若いですね」
ふふ、こういう時にいくら相手がロリババアとはいえ、”何歳ですか?”などと、失礼なことを聞いてはいけない。
女性に一発で嫌われてしまう。
姉と妹に挟まれて育ったオレにとって、自然に身に付いた知恵だ。
「あの、わたし……15歳です。 副園長という肩書も、父から頂いたお飾りのようなもので……レオさんの方が年上ですよね、気軽にルナ、とお呼びください」
なんと! 見た目通りの歳だったのか! 捻ったように見せかけて、正統派とは……最近はそういうのもあるんだな……それにさりげなく漂うこの気品、もしかしていいとこのお嬢様なのか。
「い、いえ……オ、私は帝国執務員に採用されたばかりの若輩ですし、赴任先では新人ですので、そういうわけには……」
油断するなレオ! 実はこの少女が切れ者で、オレの反応を試しているという事も考えられる。 成り上がる為には第一印象が重要だ……オレのスキルはSランクとはいえ地味、慎重に行かなくては。
ここで気安く話しかけるようでは、社会人失格だ……無礼講の場で本当に無礼を働く奴は後で評価を下げられる……オレは面接のハウツー本の一節を思い出し、必死に自分を律していた。
……だってめちゃめちゃストライクな女の子なんだもん……仲良くなることで、色々チャンスもあるだろう。
この職場、悪くないな。
「ん~、レオさん、固いなぁ……だいじょーぶです! 見ればわかると思いますが、うちの職場、全然堅苦しくないですよ! 敬語とか、不要ですっ!」
オレのビジネスライクな反応が不満なのか、ぶんぶんと腕を振りながら、”アットホームな職場”であることをアピールしてくるルナ。
う……か、かわいい。
「あ、そーだ! レオさん、歳も近そうだし、わたしも敬語は無しにするね! あらためてよろしく! レオくん!!」
「……ああ、うん……よろしく」
ぱっ、と両手を広げ、花が咲くような笑顔で微笑んでくれるルナに、オレは白旗をあげることにした。
*** ***
「ここが、職員通用口。 あとで魔導IDカードを渡すから、ここに通してね。 あ、アルバートさん、おはよーございます!」
守衛室に詰めている、初老の警備員が会釈してくる。
かわいい孫娘を見守るような表情だ。
オレも挨拶しておく。
「そして、こっちが事務棟。 入り口も同じ魔導IDカードで開くから」
動物園の場内から見えないように建つ、背の高い木々に囲まれた木造2階建ての建物。
どうやら、ここが事務所のようだ。
「まずはみんなに紹介して……その後、レオくんの”経歴の確認”と、仕事内容の説明をさせてもらうねっ!」
オレは、ゲスト用の魔導カードを入り口の魔導スキャナーにかざしてドアを開けると、ルナの後に続く。
「2階に事務室があるんだけど……」
嬉しそうにそれぞれの設備を説明してくれるルナ。
事務棟内は、設備は古くもきれいに整頓されており、職員たちのマジメな働きぶりがしのばれる。
ただ気になるのは、各所に”節水!”だの、”魔力注入依頼は副園長の決裁を得る事!”だの、”魔導印刷機でのカラー印刷禁止!”だのと、涙ぐましい経費節減への努力が垣間見えることだ。
やはり公営とはいえ、ド田舎の動物園……経営は厳しいのだろうか。
*** ***
「はい、みんな! ちゅうもーく! 待望の新人君がやってきました! レオくんです! みんな仲良くしてあげてね!」
「レオ、レオ・ジィです。 帝国執務員として、ここ”シルバー・ケイオス・ガーデン”に配属されました。 みなさま、よろしくおねがいします」
おー……ぱちぱち……期待してるぞー……思ったより好意的な反応が返される。
ほっ、中央から送られてきたエリート様かよ! みたいな反応をされなくて助かった。
……帝国4種執務員のしょぼい肩書が役に立ったようである。
それにしても、職員の数が少ない……全部で15人くらいか?
メガネをかけた知的なエルフの女性と、少し根暗に見える青髪の少女以外は、地元のおじいさん、おばあさんといった、年配の方が多い。
面倒な人間関係はなさそうでよかったが、この動物園、大丈夫なんだろうか……オレは、ルナの後について応接室に移動しながら、ほのかな不安を抱いていた。
*** ***
「はーい、それではレオくんの経歴確認を行うね。 リラックスして―」
オレ達は応接室に入ると、向かい合って座り、”面接”を開始していた。
スカートからのぞくルナの脚線美がどうしても目に入り、落ち着かない……
「ほえー、レオくん、帝都大学魔導工学過程を飛び級卒業してるんだ! すっごーい! わたしなんて、王国大学の夜間部に通ってるだけなのにー」
その年で働きながら大学に通ってるのもすごいと思うけどな……ああでも、この裏の無い称賛……なんと気持ちいいんだろう。
オレ、ここに来てよかった……
思わず感激するオレ。
レオは、意外にちょろい奴だった。
ルナは、パラりと書類をめくると、スキルシートに目を通す。 その途端、びっくりしたように立ち上がる。
「えええっ!? すっごい、Sランクスキルが2つもっ!?」
予想通り、驚いてくれたようだ……思わずドヤ顔になる。
追放に近い配属だったから、詳細な経歴までは彼女に知らされていなかったようだ。
「ねえレオくん、この”獣会話S”って、もしかして……動物と話せるの?」
「ああ。 Sランクだから、その辺の猫から、ドラゴンまで意思疎通をすることが可能だぞ」
「すすすす、すっごーーい! レオくん、凄いよぉ! まさに、うちの動物園にぴったり……!」
オレのスキルに、文字通り飛び上がって驚くルナ。
少し目を潤ませている。
ああ、そこまで驚いてもらえるとは……最高だ……邪険に扱ったクサレ帝国人事局め……地獄に落ちろ。
「じゃ、じゃあ、この限定治癒Sというのは……」
そうだな、口で説明するのは難しいから……
「ルナ、この動物園に体調を悪くしてる動物はいないか?」
「あ、それなら……」
*** ***
オレとルナは、象の飼育施設にやってきた。
話を聞けば、数日前から調子が悪く、街の獣医でもお手上げという事だ。
確かに、中型の象が、体調が悪そうに寝込んでいる。
よし、まずは病状を聞いてみよう。
オレは、”アニマルトーク”を発動させると、象に痛い所はないかを聞く。
彼の答えは、下腹部の奥が痛いという事だった……これは調べる必要がありそうだな。
オレは、診断魔法を発動させると、象の体内を慎重に調べる。
このスキルも地味にAランクである。 魔力の反射を利用し、対象の体内の不具合を調べる魔法だ。
ふーむ、どうやら胃に潰瘍[かいよう]ができているようだ……胃のあたりから、炎の魔力を感じる。
「大きめの胃潰瘍が出来ているみたいだ……普通なら手術が必要だな」
「うう、そんなぁ……象を診れる獣医さんなんて、王国にはいないよぉ」
まあ、この田舎ならそうだろうな。 だが、オレの”限定治癒”を使えば!
「ルナ、ここはオレに任せておけ……ん……”リミテッドヒール”」
パァァ……
オレは精神を集中すると、リミテッドヒールの術式を発動させる。 生み出された青色の光が、象の腹に沈んでいく。
オレの”魔導視界”には、青色の回復魔法力が象の患部に重なる様子が知覚できる。
パン
軽い反応音がし、患部を表す赤い点はすっかり消え去った。
(ぱぉ? ぱおおぉぉん♪)
急に痛みが消えたことにびっくりしたのか、象が立ち上がり、嬉しそうに鳴き声を上げる。
よかった、元気になったようだ。
「……えっ……あんなに弱っていた象さんが元気に……レオくん、まさか治ったの?」
「もちろん! 象の胃潰瘍は、きっちり治してやったさ!」
「うわああああ!! レオくん、すごい、すごいよ! わたし達の救世主だよぉ~~!!」
感激のあまり抱きついてくるルナ。 象も、何度もお礼を言ってくれる。
ああ、全肯定されるって最高……なにとは言わないが、ルナの感触も最高だ……もう絶対中央なんかに戻ってやるもんか!
オレはここで最高の人生を過ごすんだ!
オレは感激に全身を震わせながら、女神のめぐりあわせに感謝するのだった。
動物園立て直しに奮闘するレオくん、ルナちゃんの応援を宜しくお願いします!
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