第1話 Sランクスキル持ち少年、面接に挑み追放される
「”シルバー・ケイオス・ガーデン”へようこそ!」
「ああ~、よかった~、ようやく申請が通ったよぉ……念願の新人さん!」
追放先でオレを待っていたのは、ふわふわ金髪の超絶美少女。 ああ……もうオレここでいいや……
事の始まりは、2週間前……
*** ***
「ふん、Sランクスキル持ちだから期待したが……わが帝国の役には立ちそうにないな」
「……では、結果は追ってお知らせします。 あなたの今後のご活躍をお祈りしています」
「……はい」
ガチャン!
くそ、なんでこうなった……オレは、わずか30分前の出来事を、後悔とともに思い出していた。
~~ 30分前 ~~
「レオさん……18歳。 ほう、帝都大学を飛び級とは……スキルシートには、Sランクスキルを持っているとありますが、どのようなスキルか説明してください」
「はい! いずれも両親から受け継いだ、ユニークスキルです。 まずは……」
赤い絨毯がひかれた、小ぶりな会議室。
目の前には、4人の面接官が並んでいる。
いずれも、帝国中央人事局の面接官であり、オレを値踏みするように観察している。
……レアなSランクスキル持ち、と幼少より期待され、努力を重ねてようやくここまで来たんだ、絶対に合格するぞ!
姿勢は完ぺき、オレは腹に力を入れ、良く通る声を意識して説明を始める。
「獣会話Sです。 普通の動物だけでなく、魔獣とも意思疎通ができます!」
太古の昔、”モンスターテイマー”と呼ばれる、魔獣を自由に使役する伝説の一族がいたらしい。 そのスキルは、一族の滅亡とともに途絶えてしまったが、数千年の時を経て、その一部がオレに宿ったのだ。まさに奇跡! いまの世界で、唯一オレだけが持つスキルである。
「……その、アニマルトークとやらは、共和国との戦争で、どのように役に立ちますか?」
オレのスキルシートに目を落としている面接官が、目線をあげずに聞いてくる。
現在、ここ帝国と、海を挟んだ共和国との間で慢性的な戦争が続いている……まずは、軍事面で役に立つ人材が欲しいという事か……よし、ここがアピールポイントだ!
「はい! モンスターを使役できるので、外征時に、現地に生息する魔獣を戦力化できます。 さらに、馬やロバを統率することで、より高度な兵站管理を行うことも……」
「……魔導の発達により、高速魔法戦闘が主流になった現代に、魔獣がどれほどの役に立つ?」
「さらに君は、わが帝国が兵站管理にいまだ馬を使っていると思っているのか? 少しは勉強したまえ」
くっ……正面に座る主席面接官と思わしきおっさんからは、評価が低いようだ……確かに軍の近代化は進んでいるが、魔導化兵団以外も多くあるはずだ……この価値を理解してもらえないとは。
まあいい、スキルはまだある……
オレは気を取り直すと、とっておきのスキルについて説明する。
「待ってください……もう一つあります。 限定治癒S、回復スキルですが、世界でオレにしか使えない回復魔法です」
「ほう! 回復魔法の使い手は、帝国でも少なくてね……研究もまだ途上だ。 どんなスキルなのだ? 聞かせてくれたまえ」
よし、主席面接官のおっさんが食いついてきた。
ここが勝負どころだ! オレは改めて気合を入れなおす。
「外傷には効果がありませんが、体内から身体の不具合を癒すことができます!」
「……確かに珍しいが、現代戦の負傷は、魔法による魔導傷、銃撃、砲撃による外傷が中心だ……具体的に、どのような役に立つのかね?」
おかしい、レアスキルのはずなのに、反応が悪い……やはりおっさんには具体的な説明が必要だな。 オレは、ふと目に入った主席面接官の輝く頭から、具体例を思いつくと……
「毛根を再生できます!」
おもわず、言ってはいけない事を口走ってしまったのだ……。
*** ***
オレの爆弾発言の後、一気に険悪ムードになった面接は、あっさりと終了した。
くそっ……ほかに具体例はいくらでもあっただろうに……なんでオレはあんなことを……あんなに見事に光っているのが悪い。
自分のアホさ加減が嫌になる……
しかもお祈りコメントまで頂いてしまった……あーあ、これはダメなパターンだなぁ……ねーちゃんに笑われる光景が見える……
オレは、とぼとぼと帰路に就いた。 夕日が目に染みるよ……。
*** ***
「”帝国4種執務員補欠採用”……」
9割方駄目だと覚悟していた、オレのもとに届いたのは、帝国中央人事局からの補欠採用通知だった。
しかし、”帝国4種執務員”、しかも補欠とは……公立学院の用務員、官舎の植木の剪定[せんてい]など、本来は定年後に再雇用された職員がつく役職のはずである。
「レオにぃ、Sランク持ちが、3種以下に採用されるのは、帝国初らしいよ、ぷぷぷ」
などと、2つ下の妹に笑われてしまった。 悔しいが、事実なので仕方ない……これは事実上の追放といってもいいのでは?
戦争には使えないとはいえ、Sランクスキル持ちは貴重である……帝国全土でも、100人ちょっとしかいないのだ……政治的に利用されることもしばしばだ。
いったん採用しておいて、体の良い追放/隔離……まあいいさ、どうせ赴任先は地方になるだろう。
地方では、Sランク持ちはまさに神! そこから成り上がってやるさ!
あの腐れ面接官どもめ、絶対に後悔させてやる!
ポジティブなオレは、底辺からの逆転を輝く朝日に誓ったのだった!
*** ***
「バレンティ自治王国……地方どころか、南の端のさらに奥の超ド田舎じゃないか……」
2週間後、赴任の辞令を受け取ったオレは、長距離魔導列車に揺られていた。 帝国中に張り巡らされた、転移ネットワーク用のポート(転移魔法で利用する目印)もないとは……
いまの時代、こんな場所が存在するなんて……オレは軽く衝撃を受けていた。
「それにこの赴任先の名前……”シルバー・ケイオス・ガーデン”? なんだこりゃ? どこかの悪魔迷宮か?」
辞令には、”シルバー・ケイオス・ガーデン主査付を命ず”とだけ書かれている。
どこで何をするのかさっぱりわからない。
それにしても遠い……しかも暑くなってきた……
しまった、南方なので暑いんだった……オレは詰襟にマントという、帝国執務員の正装をしてきたことを早くも後悔していた。
いい加減ケツの肉が取れそうになってきたころ、魔導列車はゆっくりと終着駅である”バレンティ中央駅”に到着した。
中央駅といっても、自治王国にはここしか駅はないし、ホームも一本だ。
舗装されていない駅前広場には、木造の建物が並び、商店はそこそこ賑わっている。
石造りや、金属で出来た高層ビルはないが、どことなくほっとする空気に、オレは思わずなごんでいた。
駅前広場から伸びる道は、小高い丘を登り、左右に分かれる。左側には自治王国の元領主の居城なのだろう。 白くて小さな城がそびえる。
右側には……生垣に囲まれ、入り口には入場ゲートが設置された施設が見える。
ゲートの奥には……サイ? キリン? ありきたりな動物が柵の中で動いている。
あれは、動物園か? こんな田舎に珍しいな……規模的には帝都動物園とは比べるべくもないが……
ん? 目の良いオレには、入り口に掲げられた看板の文字が読める。
そこには、”シルバー・ケイオス・ガーデン”と記されているではないか……
まさか、オレの赴任先とは……”動物園”……なのか?
どさっ……
呆然とするあまり、手持ちかばんを落としたオレの背後で、底抜けに明るい声が響いた。
「”シルバー・ケイオス・ガーデン”へようこそ! レオさん!」
「ああ~、よかった~、ようやく申請が通ったよぉ……念願の新人さん!」
「わたしは、自治王国公営動物園”シルバー・ケイオス・ガーデン”、副園長のルナですっ! これからよろしくねっ!」
ふわふわの金髪をくるくる回しながら、朗らかな顔で楽しそうに笑う少女。
これが、のちに帝国の伝説となる、オレとルナの出会いだった。
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