05,空4
突然、耳を突くような爆発音が響き渡った。
「なんだ!?」
まるで大地を切り裂くような轟音に、アサは思わず耳を押さえた。
(基地が攻撃されているのか!確かめなければ……!)
おそらく上空で鳴り響いている異音を確認せずにはいられなかった。アサは手薄になっている裏口へと駆け出した。外に出ると一気に視界が広がり、上空を見上げた。そこには黒い大きな戦艦が地球軍に向かって攻撃を仕掛けているのが見える。今まで見たことないそれはすぐに宇宙のものだと、すぐに理解出来た。
その時、かすかな風を切る音が耳に届いた。アサは本能的に音がする方向へ目をやる。
「あれは……。人!?」
何かが急速に降下してくるのが見えた。それは、明らかに人の形をしている。
「急がないと……!」
アサは基地に戻り軍用ホバーバイクに乗り込む。規約違反だがアサに考える余裕はなかった。人命が最優先だからだ。エンジンをふかし、エンジン音とともに外に飛び出した。あたりを見渡すと落下してくる人影はすでに地面に近づいている。
(まずい!間に合わせるんだ……!)
エンジン全開で落下地点まで必死にホバーバイクを走られる。もう目を凝らさなくても分かるほど落ちて来ている。アサはホバーバイクを上昇させ、少年に向かって手を伸ばす。
その瞬間、突然コロシアムでの光景が鮮明にフラッシュバックする。
『また負けやがったなっ!!最強化の時間だ!!』
無情な声に命を奪われていく。
『やめて!お願い、殺さないで……』
目の前で命乞いをする声が響く。その声が途切れる瞬間、自分の無力さが胸を締め付ける。
『アサ、よく見ておけ。』
その言葉は、罪の意識を押し付けるように響いた。血に染まった地面が、アサの心に深く刻み込まれる。
『な、んで……私に負けたから……?』
『そうだ、これはお前が殺した命だ。』
アサの耳には、あの日の記憶がこびりついて離れない。自分が強かったせいで守れなかった命――その痛みが、再びアサの胸を締め付けた。
「死なせない……! もう人が死ぬ姿なんて見たくない……! 次こそは――」
エンジンをさらにふかし速度を上げ、間一髪のところでキャッチすることに成功した。息があることを確認し、アサは安堵の息を漏らす。
「良かった……」
落ちて来た人物はアサと同世代くらいの男の子だった。何かを抱えており、それを手放そうとしたアサに気づくと、守るように体を動かした。
「うっ……あれ、僕……生きてる?」
目を覚ました少年は、何が起こったのか理解できない様子でキョロキョロと周囲を見回している。
「君が落ちてくるのが見えて、助けに来たんだ。怪我はしてないか?なぜ空から落ちてきたんだ? ……聞いてるか?」
「……じん……」
彼は小さい声で何かを呟いたが、アサには聞き取れなかった。もう一度問いかけたようとした瞬間、
「美人すぎる!!地球にはまだこんなに美しい女性がいたんだね!」
少年の言葉にアサは一瞬思考が停止した。彼が何を言っているのか理解が追いつかない。
重力のせいで頭がおかしくなったのか――? 衝撃的すぎる第一声に、まるで夢でも見ているかのような感覚になる。
「元気そうで良かった。君は宇宙から来たんだろうけど、現在地球側と交戦中だ。なので悪いが、私の所属基地に来てもらうよ。」
「もちろん着いていくよ!正直に言うと僕は宇宙から逃げたいんだ」
予想外の返答にアサは驚いた。彼を宇宙側の軍人かと思ったが、服装も軍人には程遠い。ではなぜ戦艦にいたのか? 一般人が乗り込めるわけもない。だとしたらーー
「……犯罪者か?」
「違うよ!!……今のところは……」
こうしてアサは謎の少年と出会った。心の中で、浮き立つような感情を覚えた。地獄のような日々に、ついに変化が訪れるかもしれないという期待があるからだ。
「そういえば名前を言ってなかった。私はアサだ。君は?」
「よろしくアサ!僕はシキ」
基地に戻る道中、他愛もない話を交わした。アサは浮かれていた。浮かれてしまっていた。
ーーここが地獄の世界だというのに。