声優に/あなたに 憧れて/恋い焦がれて
【登場人物】
小湊千咲:二十歳。連歌に憧れて声優になった女の子。高校卒業後、ミャオプロモーションの養成所へ行き準所属となる。
扇橋連歌:二十歳。子供のころから劇団で活躍し、高校生になって声優として活動を始め人気が出た。
先生との進路面談で将来のことを聞かれたとき、わたしは何も答えられなかった。
家から近いという理由だけで高校を選んだわたしに行きたい大学なんてものは無く、当然学びたい学部学科なんてものも無い。
おそらくこのまま友達と一緒に近くの大学のテキトーな学部に進学して、テキトーに卒業して、テキトーに地元の企業に就職するんだろう。平凡ではあるかもしれないけど、それなりに楽しいことは確定している。だったらそれでもいっか。
わたし――小湊千咲の人生なんてそんなものでいい。
そう楽観的に考えていた。あのときまでは。
「大丈夫ですか?」
その声は今でも耳に残っている。凛と澄んだ心地のいい声。
あれは高校三年生の秋頃、友達の何人かと一緒に地元の大学の文化祭に行ったときのことだ。
朝から体調があまり良くなかったわたしは、キャンパス内の人の多さに酔ってしまいしばらくベンチで休むことにした。友達は『さっぱりしたもの買ってくる』と言って離れていき、わたしは一人座ったままうなだれていた。
トイレに行こうか、いやこのくらいなら大丈夫のはず、と脳内で議論をしていたわたしの耳に聞こえてきたのがさっきの言葉だ。
顔を上げて真っ先に思ったのが『うわ、綺麗な子だ』だった。
切れ長の目は瞬きをするたびに張りのある睫が揺れ、わたしより高い鼻もわたしより色の良い唇も、全部が整えられたかのようにそこに収まっていた。年齢は同年代くらいなのに落ち着いていて大人びた魅力のある女の子だ。
さらさらと流れる黒髪の毛先を風に弄ばれながら彼女はわたしを覗き込んだ。
「体調が優れないのなら人を呼んで来ましょうか? 確か文化祭の運営委員の本部が近くにあったはず――」
「あ、だ、大丈夫です! 人混みに酔っただけなので、少し休めば治ると思いますから! 友達も来てるし」
恥ずかしさと申し訳なさからわたしが手をぶんぶん振ると、彼女はカバンからペットボトルの水を取り出した。
「よかったらお水どうぞ。まだ開けてませんから」
「い、いやほんとに大丈夫です! 見ず知らずの方にそこまでしていただくわけには!」
「余分に持ってきてるので気にしないでください」
「え、あ、でも……すみません」
強引に渡されて水を受け取る。いきなりの出来事でテンパったお陰か、そのときにはもう人酔いはほとんどなくなっていた。
「だいぶ良くなったみたいです。ありがとうございます」
わたしがお礼を言うと彼女は何故か隣に座った。首を傾げるわたしに彼女が微笑みかける。
「私と話すことで体調が良くなるんでしたら、もう少しだけお話ししませんか?」
今にして思えば不可解な提案ではあるけどそのときのわたしは『なんていい人なんだ』とその子と会話を続けた。
会話の内容は普通なことばかり。大学生なんですか? どこから来たんですか? 大学の文化祭ってこんな感じなんですねー。
お互いに高校三年生だったのには驚いた。彼女は東京からわざわざここに来たという。物好きな人もいたものだと思ったけど、イベントに呼ばれる芸能人目当てで来る人も少なくないし彼女もその一人なんだろう。
会話してたのは数分くらいだっただろうか。友達が戻ってくると「それじゃあ私はこれで。突然話しかけてすみませんでした」といなくなってしまった。
去りゆく背中に「あ、ありがとうございました!」と声を掛けると、最後に振り向いて笑顔を見せてくれた。
ここで終われば『優しい人もいるんだなぁ』だけでわたしの人生には何の影響もなかっただろう。
「今日はこのイベントが目当てで来たんだー」
構内をぐるっと回って昼下がりになったころ、友達の一人がわたし達を広場のイベントスペースに案内した。
ステージの前には尋常じゃない人だかりが出来ていた。その熱気は他の来場者とは少し様子が違う。
司会役らしき学生がマイクを片手に高らかに叫んだ。
『本日のゲストはこの方! 現役の高校生でありながら、今、数々のアニメで活躍している大人気声優、扇橋連歌さん!!』
歓声が地響きのように湧き起こる。
そんな中、颯爽とステージに現れた人物を見てわたしは目を疑った。
先程わたしに声を掛け、優しくしてくれた女の子。彼女がそこにいた。
「ね、ねぇ、あの人そんな有名なの?」
目を輝かせてステージを見つめていた友達に聞いてみた。アニメはわたしも少し観るけど、声優が誰とかはあんまり気にしたことがない。知ってるのはせいぜい国民的アニメの大御所声優くらい。
友達はいつもより興奮した口調で返してきた。
「有名だよ! 美人なのもそうだけど、演技力がすごいの! 小さい頃劇団に入ってたとかで――デビューした年に新人アワード受賞して――今期なんか一人二役してたし――最近ではメディアの露出も増えて――」
色々とまくしたてられたけど半分くらいはよく分からなかった。ただまぁ、そんなに有名な人と話せたんだラッキーとは思った。
声優。声の役者。ドラマに出るような俳優たちよりはマイクでの演技が上手。そのくらいの認識だ。
扇橋連歌さんが司会の人とのトークを終えてステージのスタンドマイクの方に進み出た。横向きに立った彼女の視線の先には大きなモニターがある。扇橋さんが左手に持った台本を開いて構えると、そこにアニメが流れ始めた。
言っておくがわたしはそのアニメをまったく見たことがなかった。星々が輝くどこかの屋上で、少女が少年に向かって話している場面のようだ。
彼女の声がスピーカーから聞こえてきた途端、わたしは画面に惹きこまれた。
なんてことのない会話。少女が自分の将来の夢を語っているだけ。なのに少女の秘めた決意や希望、不安や寂しさがこっちに伝わってくる。
これが命を吹き込むということなのか。
アニメという二次元の世界で、確かにその少女は生きていた。
いつの間にか辺りは静まり、ここにいる全員が扇橋さんの声に――少女の言葉に聴きいっていた。
やがて扇橋さんが台本を持った左手を降ろした。それが終了を意味するのだということを一拍置いてから気が付いた。
鳴り響く万雷の拍手にわたしも加わりながら、純粋に『わたしもああなりたい』と思った。
両親に必死に頭を下げて上京する許可をもらったわたしは、高校を卒業してから声優の養成所に入った。もちろん扇橋さんの事務所の養成所だ。
ミャオプロモーション。昔からある事務所で、自社のスタジオを持っていることもありアニメ、洋画両方ともに強いと言われている。
深夜のコールセンターでバイトをしつつがむしゃらに演技の勉強をすること二年、わたしは最後の所属オーディションに合格した。
努力してきた結果だと言いたいけど、正直運も良かったと思う。
2020年現在、声優名鑑に記載された女性声優の数は900人を超えた。声優の供給過多とも言われる昨今、如何に自分という商品を事務所に売り出していけると思ってもらえるかが大事だ。流行や時勢、所属声優との兼ね合いもある。そういう意味では恵まれていた。
けれど浮かれてばかりもいられない。合格したと言ってもわたしは準所属。ミャオプロモーションでは自分で仕事を取ってきてようやく所属の扱いになる。自分で、というのはキャストオーディションで勝ち取ったり、ワークショップなんかで音響監督に気に入られて、ということだ。
若くて可愛い女性声優たちが鎬を削り合う戦場を制し、必ずや扇橋さんと共演を果たしてやる!
……と意気込みだけは十分だったんだけど。
洋画はもとよりアニメの端役にすら呼ばれない。
事務所にはわたし以外にも正所属、準所属、預かり所属を合わせると女性だけで80人以上もいるのだから、しょうがないと言えばしょうがない。
今のわたしに来る仕事はアプリゲームのセリフや企業VP、ボイスオーバーがちょこちょこと。
企業VPのVPとはビデオパッケージの略で社内向けのマニュアルビデオなんかのナレーションだ。ボイスオーバーは再現VTRなんかでよくある外国人の声に合わせて翻訳のセリフを被せること。企業VPは滑舌の良さと声の落ち着きが必要なのは言うまでもないけど女性よりも男性が好まれる場合が多く、ボイスオーバーは演技の年齢幅が広い方が好まれる。よってどちらも今のわたしはあまり求められていない。
細かくあれこれ考えるより感じたことをそのまま出す方が得意なので、わたしとしてもアニメの方が向いていると思っている。
「文月マネージャー、どんな小さな役でもいいからアニメやりたいです!」
事務所のデスクにいた文月一乃マネージャーにわたしは嘆願した。
見た目五十歳ごろのこの女性は元々声優として所属していた方だ。今ではそのときの繋がりを使い色んな仕事を取って来る敏腕マネージャーで、所属者へのレッスンも担当している。指導は厳しいけど皆からの信頼は厚く、相談事があればまずこの人に話すべしとまで言われている。
「小さな役ってもねぇ……もうちょっと待って。何かないか探しとくから」
「よろしくお願いします!」
わたしが頭を下げたとき、部屋のドアが開いた。
「失礼します」
その声を聞いただけで分かった。わたしはすぐに振り向いて声の主を確認する。
扇橋連歌。わたしが憧れて追いかけてきた目標の人がそこにいた。
「収録終わりの報告に来たんです、が――」
もう興奮を抑えられなかった。
「お、扇橋連歌さんですよね! は、はじめまして、小湊千咲と言います! いやほんとははじめましてじゃないんですけど、あの、高三のときに大学の文化祭で助けていただいて――あのあと扇橋さんの生アフレコを見て感動して声優になりたいって思ったんです! その節はありがとうございました!」
「……新しく入った方?」
「あ、そうですすみません! ご挨拶するのが遅くなってしまって!」
売れっ子の扇橋さんは事務所のレッスンにも来ないし顔を出すことも少ない。さすがに待ち伏せや家に訪問するのはおかしいと思ったので先延ばしにしていた結果、こんな形で会うことになってしまった。
「これからよろしくお願いします! わたしも扇橋さんのような声優になれるように頑張ります! あ、わ、わたしなんかが扇橋さんと並ぼうなんておこがましいとは分かってるんですけど、それでも一生懸命頑張りますので!」
「……こちらこそよろしくお願いします」
扇橋さんは軽くお辞儀をすると文月マネージャーと少し話してから部屋を出ていった。
文化祭で会ったときに見せた優しい笑顔はどこにもなく、終始無表情だった。
二年半以上前の出来事なんて忘れていても無理はないか。だけど少し寂しい。
「小湊、ミーハーなファンみたいだったよ」
文月マネージャーが含み笑いで呟いた。
「そ、そうですか?」
「テンパり過ぎ、一気にまくしたて過ぎ。よそでそんなことしないでよ? 苦笑されるだけだから」
「しませんよ! 今のは扇橋さんだったからです! ……あの、やっぱり引かれたと思います?」
「さぁどうだろね。でも仕事やイベントのときはもっと愛想いいし、相手が新人であっても挨拶を丁寧に返す子だってのは教えといてあげる」
がーん、と頭に重いものが乗っかった気がした。
仲良くはなれなくても同じ事務所の先輩後輩として交流していければと思っていたのに幸先が悪い。
いや、前向きに考えよう。
ここからどんどんわたしも仕事を増やし人気が上がっていけば、いつか扇橋さんとラジオで共演したときにこれが話のネタになる。
あぁそんなこともあったね、と笑ってもらえれば仲良くもなれるはずだ。
「文月マネージャー、アニメ以外でもいいのでお仕事ください!」
目標に向かって一歩ずつ進んでいく。今のわたしにはそれしか出来ない。
◆
扇橋連歌の声優としてのキャリアは四年ほどだが、役者歴としては十年以上になる。
小学生のころに劇団に入り子役として活動し、中学生で声優の仕事に触れ、高校にあがって正式に声優デビュー。その後はみるみる頭角を現し一躍人気声優となった。
そんな演技や仕事と共に成長してきた連歌は、恋愛とはまったく無縁の生活だった。
役としてなら恋愛もラブコメも経験したことはある。間近で他の役者の芝居も見てきた。だが自分自身の主観として恋愛感情を抱いたことはなかった。
二年半前、とある大学の文化祭に呼ばれた連歌が千咲を見つけたのは偶然だった。友人数名と遊びに来ていたらしきその子の体調が悪そうだったから目で追ってしまっただけ。なのにベンチに座ってうなだれる千咲を見て自然と体が動いていた。
一応名目はあった。今日ここに来ているということは自分のファンかもしれない。話しかけることで扇橋連歌であることに気付いてもらえればファンサービスにもなる。
結局ファンではなかったが、それでも連歌と会話をして調子が戻ったのは喜ばしいことだ。
ずっとこの子と話していたい。連歌がそう思ったのも間もなく、千咲の友人が戻ってきてしまいその場を後にした。自分の素性がバレて騒ぎになるのが嫌だったから。
後になればなるほど、なんであのときに連絡先の交換をしなかったのかと悔やんだ。悔やんで嘆いて落ち込んで――。
(もしかしてあれが、一目惚れだったのかな)
やっと初恋に気が付いた。
その初恋相手が、事務所にいた。新人声優として。
もう会えない思っていた人物との再会を連歌はいまだに信じられなかった。
(うそでしょ? 本当に? 夢じゃない?)
しかも自分の生アフレコに感動して声優になったというのだから、その嬉しさはひとしおだ。
すぐにでも『あぁあのときの!』と喜びをあらわにしたかった。『私もずっと会いたかった』と打ち明けたかった。
しかし連歌はそうしなかった。何故か?
(いきなりそんなこと言って気持ち悪がられたらどうするの!?)
二年半前にたった一度話した相手をずっと想い続けていたこと。そもそもあのとき話しかけたのだって純粋な親切心だけではなかったこと。
彼女がずっと追いかけてきた“扇橋連歌”という声優の理想像を壊してはいけない。
だから連歌は自身の心を殺して冷静に振る舞った。
(にやけてたりしなかったよね? 声おかしくなかったよね? あぁでももうちょっと会話した方がよかったかな? でもあれ以上話してたら頬の筋肉がもたなかっただろうし、あれくらいが普通の対応だったよね?)
マイクの前で多種多様な役をこなしてきた連歌が自分の失態に気付けなかったのは、ある種の恋の魔力と言えるのかもしれない。
(えっと、こみなとちさき……)
事務所を出て電車に乗った連歌はスマホでミャオプロモーションのホームページを開いた。女性タレントの項目の、カ行のなかから『小湊千咲』を恐る恐るタップする。
大きく表示されたバストアップの宣材写真。写真の千咲は化粧や髪形のせいで少しイメージが違うが、それでもあのとき会った女の子と同一人物なことは分かる。
さっそく写真をダウンロードしてから、連歌はイヤホンを挿して下のボイスサンプルを再生した。
『小湊千咲です』
感動に打ち震えるとはまさにこのことだった。連歌は自分の口を手で覆いながら奥底から湧き上がる歓喜を全身で感じていた。
演技や細かい発音など、気にならないと言えば嘘になる。しかしそれ以上に、自分の好きな人が喋っていることそのものが連歌に幸福感を与えてくれた。
(あとで目覚ましに設定しとこ)
リピート再生をしながら連歌は恍惚の息を吐いた。
でも欲を言うならもっと彼女の色んなセリフを聞きたい。それこそ愛の言葉なんか聞けたら最高じゃないか。
(――そうだ)
連歌は自らの欲望を満たすべく、スケジュール帳を取り出して考えを巡らせた。
◆
初めてのアニメ出演が決まった。
扇橋さんがヒロインを務めるファンタジー系アニメのモブキャラ。つまり完全に扇橋さんの抱き合わせだ。
それでもアニメはアニメ。嬉しいことには変わりない。それになんと言っても待ち望んでいた扇橋さんとの共演。直接の絡みはないけど不甲斐ないところは見せられない。
本番までの一週間。もらった台本とDVDで自宅で練習を繰り返した。
基本的にアフレコの映像はほとんど下書き状態のものが使われる。白黒の荒い線画で動くキャラたちの口ぱくに合わせてセリフを読んでいくのだけど、意外と考えなければいけないことは多い。口ぱくの長さが決まっていることはもちろん、息継ぎのタイミングも映像に合わせなければいけない。ときには急いで読まないと入りきらなかったり、逆にゆっくり読まないと口ぱくが余ってしまうこともある。特にキャラの口が隠れている場合は口ぱくの代わりにマークがついたり消えたりするので、セリフの入りと終わりの時間を台本にメモしておく必要がある。
正直今回のわたしのセリフはそこまで難しくないしセリフ数も少ない。でもだからこそ完璧にしなければとも思う。
それにセリフがないからと言ってもやることはある。ガヤ――周囲の人々の会話や喧噪もわたしたちの仕事だ。収録の仕方は大人数でブースのなかでわいわい話すだけだけど、重要なのはそれがアドリブだということ。あらかじめガヤになるところは前もってどんなことを話すか考えていった方がいい。加えて周りの状況に対応出来る柔軟性も持っておかないといけない。隣の人が『そこのおねえさん見てってよ』なんて話しかけてきたらすぐに『あら、今日のオススメは何?』くらい言えないと厳しいだろう。
なにはともあれ、端役であっても万全を尽くすまで。でないと扇橋さんに追いつくなんて夢のまた夢だ。
本番当日のお昼。布擦れの音が出にくいようにハーフパンツスタイルでまとめたわたしは、収録スタジオの最寄りの駅で文月マネージャーと扇橋さんと待ち合わせをしてから一緒にスタジオに向かった。
到着すると音響監督やスタッフの方々への挨拶、共演者の方々への挨拶を済ませてから荷物を置き、台本とペンと水を持ってブースの中に入る。
横長のブースにはポップガードのついたスタンドマイクが四本並べられていて、その正面の壁に大きなモニターが二つ吊り下げられていた。モニターの反対側――ガラス窓のある音響卓側の壁にはずらりと長椅子が置かれている。すでに何人か座っていたのでその方々への挨拶も忘れない。
「……小湊さん、それじゃ」
「あ、はい!」
付き添ってくれていた扇橋さんが長椅子の中央あたりに座った。収録中はこの椅子に座って待機して、自分の出番がくるとマイク前に行って喋ることになる。
わたしはというと入り口近くの椅子あたりで立ったまま台本を読みつつ軽くストレッチをしていた。
来た人への挨拶もしなければいけないし、端役の新人声優が座る位置がだいたいこのあたりだからだ。
出番が多いメインキャストたちはマイクにすぐ入れてモニターも見やすい場所に座り、セリフの少ない人ほど端っこの方に座る。大御所の方はその限りではないけど。
(わたしも早く扇橋さんの隣に座れるようにならないと)
気合を再度入れ直し、収録が始まるのをいまかいまかと待ちわびた。
時間になってスタンドマイクの高さ調整(背の低い人に合わせる)をしたり、台本の細かい修正のアナウンスがされたりしてから、いよいよテスト収録が始まる。
テストとはいえほとんど本番のようなものだ。糸をピンと張ったような空気のなか、声優たちがマイクの前でセリフを読んでいく。
声優の大変さのひとつはこのマイクワークだ。
多ければ一シーンに十数人が出たりするのにマイクの本数はだいたい三・四本。つまり一本のマイクに何人もが順番に入りながら演じなければいけない。それもまったく雑音を立てずに。
マイクに入るのにも色々決まりがある。セリフの多いメイン役のマイクにはなるべく入らない。自分のセリフの直前の人のマイクには入らない。そのマイクにすぐ入りたいときは今使っている人の視界の端に映るように立ち、『ここ次入ります』というのを伝えなければいけない。そのとき台本を持つ手は今マイク前に立っている人と逆の手で持った方が良い。
他にも口の中をねばつかさない、マイクに息を吹きかけない、唇は台本じゃなくマイク正面に向ける、叫ぶときは逆にマイクから外す等々……。これら全部、映像を見てキャラの口ぱくに合わせながらしかも感情を表現しなければいけないのだから、本当にやること・考えることが多い。
ここにきてわたしの緊張はマックスを超えていた。
アフレコの練習はしてきたしある程度は出来ると思っている。でもそれはあくまで練習だ。
本番の空気感は体験してみないと分からない。どんな些細なミスも許されないというプレッシャーが心臓を押し潰してくる。
わたしに引き換え、扇橋さんはすごかった。
世界が変わる、とでも言えばいいのだろうか。彼女が喋るとそこにキャラクターが生まれ景色が生まれ物語が生まれる。映像は線画なのにわたしの目には生き生きと動くアニメーションが見えた。
本当にうまい人は周囲の人達の力量を上に引っ張るという。扇橋さんの掛け合いを聴いていてもその類いの声優であるのは間違いない。
(あの文化祭のときはただ感動しただけだったけど、今聞くとその演技力の高さに圧倒される……ほんとにすごいなぁ)
感心してばかりもいられない。そろそろわたしの役だ。入れそうなマイクに目星をつけて後ろに並び、マイクが空くとその前に進み出る。
場面は宿屋で食事をしている町人の女性二人の会話シーン。わたしともう一人との軽い掛け合いだ。画面に表示されている時間を確認し、口ぱくに合わせわたしからセリフを喋り始める。
「『最近変な夢見るんだよね。自分がどこかの花畑で横になってるかと思ったら、どんどん沈んでいって体から植物が生えてくるの』」
「『あー、それあたしも見た! もしかして最後にそこから花が咲いてこない?』」
「『そうそう! 赤い変な花!』」
「『変なってなによ。綺麗な花だったじゃない』」
「『私には気持ち悪い花に見えたけど……』」
この二人の会話を主役たちが聞いて話が進展していくという流れだ。
セリフが終わると人にぶつからないようにマイクから離れ、静かに椅子に座る。
(あ、マイクの番号も書いとかないと)
台本のセリフの上に自分がどのマイクに入ったのかを書いておく。本番はテスト通りに動くのが当然だ。もし違うマイクに入ってしまうと音響の人が困るだけでなく思わぬ事故にもなりかねないので必ずメモをするようにと教わった。ずっと同じマイクで喋る役ならともかく、セリフごとに違うマイクに入ることもあるので書いておいて損をすることはない。
テストが終わり、本番を録る前に音響監督から気になったキャラへのディレクションが入る。わたしも名前を呼ばれた。
「小湊さん」
「はい!」
「ちょっと怖がり過ぎかな。もっと軽い感じで」
「はい!」
「あと最初のとこ固くなってたから気楽にね」
「は、はい!」
演技の方向性はともかく、固さを指摘されるのはよろしくない。
初めてだから、新人だからで逃げるのは格好悪いことだ。たかだかこのくらいのセリフで詰まってなんかいられない。
本番の収録が始まった。さすがプロの声優たち。誰もがディレクション通りに演技を修正している。わたしも負けていられない。
「『最近変な夢見るんだよねぇ。自分がどこかの花畑で横になってるかと思ったら、どんどん沈んでって体から植物が生えてくるの』」
今度は自分なりに気楽さを出せたはずだ。
役割を果たせてほっとしていたわたしだったが、パートの切れ目になったときにスピーカーから音響監督の声が聞こえてきた。
「最後に小湊さんのとこ、もう一回いい? あぁ、小湊さんだけでいいから」
「――は、はい」
「今度はラフになり過ぎてたから中間くらいで。あと急ぐとラ行が甘くなるから気を付けて」
「すみません……」
録り直し。しかもわたしだけ。
何がこのくらいのセリフで詰まってられない、だ。実力もないくせに偉そうなことを言うんじゃない。
反省といたたまれない気持ちで精神がぐるぐるとしてくる。
(あれ? 中間くらいってどのくらい? わたしさっきどんな風にやってたっけ?)
ヤバい。わからない。何をどうすればいい。
パニックになりかけながらゆっくりマイクの方へ進んでいたわたしの背中が、不意にぽんと叩かれた。
「!?」
振り返ると扇橋さんが立っていた。言葉はない。けれど少し細まったその目は優しく、わたしを応援するようにまっすぐ向けられていた。
――すぅっと、気持ちが楽になった。
あの文化祭のときも、今も、この人には助けられてばかりだ。
わたしのことは忘れてしまったのかもしれないけど、根っこにある思いやりや優しさは変わっていない。それがすごく嬉しかった。
(うん、もう大丈夫)
落ち着きが戻り、思考もクリアになった。今ならどんなセリフだって読めそうだ。
一度大きく深呼吸をしてから、わたしはマイクの前に立ち背筋を伸ばした。
「よろしくお願いします!」
…………。
無事収録が終わった。だいたい三時間半くらい掛かっただろうか。洋画だとこれが一日だったりするというのだから恐ろしい。
文月マネージャーはわたしに散々ダメ出しをしてから先に事務所に戻っていった。わたしと扇橋さんはこのまま帰宅となる。
「今日はご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
駅に向かって一緒に歩いている扇橋さんに話しかけた。礼儀礼節は大事だからこそきっちりと謝罪はしておかなければ。
「迷惑なんて……録り直しも一回でOKが出たじゃないですか」
「それは扇橋さんが背中を押してくれたからです。わたしだけだったらもっと失敗してました」
「そんなこと、ないと思います」
「いえ、自分にも足りないものがまだまだあるんだなって分かりました。緊張とかは慣れるしかないですけど、まずは扇橋さんのように演技や応用力を磨いて自信をつけることが第一なんだなって」
「でも私だって最初のころは怒られてばっかりでしたよ」
「扇橋さんでもですか? あ、いや変な意味じゃなくてその、デビューしたときからすごく演技力のある方だと思ってたので」
扇橋さんの出演作はほとんどチェックしてある。正直『これが高校一年……?』と驚愕するしかなかった。
扇橋さんがかすかに微笑む。
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが」
お、物腰が柔らかい。これは良い感じで会話が出来ているのではないだろうか。この機会に色々話せば仲良くなれるかもしれない。
「よければなんですけど、マイク前で演技するときに何を考えてるかとか教えてもらえませんか?」
「うーん、やっぱり『どうすればこのキャラクターの気持ちを一番伝えられるか』でしょうか。誰かとの会話でもモノローグでも、そのセリフを喋る理由や意味があります。なら、しっかりそれを伝えてあげないと悲しいじゃないですか。作品の中の登場人物たちは、私たちを通してでしか声を出して喋ることが出来ないんですから」
キャラの感情に沿ってセリフを読む。それは声優にとっては基本のことだ。
感情をわざと抑えているときもある。まったく何も考えずに喋っているときもある。でもそれら全部を含めて『伝える』のが声優の仕事だと扇橋さんは言った。
「……難しいですね」
「誰でも出来たら私たちのお仕事がなくなっちゃいますよ?」
「ですよね」
小さく笑う。
芸事はなんだって難しい。難しいからこそ、上達する楽しみがある。
もしわたしがキャラクターの気持ちと自分の気持ちを完璧に重ねてセリフを読めたとしたら、扇橋さんのようになれるだろうか。そんな演技が出来たならすごく気持ちがよさそうだ。
扇橋さんが軽く咳払いをした。
「こ、小湊さん」
「はい、なんですか?」
「あ、ごめんなさい、ちょっと待って……」
扇橋さんが突然わたしの名前を呼んだかと思うと立ち止まって背を向けた。その両肩が小さく上下している。
「?」
首を傾げていると扇橋さんが振り向いた。視線を若干外したまま口を開く。
「もしよかったら、このあと私の家で一緒に練習しませんか?」
「練習?」
「演技とか、その、読み合わせをしたりして……」
「え、いいんですか?」
扇橋さんがこくりと頷いた。
「是非お願いします!」
こんなに有り難い提案はない。上手な人との掛け合いはそれだけで勉強になる。
(やっぱり扇橋さんは優しいなぁ)
事務所に入ったばかりの後輩にここまで親切にしてくれるなんて。
◆
(誘えたぁぁぁ! やったぁぁぁ!!)
扇橋連歌は表情筋を引き締めながら胸中で歓喜の声をあげていた。
今回の収録に千咲を呼んだのは他でもない連歌の申し出だった。自分の出演する作品で配役に都合が効きそうなところを探し、文月マネージャーに相談したのだ。
すぐ側で千咲の声が聴きたかったから。
だから本番で千咲がパニックになりかけたときは焦った。このままではドツボにはまってしまう。でも横からあれこれ口を出すのは良くないし、何より千咲自身の為にならない。その結果の、背中を叩いて肩の力を抜いてもらう、だった。
そして収録が終わった帰り道。
直帰になることは知っていたの連歌はあらかじめ何個か案を練っていた。
お茶に誘う。食事に誘う。遊びに誘う。散歩に誘う。家に誘う。
理由としては収録を振り返っての感想、反省、もしくは気晴らしでも。
とにかく普通に解散するのは避けて、なんとしてでも二人の間に何かしらの関係を築く。
それを目標に今日の収録に望んだのだ。
千咲から演技の話を振ってこられたのは都合が良かった。おかげで家に誘う口実が出来た。
(収録より緊張したぁ……)
胸を撫で下ろす連歌だったが、一度収まったドキドキはまた新しいドキドキを生んだ。
(今から家に来るってことはそのまま晩ごはんも食べるよね? もし遅くなったらそのまま泊まっていったりして……きゃーどうしよー!)
明日も午前中から仕事が入っていることも忘れて、連歌は自分の妄想でひとり興奮していた。
◆
扇橋さんの家は立派なマンションの角部屋で、広さが私の家の倍くらいはありそうな1Kだった。防音もしっかりされているらしく、多少大きな声を出しても大丈夫なのだという。
内装は淡い暖色系の色合いで統一されていて綺麗に整理整頓されていた。壁際の大きな本棚にはマンガや小説、アニメのパッケージなどがずらりと並んでいる。収録用だろうか、デスクの上にはパソコンとポップガード付きの卓上マイクも置かれていた。
さすがは売れっ子声優。お金をかけるとこにはかけている。
「なにか読みたい作品とかジャンルはありますか?」
「あ、いえ、扇橋さんに選んでもらえれば何でも」
「…………」
ちら、と扇橋さんがわたしの顔を窺った。なにか失礼なことを言っただろうかと困惑するわたしに、おずおずと告げてくる。
「おーぎばしさん、って言いづらくないですか?」
「へ?」
「ほら、『ぎ』は鼻濁音だし、続けて『ば』で唇くっつけて離さないといけないし、後ろに『さん』を付けると『ばしさん』の『し』が無声化になったりで言いづらいでしょう?」
鼻濁音とは鼻に抜けるように読む濁音のことで、日本語のガ行は鼻濁音で読むのが美しいとされている。(言葉の最初やカタカナ語など鼻濁音にならない例もある)もちろん声優やナレーターも同様で、常日頃から鼻濁音を意識して話すのも練習の一環だ。
無声化とは無声音で言葉を発すること――つまり声帯を震わせずに話すことで、カ行、サ行、タ行、ハ行、パ行の文字が連続するとき、前の文字の母音が『い』『う』であればその文字に無声化が起こる。(例:『たしかめる』の『し』は声帯が震えない息だけの無声音になる。ただし、無声化になる音が続いたり、アクセントによっては無声化をしなくてもいいこともある)
とまぁざっと説明したけど何が言いたいかというと、どちらも発声するうえで面倒くさいということ。
なので扇橋さんの言うことももっともではあるけど。
「えっと、じゃあ何てお呼びすれば……?」
「下の名前で呼んでください」
「……連歌、さん」
「呼び捨てで」
「いやいやそれはダメですよ! 扇橋さ――……連歌さんの方が先輩なんですから」
「同い年じゃないですか」
「芸歴が違います!」
芸事によくあるように、声優も基本的に声優歴が上の人が偉い。十代でデビューした有名な声優が、同じ事務所の歳上の後輩に『○○くんはー』みたいに話すことだって珍しくはない。
扇橋さんが少し拗ねたように唇を尖らせた。
「でも初めて会ったときは声優関係なかったし……」
「それとこれとは――」
反論しかけて、今の言い方が引っ掛かった。
「あの、もしかして文化祭で会ったこと、覚えてます?」
「…………うん」
「え、え? じゃあなんで事務所で会ったとき何も言ってくれなかったんですか?」
「それはその、ちょっと驚いてたから……」
言いづらそうにして視線を落とした扇橋さんだったが、すぐに顔を上げてわたしに詰め寄ってきた。
「とにかく、昔に知り合ってたってことは声優の先輩後輩の前に、知人だったわけでしょう? だから上下関係とか気にせず対等に話しても大丈夫」
「大丈夫じゃないです」
「敬語も使わなくていいから」
「それはほんとに無理です!」
「ほら、私も千咲って呼ぶし、ですますもやめるよ?」
「連歌さんは先輩なんですから好きに喋ってください。でもわたしはダメです」
「いいから呼び捨てにして!」
「出来ませんって!」
「呼び捨てにしてくれないと一緒に読み合わせしてあげない!」
「なんですかそれ!?」
意味がわからない。なんでこの人は顔を真っ赤にしてまでわたしに呼び捨てにさせたいんだろうか。
(――もしかして)
ふと思い至る。
名実ともに一流声優の仲間入りをした扇橋さん。しかしそれは同時に彼女を縛る枷となった。どこに行っても求められるのは声優『扇橋連歌』。溜まった疲労やストレスを発散するために彼女が望んだのは。
(友達が欲しかったんだ……)
年齢が同じで、しかも昔に助けたことがある。話す相手としてはうってつけだろう。
扇橋さんの素に触れた気がして感傷が湧いてきた。憧れの人がわたしにここまでお願いしているのに、無下に断ることなんて出来ない。
「……二人きりのときだけなら、でどうですか?」
扇橋さんが表情をぱぁと明るくする。
「うん、それで全然いいよ! ありがとう、千咲! これからよろしくね」
事務所で初めて挨拶したときはわたしからだったのに、今度は扇橋さんから言われてしまった。
相手は返事を待っている。わたしも言わなければいけないようだ。
「よろしく……れ、連歌」
名前を呼ばれた扇橋さんは恥ずかしさと嬉しさが混ざったように笑った。
(こんな表情で笑ったりするんだ)
いつも落ち着いていて大人びている彼女からは想像も出来ない。でも決して変じゃない。むしろ歳相応の可愛い笑顔だと思う。
ただ、いっこだけ気になることが。
「『ちさき』の『ち』って無声化になると思うんだけど、それはいいの?」
「――――」
はっとした彼女の顔も、新鮮で可愛らしかった。
◆
千咲を駅に送って自宅に戻ってきた連歌はカーペットの上に倒れこんで悶えていた。
(あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)
読み合わせの間も、お弁当を買ってきて食べている間も、気が気ではなかった。
『連歌』と呼ばれるたびに襲ってくるこそばゆいような幸福感。ふとした拍子に頬の筋肉が緩んだまま戻らなくなるのではと心配になった。
(……呼び捨てを強要したのとか、駄々っ子すぎてもう死ぬ……)
自分の痴態を思い返し、恥ずかしさに胃が締め付けられる。だがその痴態があったからこその成果だ。失ったものよりも得たものの方が大きい。
(もしこれでお泊まりとかになってたら本当に死んでたかも)
死因は心臓の脈拍異常といったところか。
ばたばたと足を動かし、ふーふー、と息を整えてから連歌は起き上がった。
そのままパソコンの方へと向かいマウスを操作する。間もなく音声が聞こえてきた。
『もとの役の人はここどういう風に読んでたの?』
千咲の声だ。読み合わせのときに聞き返して確認するために録音もしていた。当然、セリフ以外のことで話しているときも録音はしっぱなし。
(うん、ちゃんと録れてる)
マイクに向かって喋っていない雑談がきちんと録音出来ていたか心配だったが大丈夫なようだ。
『――連歌だったらここ――』
連歌は再生を一時停止した。波形の該当箇所を選択し、もう一度再生する。
『連歌だっ――』
その声を聴いて連歌はにやりと笑った。
(今日読んだ台本のなかで『起きて』ってセリフがあったから、あとはこれと合わせて……ふふ)
新しいアラーム音声の完成を前に、連歌はひとり自室で低く笑っていた。
◆
あれから連歌は空いた時間を見つけてはわたしを読み合わせに誘ってくれるようになった。
連歌のスケジュールはほとんど埋まっているはずなのに、わたしなんかに大事な時間を使っていいのだろうか。
申し訳なくなって連歌に伺うと『そういうのは自分が売れてから心配して』と一蹴されてしまった。
最初こそぎこちなくやりとりをしていたけど、今ではもう本当に普通の友達みたいなやりとりをしている。むしろ外でも呼び捨てにしそうになって焦ったほどだ。
さて、肝心の読み合わせの成果だが――かなりいい調子だと思う。
当たり前だ。演技力のある声優が毎週のようにわたしの台本で読み合わせに付き合ってくれているのに、クオリティが上がらないわけがない。しかも色んな音響監督のディレクションのクセも教えてくれるので、現場での修正も焦ることなく出来るようになった。
端役ばかりとはいえ、少しずつアニメやドラマCDの仕事も増えてきたあるとき。
「名前ありの役もらった!」
新しくもらった台本を片手に、耳に当てたスマホに喜びを伝えると向こうからも嬉しそうな声が返ってきた。
『本当に!? おめでとう!』
「ありがとー! まぁ一話でいなくなるキャラだからレギュラーとかじゃないんだけど」
『十分だって。これで気に入ってもらえればまた使ってもらえるかも』
「そうなったらいいんだけどね~。いやぁ、これも連歌のお陰だよ」
『そんなことないって。千咲の努力が報われただけ』
「まぁね」
『そこ肯定するんかい』
「冗談冗談。ほんとに連歌のお陰だと思ってるから。読み合わせのことだけじゃなくて、収録の打ち上げとかでわたしの名前出してくれてたんだよね? 文月マネージャーが言ってた」
『……私はただ実力があって使えるジュニア声優の名前を言っただけだし』
ぶっきらぼうな口調は照れている証拠だ。連歌の顔が浮かんできて小さく笑う。
さて、ここからが大事だ。
「ありがとう。感謝してる」
『そ、そういうのはいいから』
「うん、すごく感謝してる」
『もういいって――』
「感謝してるから、収録の前日そっちに泊まらせて!」
『……え?』
「収録スタジオが連歌の家からなら電車ですぐ行けそうなんだよね。寝させてもらうだけでいいから、お願い!」
ずうずうしいのは百も承知だ。でもせっかくの名前あり役。万全を尽くして臨みたいと思うのは当然じゃないだろうか。
『…………』
よっぽどなにか言いたいことがあったのか、連歌はたっぷり十数秒悩んでから『別にいいよ』と答えてくれた。
◆
恋愛ものでお泊まりとくれば、それは重大イベントのひとつと言っても過言ではないだろう。恋人同士であれ友達同士であれ、間違いなく進展する何かが起きる。
数々の妄想に意識を飛ばしかけた連歌だったが、しかしすぐに思い直した。
(大事な収録の前日だって言ってるでしょ? 私のせいで失敗させたら二度と顔向け出来ないよ)
そうは言いつつ、意識してしまうのはどうしようもない。
日付が一日一日近づくたびに胸が高鳴っていくのを感じていた。すでに部屋は何回掃除したか分からない。
(浮かれるんじゃない。読み合わせの延長。いつも通り。平常心平常心……)
そうして連歌の家に千咲が泊まりにきた。
「無理言ってごめんね連歌」
「え!? い、いや、別に泊まるくらい、いつでも大丈夫だし」
「……どしたの? すごい挙動不審だけど」
「な、なんでもないって。ご飯はもう食べてきたんだよね?」
「うん。シャワーだけ浴びさせてもらっていい?」
「ど、どうぞどうぞ、私はもう済んでるから好きなだけ浴びてきて」
「そんなに時間かけないよ」
苦笑する千咲を浴室に案内してから連歌は部屋でうなだれた。平常心なんて無理だ。聞こえてくるシャワーの音が否応なしに千咲の姿を想起させる。
連歌に覗きの趣味などないし、千咲を裸にしたいという願望もない。それでも好きな人が自分の家でシャワーを浴びているだけで、そわそわと落ち着かない気持ちになるのだ。
そしてそれは、シャワーが終わったあとの方がますます強くなる。
「ふぅ~、ありがと。ここ、うちより水圧高いからか気持ち良かったよ」
首にかけたタオルで首元を拭きながら、寝間着姿の千咲が出てきた。しっとりとした髪の毛に上気した肌が色っぽい。化粧が落ちたせいか若干のあどけなさも感じさせる。
「の、飲み物とか飲む?」
「持ってきたから大丈夫。あ、冷蔵庫だけ借りていい?」
「うん」
お風呂上がりに家をうろうろしている千咲を目で追い過ぎていることに気付いて連歌はテレビの方を向いた。芸能人が料理を食べて金額を予想しているが連歌の頭には何の料理かすら入ってこなかった。
「あ、今日それやってる日か」
ペットボトル片手に千咲が連歌の横に座った。自分の家のシャンプーの匂いに連歌の心臓が大きく脈打つ。
鼓動を誤魔化すために連歌が口を開いた。
「よ、読み合わせはしとかなくていいの?」
「今回は相手が男性だしね。それに前違う現場で会ったことある人だからイメージは出来てる」
「そっか……」
テレビを見終わったあとそれぞれで台本や原稿のチェックをしてから早めに就寝することになった。
しかし連歌の家にはベッドも布団も一人分しかない。
「別にカーペットの上でもいいのに」
「よくない。お客様をそんなとこで寝かせるわけにいかないでしょ」
ならば一人用のベッドに二人で寝ればいい。ということで連歌と千咲は一緒の布団に背中合わせで入っていた。連歌の要望で千咲が壁側になっている。理由は千咲と壁に挟まれたら眠れなくなると思ったから。
「連歌って寝相はいい?」
「……悪くはないよ」
「寝返り打って床に落ちないでよ。ケガとかされたら困るから」
「ち、千咲の方こそ私を蹴っ飛ばしたりしないでよ」
「もし連歌を蹴るようなことがあったらベッドから追い出していいよ」
「……別に追い出したりは、しないけど」
薄暗いオレンジ色の常夜灯の下で、二人は眠くなるまで会話を続けた。たいていは声優の仕事に関係することばかりで色気もなにもあったものじゃなかったが。
千咲にとっての連歌は憧れの先輩声優で仲のいい友達でしかない。それが分かっていても連歌にはこの関係が嬉しかった。
(隣で寝ることが許される間柄になれたのならそれで……)
寝息が聞こえ出してから連歌はゆっくりと体を千咲の方に向けた。
せめて寝る瞬間までは、大好きな人の後ろ姿を見させて欲しい、と。
◆
朝起きたら仰向けになったわたしの体に連歌が抱きついていた。
(わたしのことを夢で抱き枕かなにかと勘違いしてたりして)
しかしここで振り払うわけにはいかない。お邪魔しているのはわたしの方だ。せめて起床時間が来るまではそっとしておこう。
(しっかし、寝顔美人さんだなぁ。妬ましいとかじゃなくて普通に見惚れちゃう)
顔を少し傾けて連歌の寝顔を観察する。整った顔立ちに長い睫、張りのある頬と形のいい唇、そして寝る時用に頭の上でお団子にしている髪の毛が綺麗と可愛いを兼ね備えた寝顔を作り上げている。
(……この寝顔写真で売ったら良い値段つきそう)
「んん……」
わたしの心の声に反応したわけではないのだろうけど、連歌が眉根を寄せた。
(うそうそ。そんなことしないから)
声が出ないように笑う。
ひとりで勝手に連歌の寝顔で楽しんで、そろそろ起きるころかな、と考えていたとき――どこからか声が聞こえた。
『早く、起きて。連歌。朝だよ』
(え)
聞き覚えのあるその声は、ひたすら『早く、起きて。連歌。朝だよ』を繰り返している。セリフとして繋がっていないように聞こえるのは言葉ごとに切り取って繋げたからだろう。
「う……ん……」
連歌がもぞもぞと動いて手を枕元に伸ばした。しかしお目当てのものがなかったのか怪訝そうに目蓋を開く。
「ん……ひっ――」
めっちゃ驚かれた。
「おはよ、連歌」
「え、あ、おは、よう」
『早く、起きて。連歌。朝だよ』
そこからの連歌は素早かった。体を反転させてベッドを転がり落ちると音の出所である自分のスマホをすぐさま見つけ、その声を停止させた。
「はぁ……はぁ…………何か聞こえた?」
尋ねられたのですぐに答える。
「連歌、いつの間にわたしの声でアラーム作ってたの?」
「……あらぁむ?」
「いやとぼけなくても。それ読み合わせのときのだよね。自分で編集して作ったの?」
「まぁ、その……」
「言ってくれればそれ用に録音したのに」
「え――」
連歌が驚いた表情でわたしを見返し、探るように問いかけてきた。
「イヤじゃ、ないの?」
「なんで? わたしだって連歌の声のアラームあるなら欲しいよ?」
連歌が息を飲んだ。そんなに変なことを言ってるだろうか。連歌の声は聞きやすいし、欲しがる人だって大勢いると思う。
「ち、千咲、私ね――」
「でもわたしのアラームはまだ売れなそうだよね。代表キャラが出来るくらいには有名にならなきゃ」
「は……?」
「他の声優さんのアラームとか作ってないの? あったら聞かせてよ」
「……千咲。私がなんで千咲の声でアラーム作ったと思ってる?」
「知ってる人の声だと起きやすいからとかじゃないの?」
「…………」
わたしが小首を傾げると連歌が無言で立ち上がり、リモコンで電気を点けた。そのまま本棚まで行って一冊の台本を持ってくる。
その台本を開いてセリフを指さした。
「ここ、読んで」
「え?」
「いいから読んで」
起きぬけで喉も出来てないのに何を読ませるんだろう、と釈然としないまま台本に目を通す。
放課後の教室。女生徒二人の会話らしい。連歌の指が苛立ったようにページを叩いたので初見のままセリフを読む。
「『今度は何をしてあたしを驚かせるつもり? この前みたいなビックリ箱じゃいくらやってもムダだよ』」
「『次は絶対驚くと思う』」
「『自信満々だね。じゃあもしダメだったらどうしてくれる?』」
「『なんでも言うこと聞いてあげる』」
「『なんでも、とか言うと危ないんじゃなーい? どんなこと命令されても知らないよ?』」
「『その代わり驚いたら私の言うこと聞いてね』」
「『あーはいはい。驚かすことが出来たらなんでも言うこと聞いたげる』」
「『好き』」
台本のト書きの文字が目に入ってきた。キスをされて驚く。
文章を理解する間もなく、わたしの視界いっぱいに連歌が映った。唇に柔らかいものが触れて、すぐに離れる。
連歌が恥ずかしさを押し隠すように笑った。
「『――ほら驚いた』」
…………。
台本が取り上げられた。本棚に台本を戻しにいった連歌が背中越しに言う。
「そろそろ準備しよっか」
表情を見なくてもその言葉の感情は容易に読み取れた。
『この話はここでおしまいにしよう』と『ごめんなさい』だ。
◆
打ち明けるつもりなんてなかった。
連歌の心は後悔一色で塗り固められていた。
アラームを聞かれて千咲に気持ちがバレてしまったと絶望したのもわずかのこと、よりにもよって『他の声優のアラームない?』と言われ連歌は衝動的に動いてしまった。
適当に乗っかって受け流せばよかったのは分かっている。でも連歌には出来なかった。
自分の気持ちが軽く扱われたような気がしたから。
そうじゃないんだよ、と――あなたのことを想っているからここまでしてるんだよ、と伝えたかった。
あの台本は連歌が読み合わせの練習用に用意していたものだ。女の子二人の恋物語。役の上だけでも恋人になりたかったというのと、『好き』という声を録音しようと考えていた。
……全部、終わってしまった。
これまで築いてきた千咲との関係が。
それも大事な収録の当日に。
軽蔑されたか、憤慨されたか、あるいは見捨てられたか。
どう思われてもいい。どんな扱いを受けてもいい。
それでもただひとつ、彼女の憧れた声優“扇橋連歌”だけは壊したくない。
だから今は自分の出来ることを全力でやろう。
連歌は目を一瞬瞑り短く深呼吸をしてから、マイクに向かって力強く声を放った。
「――よろしくお願いします」
◆
あれほど意気込んで臨んだ収録だったけど、終わってみればあっと言う間だった。
現場が慌ただしかったとかそういうことじゃない。ずっと連歌のことを考えていたうちに終わってしまったのだ。
わたしは連歌に憧れて声優になった。同じ事務所に入れて本当に嬉しかったし、連歌に気に掛けてもらえたことが光栄だった。
今にして思えば下の名前で呼び捨てにして、なんて先輩声優としてめちゃくちゃなお願いだ。あの時点で察することすら出来なかったのはわたしの落ち度ではあるけど――そんなの気付けるわけないでしょうが!
でも、友達として対等に接してみて声優じゃない連歌の色んな面を知れた。意外とこどもっぽいところがあったり、かと思えば大人びた配慮をみせたり。親しいからこそ見せる表情の数々は一緒に過ごしていて楽しかった。
じゃあ私が連歌に抱いている感情は、彼女がわたしに抱いているものと同じなのか。
わからない。
もし『わたし』という台本があるのなら、今このシーンにはどんなセリフが書かれているんだろう。どんなト書で描写されているんだろう。
考えても答えなんて出てくるわけがない。
わたしのセリフは、わたし自身が考えて作らなければいけないのだから。
『どうすればこのキャラクターの気持ちを一番伝えられるか』
連歌はそう言っていた。
わたしが一番伝えたい気持ち……。
驚いたし困惑したし、いきなり何で? って思った。でもそれは伝えたい気持ちじゃない。出逢ってからこれまでのことを色々考えた結果、わたしの頭にまず浮かんだのは。
(このまま連歌をひとりぼっちにはさせたくない!)
その気持ちを胸の奥でしっかりと握り締め、わたしは連歌の家に向かった。
マンションの入り口横の花壇の縁石に腰掛けて連歌が帰ってくるのを待ち続ける。連絡はしなかった。会いたくないと言われるのが怖かったから。
日が落ちて街灯が点き始めたとき、ようやくお目当ての人がやってきた。
スーパーの袋を片手にさげた連歌がわたしを見つけて立ち止まる。
「千咲……?」
「お帰り。今日は別の仕事もあったんだっけ? さすが売れっ子声優」
「なんで、ここに……」
「言わなきゃいけないことがあってね」
縁石から腰を持ち上げて連歌に向き直る。連歌の視線が揺れた。どうせ、返事なんて聞きたくないとでも考えているんだろう。
わたしは指をVの字にして見せつけた。
「今日の収録、ばっちりだったよ!」
「……え?」
「だからー、今日録った名前ありの役、ほとんど完璧ってくらいうまく出来たんだって。祝ってくれないの?」
「あ、おめでとう」
「これも、誰かさんが読み合わせに付き合ってくれてるお陰かな」
わたしが笑い掛けると連歌はきょとんとした後、くすりと笑った。
「そんなことわざわざ言いにきたの?」
「そんなことって、わたしがどれだけ気合入れてたか知ってるよね? 大事なことだからわざわざ報告しにきたのに」
「……知ってるよ。うん、うまくいって本当に良かった」
目を細める連歌の顔には安堵の色がにじんでいた。
「そういう連歌は? 今日の収録どうだった?」
「私? 私が収録で失敗するとでも?」
「はいはい、疑って悪かったですよー。今をときめく若手実力派声優、扇橋連歌大先生に対して失礼いたしましたー」
「分かればよろしい」
今度こそお互いの顔を見合って笑う。わたしの気持ちは連歌に伝わったようだ。
『今まで通りの関係を続けよう』――それが偽りのないわたしの気持ち。
「連歌の買ってきたそれってわたしのもある? お腹すいたんだけど」
「あるわけないでしょ」
「えー」
「えー、じゃない。はぁ……コンビニでいい?」
「うん、行こ行こ」
連歌の来た道を二人で引き返して歩きだす。
よかった。これでわたしたちも元どおりだ。
「ねぇ千咲」
「ん?」
「『驚いたら何でも言うことを聞く』って言ったよね?」
「――ぶっ、あ、あれは台本のセリフで――」
「スマホのボイスレコーダーに録音してあるから言い逃れできないよ」
いつの間に……。
連歌だって自分で言っていることが無茶苦茶なのは分かっているはずだ。でもそれをあえてここで言う理由、わざわざ今朝のことを蒸し返す意味なんてひとつしかない。
『私、諦めてないから』
きっとこんな調子でこれからもわたしたちは気持ちを伝え合っていくんだろう。
それも演技の勉強になると思えば楽しいかもしれない。相手が連歌ならなおのこと。
「まぁわたしは別に驚いてなかったけどね」
「はぁ?」
「だから逆に連歌の方がわたしの言うこと聞かないといけないんじゃない?」
「うそ! 絶対うそ! 絶対驚いてた!」
二人で賑やかにセリフを交わす。
星がまたたき始めた夜空の下、わたしは憧れの声優と肩を並べて歩いていた。
〈おまけ〉
写真集
連歌がわたしの家に遊びにきた。
「へぇ、ここが千咲の部屋かぁ」
「連歌のとこに比べたら狭いしみすぼらしいって?」
「何も言ってないのに」
「そのうち連歌くらい稼いで良い部屋に住んでやる……!」
「私の部屋で一緒に住むっていうのは?」
「え、いや、それは……」
「冗談だよ。半分は」
(それはわたしの返答待ちってことでは?)
悶々と考えている隙に連歌がわたしの本棚を漁り始めた。
「ん? この段だけ本が二列になってて怪しいなぁ」
「あ、ちょっとま――」
ごっそり本を抜いて奥を確かめた連歌がにんまりと笑う。
「これ、なぁに?」
その本は写真集だった。誰の写真集かと言うと、今その本を持って笑っている人のだ。出版は一年ほど前。
「千咲、私の水着姿とかに興味あったの?」
「違うんだって! それは養成所のときに買ったやつ!」
「でも買ったってことは興味あったんだよね?」
「だから興味とかじゃなくて、インタビューとかも載ってるし、応援の意味も込めて買っただけ!」
「いいよ、素直になって。見たいって言ってくれれば本物をいくらでも見せてあ・げ・る」
「増山江○子さんみたいな声を出して近寄ってくるな!」
「今は沢○さんでしょ」
「とにかく、わたしは別に連歌の水着姿が見たいとかじゃないの」
「……じゃあ逆に私が千咲の水着姿を見せてもらうのは?」
「…………いや、逆にってなにが?」
「ちっ、流されなかったか」
「なんで流されると思ったの?」
「まぁでも、もし千咲が写真集だすときはあらかじめ教えてね」
「いっぱい買ってあげるって?」
「撮影についていくから」
「…………」
PCゲーム
「連歌ってパソコンゲーム用の源氏名とかある?」
「そっちの仕事はしたことないから持ってないよ」
「そっかー」
「……――待って待って、え、どうしたの? もしかして千咲、やるの?」
「うん。そういう話がちょうどきてて、お金もいいし今のうちに一回くらいはやってみようかなって」
「っ――っ……っっっ!!」
「形容し難い表情で悶えないでよ」
「だ、だって、千咲の演じるキャラがどこの誰とも知れない馬の骨にあんなことやそんなことされるんでしょ!?」
「あくまでキャラがね。えっと、ようするにあんまり良い気分じゃないって?」
連歌がこくこくと頷いたあとに叫ぶ。
「でも聴きたい!!」
「どっちだよ」
「どっちもなの!」
「もういいよ。色々アドバイス貰おうとしたのが間違ってた」
「アドバイス出来ないとは言ってない」
連歌が表情を引き締めた。わたしも思わず身構える。
「ほぅ」
「えっちな声を出すためには」
「出すためには?」
「実際にえっちしてみればいい」
「うん、予想出来てた」
「待って、行かないで! これは別に私が千咲としたいから言ってるんじゃないの!」
「……じゃあなに」
「先に私とすることで擬似寝取られを体験できる」
「はい解散」
「違うの! そこからさらに寝取り返すプランで――」
「わかったわかった」
「じゃあ逆に! 千咲が私にするっていうのは!?」
「いい加減それが通用しないことを悟れ!」
まぁとりあえず、初めてのパソコンゲーム収録はそこそこ評判が良かったのと、半年後発売されたそのゲームを嬉々としてわたしの目の前でプレイしてたやつがいたのだけ付け加えておく。
終
大っ変、お待たせいたしました!
百合小説投稿100作品目(pixivでの計算)ということで色々考えているうちになかなかまとまらずこんなに掛かってしまいました……申し訳ありません。
声優×百合は改めてもう一度書きたいと思っていた題材です。
詰め込んだ想いが表現出来ているかはわかりませんが、楽しんでいただければ幸いです。