彬文を応援する会の会長
次の日の夕方、じっちゃんが神社から帰ってきて座敷に落ち着いた頃を見計らい、いつも通りの「お帰りなさい」の挨拶をした。それがぼくの行儀見習いの日課になっているから。
「うむ、ただいま」
と答えた後、じっちゃんが今日あったことを聞くか、ぼくが面白かったことを話して笑いを取ろうとするかだけど、別に報告することは思いつかなかった。
するとじっちゃんの口がゆっくりと開き、
「長慶彬文君をイジメる会の会長」
と、ぼそりと発音した。
「もうバレたんだ!」
ぼくは座布団の上で正座のまま飛び跳ねた。
「何をした?」
うわ、ヤバい、怒られる。
「彬文泣かしました」
「してよかったと思っているか?」
「ハイ!」
声に張りを持たせて答えた。
もじもじする必要ない。嘘じゃないから。
彬文がずうっと聞いていなかったお母さんの元気な声を聞けた。それだけであの作戦は成功だ。
「彬文を応援する会の会長ではダメだったか? 先方はイジメられていると心配していた」
あ、そうか、そりゃ、心配する。するだろう、でも……。
「うーんと、応援だと、『余計なお世話です』って言われそうな気がしたから……です」
じっちゃんの機嫌は読みにくいけれど、そこまで怒ってはなさそうに感じられた。
「わかった。他に迷惑をかけた相手は?」
「えっと、清水先生。学校の電話をタダで借りました」
「夏に一緒にピアノ弾いてた先生か?」
「はい」
そんなこと、いつ話したっけ?
お母さんの結婚式直後、夏休みにプールに入ると言って水着持って学校に出かけて、先生とピアノ弾いてたのは誰にも言ってなかったはずだ。
――神官、怪しすぎ。
でもじっちゃんの答えは肩透かしだった。
「ならいい。で、どこにかけた?」
「神社です」
「恐山の社務所か?」
「はい。おねえさんと話しました。あ、あのおねえさん怒らないでください」
急に心配になった。勝手なことしてってあの人が怒られたんだろうか?
「どうせまた途轍もない嘘を吐いたのだろう?」
「ぼくのお母さんが小夜子さんに電話したがってるって言っただけ……」
ちょっと話を薄めた。
「それだけでほいほい電話番号を教えるおねえさんじゃない」
じっちゃんはなぜか微笑んでいた。
「どうして電話ダメなんですか? ぼくはいいのにどうして彬文は? お母さんと話せないなんておかしいです」
「おかしいな、私もそう思う」
びっくりした。
「じっちゃんのせいじゃないの?!」
「私のせいじゃないと言いたいが……、いや、神社のことは全部、私のせいだな。私がリーダーなのだから」
大好きなじっちゃんが彬文を苦しめていると思うと悲しかった。
でも次の言葉でぼくは心から笑うことができた。
「ありがとう、信也。彬文のためにいっぱい頭使ったな」
「ハイ!!」
お母さんの結婚以来、一番いい返事ができたと思う。
―了―
この頃はまだまだ、個人情報の取り扱いもゆるかったです。
私は電話苦手でした。(今も、話すのは苦手)
家電って昔はなぜ廊下、それも玄関近くにあったんでしょう?
長電話しないため?
謎です〜