電話番号獲得作戦!
6年前だかスマホなしで日本に帰り、タクシー呼ばなくてはならず、半信半疑で104したら番号案内サービスが現存していて感動しました。
使う人少なそう。
ぼくの頭のどこかにアイディアが生まれ始める。形はまだ見えない。でもこれを追っていくと、大抵何かできるんだ。
「一度つけた電話、取り外しはしないよね? 番号変えただけだよね?」
「うん、たぶんそう。田舎でも電話つける家どんどん増えてるし、わざわざ解約はしないと思う」
彬文はぼくの質問の意味がわかってない顔で答えた。
「番号案内で聞けるかな? 住所は?」
「え、信ちゃんどうするの?」
「まずは新しい番号知らないと。ほら住所書いて書いて、一発104してくるから」
電話に慣れてない彬文は、104が何の番号かも知らないようだ。
「ぎょぇ、難しい漢字。振り仮名もふってよ、読めないよ」
彬文が書き終わった途端、紙切れを奪い取り、ひらひらさせて玄関近くの電話に向かった。
残念ながら予想通り。
「この住所のお電話番号登録はありませんってさ、電話帳に載せてないんだよ」
「手が込んでるね、番号変えただけじゃないんだ。父さん厳しい人だから」
彬文は輪をかけてがっかりしてる。うんざりどころか神社に絶望した感じだ。
「そんなことでヘコんでどうするのさ、電話かけたいんだろ?」
「そりゃそうだけど……」
彬文はとっても頭がいいのに、規則破りは得意じゃない。もったいないと思う。ここはぼくが明るく突き抜けるところ、悪知恵を働かすのはきっとぼくのほうが得意。
――誰が彬文のお母さんの家の電話番号を持っていて、どうすれば教えてもらえるだろう?
「さっき神社に電話があるって言った?」
「うん、社務所っていって信者さんたちのお世話したり、儀式の案内したり」
「じっちゃんの神社よりもっともっとおっきな神社なんだな。そこで働いてる人はお母さんちの電話番号知ってる?」
「知ってると思う。父さん宛に、神社のことじゃない用事なのに神社に電話かけてくる人がいるから。そういう時は、お社の中にいる父さんに伝言するか、うちに電話かけて母さんに話すか、するはず。でも、どっちにしても、お社も自宅も社務所から走っていける距離だし、電話は余り使わないかも」
「それでも知ってるはずだ。よし、わかった、その社務所に、お母さん宛の、神社関係でない電話をすればいいんだ。それで、『ごめんなさい、電話番号教えてもらえたらご自宅にかけ直します』って言えばいい。お母さんに電話がかかってくる理由って何がある? お母さん仕事してないの? ぼくのお母さんみたいにピアニストとかだったら電話いっぱいかかってくるよ?」
「母さんはうちにいて、お社のことか妹のことで忙しくしてて、他には……」
「そうか、じゃ、ありきたりだけどこれでいくか」
「これって?」
彬文はやっぱりぼくのアイディアにはついて来れてない。
「お母さん恐山の人? 学校は恐山?」
「小学校は恐山、中学校は下北っていうちょっと離れたところ」
「よし、ぼくのお母さんはおまえのお母さんと中学校が一緒だった。とっても仲良しで、でもぼくのお母さんが入院してしまって会いたがってる、お見舞いに来てくれませんか、前の電話番号繋がらなくて、えっと、お母さんの名前なんだっけ?」
「小夜子」
「名字は?」
「長慶」
「今のじゃなくて!」
「あ、稲城、結婚前はいなぎ」
「いなぎさよこ……。ぼくのお母さん、とても弱気になっていて、小夜子さんに神さまの話も少し聞いてみたい……」
彬文が目を白黒させる。
「嘘つくの?」
「つく。この嘘で誰か困る?」
「うーんと、困りはしないけど、信ちゃんのお母さん病気にするのってなんか悪いよ」
「悪くない、ほんとは元気ピンピンなんだから。入院してることにしなくちゃ、ぼくが代わりに電話する言い訳が無い」
「さっき、神社関係でない用事って言ったのに、神さまの話も聞きたいって言うの?」
彬文はおかしな所で頭が回る。
「言わないで済めばいいけどさ。わざわざ病人がお見舞いに来てくださいってヘンじゃん。でも仲の良い友達が神社の奥さんになってたら、ちょっと話聞いてみたいなーって思うかもよ? 神主さまにお説教されたいんじゃないの。その微妙なところをわかってよ。お父さん呼ばれたらこっちが困るんだからね」
ぼくはぼくのお母さんが入院してるところに、若いじっちゃんみたいな神主さまが訪れてお祓いする図を想像してしまって可笑しくなる。
お母さんが病気して寝ついているところも、宗教にかぶれたところも、ぼくは全く見たことがない。
きょとんとしている彬文に頭を戻した。
「おまえのお母さんがその社務所ってとこにいない時間がいいんだけど?」
「あ、12時から1時は絶対うちにいて、父さんとお昼ご飯」
「オッケー、明日、昼休みに電話するのがいいんだな。でも公衆電話のお金が無い。東北ってすごい長距離だよね? 学校の電話を借りると。約束はできないけれど彬文、明日電話番号手に入れてみるよ。誕生日は明後日だよね?」
ぼくはわくわくしているのに、彬文の顔色は冴えない。
「うん、でも……僕、番号もらってもかけられないよ」
「規則だから? じっちゃんに怒られるから?」
「うん、それに、母さんも父さんも、僕が約束破ったらがっかりすると思う」
「次のことは明日の夜考えよう。番号もらえないかもしれないし、かけないかもしれない。それでいいからさ」