3話 お買い物
-1ケ月後-
「よし、ここらへんでいいか」
今、クリフォードは街にほど近い山に来ている。それは、身流の練習と、金稼ぎのためだ。
何故金稼ぎ?と思うかもしれないが、この山には、鹿や猪形の魔物がいるため、それを倒して、ギルドに売ろうという考えだ。
まずは、体に魔力を巡らして、身流をする。今のクリフォードは、魔力をほとんど外に放出していない。
1ヶ月という短時間でこれほど身流を習得できたのは天賦の才と言うのだろう。
身流の威力を試すため、クリフォードはそこら辺の木を思いっきり殴ってみる。
すると、ドンッッとすごい音を立てて木がへこんだ。
「おぉ、すごい威力だ。たいして痛くもないしな。次は、部分強化だな」
そう言って右手に巡らしていた魔力の濃度を上げる。そして、さっき殴った木とは別の木を殴ると、ベキッと乾いた音を出しながら、木が倒れていく。やがて、地響きを立てて10メートルともあろう木が完全に倒れた。
「部分強化だけでもこの威力か。すごいな」
倒れた木を見ながらクリフォードは言う。「ふぅ」
と、その時、ドドドッという音が聞こえる。
「ん?」
音がする方向を向くと、全長3メートルを雄に超えるであろう猪形の魔物が突進してきていた。
この種類の魔物ってこんなにデカかったか?と思いつつクリフォードは殴る構えをとる。
猪の魔物は文字どおり、猪突猛進であった。
猪は直線にしか進めないことは分かっているので、殴るタイミングさえ合えばクリフォードでも、簡単に倒せるだろう。
「おらぁ!」
タイミングを合わせ、身流で部分強化を施し、思いっきり鼻先を殴る。
すると、猪の頭がつぶれた。
「痛っ-- 」
クリフォードの腕も無事ではないが、少しずつじわじわと、元の状態へと戻っていく。
「やっぱ、気持ち悪いな、この体は」
そうやって自分の体を罵る。
「さて、こいつをどうやってギルドまで持ってくか……」
クリフォードはさっき倒した魔物の方を見る。その魔物は、顔が完全にひしゃげており、無様な有様だ。
だが、体が地球の猪の2倍はあるので、持っていくのはかなり、苦労するだろう。
「ふんっ…… 」
後ろ足を思いっきり引っ張るが、少ししか進まない。
「これは時間がかかりそうだな」
そう言いながら、少しずつギルドへ向かっていくのだった。
「……はぁ、はぁ……やっと、んっ、ついた………… はぁ…… 」
息を切らしながらギルドのドアの前に立っているのは、クリフォードだ。
何故、こんなに疲れてるのかと言うと、猪がとにかく重い、重いのだ。通常、20分ほどのでつくはずの道を、2時間かけてやっと着くほどに重い。
「はぁ……はぁ…… 」
プルプル震える腕を使い、やっとのことでドアを開ける。
中には、数人の冒険者がいるが、こっちを見てギョッとした様な顔をしている。
なんでそんな顔をするんだ?と思いながら受付所まで行こうとすると、受付のおばちゃんが驚きながら、駆け足でこっちに向かってきた。
「ちょっと! どうしたのその魔物! 」
「どうしたって、自分が倒してきた奴だけど…… 」
受付のおばちゃんは、さらに驚きの顔で、
「あのねぇ、その魔物は通常サイズの倍もあって、それなりの被害を出していたから討伐依頼も出ていたのだけれども、魔法が全然効かなくて、冒険者殺しって言われてるのよ」
「そ、そうなんすか…… 」
身流があったとはいえ、子供のパンチで倒せるような魔物が冒険者殺しと呼ばれていることに、内心苦笑しつつも、ここに来た理由でもある事を聞く。
「それで、こいつっていくらします?」
「そぉねぇ~…… 通常サイズの倍はあるし、討伐依頼の報酬も合わせると、ざっと、10万ボルグ位かしらね」
「そんなに貰えるんですか」
この世界の通貨はボルグで統一されており、一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万、の順番で価値が上がっていく。なんと、日本の通貨と同じである。
「まぁ、品質調査をしないと何とも言えないわね」
あれから、少しの時間が経ち、
「はい、12万ボルグね」
「ありがとうございます」
クリフォードは金色の大きな硬貨が12枚入った袋を受け取る。
(よし、これで必要な材料は変えるな)
そう思いながらクリフォードはギルドを出て目的地へ向かうのだった。
「いらっしゃい! お?お使いかな?」
そう元気な声で出迎えたのは、この店の店主だ。
「まぁ、そう言う感じです。それで、ここで売ってる一番堅いもので120cm×20cm×10cmと、90cm×20cm×10cmの大きさでお願いします」
「おう、そんぐらいなら30分で出来るな。ちょっと待っててくれ」
そう言いながら店主は店の奥へ消えて行った。
そして、ちょうど30分程経ったころ、店主がカットされた木材2本を持って店の奥から出てきた。
「ほい、できたぞ。この木材は世界で一番堅いいっつわれてるディノアの木を使ってっから少々値が張って2万ボルグになるが、特別に1万5千ボルグでいいぞ」
「ありがとうございます」
店主の優しさに感謝しつつ、金色の大きな硬貨を2枚差し出す。
「あいよ、5千ボルグのお釣りな」
店主はそう言って、銀色の大きな硬貨を一枚差し出してくる。
「あぁ、ちなみに、ディノアの木は、そこら辺にある金属よりも堅いから、加工する時には気をつけろよ」
「はい、わかりました」
ほんとに優しい人だなぁ、と思いながら店の外へ出る。
そして、ここからほど近い場所にある武器屋へ行く。
「いらっしゃい…… チッ、なんだ、ガキかよ……」
武器屋に入った途端に悪態をついてきた若い店員の声にビクッとしつつ、周囲を見渡す。内装はシンプルだが、置いてあるものは、ほとんどが杖や指輪などの魔法の威力を上げるものがほとんどだ。
「あのぉ…… このディノアの木を加工できる硬さのナイフってあります?」
「あぁ? ディノアの木ぃ?」
「は、はい…… ディノアの木です……」
「それなら……」若い店員は店の奥へ入っていき、すぐに、ナイフを持って戻って来た。
「これだな。値段は10万ボルグちょうどだ」
そう言って若い店員が見せてきたのは、刃渡り15cm程のシンプルなデザインのナイフだ。
「じゃあ…… これにします」
クリフォードは、10万ボルグ差し出し、ナイフを受け取り、いそいそと家へ帰っていった。
「よしっ、早速作るか」
クリフォードは、今、ナイフを持って木材を削ろうとしているところだ。
木材を削って何を作ろうとしているのかというと、無いなら作ればいいじゃない!ということで、大太刀と小太刀の木刀を作ろうとしている。
「堅っ、なんだよこれ全然削れねぇな」
だが、流石は世界一堅い木といわれるだけあって、身流を駆使しても全く削れた気配がない。
「マジか、地道に削ってくしかないか」
そう言って、クリフォードは地道に、だが、確実に、木刀を作っていった。それと、練習がてら、武器強化を慣れないながらも、使っていった。