1話 転生した先
『名前、クリフォード・クルニスを取得しました。 能力、言語理解を取得しました。』
頭の中で響く無機質な声に反応して、零は、目を覚ました。
目を開けるとやたらと視界がぼやけるが、見知らぬ天井が見える。
(ここはどこだ? ……あぁ、俺は車にひかれたんだ。と言うことは、ここは病院か?)
周りの様子を見ようと、身体を起こそうとするが、身体が思うように動かない。
身体が動かせないことに焦っていると、大人2人と5歳ぐらいの男の子が見えた。1人は女性で、金髪に、茶色の瞳が印象的な美女だ。もう1人は男か女かわからない。どこにいも居そうな顔で黒の髪と瞳をしている。男の子の方は、とても生意気そうに見える。
何か3人で話をしている。日本語ではないが、自然と内容は理解できる。
「へぇ、こいつがおれの弟か」
(は? 弟って俺は長男だぞ。しかもこいつガキじゃねぇか)
「そうよ。この子があなたの弟クリフォードよ」
(クリフォードって誰だよ。しかも声が出ねぇし、何なんだよ)
どうやら、病院ではないのは確かだが、状況が飲み込めず、呆然とするしかなかった。
あれから7年が経ったーー
どうやら、零は剣と魔法の世界に異世界転生してしまったらしい。この世界は、人間以外にも魔人族、亜人族2つの人型種族と、動物、魔物、鬼の獣型種族がいるようだ。
魔人族は、人間族よりも肌が浅黒く、髪が赤っぽく、耳の先がとがっているらしい。
亜人族は、獣の耳と尻尾が付いている種族、鳥のように羽が生えている種族、魚のように泳ぎが上手い種族がいるようだ。
動物と下位の魔物は扱いやすく食べられるため、人間に飼われていることが多く、上位の魔物と鬼は、協力で装備品の素材になるため、冒険者たちによって狩られているそうだ。ちなみに、種族のなかで一番強いのは鬼らしい。
零は、魔法絶対主義国のマティシンガ国の街にある魔法貴族のもとへクリフォード・クルニスの名で生れた。だが、クリフォードは、魔法が一切撃てない。何度やっても、どうやっても撃てないのだ。
そして、最初に聞こえた無機質な声は、能力を習得した時や、名前を付けられたした際に聞こえてくるそうだ。
と、窓の外を見ながら、そんなことを現実逃避気味に思い浮かべていた。
すると、ドアが開いた。兄、フェルト・クルニスだ。
「よう、クリフォード。魔法の練習の調子はどうだ? あぁ、そうか、お前は魔法が撃てないんだったな。しょうがないからおれが魔法を教えてやるよ」
「いや、いいよ兄さん。にいさんは-- 」
「まずは、雷球からな。よく見てろよ、 【雷よ、おれの力になりて、彼の者に裁きを与えよ】〈雷球〉!」
フェルトは両手を前に掲げて詠唱を始めると、淡い光が集まりやがて雷の球ができる。それをクリフォードに向かって雷の球を放つ。
全身に痛みが走る。だが、これはもう慣れたものなので決して悲鳴は上げない。
「次は、火球だ。 【火よ、おれの力になりて…………】〈火球〉!」
「ぐぁッ--」
クリフォードは左腕を犠牲にして火球から全身を守る。だが、左腕が焼きただれてしまう。しかし、不思議なことに火傷がみるみるうちに治っていく。
「火傷したら冷やさないとな。 【氷よ、おれの力になりて…………】〈氷球〉! 【水よ、おれの力になりて…………】〈水球〉!」
氷球が当たり、水を頭からかぶる。
「濡れたら乾かさないとな。 【風よ、おれの力になりて…………】〈風球〉」
「グハッ--」
不可視の球がクリフォードのみぞうちに当たり、背中から壁に激突して胃の中身をぶちまける。
「汚いなぁ。まぁ、今日はこれぐらいにしてやるよ」
そして、フェルトは部屋を出て行った。
(どうして俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ)
このようなやり取りを毎日のようにしているのだ。それは現実逃避もしたくなるだろう。だが、非力なクリフォードにはこれぐらいしか出来ることがないのだ。




