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オワコンの異世界LIFE  作者: ぼろ提琴
1/1

プロローグ 華麗なる脱出劇

供養です。

プロローグが始まって早々、この物語の主人公であるタクマは今、ランスーン聖教会の中庭に安置される縦3メートルほどの大きな石像の影に一人、身を隠している。同じように5メートルほど横に安置されているもう一つの石像に身を隠している仲間二人を目の端で確認し、合図を待つ。


何故彼ら三人はこんな12月の寒空のもと、じめじめとした記念碑の裏なんかに身を隠しているのだろうか? 



ーそう、彼らは今この街一厳しい警備をくぐり抜け、この”ランスーン聖教会”とやらを抜け出そうとしているのだ。いわゆる脱獄というやつである。しかもこの場所、聖教会とは言うものの、何も神聖な場所などではない。

ここは一度入ったら出られない労働ののち待ち受けるは死、脱出未遂の末待ち受けるのも死、、と曰く付きの地獄の監獄なのである。タクマ含めた3人が投獄されてちょうど一ヶ月であり、さてはてこれから100年間はこの監獄で過酷な労働を約束させられているとの場所でもあるのだ。



タクマは武者震い半分、怖さのあまり震え、泣きそうになりながら自分が何故こんなところで死にそうになっているかを思い出していた。


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タクマがこの異世界に来て半年。最初に来たときはこの先の異世界ライフに胸をときめかせたものだ。だがもともとコミュ症である上によくあるご都合主義まっしぐら小説のように、都合のよく美少女に助けられるでもなく、タクマのすることといえば他の物乞いたちに習って道端で通行人から金をせびること。

そんな中やっと知り合ったあくどいが根は良い仲間(たぶん、、)、大柄な青年ジェール、そしてそばかすのあるピーターとともにこの辺鄙な街の銀行へ銀行強盗を企んだのはほんの1ヶ月ほど前のことだった。しかし結果はご覧のとおり、タクマのヘマによってあっさり捕まってしまったのだった。この世界での盗みは終身刑を食らうほどの犯罪らしい。(まあ、盗もうとしていた金額からすれば当たり前の話なのだけど、、、)期待していた輝かしい異世界ライフなるものからどんどんと遠くかけ離れていってしまう自分の悲劇的な人生はもう嘆いても嘆ききれない。

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 我に返ったタクマは息を殺しながら五メートル先の大柄な青年に身振り手振りで警備の位置と数を教え、もう一度中庭の方を覗き見た。見張りは全部で6人の巨大、巨体のトロールで、全員大きなランタンと鉈を持ち侵入者や脱走者がいないかと中庭中に目を光らせている。


彼らのうち一人の飢えた野獣のような視線がこちらに飛んだような気がしてタクマは勢いよく顔を石像の裏に引っ込めた。


「おい」

真後ろから不意討ちに聞こえるどす黒い声に思わず叫びそうになった声を、タクマはなんとか押し殺す。


「大丈夫か?見つかったか?」

と、先程合図を送ったはずの大柄な青年がタクマに囁く。そう、ジェールが向こうから移動してきたのだ。


「多分大丈夫なんだけど・・・脅かさないでくれよ」


タクマはまだ高鳴る鼓動の音を聞きながら胸をなでおろした。ジェールに自覚はないんだろう、いつもそうだ。彼の人柄から、こんなところで人を脅かすような事をするはずがない事はタクマもよくわかっているし、彼の人柄の良さは皆のお墨付きだ。だがいかんせん、彼の体格と声の大きさが、彼の印象を初対面の人間にだいぶ誤解させていることは事実かもしれない。


「最高だな、このシチュエーション」

と続いてやってきたそばかすのっぽの青年がまるで嬉しそうな顔をして言った。ピーターである。


「お前、気は確かか?ほんとここを出たら医者に見てもらえ」


ほんとにこいつの頭の中はどうなってるのかわからない。そう思いながらタクマはピーターに返答する。こいつの度胸と頭脳はもっと他に使い道があったんじゃないか、他に使うことができたのならこいつの人生ももっとマシになったんじゃないか、とタクマはいつも思ってたりする。まあ、それは本人も自覚しているところじゃないだろうか。


「ああ、まずはここを出てからな、チャーリーみたいにはなりたくないだろ?」

と、まだ嬉しそうな顔をしたピーター君が茶化した。


「ふんっ、死人を馬鹿にするなよ」

と、ジェールが話題に便乗してくる。


「おっとぉ、あいつが死んだか決めつけるのは、よくないかもだぜ?なにせ帰ってきてないからなぁ。もしかしたらたくさんの優しい看守にダンスの特別レッスンでも受けてるんじゃないか?」


「おい、この状況に集中しろよ、無駄話がすぎるぞ」


「ほら、タクマに言われたぞ、集中しろよジェール」


「お前がずっとしゃべってるんだろ、ふざけんな」


「ほらほら、また人のせいにするなって」


「ま、じ、で、うるさいなぁ、おまえらなんでこっちきたんだよ」


そろそろ声が大きくなった頃合いに、タクマがまた割って入る。彼らのつるみは聞いている分にはおもしろい。ジェールはほとんどとばっちりだけど。だがいかんせん、”TPO”なる精神が彼ら二人には欠如していることをタクマはこの監獄に来て学んだ。

それにしても二人はなぜこちらに来たのか。まあ、きっとピーターの提案なのだろう。なにせ、うちのチームの頭脳兼、おふざけ担当なのだから。



「ああ、お前に伝えることがあってな」

とピーター。


「ここの警備がざるすぎる理由がわかったんだ。」


彼はそう言いながらどこにしまっていたかもわからない、大きな地図を広げた。

”ざる?”さっきの見張り、殺る気満々だったぞというツッコミをタクマは飲み込み、ピーターの次の言葉を待った。


20メートルばかり先で殺る気満々の見張りたちがナタを研いでいるというのにこの少年たちはしゃがみながらのんきに地図を覗き込んでいるのだ。なんとも平和で日常的な光景である。


ピーターが続ける。

 

「わかってると思うが」

そう、ピーターは前置きをして咳払いをする。


「この中庭を超えればすぐ出口だ。このいまいましい聖教会とやらから脱出できる。つまり、この関門が最初で最後ってことだ。」


「今までたくさんの関門があったけどな、そうだろ?」


特に興味なしといったジェールの返答は、タクマに今までの出来事を思い出させた。うかつに鍵を開けようものならおよそ100本はあるかという毒矢を吹き出す扉や殺人鬼のような目をして刃渡1メートル半はあろうかという武器を振り回す見張りや看守専属のトロール達をよくここまでかいくぐってきたものだ。


「侵入者にとって最初の関門ってことだ。俺の言い方が間違ってたな。」


めんどくさそうに訂正するピーター。またこの二人のつるみ合いが始まりそうだ。


「まあ、それはいいんだが、この記念碑の先からは何かを感じる。トロールたちの気配だけじゃない。もっとたくさんの気配を感じる。。。しかも、以前にも感じたことのある魔力的な何かもだ。」


ピーターは緊張した面々を見回す。


「きっとこの先中央玄関に至るまでの40メートルいっぱい、銀行にあったような魔法の糸で張り巡らされてる。」


「あぁ、タクマが銀行で引っかかったやつか」


「ああ、めっちゃ間抜けな引っかかり方だったやつだよ、ホント傑作だったよな、タクマ?お前の”しまったっ!”て顔と警報ブザーのコントラストが最高だったぜ?えっ?お前だってそう思うだろ?」


緊張が一気に溶け、ジェールとピーターのにやけた視線がタクマに向かった。


「その節は悪かったと思ってるって何回も謝っただろ。もうネタにしないでくれよ!」


いったいこの一か月間どれだくらいネタにされたんだろう。そりゃあ、申し訳ないとは思ってるけど、、、そんな思いをタクマは自分の言葉に込めた。


「お前が俺らといる限り、いつまでもいじられるんだぜ」

とジェールが鼻で笑い、ふいに真面目な顔でタクマの反論を制して言う。


「だが俺たちはあの魔法線の解除方法がわからない。それに脱出不可能と名うての聖教会だ、そのちんけな罠一つなだけじゃないはずだろ?どうすんだ?」

たくさんの気配というのも気になるしな、、、とジェールは続ける。


ごもっとも。ジェールに同意したタクマも、ピーターの方を見る。


「えーっと」

二人の視線を受け、ピーターは今までの自信ありげな表情を崩した。


「とりあえずすべての魔法線は俺の魔法感覚でわかるから避けて通ることができる。あのトロール達の目はかなり弱いはずだから、見張りの目を盗みながら俺についてきてくれればいい」


「いざとなればこのまま引き返すって策もあるだろ」


タクマが割り込む。


「せっかくここまで安全に来れるルートを見つけたんだ、今日は寝床に戻ってまた作戦を練り直してもいいんじゃないか?」


「いやぁ、だめだ。今日じゃないといろいろと都合がつかない。絶対に今日だ。」

ピーターの方も絶対譲れない顔をした。


しばしの沈黙があった。


「それでいいか?タクマ。」

全員の合否を聞いてくれるのがこのリーダーのいいところだ。と、ジェールを見てタクマは思う。


「まあ、ピートがたまたま見つけた秘密通路がなければここまで脱出できなかったんだし、ここはお前の意思を尊重するとするよ。」


タクマは首をすくめてピーターにウインクした。


「ありがとな、二人共。じゃあ俺が先頭で行くぞ。」

ピーターは真剣な面持ちを崩さずににそこまで言ってのけると、ふとタクマの方を振り向いてはっちゃけた。


「引っかかるなよ、お荷物くん」


怒る形相のタクマに満面の笑みを向け、ピーターは出口に向かって一歩めを踏み出した。





シャアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ






タクマ達3人のよく知るブザーが中庭中に響き渡りだした。もう二度と聞きたくないと思ったあのブザーだ。ピーターの足が魔法線に引っかかったことは明らかだった。


「あっは、やっちまった。」

信じられない状況の中、ピーターがそうつぶやくのをタクマは確かに聞いた。

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