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99・薪割り場で聞いた事

前回のあらすじ


旧市街の片付けも終わったアネット達は仕事を求めギルドへと赴く。するとホールで冒険者達に囲まれるバウゼン伯爵と遭遇する。


しかしミストリアに気付いたバウゼン伯爵は、心に影を落としつつ彼女と挨拶を交わすとギルドの奥へと消えていった。

 僕はバウゼン伯爵が去ってからハッとした。



「今なら仕事が余ってるかも」



 皆が彼にかまけていた分まだ仕事が残っている可能性は0ではない。僕はそっとマルティナに耳打ちすると、彼女は急ぎつつ克つ周囲に気取られないよう素早く掲示板へと滑り込んだ。


 しばらくするとカサカサと1枚の紙を手にしたマルティナが勝ち誇った様子で戻ってくる。



「仕事はあるにはあったんだけど 私達にできそうなのってこれしかないのよね 紅葉影採集」


「もう少しで冬になりそうだけど 時期的にはまだ間に合うんじゃないかな? ただ問題があるとすれば もう町の皆がおおかた取りつくしてるんじゃないかって心配」


「だよねぇ でもこの依頼書 数量はさほど求められてないから さすがに依頼する時期をちょっと外したって分かってるんでしょう」


〔紅葉影・・・ 確か私が初めてアネットの仕事を手伝ったのが紅葉影探しだったわ そう思うと感慨深いものがあるわね〕


「じゃ この仕事受けちゃって良いかしら?」


「うん 地元民の力の見せ所だね」


〔私もそれで良いわ〕



 マルティナが依頼書をカウンターに持っていき、僕達の今日の仕事が始まった。







 それから数日間。外の仕事はあったり無かったりを繰り返した。マルティナの話によれば洞穴の仕事も全くの手付かずと言う訳ではないらしい。


 ただし今回の事でギルド内の様子は変わってしまった。依頼主と思われる人物がカウンターに詰めよって抗議したり、冒険者が銀貨5枚を巡り内輪揉めしたりとホールの緊張感が絶えない。


 中には「冒険者の仕事をボイコットしよう」なんて言い出す人までいる。上級冒険者の報酬がいくらか分からないけど、僕等のような駆け出しには痛すぎる出費だ。納得いかないと放棄しても、それも選択の内に入る程銀貨5枚は安くなかったりする。今回の件で冒険者と貴族の溝はますます深まる事だろう。


 そんな中マルティナは掲示板からションボリした様子で戻ってくる。今日はハズレのようだ。



「ダメね 外の仕事は0 洞穴内の仕事なら選び放題なんだけど」


〔銀貨5枚なら私が出そうか?〕


「ダメ! そんなの連中に負けたのと同じよっ」


「じゃ~どうする? また紅葉影でも探す? 小遣い程度にしかならないけどお店には売れるし」


「ん~~~・・・」



 ここで愚痴を言ってても始まらない。周囲の冒険者達にあてられてこっちまで重い空気に苛まれるのもアレなので、僕達は取り敢えずギルドから撤退する事にした。



「お アネットか これから仕事か?」



 大通りを当てどなくさ迷ってると木こりのモーリスさんに話し掛けられた。



「いえ 今日は仕事にありつけなくって これからどうしようかと話してたところです」


「あぁ 確か冒険者と貴族とで揉めてるって話か 成る程 お前達のところにまで余波が来てるんだな ならちょうど良い 予定が無いなら木こりの仕事を手伝だわないか? これから冬に差し掛かるしな 薪はいくらあっても困らない」


「良いんですか? それは助かります が・・・」



 それは願ったり叶ったりだけど、女性陣のお二方はどうだろう。薪割り場に女の人は働いていないので向きな仕事じゃないのかも。



「私は構わないわよ? アネットにだってできた仕事だし」


〔アネットが前にやってた仕事なら 私もやってみたいわ〕



 マルティナの発言には引っ掛かるけどミストリアも乗り気だし、今日の予定が埋まって良かった。物言わぬ木材に仕事にありつけない鬱憤をぶつけてもらおう。










「戦士さん お願い!」

『ぶれいぶそ~ど~』



 薪割り場に「パァン」と甲高い音が響く。マルティナは斧ではなく自前の剣で薪割りをしてるのだけど、筋が良いのかかなりの薪が剣の餌食になっていた。これだけ割ればモーリスさんもホクホク。憂さ晴らしができてマルティナもホクホクだ。


 一方のミストリアはあまり力仕事が向かないのか斧の扱いがなってない。まるで薪割り初日の僕みたいだ。目一杯の力で斧を振り下ろしてるんだけど微妙に薪を割れてない。或いは当たらない。挙げ句水の魔法を薪にぶつける始末だ。


 でもそこはミストリア。水の魔法を使って「どうしたら薪を割れるのか」を模索し始める。最終的に長い棒状の形態にした水を真上から射出する形に落ち着いた。少々物騒な形だけど、新たな攻撃手段を獲得したと思えばこれはこれで良いのかもしれない。


 僕も2人に負けてはいられない。自分の筋肉を信じて一心不乱に斧を振り下ろそう。


 しばらく薪を割っていると遠くで人の言い争う声に気付いた。でも近場ではない。比較的聴覚が鍛えられた僕だから聞こえる程度で、側で薪割りに夢中の2人には届いていない様子。


 野次馬根性・・・ではないのだけど、休憩がてら1人でその場所まで行く事にした。もしかしたら誰か困っているのかもしれないしね。


 でもそこで行われていたのは複数対複数の口喧嘩。この様子から冒険者と貴族の私兵達だろう。実のところ町中でも彼等の口論は度々耳にする。なので「またか」と少々辟易もしたけれど、その内容が僕の心を引っ掛けた。



「おいお前等 こんな所にまで金をせびりに来たのか!?」


「どうせお前等も洞穴に行くんだろ? だったらここで銀貨5枚払おうが向こうで払おうが同じじゃないか」


「ふざけんな! そう言う手口で俺達から金をむしってるのを知ってるぞ! お前等こんな事をしていて自分が恥ずかしくならないのか!?」


「恥ずかしい? 俺達は貴族様のお手伝いをしているだけさ そもそも今は管轄権があやふやになっているからな お前等冒険者がその隙に好き勝手やらないか ご主人様は危惧しておられるのよ ここは俺達がきちっと引き締めてやらなきゃ ずる賢いお前等は必ず抜け道を探そうとするだろ?」


「不当に金を要求するお前等がそれを言うな! だがそれも終わりだ! 近々ここの領主様がハルメリーに来る その時にどちらが薄汚い悪党かハッキリするだろうな!」


「フッ あぁ そうだな」



 正直言うと両者の言い分は理解できたりする。僕も冒険者の良い部分だけを見てきた訳ではないし。でも銀貨5枚はやっぱりやり過ぎだと思う。そんな両者の口論で最後、私兵の人が言った「ここの領主様がハルメリーに来る」と言う台詞は聞き逃さなかった。


 それは単なる憶測ではなく、貴族と繋がってる私兵の言葉だからこそ信憑性は高い。これは良い事を聞いたぞ。僕は一歩前進した思いで薪割り場まで戻る事にした。


 でも・・・


 これをそのまま彼女に伝えて良いのかな。何だか彼等の言葉と余裕の中にバウゼン伯爵の影がチラついた気がする。



「あっ アネット居た どこ行ってたの?」


「ちょっと入り口の所まで 何だか冒険者と貴族の私兵達が言い争ってたよ」


「またぁ? あいつ等どこにでも湧くわねぇ」


〔そう言えば社交界の時に 私やお父様にベッタリと張り付いて離れない貴族も居たわね 多分それの同類よ〕


「まぁ さすがにここまで入って来ないよ さぁ 残りの薪を割っちゃおう」

『お~』



 結局ミストリアに領主様が来る事を話せなかった。それは彼女を今の領主様に会わせてはいけない気がしたからだ。ここの貴族達の動向は何処と無くギャレズリー大佐と同じ、含むところがあるようにしか思えない。


 そんな中で2人が罠にでも絡め取られたら抜け出せない底無し沼にでもはまりそうな、そんな危うさがこのハルメリーに張り巡らされている気がした。





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