98・バウゼンの来訪
前回のあらすじ
エルヴィラにミストリアの事情を相談したアネット。しかし噂でこの国の王がマイナス等級持ちをよく思わないからと聞く。
それを含めコドリン洞穴で出会った喋るモンスターの件について彼女の妹シルヴィーに会う約束を取り付ける。
今回のゴタゴタ騒動の終結まではそれなりの時間が掛かりそうだ。気晴らしに冒険者の仕事をしたいとこだけど、ご近所の惨状を放って自分だけ見ないフリをする訳にもいかない。なので僕達は仕事をお休みし旧市街復興に尽力する事にした。復興と言ってもさら地にするだけの作業なのだけど、歩きやすくなるのは正直助かる。
それでも今まであって当たり前のものが失くなってしまうのは、目が見えないなりに思うところはある。ここでずっと暮らしてきた住民達や家族も同じ思いだろうか。それでも皆日を追うごとに気持ちの整理がついきたのかテキパキと作業に取り組んでいた。
友人知人も時間の空いた時には手伝いに来てくれるのは有難い。でも正確には手伝い・・・ではなく、僕達のところに来てくれるのが嬉しいんだと思う。
「お~い アネット~ 手伝いに来たぞ~」
「やほ~」
「大分片付いてきたな」
「ルミウス エデル リッタ いらっしゃい ん あれ? 今日は仕事の日じゃなかったっけ?」
「あぁそれな 本当は洞穴に潜ろうと思ったんだけどさ 貴族の私兵と冒険者達が洞穴の入り口でもめててよ 何でも軍の大半がいない今は一時的に貴族が洞穴を管理するんだとかで 入りたきゃ銀貨5枚払えとか言ってくるんだ」
「そうそう 感じ悪いよね~」
「ギルド長も駆け付けて来たんだが そこに居た貴族とギルド長がぶつかってな 互いに一歩も譲らない感じだった」
「まぁそのまま見てても良かったんだけど 膠着状態を眺めててもしょうがないって事で戻ってきたんだ そんな訳で外の仕事は品切れ状態 今日一日やる事が無くなたって訳よ」
「そんな事が・・・」
「ダンジョンの権利は国とギルドで半々だから 何かあった時には揉めるよな でも金とるとかはやり過ぎだぜ」
「この問題はいずれ領主様の耳にも入るから それまでの辛抱だな」
「それって直接領主様が来てくれるのかな それとも書面?」
「ん~~~~・・どうだろぉなぁ~ ハルメリーに旅行したい気分なら来るんじゃないか? んで職人通りに来てくれたら助かるんだけど」
可能性は無くもないか。ミストリアがこんな事になっているのだから、もしかしたら来てくれるかもしれない。でも貴族のあれこれで来ないかもしれない・・・うん。下手な期待はしない方が良さそうだ。
それからまた数日が経って壊れていた旧市街は住民の復興パワーによって綺麗に整地された。聞くところによると「自分達が汗水流して片付けたのだから旧市街にそぐわないものを建てさせない!」と町長との交渉材料に使う予定らしい。
どうにも町長親子とは確執があって住民達は彼等を信用していない。実際マルティナもディゼルに襲われたし。景色が変わる事事態は何ら問題ないのだけど、そこに集う層が変われば僕の見えてる色が変わる。それは困る。つまるとこ住民達の意見には賛成だ。
自分達のやるべき事をやった達成感で高揚している気持ちのまま町長との話し合いに挑んでほしい。応援してます。
「はぁ 駄目ね いつもの景色が急に変わるのってストレスが溜まるのかしら 何だか落ち着かないわ」
『マルティナ運動する~?』
『る~?』
〔私も実家の事があって色々悩んだけれども 今は思いっきり体を動かしたい気分だわ〕
『お外行こう~』
〔『こう言う時は他に打ち込めるものがあるといいね』〕
どうやら今の2人には休みよりも気を紛らわせる何かを与えた方がよさそうだ。なので鬱憤を解消するべく、今日は仕事を探しにギルドへと赴く事にした。
でも貴族間とのトラブルがまだ解消されていないのでギルドの門を叩いても仕事が出てこない可能性もある。最悪気分転換もできず貴族への不信感を募らせるだけとなったら彼女達のストレスは上限に達しそうだ。
僕達がギルドに到着して扉を開けるとそこに広がっていたのは火事のような真っ赤な感情の渦だった。どこを向いても怒り怒り怒り。どうやら何かを中心に怒りが渦巻いてるようだった。
「全くこれはどう言う事なんですかねぇ!? どこの誰だかしんねぇけど いきなり洞穴の手前で銀貨要求してくるバカ共をけしかけたのは! きっと年食ってボケた老害が 死に際に銭ゲバ根性がおさえられなくなっちまったんですかねぇ!」
「貴っ様ぁ~! バウゼン伯爵になんたる暴言! 不敬罪で囚われたいかっ!」
「おいおい 俺は何もそちらに御わす伯爵閣下様に申し上げた訳じゃねぇぜ? でもテメェ等みたいな金魚の糞が堂々と意気がるのは どうせご主人様からギャンギャン吠えろって命令されたからなんだろ?
犬みてぇに何も考えねぇで尻尾振ってりゃ喜んでくれるもんなぁ あぁすまねぇ 全ては飼い主の責任だぁ 大の大人に物乞いみたいな真似をさせたバカな飼い主を 是非ともお目にかけてぇもんだぜ」
「おのれっ! 言わせておけばっ!」
どうやら渦中の人物はプルトンさんと繋がりのあったバウゼン伯爵らしい。お供を数人連れて冒険者ギルドにやって来ているようだ。
僕は人垣の間から彼の様子をそっと窺った。すると周囲の人達が皆熱くたぎっている中で、彼だけが場違いな程冷めているのに気が付いた。肝が座っているのか自分の立場に絶対の自信があるのか分からないけど。溶けない氷と言うのが僕の印象だ。
『あの人こっち見た~』
“盲目さん”が指摘した通り僕達に気付いたバウゼン伯爵は、今まで平静だったその心にどんよりとした何やら黒い感情を宿した。もはや周囲の人達など眼中に無いらしくズカズカ僕達の方に歩いて来ると、やや大袈裟に周囲を意識した声で話し始めた。
初めは僕に用なのかなとも思ったけどそんな筈はない。案の定その曇った感情は別の人物へと向けられた。
「これはこれは 何と・・・ ベルリンド公爵閣下の愛娘 ミストリア嬢ではありませぬか まさかこの様な場所でお会いする事になろうとは 一度社交界の場にてご挨拶申し上げたバウゼンで御座います・・・ いやしかし・・・ 他人のそら似と言う事も・・ あまりにも似ているので判別がつかぬが・・・」
〔お お久し振りですねバウゼン卿 お変わりないようで何よりです〕
どうやらミストリアの顔見知りらしい。けど当の本人は心が困惑している。たぶん「誰だっけ?」って感じで頭がグルグルしてるんじゃなかろうか。
「おぉぉ! その水の妙技! まさしくミストリア嬢に違いない! 貴女がここに居ると言う事はコドリン洞穴に関連する事案ですな? ご安心くだされ 洞穴の利権に絡む他の貴族達の暴走を抑える為 こうして自らギルドに赴きここの長との話し合いをしに来たところ このバウゼンにお任せいただければ 双方しこりの残らない形で見事解決に導いてご覧に入れましょう」
〔そうですか 期待をしていますよ?〕
彼はそれだけ言うとそそくさとギルドの奥へと消えていった。やや演技じみていたがこの場を乗り切る口実としてミストリアを利用したのだろうか? ありそうな気がする。
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「それで? お主のような古狸がわざわざギルドまで足を運ぶとは 一体どう言う風の吹きまわしじゃ?」
ふむ。あれは見紛う事無くミストリア本人だったな。あの容姿に水の魔法。まず間違いない。表向きは病にて療養との事だが・・・
「いやなに 今回は貴族街の阿呆共の勇み足で起きた事ゆえ それについて話をしに来ただけの事」
「ほう 勇み足のう・・・ 混乱に乗じて冒険者の権利を害する事で起こる衝突を まさか補填も無しに解決できるとは思っておるまいな?」
やはり情報は正しかったか。マイナス等級のスキルさんに魅入られたから公爵家を追い出されたと見るべきだな。体面を気にするなら遠くに捨て置けばよいものを。目の上のコブになっても家族と言う訳か。
「あ奴等は欲の塊 此方としても平和的な解決を望むのだが 何かを差し出せとなると頑として応じないだろう 何せ自らの地位を誇示する事に躍起になっておるでな 相手が平民ともなれば・・ これは中々骨が折れそうだ」
「ワシはてっきり貴殿が先導したものと思っておったが? 平和的とは よもやその様な言葉が出てくるとは思いもしなかったわい」
しかし何故冒険者ギルドにやって来た? 貴族の令嬢にとって縁遠い場所だろう。
・・・・
・・・・・・・・
あぁ・・・そう言う事か。盲目になって身で冒険者になったと言う少年。その噂を聞き付けたと言う事か。だからハルメリー。ククク・・・成る程成る程。良いぞこれは良い。
どの様な口実で公爵を釣ろうかと思案していたが、思わぬところで極上の餌が手に入った。
「私とて望まぬ事はある そこで提案なのだが 公爵閣下にお越しいただき直接お言葉を賜ると言うのはどうだろう 下位の貴族にはこれが一番効く 大佐が私用で町を空けた所にモンスターの襲撃 挙げ句被害を出したのだ あれもただでは済むまい しばらくは混乱が続くだろうが なに それも閣下の後下知をいただくまでの間」
「確かに この状況下で明確な線引きが崩れたのだ 新たに引き直す事は重要じゃ しかしそれまでは目をつむれと?」
「貴族など偉ぶってはいるが一枚岩ではない 同じ派閥内でも腹の探りあいなど日常的 如何に伯爵位とは言え御する事は難しい ただ私は今回の件に一切関与していないと信じてもらうしかない」
「信じる信じないは別として 此方は気性が荒い冒険者 貴殿等とトラブルがあったとしても それこそ御するのは難しい」
「ハッハッハ 先程もホールで一触即発あったところよ それは肝に銘じておこう はてさて 果たしてどの様な沙汰が下るのか 今は互いにそれを楽しみに待とうではないか」




