97・幸せの定義
前回のあらすじ
ハルメリーに戻ってきたアネット一行。ギルドで家の辺りがモンスターに破壊されたと聞き、急いで自宅に向かうアネットは、そこで瓦礫の撤去を手伝うマルティナと再開した。
事情を聞いたマルティナはアネットの手を引きギルドへ。そこで町長と言い合うエルヴィラと出くわすのだった。
「ちょっとマルティナ ミストリアの事はエルヴィラさんに相談するつもりだったけど こんな状況だし 少し落ち着いてからでも良いんじゃないかな」
「そうかもしれないけど 責任うんぬんって話なら貴女が気にする事じゃないわ ここの何とかって大佐が勝手にアネット達を追い掛けて町を空にしたんだもの」
「そう言ってもらえると助かる」
出遅れた騎士団に思うところが無い訳じゃないけれどマルティナはそれをグッと飲み込んだようだ。そもそも外周りを押し付けたのはギャレズリー大佐なのだし騎士団不在の間に事を済ませてしまおうと言う魂胆の元にこうなったのだから、槌を下ろす相手はエルヴィラさんではない。
「それで ミストリア様の事で相談とは?」
「それについては場所を改めませんか? ここでできる話じゃないんです」
僕はギルドに置いていってしまったミストリアと合流し、ポリアンナさんにギルドの応接室を使わせてもらうようお願いした。ここなら外部に漏れる心配は無い。
「まさかっ! そんな・・・ ミストリア様がその様な・・・ いや しかし・・・ 私の妹とミストリア様とでは事情が違う筈 ミストリア様は何か超常めいたお力を?」
〔無い・・・ とは言えませんね しかしその事は父も母も知らなかった筈です〕
「ではやはり あの話は本当だったと言うのか・・・ だが噂は噂・・・」
「ちょっと あの話って何よ」
「う うむ・・・ マイナス等級を許さないのは王の意思である と言うものだ」
「ちょ! 何よそれっ」
「でもマイナス等級の人達の現状を考えるとあまりにも救いが無いよ 王様が僕達を嫌ってるってだけで世界がこんな事になるなら・・・ 王様って神様みたいだね」
「言い得て妙だが的確な表現だな しかし王を頂点に国が回っているのだから 我々はその意向に従わなければならない 王のお考えなど下級貴族の私の推し量るところでもなし だが・・・差し詰め不完全なものと嫌っておられるのかもしれないな」
「冗談じゃないわっ! そんな理由で蔑まれるなんて あっていい訳ない!」
「気持ちの上では理解できる だが何より体面を気にするのが貴族だ そもそも貴族だからとマイナス等級に魅入られないなどないからな 貴族にとって大切なのは個人ではなく家だ となるとどう判断されるかなど言うまでもないだろう」
「分からない・・・ 貴族って何なのよ」
「でもミストリアを託された時 領主様はとても心を痛めていました きっと断腸の思いだったのでしょう 貴族には貴族の事情があるかもしれませんが 道具のように切り捨てられた訳ではないと 僕は思います」
「そうだな そうであってほしい・・・ しかしせっかく私に相談を持ち掛けてくれても この様な話しかできなくて申し訳ない」
「いえ 実はそれについてお願いしたい事があるんです 僕達を貴女の妹さんに会わせてもらえませんか?」
「シルヴィーに? 確かに相手が公爵家 ましてや王や国ともなると 予見の目のような超常めいたスキルでもない限りどうしようもないからな」
「それもありますが 覚えていますか? コドリン洞穴での事を あの喋るモンスターの言葉・・・ ハルメリーにたて続けにやって来るはぐれモンスターと言い 不安が拭えません」
「確か世界に暗雲が・・・とか言っていたやつか 人の言葉を介するモンスター 所詮はモンスターと切って捨てたいが なまじ妹のスキルを知っているだけに聞かないふりをする訳にもいかんしな
分かった だが直ぐと言う訳にはいかないぞ? 町も混乱してるしギャレズリー大佐の処遇もある もしかしたら近々何らかの沙汰が下りるかもしれないからな」
いかな王様とは言え町の惨事を放ったらかしにする訳にもいかないしね。妹さんに会えるのは町が幾らか落ち着いてからだろう。未来が見える『予感の目』いったい何を聞かせてくれるのか。今から楽しみだ。
「分かりました」
取り敢えずエルヴィラさんに約束を取り付ける事はできた。後は都合のつく日を待てば良いだけだけど。それまでに僕達もやる事がある。それは家周辺の片付けだ。エルヴィラさんにお礼を言って僕達は無事な家路につく事にした。
家に戻ってきた僕達の優先すべきはまず道の復旧。道がなければ瓦礫の搬出もままならない。僕も瓦礫に足をとられそうで儘ならない。
「何だか薪割り場の薪拾いを思い出すね」
『たくさん落ちてる~』
「お兄ちゃん これどっち~?」
「えぇと・・・」
ソフィリアが手に何かを持ってるみたいだけど、それが何で何処に持ってけば良いのか分からない。今は家族総出で片付けに勤しんでいる。周辺の住民達も無心で作業に取り組んでいた。
「あぁ それは向こうの置き場よ 一人で持ってける?」
「うんっ」
「ありがとうマルティナ 助かったよ」
「アネット疲れてるでしょ? 休んでて良いんだからね?」
「それを言うならマルティナだって・・・」
う~ん。この程度で心配されてしまうだなんて、やっぱり筋肉が足りてないせいだろうか。でも今一番疲れてるのはミストリアだろう。夜通し森を駆けて実家からは追い出されて、これで疲れないと言う方がおかしい。
おかしいんだけど人の何倍もの熱量で片付けに励んでいる。たぶんやるせない気持ちを撤去作業にぶつけてるのかな。
ゴトッ─────
案の定と言うか無理が祟ってミストリアは持っていた瓦礫を地面に落としてしまったみたいだ。プリプリと怒っていた感情が一気に悲しい色へと変化していく。
「あのねミストリア ルドマンさんは君を煙たがって突き放したんじゃないと思うんだ わざわざ僕の家に届け物をしてくれた人なんでしょ? 何かそうしなきゃいけない理由があるんだよ」
〔・・・分かってる でも直接言葉を突き付けられると・・・ね あれが本心じゃないって信じたい けど・・・何かショックで・・・〕
『ミスティー大丈夫~?』
『〔思い詰めるのは良くないよ 今は作業に没頭しよう 瓦礫と一緒に辛い気持ちも捨てるんだ〕』
「・・・僕の本当の両親は 僕が盲目さんを連れてきた日からしばらくして居なくなっちゃったんだ でも別れ際に必ず助かる方法を見付けてくるから それまで良い子にしてるんだよ って言ったんだ
本当に方法を探してくれてるのかそうじゃないのか それは分からない もしかしたら戻って来ないのかも・・・ でもね信じたいんだ だって僕には両親と過ごした幸せな時間があるんだもの だから2人の中にも僕との時間は息づいてる筈なんだ だから・・・戻ってきてくれるって 思えるんだ」
〔・・・・・・辛く・・ないの?〕
「今の僕は一人じゃないもの 家族がいる それにミストリアとだってこうして隣で会話をする事ができるんだ 世間からはマイナス等級とか言われる中で僕達は今普通を過ごせてる きっとこれが幸せ・・・なんじゃないかな」
〔私は・・・私もっ! 幸せ 今がとっても幸せよ! だって貴方と一緒に居られるからっ!〕
「で? 何が幸せだって? 2人で手なんか繋いじゃって」
「マルティナ・・・ こんな状況になっても皆で一緒に居られて幸せって話」
「そう それなら当然私も幸せよね? ミストリア」
〔そうね 貴女もついでに幸せで私も嬉しいわ マルティナ〕
3人でガッチリ手を繋ぎあった僕達は、今とても幸せなんだろう。マルティナもミストリアも心がメラメラ燃え上がっている。悲しい気持ちも払拭できたようで良かった良かった。




