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96・ハルメリーへの帰還

前回のあらすじ


大通りで対峙する冒険者達とはぐれモンスター。一定のダメージを帯びたモンスターは横の小道に反れる。


その行く手にある自分の居場所を守る為マルティナは奮闘し、新たなスキルを覚醒させこれを仕留める事に成功する。


 ミストリアの実家から追い出された僕はうなだれる彼女を抱えてジョストンさん達の待つ軍事基地に戻る事にした。



「・・・・・・・・・」


〔・・・・・・〕



 正直掛ける言葉が見当たらない。帰りの馬車の中でも僕達はずっと無言のままだった。それにしてもルドマンさんの近くに浮かび上がったあの文字はいったい・・・


 たぶんそれを訊いても明確な答えが返ってこないだろう。何と無くだけどそう思った。



「おう ようやく帰ってきたか」


「ジョストンさん ただいま戻りました」


「ん? どうしたんだ? 嬢ちゃんの方は元気が無いじゃないか 久しぶりの実家だったんだろう?」


「えぇ そうなんですが・・・ちょっと あの・・貴族の家の事について話したら相談にのって貰えます?」


「平民の俺がか? 貴族の位の最高位 公爵家のお家の問題に? 冗談だろ」


「ですよね・・・」



 目が見えなくても「偉い」と「そうではない」の価値観は分かる。ただ元気の無いミストリアの為に何か力になれやしないかと考えると、どうしても彼女の実家の事に触れなきゃならない。やっぱり同じ貴族であるエルヴィラさんに相談した方が良さそうだ。


 それにしたって「重病を患って遠い場所で療養中」だなんて。確かに世間一般からすればマイナス等級とみなされれば重病なのかもしれないけど。考えたくはないけれど貴族の体面と言うやつなのかな。



「まぁ何だ 俺達はやるべき事はやった しかも全員無事 後はハルメリーに帰るだけだ・・・な?」


「・・・そうですね 帰りましょう」



 そうだ。終わったんだ。貴族の事は分からないけど貴族は貴族で色々とあるんだろう。ここまで色々とあったけど依頼も完了したんだし、後は無事に帰るだけ。残念なのはミストリアの故郷をあちこち回れない事か。まぁそれはまたいつか来ればいいんだ。その時まで楽しみはとっておこう。


 帰りの道のりは行きとは雲泥だ。何せ馬車に揺られてるだけでハルメリーに到着するんだから。それに領都へ続く道と言う事でそれなりに整備されてるのか揺れも少ない。快適とは言い難いものの、これはこれで楽しかったりする。問題は・・・


 今になってミストリアが怒ったり悲しんだり落ち込んだりと、心がコロコロ変わり始めた事だ。掛ける言葉も見付からないので僕は彼女の手を握る事にした。そうする事で気も紛れるならしばらくはこうしていよう・・・と思ったけど・・・



「あ~ ずっる~ 私もお手々繋ぐ~」



 と、カルメンが僕の腕に絡まってきた事でミストリアがワナワナ震え始めたので困る。それでも僕達の旅は何事もなく終了したのだった。















「おい・・・ おいおいおいおいおい・・・ どうなってんだこりゃぁ」


「ジョストンさん?」


「うえぇー 何これ~!」


「カルメン?」



 ハルメリーに戻って早々。彼等のそんな突拍子の無い声を聞く羽目になった。どうも何かあったらしい。行き交う人々の心は不安に支配されている。そんな中を馬車はギルドまでゆっくりと走っていく。車内の中とは言え鋭敏な僕の耳には道で嘆く人々の声がついて離れなかった。


 

「おいギルド職員! 私が不在の間一体町で何があった!」



 ギルドに到着すると別の馬車に搭乗していた町長が声を荒げてギルドの中に入っていった。僕には人の感情で状況を判断するしかないんだけど、町長のこの反応といい相当な事がここで起きているようだ。



「町長良いところに・・・ 実はまたはぐれモンスターの襲撃がありまして それは討ち取ったのですが 今回は人的被害より家屋の倒壊が甚大で・・・」


「それはどの辺りだ」


「ここから西側 大通りに面する旧市街の比較的浅い箇所が 小道に沿って何軒かモンスターの進行にあいまして・・・」



 西側の大通りに面する旧市街。それを聞いた瞬間僕の背筋はゾクリとした。認めたくないけど僕に家のある方向と合致する。え・・・モンスターの進行って? またモンスターがやって来たって事? 僕がテオテリカに行ってる間に? 兵士の多くが町を空けてる間に?



「あの・・ すいません 僕・・ その・・ ちょっとそこに行ってきても良いですか?」


「アネット? どうした顔が真っ青になってるぞ」


「すいません・・・」



 居ても立っても居られなくなった僕は短く言葉を残しギルドを飛び出した。そこから西の方向大通りを左側に歩く。慣れ親しんだ場所だ。目は見えなくても道は知ってる。


 感覚を頼りに大通りから家へと続く細道の前に到着すると恐る恐る歩を進めた。でもおかしい。両隣にはすぐ建物が有った筈なのに、僕の耳に聞こえるのは空けた立地特有の反響の無い音。


 更に進むと足元の何かにつまずいた。先に進むにつれてそれは山のようなゴツゴツろした傾斜になっている。何これ・・・こんなものこの道には無かった。って言うか道になってない。足を一歩前に出す度にガラガラと不安定なものを踏む感覚が伝わる。まるで瓦礫の上を歩いてるみたいだ。


 慌ててて道を間違えた? 僕は頭の中の地図を何度も何度も確認する。でも通い慣れたこの道を間違える筈がない。つまりはここがこんな状況になる程の被害が出たと言う事で。周囲の建物は倒壊・・・もしくはそれに近い事になってる可能性があると言う事で・・・


 だったらこの先にある僕の家は────








「アネット? 危ないじゃないそんな所に登っちゃー!」


「マルティナ? マルティナなの?」



 僕はマルティナの声のする方に咄嗟に駆け出した。不安定な足場なんて関係ない。そんなものが吹っ飛ぶくらい家族の安否が心配だった。


 ガラガラガラー──・・・



「わっ!」

「ほら危ないっ!」



 転びそうな僕をマルティナが支える。声・におい・感触。間違いないマルティナだ。無事だったんだ。



「マルティナ どうなってるの? ここ道だったよね 何か塞がっちゃってるんだ それにモンスターが出たって・・・ それとマルティナ確か兵士に捕まってて牢屋にいるんじゃ・・・」

「落ち着いて順番に話すから・・・でもその前に お帰り アネット」


「・・・ただいま マルティナ」












「ふ~ん テオテリカでそんな事が・・ それにしてもホント間が悪いよね 必要な時にいない兵士とか まぁ中には善良な人もいたけどさ でもミストリアがそんな事に・・・」


「僕だって外に行ってる間に町が襲われるなんて思いもしなかったよ 叔母さん達も家も無事で良かった」


「アネットに私達の勇姿を見せたかったわねっ」

『頑張った~』

『た~』


「2人もありがとう ところでエルヴィラさんはいるかな ミストリアの事で相談にのってもらいたいんだけど」


「・・・さあ いるんじゃない? 騎士団の鎧を着た人達が瓦礫の撤去してるし モンスター襲撃の後になってやって来たクセに・・・」



 確かイーブル騎士団ははぐれモンスターが3体現れた事で外での哨戒に当たっていた筈。でも実際にこうして町の中に入られてるんだから心象は良くないだろう。


 ギルドに向かう間、目についた人達の誰も彼もが暗い色を心に落としていた。「せっかく前の襲撃から復興の兆しが見えていたのにまた来られたんじゃ何度建て直しても無駄」そんな思いに囚われているのかもしれない。



「この責任の所在はどこに有るとお思いか!」



 僕達がギルドの扉を開けると同時に町長の怒鳴り声が飛び出してきた。またランドルフさんと揉めているのかと思ったけど今回は相手が違ったらしい。



「所在と言われても ここを纏め我々に指示を出したのはギャレズリー大佐だ しかし・・・ 有事に間に合わなかった事だけは遺憾に思っている」


「何が遺憾か! イーブル騎士団は元々モンスター分布の変化の調査をしていたのだろう 度重なるはぐれモンスターの襲撃に 町と住民は傷つけられた! 何故こうもはぐれモンスターがハルメリーにやって来る! 何処から現れる! はぐれモンスターとは一体何なんだ! 軍部も騎士団もこの体たらくではもはや信用などできん!」



 ホールでひとしきり叫んだ町長はギルドの奥へと消えていった。多分これからランドルフさんと一戦交えに行ったんだろう。1人取り残される結果となったエルヴィラさんは、自身の責務を果たせなかった事にうちひしがれていた。



「エルヴィラさん・・・」


「アネットか すまない・・・ 私は肝心な時に町に居る事ができなかった そのせいで多くの被害を出してしまった」


「いえ 様々な思惑が絡んだ事が今回の原因でもあるので 一概にエルヴィラさんのせいとは言えません」


「いや・・ 我々はその万が一に備えるのも仕事の一環だ 結果は出せて当然でなければならない 町長殿の言う通り やはり責任は団長の私に有る」



 生真面目なエルヴィラさんは心にわだかまりを抱え込んでしまった。何もかもギャレズリー大佐の野心のせと言っても彼女の心が晴れはしないだろう。


 こんな状態のエルヴィラさんにミストリアの相談などとても持ち掛けられない。町が少しでも元通りになれば彼女の心も癒えるだろうか。それまでは仕方ないけどそっとしておく事にしよう・・・



「ねぇ! ミストリアの事について相談したい事があるんだけどっ」



 でも失敗をやらかしたと思ってるマルティナはエルヴィラさんに容赦はなかった。





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