95・マルティナ奮起する
前回のあらすじ
元ルンドレン伯爵領に荷物を運ぶルディア。その届け先は“魔物さん”を連れた少女の居る場所だった。食事を終えた彼等にルディアは恐る恐る尋ねる。
だが意外な答えに先を見出だしたルディアは、何とか人間への認識を改めさせようと心に誓うのだった。
「ちょっと! よりにもよって何でそっち行くのよっ!」
そして何でわざわざ建物破壊しながら逃げてくの! 大通りなら広くて逃げやすいじゃない! せっかく前の襲撃から復興し始めたって言うのにっ。
「逃げてってくれるんなら そのまま行かせてもいいんじゃないか?」
「まだ逃げてると分かった訳じゃないぞ」
「だが残りの戦力を考えると そうであってほしいと思うよな」
「いや 追撃じゃ 冷静さを欠いとる今なら仕留める隙もできるかもしれん それにこれ以上町が壊れたら町長の八津にどやされるからの」
ナイスギルド長! ここは何としてでも止めないと私の家が潰されちゃう。それにあのモンスターよく見ると逃げると言うより建物に八つ当たりして鬱憤を晴らしてるみたい。早くやっつけないと益々被害が拡大しそうね。
「行くぞっ!」
「「「おうっ!」」」
「お・・おうっ!」
って言ったけど旧市街の方の避難所から退避してきた人達で前に進めない。別に逃げるな途か言うつもりはないんだけど「邪魔っ!」思い切りそう叫びたい・・・
「あ~~~~! もぉ~~~~!!」
私は足元に転がる石を拾って思い切り荒れ狂うモンスターに目掛けて投げ付けた。そんなもの何の意味もない事は分かってるけどやらずにはいられないわ。
「マルティナ! 1人で突っ走るな!」
後ろからウェグナスの声が聞こえる。彼の方を向くと複数の訓練生達が後を追ってきていた。それは有り難いのだけどあの巨体と比較すると数が心もとない。前方を行く冒険者は慣れた様子で人流を、建物の屋根を飛んで次々に難関をクリアしていく。私の課題が見えたわね。
先行していた冒険者はすんなりと暴れまわるモンスターに追い付いた。すかさず攻撃を加えるけど根本的な問題だけはクリア出来ず攻撃が通らない。モンスターからしてみれば茶々みたいなものなのか気にした様子もない。
でもまぁ・・あれよね。自分の周囲でブンブン飛び回るハエとかがいたら気になるものよね。冒険者達が周りでチクチクやってくれたお陰で進行速度が落ちてきた・・・かな?
でもここで何としてでも止めないと。もう少しで家に到達しちゃう。お世辞にも大きくはないし外見もボロボロだけど、そこにあるのは私の思い出が詰まった大切な場所。壊させる訳にはいかない!
「1人で突っ走なる」って言われてもそう言う訳にもいかないのよ。避難する人も減って私もモンスターの前に躍り出る。その瞬間に太い尻尾が飛んできた。取り敢えずは躱すけど攻撃されたって言うより適当に振り回した尻尾が突っ込んできたって感じ。
そんな適当が凄い風圧だった。でも私がここに来たのはモンスターとじゃれ合う為じゃない。止める為。躱しちゃダメ。止めるの!
「おい! あまり地核に寄るな! 潰されるぞっ!」
「私は盾よ! 前にない盾に何の意味があるのよっ!」
「そりゃ・・・そうだが くそっ! 俺達じゃ攻撃が通らない ギルド長の援護だ!」
「「「おう!」」」
そのギルド長は? 何処よ! 私の家まではもう目と鼻の先。
「おい上 あれギルド長じゃないか?」
「あんな建物上で何やって・・まさかっ」
後方の訓練生達の声に釣られて上を見ると、ちょうど点が飛び上がってそのままモンスター目掛けて飛び降りる光景だった。その点ことギルド長は落下速度と自分の全体重を槍に乗せて乾坤一擲の攻撃をモンスターに見舞った。
ガツーーーーーーン・・・・・───
槍でこんな音が出るのかと言う音が響く。外皮こそ貫かなかったけどその衝撃にはくるものがあったのか姿勢が前のめりになる。
「「「おぉぉぉ~~~・・」」」
冒険者達からは感嘆の声が洩れるけど、これが「致命傷か?」と言われれば「う~~ん」ってなる。まぁでも今の攻撃はギルド長を敵と判断させるには十分だったようね。何と言うか視線が彼に釘付けになってる。
後は広い通りに誘導してくれれば助かるわ。
「ここで叩く! お主等も地形を利用して攻撃じゃ!」
「「「おうっ!」」」
「何でよっ!!」
もう! 最悪! ここが戦場になるじゃない! 絶対止める! 身を呈してでも止める! モンスターの攻撃は・・・ギルド長に集中してるけど、この無駄に長い尻尾がブンブンうるさいわね。この尻尾癖の悪さで飛ばされた瓦礫があちこち散乱するじゃない。はた迷惑な!
このままじゃワタシの家に・・・ 尻尾。そうこの尻尾が私の敵よ!
「戦士さん 盾さん 何とかいけそう?」
『強化なら~?』
『ブロックなら~?』
「うん お願いね」
尻尾。尻尾尻尾尻尾。兎に角この尻尾を押さえ付ける。ただ振り回される尻尾でも体積がある分衝撃が重く芯に伝わってくる。全てを防げてる訳じゃないけれど、そもそも尻尾って体のバランスをとる為の部位でもあるのよね。嫌がらせにはもってこいだわ。
腕が痛い。吹っ飛ばされそう・・・ そう言えばコドリン洞穴でもこんな感じで翻弄されたっけ。その時にアイツ何か言ってたわね。何だっけ。
私の盾の使い方が不甲斐なくてそれで確か・・・ そうだ。そう。確か「全身硬化くらいしろ」だったっけ。敵の言う事真に受けるみたいで癪だけど今の私には活路よね。
「戦士さん 盾さん できそう?」
『やってみる~』
『る~』
尻尾が振り下ろされる。いけそうか? 私は2人を信じて盾を構えた。
『アイアンスキン』
『ブロック~』
ダーーーンッ!
「お・・・」
衝撃は・・・確かにあった。盾から腕、腕から上半身に流れて下半身に。そのまま足裏へと移動するとそこから地面にいってヒビが入った。衝撃がそのまま地面に抜けていった。しかも痛くない。
「これ・・・すごっ」
痛くないだけじゃない。尻尾の衝撃でよろめいてた私が固くなった事で、今度は尻尾の方が宙に弾かれていた・・・んだけど、その弾かれた尻尾はそのまま建物にぶつかって普通に屋根を凪いでいた。
「あ・・・」
そのまま家は倒壊すると見慣れた建物が姿を現した。わたしの家だ。
「ちょっと・・・ちょっとちょっとちょっとおおーーーー!!」
何で! せっかく成長できたのに! これじゃ本末転倒だわ!
「今じゃ! 相手は怯んどる! このまま一気に押し込むんじゃ!」
「「「おうっ!」」」
「押さないでよバカーーー!!」
ああダメ・・・この巨体も図体がデカイだけで体力が無いのか冒険者達の攻撃に後ずさってる。ゆっくりとゆっくりとだけどこんなのにのし掛かられただけでも私の家は潰れちゃうわ。
「マルティナ! どけっ! 巻き込まれるぞっ!」
「おい嬢ちゃん! 危ないっ!」
ダメよ・・・ここは私の家なの。諦めるなんてできない。守らなきゃ。私達の居場所を。守らなきゃ。アネットの帰ってくる場所を。
『はわわわわ マルティナ逃げる~』
『る~』
「駄目 私の育った場所だもの 奪われたくない思い出があるの 誰にも絶対に踏みにじらせたりしない!」
『じゃ~ どうする? 立ち向かう?』
『う~?』
『できるかな~』
『できる~』
『じゃ~ 一緒にやってみよ~』
『やる~!』
『『キャッスル・オブ・プロテクション!』』
“戦士さん”と“盾さん”がそう唱えるとレンガ模様の城壁のような模様が浮かび上がった。
「へ?」
ドン────
その壁に接触したモンスターはそれ以上私の家の方に来る事ができなかった。後ずさろうとしても堅牢な城壁がそれを阻む。家をも薙ぎ倒す巨大なモンスターがこのスキルの前に突き進む事ができないでいた。
「むぅ これは・・・」
「おおぉ 何だこれは 誰かのスキルか?」
「凄い・・・」
2人のスキルはモンスターを四方から囲うように展開すると、あの縦横無尽なモンスターはまるでカゴの中のウサギのように身動きがとれなくなってしまった。ご自慢の尻尾ももはや借りてきた猫のように静かだ。
それにしてもこのスキル・・・ここまで強力なものだったなんて。
「今じゃっ! 全員でこやつの間接部に攻撃を集中させるのじゃっ!」
「「「おうっ!」」」
これを好機と見たギルド長が大声で指示を出した。それに即座に応じた冒険者達は一斉に攻撃へと転じる。うん・・・相手も動けないようなんで好きにやっちゃって下さい。
でももうこうなっちゃえばモンスター討伐と言うより解体作業ね。硬い外皮を避けて付け根の部分に攻撃を集中されられるし、それならギルド長以外の攻撃も通用するみたいだし。わたしが気にしなきゃいけないのは流れ出た血が私んちの方に流れてこないかよ。臭い残らなきゃいいんだけど・・・
でも守れた。
「私の新しいスキル・・・これでアネット達に並ぶ事ができたかな」




