表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/357

94・一方スプリントノーゼでは

前回のあらすじ


ハルメリーに再度はぐれモンスターが襲来した。町を守る事を決意したマルティナは仲間と共にモンスターを迎え撃つ覚悟を決めるのだった。


「おえぇぇえぇえええぇぇ~~~~・・・」



 ないないないっ! あんなのってないっ! あんな所業この世にあっていい訳ない! あの光景あの惨状・・・



「おえぇぇええぇぇ~~・・・・」



 思い出しては吐く、思い出しては吐くを繰り返す。自室のゴミ箱は私の食べた夕食でいっぱい。


 このメイド。このくそメイド! まがりなりにも家のメイド語るなら吐いてるご主人様の介抱ぐらいしてよ! このメイドに扮したモンスターは私から離れようとしない。どこに行くにも付いてくる。そこだけ見ればメイドの鏡だけどそれだけ。それだけしかしない。


 私が吐いてるってのにただぼぉ~っと突っ立ってるだけ。お陰で吐瀉物を自分で片付けなくちゃならないじゃない!


 くそ! くそ! くそっ! どうして私がこんな目に・・・っ













 時は今日の午前にさかのぼる。


 私はこのモンスターメイドの本当の主の命令で、とある荷物をかつてのルンドレン伯爵領の使われなくなった空き家へと運ぶ事になった。もう昔の栄華など微塵もない空の領地。私の故郷。


 詳しい事は分からないけど先々代の意向でセルマレイ公爵家に移譲されたその土地は、活用される事なく手付かずだったのは都合が良かったわ。でないと“魔物さん”を連れる異常な少女。それを取り巻く凶悪なモンスター共なんか隠しようがないもの。


 道の途中までは家の者に馬車をひかせ、後は私とモンスターメイドが引き継ぐ。無関係の者を巻き込むのは忍びなかったし、何よりも事がバレるのが途轍もなく恐ろしかったから。


 そんな感情が伝わったのか。突如荷物が軽口を叩き始めた。



「よぉ嬢ちゃん 俺等みたいのをどこに連れてこうってんだ?」

「なぁアンタあの街の貴族なんだろ? 俺達を雇わないか? スプリントノーゼじゃぁ汚れ仕事をやる奴は必要だぜ?」


「そうね だからこそ貴方方が必要なの これからある場所に行ってもらうわ そこでやってもらう事があるの」


「ほぉ~ 流石貴族様 分かってるじゃねぇか 安心しな 俺達もあの街の人間だ流儀は心得てる 御上には逆らわねぇよ」

「それよか報酬はどうなってる やる事やらせんだったら出すもの出さねぇとなぁ」


「分かっているわ これから行く先には世にも珍しいものが待っているわよ」


「好事家の多い貴族が言うんだ さぞ大層なものなんだろうな」

「大金が手に入ったらどうするよ」

「そりゃ まず女だ それから女・・女だ」

「お前そればっかだな 俺だったら───」



 あれこれ好きに語ってるけど私はそれを極力聞かないようにした。森を越え峠を越え。もう少しで目的地に到着する。ここまで来るとさすがに人の流れはない。ただただ静寂が何処までも広がっている・・・と言いたいところだけど。


 時々耳につくカサカサと藪を揺らす音は・・・もう彼等のテリトリーと言う事ね。不気味なあぜ道をひたすら進んで廃墟へと辿り着く。ここが目的地。終点・・・


 到着早々例のあの子が廃墟の中から姿を現した。こうして見てればスラムにいるただの子供なのに。傍らにいる“魔物さん”のせいで不気味さが加味されている。



「お姉ちゃんいらっしゃい ちゃんと持ってきてくれたんだね」


「か・・ 数はこれくらいで良いかしら」


「うん 何体かはダンジョンに行っちゃったから丁度良いかも」



 良かった・・・自分も数に入れられなくて。



「なぁ 目的地についたのか? だったらいい加減この檻から出してくれよ ケツが痛くてしょうがねぇ」



 私は少女を見やる。何にも言ってこない事から荷ほどきをしても大丈夫なのよね? 私は持っていた鍵を使って檻の扉を開けた。ぞろぞろとダルそうに出てきた彼等は無遠慮に私の体を視姦するような目で見てくる。それは横にいるメイドとそれと年端もいかない少女にまで。


 男が複数と非力な女が3人。暴力を生業とする彼等が次にどんな行動に移るか・・・ゲスの行動なんて分かりやすいものよね。



「まぁ あれだな あの街でしくじった俺等がやってける程スプリントノーゼは甘かねぇ だったら新天地で新しい商売に手を染める方が良いって話にまとまってよ せっかくスカウトしてくれたところ悪いんだが 今度はアンタ等が檻に入ってもらうぜ? だがその前に・・・」



 この男の趣味なのか体をまさぐる為に伸ばされた手は、私ではなく少女に狙いを定め近付けられていった。でも男の望む光景は永遠に訪れない。何故ならその手が少女に触れるより前に失くなっていたのだから。



「は?」



 その台詞はこの男のものではない別の誰か。何故なら男が悲鳴を上げるよりも先に頭部が失くなっていたのだから。


 飛び散る血しぶき。私はそれを浴びないよう距離をとった。眼前の男達も同様である。その中で微動だにせずシャワーのように全身で血を浴びているのが危険なこの2人。



「なっ・・・ 何だ! どうなってる!」

「おいおいおいおい! 何だこりゃぁ!」

「お お前がやったのか!?」



 見るとモンスターメイドの手には血が滴る手と頭部らしき物体が握られていた。慌てる彼等の姿を堪能したのか少女は食事の準備が整った事を告げるように大声で呼んだ。何を? 決まってる。



「皆~ ご飯だよ~」



 まるでおままごとのお母さん役が話すような口調で、少女は外に行っているであろう家族を呼んだ。


 するとお腹がすいた子供達がテーブルに集まるように建物の中から陰から、それらを囲う木々の間からワラワラと美味しいそうなご馳走に群がるようにやってきた。



「な! なな・・・ 何だよコイツら・・」

「くそっ! モンスター! 何でこんなに!」

「こんなモンスター見た事ねぇ! どうなってやがんだチクショウ!」

「おい! 説明しろよ! 何なんだよこりゃぁー!」


「せ 説明? そう言われても・・・ 見れば分かるでしょう? 理不尽よ 目の前にあるのは理不尽 そんなものスプリントノーゼでは良く目にする光景じゃない」


「ふっ ふざけんな! お 俺達をどうする気だよ!」

「決まってんだろ こいつ等に食わせるつもりなんだ!」

「ちきしょう・・・ こんなのあんまりだ!」

「なぁ頼むよ 何でも言う事きくからよぉ 助けてくれよぉ~・・・」


「あ・・・ あの街で犯罪者扱いされる輩は大半が街の厄介者よ! やり過ぎた連中! 今まであなた方が何をしてきたか自分の胸に聞いてみなさい!」



 私は半ば自分に言い聞かせるように吐き捨てた。そうでもしないと私が悪者になりそうな気がしたから。私は悪くない。ただ脅されているだけなんだ。こいつ等は生粋の悪党。更生なんかない。死んで然るべき人間。きっと国の裁きを受けても全員死刑になる連中よ。それがちょっと早くなっただけ。


 私は悪くない・・・



「もういい?」


「まっ・・・」


「皆~ お行儀良く食べるんだよ~」



 咄嗟に「まって」と言おうとしたけど言葉が喉に詰まった。この場の絶対的強者に意見して私の要望は聞き入れられるのだろうか。


 いや・・・ ここに彼等を誘った時点で私が彼等の命を乞う資格は無い。ただただモンスターに食される彼等を見ている事しか許されなかった。


 ねじられ。引き裂かれ。体の中から長いものが見えた。それをチュルチュルとすする音と、細かく切った肉をテーブルに並べるように整え、その光景はそのままおままごとのそれだった。


 モンスターが人間の真似事をしている。


 少女もそれに混ざってお母さんのように子供達の面倒をみていた。その常軌を逸した惨状に私は吐き気をおぼえ吐いた。



「おえええぇぇえぇぇ~・・ お おえぇええぇえぇぇぇ~~・・・」


「お姉ちゃん大丈夫?」


「む・・ り おえぇぇええぇ~・・・」


「困ったお姉ちゃんですね~」



 頭をコテンと横に曲げ困ったような顔をしている少女にとって、これは生活の一部なんだと思いしらされた。この子にとっては人の肉も家畜の肉も等しくご飯なんだ。


 だから「どうして人間にそんな事ができるの?」と言う疑問を投げ掛けても、きっとこの子の心に引っ掛かる事はない。それでも聞かずにはいられなかった。そうする事でこの子の事情を知りたかったんだと思う。



「ね ねぇ・・・ 人をそんな風にして 何とも思わないの?」



 彼等が食事を終え少し落ち着いたタイミングで少女にそれとなく聞いてみた。



「何で?」



 質問の意味が分からなかったのか、あるいは感情が欠落しているのか不思議そうな顔で答える。



「普通は人を殺めるなんて怖くてできないものよ?」


「ん~ 最初は嫌だったかもだけど プルトンさんに言われてずっとやってきたし そうすればご飯をたくさん食べさせてくれるんだもん だから忘れちゃった」


「もう叔父は・・・ プルトンさんは居ないの だからもう少しくらい人に優しくしてみたら? あなた可愛いし愛想良くしてたら 良くしてくれる人もいるんじゃないかしら・・・」


「うん 知ってる・・・ 私の所に来る男の人は皆そうだもん 最初は嫌がったんだけど そうすると怒られたりぶたれたりするから 何も考えないようにしたんだ でもね プルトンさんは笑えって言うの


 笑顔で喜べば 男の人達も喜ぶからって・・・ でもね 皆の私を見る顔は動かなくなっちゃった人とか道具を見る顔と同じなんだなぁ~って だんだん分かるようになってきたんだ 


 だからきっと他の人が私に望むのは 人としての私じゃないんだって」



 まさしくあの街そのものだ。スプリントノーゼが産み出した怪物。



「やっぱり 人が許せない? やられた事をやり返したいって思ってる? だからモンスターを集めて襲わせるの?」


「ん? 違うよ?」


「え・・・ じゃぁ何で・・・」


「この子達はね~ 挑戦者なんだ ダンジョンの奥を目指してるの」


「ダンジョン? ダンジョンに何かあるの?」


「うん ガウから聞いたんだけど ダンジョンの奥には世界を変える事ができる子が居るんだって」


「世界を・・変える? 変えるって あなたは世界を変えたいの?」


「うん もし変えられるんなら素敵な事だよね もし願いが叶ったら皆がもっと自由でいられる世界にしたいなぁ」


「自由? 奴隷とか犯罪者ならともかく 他の人は案外自由だと思うのだけど・・・」


「そんな事ないよ? 皆ね 普通にしてるように見えるけど どこか辛そうなんだ 鎖とかロープで繋がれてないのに 辛くて苦しい場所から離れようとしないの それを他の事でごまかそうとしてるんだ 私の知ってる男の人は皆そう・・・」



 それは発見だった。もう人には戻れない怪物と思っていたけれど、胸の内にあったのは他者への情。もしこの子がもう少しだけ人に心を傾けてくれたら人間を襲わなくなるのではないか。そう思った。


 延いては私の生存率も上がる。











 事を終え私は無事に帰還できた事に胸を撫で下ろした。モンスター共の用意した皿の上に盛られなかったのは私にまだ利用価値があるからだろう。


 時間があるのなら少しずつでも言葉を交わして人に対する認識を改めさせたい。その為には毎回ご飯を用意しなければならないのだけど・・・


 夕げの時分。


 席についた私の前に運ばれてきたのは厚切りのステーキ。普段なら美味しく口に頬張るところだけど・・・肉の断片を見た私はあの食事風景が脳裏をよぎり急いで自室に駆け込んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ