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93・一方ハルメリーでは

前回のあらすじ


ミストリアの実家に向かったアネットだが、そこで執事ルドマンから彼女が偽者だと組伏せられてしまう。


一方ハルメリーでは大佐に懐疑的な兵士が捕らえられていた人達を解放していた。マルティナがギルドに赴きギルド長から現状の報告を受けていると、突如緊急を知らせる鐘楼の鐘がけたたましく鳴らされるのだった。


 カーンカーンカーンカーンカーン・・・


 え・・・これって非常事態の時に鳴らす鐘よね。ずっと鳴らされ続けてるけど何かあったのかしら。



「報告! 町の外西方にはぐれモンスターと思われる存在を確認! 数は今現在で1!」



 はぐれモンスター。町を襲ったモンスターみたいなのがまた来るって言うの? 



「やれやれまたか 兵共がはけている時に来るとは偶然か はたまた機を狙ったか すまんが話は後じゃ お主は冒険者として自らが正しいと信じる選択をせい」


「え ちょっと・・・!」



 緊急時なのは分かるけどカッコ良さげな言葉を吐いてから一人にしないでよっ! そもそも冒険者として盾持ちの自分の正しさなんて、そんなの誰かを守る事に決まってるじゃない。



「はぁ~・・・ 大丈夫よ お母さん達はギルド アネットはテオテリカ・・・うん 最悪じゃないわ」



 そう思うと幾らか余裕が生まれる。自分のすべき事を再確認してからホールに戻ると、そこは蜂の巣を突っついたかのような慌ただしさに包まれていた。つい先程までは普段通りの光景だったのに・・・そしてこれは前にも見た光景だわ。



「マルティナ? マルティナか!?」


「ウェグナス」


「おーい! マルティナが帰ってきたぞ!」



 ホールに来た私に話し掛けてきたウェグナスは遠くにいた訓練生達に合図を送った。どうやら私の事情を知ってたみたい。見知った顔が私を心配して来てくれた。



「良かった無事のようね 私もマルティナが連れてかれたと聞いたとき兵舎に行ったんだが 守りが硬くて何もできなかったんだ」


「ラトリア ありがとう心配させちゃったね でも皆も無事で良かったわ」


「それより俺達はどうする 緊急時に持ち場なんて決まってないけど 闇雲に突っ込むのは避けた方が良さそうだ 先輩冒険者もそれで返り討ちになってるからな」


「だったら私達はギルド周辺に陣取った方が良くないか? マルティナもそれで良い?」


「え 私? 私は・・・」



 相手ははぐれモンスターと思われる存在が1。それって正確な情報じゃないのよね。こんなカンカン鐘を鳴らしてるんだから他の冒険者や兵士達(数の心配があるけど)が対処するでしょうし・・・


 私も前線に赴くか否か。



「また緊急事態かよ」

「最近多くないか?」

「まぁ今まで何とかなってたんだし 今回も大丈夫だろ」

「バッカお前! 前の襲撃で何人犠牲になったと思ってるんだ」

「びえぇぇえ~~~! ママ~~~!!」

「大丈夫よ 大丈夫だから・・・」



 ああ・・ダメね。お母さんとソフィリアの側から離れたくない。



「ゴメン これが正しいか分からないけど私はここにいる家族を守りたい・・・」

『守る~!』

『る~!』


「分かった 冒険者の先輩方が倒してくれるのを期待しよう でも万が一もある 俺達は住民の避難場所でもあるギルドを守ろう」


「そうは言うけどウェグナス 俺達はまだ訓練生だぜ? はぐれなんて大物の相手が務まるのか?」

「私 前に大怪我して運ばれてきた人を沢山見たわ」

「仮に・・・仮にだけどさ 町の中に入られたってギルドはほぼ中心だ ここに辿り着くまでに相当ダメージを負ってる筈だぜ たぶん・・・」

「そうだな 町には冒険者だけじゃなくって兵士もいるんだ 俺達だってイケるさっ」


「残念だけどこの町の兵の大半は出払ってるわ 警備が手薄になったから私が抜け出せてこれたんだもの」


「は? 何だよそりゃ 出払ってって・・・ じゃぁ・・ アイツ等一体何処に行ったんだよ!」


「テオテリカ 多分自分の利益を追っ掛けていったんでしょう 少なからず居るべき時に居ないんだから アテにするだけ無駄よ」


「はぁ~~~・・・」

「マジかよっ」

「アイツ等ほんと必要な時に居ないのなっ」

「同感・・・」



 皆落胆してるわね。でも実際私達はモンスター相手にやれるのかしら。訓練所で訓練を受けててもほぼ対人戦ばっか。たまに外に出たりはするけど、それはここら辺の見知ったモンスター。はぐれとは違うわ。



「でも皆 はぐれモンスターと刃を交える機会は今でなくともいずれ必ずやってくる 実際に町の中にまで侵入してくるんだ 安全な場所なんか無い」


「ラトリアの言う通りだ これを乗り越えられなきゃ明日は来ないぜ?」


「くっそ・・・ 何でこうも立て続けに」

「でも やるしか・・・ ないのよね」


「そうね こう言う時こそ自分達の出来る事をやりましょう 皆でハルメリーを守るの」

『守る~』

『る~』



 覚悟は決まった。私はここを、アネット達の帰ってくる場所を守る。そして彼等も無事に帰ってくる事を信じよう。そう決意を固めると訓練所に予備の武器を取りに走った。







 人でぎゅうぎゅうのギルドを出ると外は意外にも静かなものだった。たぶん以前の襲撃で人が減ったのと一目散に避難したからだと思う。そこには住民の代わりにモンスターを迎え撃つ訓練生ならびに冒険者達がまばらにいた。


 ・・・・ガンッ・・・・・ガンッ・・


 そんな静かな緊張の中。遠くから次第に何かがぶつかる音が聞こえ始めた。何と言うかこれ、鉄通しがぶつかる音に似てるけど。



「モンスターを相手にしている割には変な音がするわね・・・」


「あぁ まるで鉱物でも叩いてる音だ」


「嫌な予感がする」



 残念な事にラトリアの嫌な予感は当たりつつあるようで、遠くで聴こえていた音はその音量を上げながら徐々に徐々にこっちに近付いてきていた。


 ドゴン! キーン! ドーーン!!



「わっ!」



 何かが激突する重い音が響くとその衝撃は私の足の裏にまで伝わる。考えたくないけれど相手は重くて硬くて大きい。そして冒険者が束になって掛かっても止められないパワーがあるモンスター。



「どう・・する ここで待つか?」


「それは敵が来るのを? それとも誰かが倒してくれるのを?」


「逆に打って出るって言うのは? ギルドの近くで戦ったら建物に被害が出そうだし 中には避難している人や小さな子供達も居るし・・・」


「確かに・・・ ハハッ 試されるよなぁ こう言う時って・・・ しかしまぁ ここで一歩が踏み出せないんじゃ冒険者とは言えないよな」


「正気かウェグナス! 好奇心は猫をも殺すと言うぜ!」

「そ そうよ! 私達はまだ訓練生だわ!」


「訓練生の時分に はぐれモンスターと戦った実績があれば箔が付くかもしれない 騎士になった折りは自慢話にできるかも」


「おいおいラトリアまで・・・」


「私は・・・行くわ ギルドを戦場にしたくない」


「マルティナ本気?」



 本心を言うと誰かが倒してくれるのを願いたいわね。でも理想を夢見て最悪が現実になったらギルドと言う私達の拠り所が壊される可能性だってある。何より家族がいる場所が・・・


 それだけは嫌だ。



「行こう!」



 私はこの想いを胸に掛け声をかけた。


 音を便りに向かった先は大通りの西側。スプリントノーゼ方面だ。モンスターの数は1体と言う事だけど既に町中に入られているのか戦闘音はかなり近い。


 現場に近づくにつれ少しづつ冒険者が後退している様子が窺えた。緩いカーブを挟み正面の建物の上に何やら細長いものが蛇のようにぬるっと動くと、次いで衝撃音と土煙が宙に舞った。


 私達は冒険者達の間を縫って前に進むと、そこにいたのは甲殻類を思わせる硬い外皮をまとった黒くて大きなモンスター。そしてそれと対峙するギルド長。その現場だった。


 モンスターはまるで振り回す事に特化したような長い腕を振り下ろしてギルド長にぶつけている。モンスターらしい殴打だけどギルド長はそれを丁寧に避けて下ろされた腕を攻撃していた。


 大柄で歳の割に筋肉質なギルド長。槍の達人と言われるその人の槍も残念ながらこのモンスターの外皮の前には名折れのようで。旗から見てると子供が棒で何やら固い物をツンツンしてるようにしか見えない。


 ドンドンと打ち付けられるモンスターの腕は地面にその痕跡を次々と残していく。こんなもの真面に食らったらたまったものではないわ。ギルド長も強そうだけど道端で潰れてるネズミの姿がアリアリと想像できた。


 チラリと両者の後方に目をやると、ネズミの代わりに建物がグシャっとなっている。ここまで勇んで出てきたものの。コレ私の盾で防げるものなのかしら。正直自信まで潰された思いよ。



「あ~ 偉そうな事言ったてまえ言うのも何だけど これ俺達でどうにか出来る相手と思うか?」


「並みの冒険者達がはぐれを相手にボロボロになる理由は理解できたかな」



 ウェグナスとラトリアが躊躇うのも無理はない。何てったって周りの冒険者達もこの両者の戦いの中に入っていけてないんだから。実質ギルド長とモンスターの一騎討ちよね。



「これってまずい状況じゃないか?」


「あぁ 敵の攻撃が強すぎて近付けないんだ」



 周りの冒険者を見ると攻撃が通用しそうな武器を持つ者が少ない。ウェグナスのような大剣使いが数名。鈍器を持つ者が1名。この中で盾持ちは私だけ。加えてその冒険者達は皆疲弊している。つまり彼等をもってしても止められないって事よね。


 敵の尻尾がしなる。



「ウェグナス! ギルド長が攻撃に集中できるように敵の攻撃に合わせて剣を振るって! 私は盾で防ぐわ!」



 一か八か。モンスターの尻尾がギルド長に叩き付けられるタイミングに合わせて盾スキルを試みた。



『ブロック~』



 ガンー-・・!


 スキルが威力を軽減したにもかかわらず腕に途轍もない衝撃が走る。



「っつー!」



 でも防げた。



「どうやら道を選んだようだの 奴の攻撃は強い 盾でも馬鹿正直に受けるな 受け流すんじゃ」


「そう言われても・・・つつ・・」


「なら今覚えるのじゃな スキルは工夫次第でいくらでも活かせものじゃ 手透きの者は回復次第防御に徹しろ! 力は強いが攻撃自体は単調じゃ! 攻撃の際は外皮ではなく関節に集中!」


「「「「お・・おう!」」」」



 少し遠巻きに見ていた冒険者達はギルド長の指示に気合いで答えた。どうやら心が折れた訳ではないらしい。



「腕がくるぞ! リーチに注意しろ!」

「ここは任せろ!」

「尻尾だ! 全員注意!」

「大剣 盾 鈍器使いは前へ! 奴の攻撃に合わせて一撃をくれてやれ! 他はその隙に攻撃を加えるんだ!」



 ここに集った冒険者はそれぞれパーティーではなさそうだけど、各々声を掛け合いながら連携をとっていった。更に相手との相性が良い冒険者が揃い始めた事で、今まで押していたモンスターの歩みを止める事に成功した。


 敵の攻撃を攻撃で止める。


 これにより生じた隙にギルド長が鋭い突きを間接部分に繰り出していった。


 ピギィィイイィィイイイィィィィーー!


 見た目の割に甲高い声を上げたモンスターは形勢不利と見るや、その巨体を後退させると突如向きを変え横の小道へと反れていった。


 サイズ的に収まる筈もないのに周囲の建物を壊しながらどんどんどんどん先に進んで行く。目的地への進路を変更したのかそれとも撤退か。


 どちらにしてもその方向はまずい。だってモンスターの向かう先には私達の家があるんだから。





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