88・いざこざの果て
前回のあらすじ
無事に森から出られたアネット一行は引き続きテオテリカへ向けて歩を進めるが、冒険者と思しき人達に囲まれてしまい、やむ無く刃を交える事になってしまった。
「ちきしょう・・・こんなガキなんかに・・・ちきしょう~・・・」
「うぅうぅ・・・・・・・」
勝ってしまった。彼等はもう最後の方なんか半狂乱になって武器を振り回すだけになっていた。多分自分でも何が何だか分からなくなっていたに違いない。
怪我の程は大した事はない筈だけど今は傷口を押さえて踞り嗚咽を漏らすだけとなっていた。どちらかと言うと体より心に負った傷の方が痛そうだ。
「もう駄目だぁ~・・こんな こんなガキにやられてるようじゃよぉ~・・・」
「ぐふぅぅ~~~~・・・ やっぱ俺は何もできない奴なんだなぁ~・・・」
「何を言ってるんです 皆さんは1つの目的に向けて一致団結できたじゃないですか ギルドに頼れないなら ここに居る皆さんで自分達のやり方を模索すれば良いではありませんか 冒険者は斯くあるべしなんて 既存の常識に捕らわれる必要はないと思います」
僕は何も残りの人生を諦めろなんて言うつもりはない。話を聞いた限り彼等は何処かで自分の限界に自ら線を引いてしまったように窺えた。
自身を知る事は悪い事ではない。ただそこで全てが終わりと思ってしまうから駄目なのだ。おそらく冒険者としての矜持や他人の目が別のやり方を許さないのかもしれないが、だからこそ挑戦してみる事に意義があるように思う。
「簡単に言うな! そんなの無理に決まってんだろ!」
「おいおい 実際に行動してもみないうちから勝手に結論出してんじゃねーよ そうやって言い訳して今まで行動してこなかった口だろ?」
ジョストンさんもやるべき事を終えたのか僕達の会話に入ってきた。辺りを探るとミストリアを始めカルメンもノクタールさんも全員無事のようだ。
「う うるせぇ! お前に何が分かる!」
「分かんねぇよ ただな・・・ 盲目の子供が自分の意思で行動起こしてるのに 大の大人がこんな所で不貞腐れてて良いのかって話だ」
「あ? 盲目のガキが何だってんだ・・」
「お前らだってハルメリーの冒険者なら 噂くらいは聞いた事はあるだろ 最近盲目さんを連れた子供が冒険者になったってな 今お前らを負かしたその盲目の冒険者ってのが このアネットだよ」
「あ? ・・・そんな だって盲目って 目が見えてないんだろ?・・・
は はは・・・ 何だそりゃぁ・・・ 俺等はそんな奴に負けたってのかよ・・・ こいつはとんだお笑い草だ・・・」
「ばーか お前ら以上に危なっかしい奴がこうして地面に立ってんだ 五体満足のお前らがへこたれててどうすんだ 冒険ってのは日々挑戦だぜ 新しい取り組みに挑む事だって立派な冒険だ ここで足掻かなきゃ お前らは一生溺れたままだぞ それでもいいのか?」
「う ううぅ~・・・・」
ジョストンさんの言葉が心に響いたのか皆一様に押し黙ってしまった。でも彼等はきっと大丈夫だと信じたい。だって意見は違えど僕達のように行動を起こせたのだから。後は方向性さえ間違わなければ笑って冒険者生活を送る事だってできる筈。
その後。彼等の話を聞くと自分達が最終ラインだそうで、街道や森から抜けてきた人達を複数で尾行し、集団で囲うやり方でとおせんぼしていたそうだ。
つまりここから先は追っ手を気にする事なく街道を行く事ができると言う事だ。僕達は彼等の居た所から少し進んだ草むらで一旦休憩をとる事にした。
本当は早く街まで到着したい気持ちで心が急くけど、体調管理も大事な作業だと「僕はまだ大丈夫です」の意見は棄却されてしまった。まぁあれだけの大立ち回りをして「疲れてない」は嘘になるが・・・
「それにしてもアネット 暫く見ないうちに化けたな 何と言うか動き方に余裕が見える」
「余裕と言うより ああした立ち回りをしないと力負けしてしまうからですよ 僕は体力も腕力もありませんから」
「まぁ お世辞にも体格に恵まれてるとは言えないが・・・ そう言う事ではなく 能力的に頭一つ抜けてると言うか そっちの嬢ちゃんだってそうだ 詠唱しない魔法なんて初めて見たぜ もしかしたらマイナス等級指定されてるスキルさんには 何かしらの秘めた力があるのかもしれないな それを恐れているからこそ 国は差別的にマイナスなんて負符号付けてるのかもな」
地面に腰を下ろし干し肉を噛みながらジョストンさんと話していると、不意にスキルさんの話題になった。秘めた力・・・と言うより世間から忌避されそうな力なら心当たりはある。
「恐れる・・・ですか もしそうならいよいよ僕達には救いが無くなってしまいますね」
「あくまで何と無くだ 本気にするな」
「ハッキリ言ったらどうだぁ? ジョストン 毛嫌いしてるだけならそこまで無下に扱ったりはしねぇって お前も薄々感じてんだろ?」
「おいノクタール」
「疑問を持つ事は悪いこっちゃねぇよ 世間様の流れに負けて見ねぇふりしてる方がよっぽど質が悪いぜ そもそも問題抱えてんのはそっちのガキ2人だ 現実に叩き潰されたくなきゃ~ 目ぇかっぽじって向き合うしかねぇんだよ
俺も商人の食客なんかやってっと 色々小耳に挟むんだがよ 特に国の中枢を担う御貴族様は 殊の外マイナス等級を蔑視してるって話だ マイナス等級の子供を養ってる孤児院なんかの助成金は 敢えて減らされてるって話も聞いた事あったなぁ
そこにくると公爵令嬢がハルメリーに居るってのも 案外体面を気にして追い出されたのかもしれねぇぜ?」
「ノクタール! 言い過ぎだぞ!」
「ヘイヘイ だがこれだけは覚えとけよガキ共 人間ってなぁ簡単に裏切るもんだ ま 何が言いてぇのかってぇ~と この先どうなっても良いように 心構えだけはしっかりとしとけって話だ」
領主様に限ってはそれは無いだろう。心痛な面持ちで実の娘を自ら出向いて僕に託したんだから。仕送りなんかもされてるみたいだし見放されてなんかいない。
1つ気になる事があるとすれば「彼女をいつまで僕の元に居させるべきか」と言う事だ。スキルさんの事は仕方がない。でも今では無詠唱と言う快挙まで成し遂げて一人で歩く力をつけている。それどころか今では新たな目標まである。
そろそろ家族の元に戻っても良い頃合いではないだろうか。テオテリカで領主様にお会いした際にでも相談してみよう。
僕達が休憩を終える頃には肌にほんのり暖かさを感じた。もう夜明けか・・・と言うよりいつの間にか眠ってしまったらしい。
無理もない。いきなり森に突っ込んで罠に警戒した後は、矢の雨にさらされてひたすら悪路を走り回れば、次は集団と大立ち回りをさせられたときたものだ。
僕が我に返った時にはミストリアもカルメンも静かに寝息をたてていた。かく言う僕もさすがに疲れてしまっていたようだ。
「お 目が覚めたな」
「お・・・ おはようございます すいません寝てしまいました」
「気にすんな 無理してトラブル抱える方がよっぽどまずい 休めるときは休んどいた方が良いんだよ」
ベテラン冒険者が2人も居た事で気が緩んでしまったらしい。これは明らかな失態だ。休憩するにも警戒を怠ってはいけないし夜営するにも見張りは必要だ。
それらは事前に計画を立てて役割分担をしなければならない。それをしないまま寝こけてしまうなど諸々襲って下さいと言っているようなもの。
冒険者失格と言ってもいいだろう。反省反省。
それについてはこの後ノクタールさんからチクチク指摘されミストリアはプンプン怒っていたが、僕達は引き続きテオテリカまでの道程に戻っていった。
そこからはハイキングのように順調でトラブルとは無縁に感じられた。話を聞くと街までもう少しの距離らしい。ここまでそれなりに時間は要したけど無事目的が達成されるのはパズルのピースがキッチリ填まるようで気持ちが良いものだ。
それを祝福してくれているように、もし日の目を拝む事がができたらこんな感じだろうか。眼前に光の帯が横に広がり、それは街の手前で僕達の来訪を歓迎してくれているようでもあった。
まぁ・・・世の中そんな都合良くいかないのが常なんだけど・・・
「よぉ アネット 随分と時間が掛かったなぁ 目が見えねぇと道も真っ直ぐ歩けないか」
「その声はディゼル・・・ どうして君がここに・・・」
「どうして? そりゃ~お前達を迎えに来たからに決まってるからじゃないか 緊急時に軍部の意向に逆らって町の外に出ちゃ駄目だろ? 例えそれが公爵家の御令嬢だからって 例外は無いんだぜ?」
「そうか・・・ それに気付いて・・・」
どの位の人数を揃えたのか横に伸びる感情の帯は地平にも届くかのように錯覚させた。ミストリアが公爵家の令嬢である事は極力内密にしてきたつもりだったけど、ディゼルにはハルメリー慰霊祭の折り明かした事がある。
「ガッハッハ! やはり情報とは重要だ 俺も公爵家の令嬢がハルメリーに居ると聞いたときは耳を疑ったものだが よもや本当に滞在なされていたとはな これはこれは丁寧にハルメリーまでエスコートせねばなりますまい」
風に靡く草花や木々のかすれる音などの自然の営み、響く鳥の声すら掻き消す大声はギャレズリー大佐。どうやら事の重要性に自ら出向いてきたらしい。
「はっ! 国の英雄様が今では小娘のケツ追っ掛けて こんな場所までノコノコやってくるとはなぁ 歳の割りに精が出るじゃねぇか 体よく都から追い出されて 他にやる事がねぇのかぁ~?」
「貴様ぁ~ 下賎な冒険者は自分の置かれている立場も分からんと見える」
怒気を放つ大佐と、大佐が連れてきた恐らく練度の高い兵士達に向かってノクタールさんは怖じけた様子も無い。その対応は時に頼もしくもあるけれど果たして勝機があってのものなのだろうか。
昨日の冒険者達とは明らかに違う人達に啖呵を切るからには、何かしらの秘策があるのだろうが日も照るこの時間帯、真っ向からぶつかっても僕には勝てる未来が浮かばない。
どうやらテオテリカを前に最後の難関が僕達を遮ってしまったようだ。




