87・冒険者の現実
前回のあらすじ
罠師とのやり取りを無事乗り切ったアネット一行はテオテリカに向け森を進む。すると彼等に向けられる感情に気付いた“盲目さん”の助言から敵の攻撃を回避する事ができたアネット達は、何とか森を抜ける事に成功するのだった。
テオテリカ。道中ジョストンさんから街の特徴について聞いてみたところ、他の各町や要所に繋がる街道の起点となりスプリントノーゼとはまた違った形で栄えているものの、ダンジョンの類は無い領都と言う位置付けらしい。
交通の要衝となるので産業は主に商業となり、ハルメリーと比べて冒険者人口はグッと減る。とは言え商人の護衛と言う仕事もあるので冒険者ギルドは存在してるのだそう。街の雰囲気はお上品そのもので、そう言った雰囲気が好きな冒険者達の聖地となっているのだとか。従って今僕達を遠巻きに尾行している人達は明らかにテオテリカの冒険者ではなさそうだ。
その仲間と思しき集団はどうやら前方にも複数存在しているようで、僕達がテオテリカに近付けば近付く程、彼等の注意を引き付ける事となる。つまり彼等との一触即発は逃れられないと言う事実でもあった。
「ジョストンさん これ明らかに狙われてますよね」
「だな 1人1人は大した事無さそうだが だからこそ数にもの言わせたいんだろう」
ジョストンさんは周囲の人達を過小評価してるけど数は驚異だ。そもそも相手の力量をジョストンさん基準で計られても困る。ミストリアもカルメンも腕の程は充分評価に値するけど、向こうにも思わぬ伏兵が居ないとも限らない。
街まで後どのくらいだろう。
テオテリカまで順当に行けば1日の距離。僕達がハルメリーを出発したのは何時くらいだったか・・・確か昼過ぎ辺りにマデランさんが家に来て、それから話をしてバードラットさんの宿に行った。
程なくして宿を出たが森での滞在時間は思いの外食ってしまい、僕の体感で日の暖かさを感じない事から、今は黄昏時を過ぎて夜の帳が降りた辺りか。
ギャレズリー大佐がはぐれモンスター襲撃直後に行動を起こしたとして5日間。ハルメリーを包囲するには充分時間が足りてしまう。いや・・・包囲する必要は無いのか。
ハルメリーはコルティネリ領。領主の住まうテオテリカまでの道を封鎖して情報を押さえ込んでしまえば良いだけだ。
おそらく空を飛ぶ伝書鳩を森の狩人が落とす役目も担っていたのだろう。そうすれば後は陸路を行く者の道をはぐれモンスターを理由に阻めばよいだけだし。立場を利用した人海戦術の上手い使い方と言う訳だ。問題はその号令で動いてる人達が僕等を付かず離れず追跡している事なんだけど・・・
「でもこの数はさすがに不味くないですか?」
「まぁな だが俺の見立てじゃ兵士には思えねぇ とすると冒険者だな それも落ち目の連中だろうよ 折を見て包囲するつもりなんかね 普通に考えてこの先に本命が待ち構えてると見た方がいいな 大分日も落ちたし 闇に紛れて別方向に撒けば逃げ切れるかもしれないが さてどうする・・・」
この話を聞きいたミストリアは途端に恐怖した。「つけられる」と言う行為がスプリントノーゼでの体験を思い起こさせたらしい。でも感傷に浸る時間は無い。物事とはいつだって唐突だ。
「よし 少し走るか」
ジョストンさんの一声で僕達は小走りに速度を上げた。すると周囲に散らばる人達も同様に同じ速さで走り始める音が届いた。暫くして周囲に口笛のような音が疎らに聞こえ始めると、周りを囲う彼等は徐々にその包囲を狭め始めた。
それ察したジョストンさんは見計らうように「止まれ」と促した。相手はその人数でやる事を決めたらしい。
「あぁ~ こりゃハズレだな 顔見知りがいやがる・・・」
「僕達はテオテリカの冒険です作戦は通用しなさそうですね 知り合いの方なら話し合いで何とかなりません?」
「無理だろうなぁ 権力を笠に着るのが好きな奴だ 大義は我に有りって思ってる内は聞く耳なんて持たないだろうぜ」
「最悪強行突破ですかね・・・」
「ま 会話はしてみるが 覚悟は決めとけよ」
キィキィキィと手にランタンでもぶら下げてるのか、前方の彼等が近付いてくるにつれ僕達を包囲する人数が明らかになってきた。
先ずは前方に4名。周囲の人達を含めるとざっと見回しただけで大体20名。色彩が重なっている事を考慮するとそれ以上か。これはかなり不利な状況だ。
カルメンもミストリアもまさかここまで居たとは思ってもいなかったらしく、次第に感情が強張っていった。
「よぉ よく見たらジョストンじゃないか どうした? こんな時間に散歩か?」
「あぁ 気分転換ってやつだ たまには違う空気を吸うのも悪くないだろ?」
「分かるぜ 新鮮な空気ってのは良いものだ 入れ換えるには丁度良い頃合いだしな お前もそう思うだろ?」
「どうかなぁ~ 違う空気を堪能したきゃ足を使って遠出でもすれば良いだけだしな それにちょっと小窓を開けた程度じゃ 思うように風が入ってこないものもあると思うぜ?」
「仮にその風が町の様相を変えてしまう程の風だったらどうだ? 案外さっぱりするんじゃないか?」
「おいおい 被害が出る程の強風なんて誰が望むんだよ それともあれか お前は他人の不幸で飯が旨いって口か? そんな屈折するなんざ 日頃その空気が性に合わないからなんじゃないか?」
「そうかもな だからこそ そんな風を乞い願う奴だって居るのさ それに乗っかってみるのも悪くない話だろ?」
「ハッハッハ 他力本願な奴は言う事が違うねぇ 冒険は頭の中だけでお腹一杯と見える その様子だとハルメリーの日差しはさぞかし強いんだろうなぁ?」
「庇を設けて丁度良いなら それを作るに協力するのは吝かじゃないさ 驚くかもしれないが そんな事を考えてる奴は思いの外多いんだぜ?」
2人の会話は世間話をするように終始にこやかに進んでいるけど内心は全然穏やかではない。この状況を遠巻きに見ている人達の感情で言い表すなら「うわぁ・・・」だろうか。醸し出される空気に居たたまれなくなったノクタールさんは遂に突っ込みを入れた。
「旧交を暖め合ってるとこ悪りぃが 今日中に街に到着してぇんだ 立ち話すんなら日を改めてくんねぇか?」
「その事なんだが はぐれモンスターの件は知ってるだろう? 俺達は軍の命令で近隣に被害が出ないように巡回してるんだ ここまでボーダーラインは引いたが こっから先はまだ危険地帯でね 保安上通す事はできない このまま素直に引き返してくれると助かるんだが?」
「そりゃぁ良かった お前等は運が良いぜ 俺達は全員冒険者だ 即興だがテオテリカまでその保安活動とやらに協力してやるよ」
「それは助かる だったら解除命令が出るまでこの場所を受け持ってくれないか? 元々俺達が受けた仕事だ 後は此方でやる なぁにただそこで突っ立ってるだけの簡単な仕事だ」
「おっと 手柄の独り占めはいただけねぇなぁ なんたってこっちは生粋の冒険者だからよぉ はぐれが相手なんて聞きゃぁ奮い立たねぇ方がおかしいってもんだろう? いいから俺等も1枚噛ませろや まぁ? 群れる事でしか真価を発揮できねぇ連中には? 理解が及ばない感情なのかも知れねぇがなぁ?」
「そうかい ただ・・・ 厄介事の排除と言う点では気が合いそうだが?」
「あぁ そうらしいなぁ~」
誰かが剣に手を掛ける音がした。ピリピリとした緊張感が周囲に漂うと暫しの沈黙が流れる。それにしても・・・
冒険者の言い争いとはここまで殺伐とするものなのか。1つ間違えれば命のやり取りに発展する武器を携帯しているのだから当然と言えば当然か。おまけにここには僕達しか居ないともなれば尚更だろう。
そんな訳で両者身構えたはいいけどまるで動かない。いや、動けないと言うのが正しいらしい。やはり何だかんだと言っても大義名分は重要なのだ。向こうは軍部のお墨付き。此方は一般人。非常時には御上の言う事に従う義務がある。
しかしそのやり方に賛同できないから僕達はテオテリカを目指しているのであって、動けないなら上手い事動かしてあげれば良い。僕は気取られないようそっと足元の小石を拾うと、周りで囲むとある人物に向かってその石を弾いた。
「って! コイツやりやがったな!?」
その言葉と同時に彼は剣を鞘から抜き放った。
で、このとある人物と言うのが多勢に無勢を良い事に気が大きくなり此方を獲物としか見ていない性分で、更にはいたぶりたいと言う欲求が特に強い人物。
その彼に理由を与えてみたところ、見事此方の思惑に乗ってくれたと言う訳だ。
「おいおい抜いちまったなぁ だったらこっちも相応の対応をしなきゃなんねぇなぁ~!」
ノクタールさんも思いきって剣を抜くと、それを切っ掛けに全員が一斉に武器を構えた。
「あぁ!? この人数を相手にやれると思ってんのかぁ!?」
「粋ってんじゃねぇよこの野郎!」
「死にたくなきゃ~武器下ろせや! 今なら土下座で許してやるからよぉ~!」
メッキの剥がれた彼等はここぞとばかりに怒鳴り散らしてくる。僕の見立てだと注意すべきはジョストンさんの知り合いらしき前方の4人か。がなる残りの人達は冒険者としてそれ程でも無さそう。何と無くだけど・・・
「ハッ! やっぱこっちの方が単純でわかり易くて良いぜ!」
「ミストリアはカルメンから離れるな! アネットは長所を活かせ!」
ジョストンさんから指示が飛ぶ。しかし長所を活かせか。それは暗闇に乗じると言う事だろう。僕は剣を構えその闇に紛れた。
「おいガキィー! どこ行きやがった!」
「怖くて隠れてんのかぁ~!?」
案の定彼等は僕を目視で捉える事ができていない。必死で僕を探そうとする程ランタンの音が「キィキィ」と響く。それが彼等の正確な位置と動作をつぶさに伝えてくれた。僕はしめしめと少し離れた場所からそのランタンを持つ手を目掛けてぬるりと刃を滑らせた。
「ってぇぇえええぇーーー!」
ガシャンと手持ちのランタンが落ちる音がすると男は地面に踞った。これで明かりは消えただろうか? もっともランタンを翳す数はまだまだあるのだけど。
「どこだ! 出てこいガキィー!」
「居たぞ! そこだぁー!」
彼等は僕を見付けると我先にと無我夢中で剣を振り下ろしてきた。しかし僕はそれを以前よりも余裕をもって躱す事ができた。何故なら今の僕には武器の形まで色付いて見えているからだ。特に殺意のような強い感情は色濃く形となって表れる。
面白いのが色付く感情は殺意だけではないと言う事。それは彼等がランタンを前に掲げて僕を探そうとすると、ほんのりとランタンの形が色として浮かび上がるのだ。
つまり『意識する』と言うのがポイントなんだろう。意識しなければ危険な武器の類いも形となって表れない。
しかし彼等は躍起になって僕をどうにかしようとしている。対峙する前までは只の子供と思われていたが、いざ刃を交えてみると気を抜いてはいけない相手と認識してくれたみたいだ。
お陰で武器まで良く見える。
とは言え調子にのって取り囲まれた場合、僕には為す術が無い。単純な力の差ではそれこそ大人と子供だろう。なので彼等の周囲から斬っては離れ斬っては離れを繰り返して、倒すと言うより無力化する事に注力しようと行動した。
そこに加えミストリアの援護も相まって暗闇に「ぐわぁ!」「いでぇ!」「あ゛ぁ!」等のダミ声が木霊しいく。仲間が次々戦闘不能に陥っていくと、いよいよ彼等も余裕が無くなったのか心に焦りの色が貯まっていくのがよく見えた。
即席のチームで連携し辛いのか、或いは冒険者の仕事を暫くサボっていたのか、自分達の状況報告と適切な指示等は無く、各々好き勝手に動いている節が目立つ。攻撃自体も日頃の鬱憤を晴らすかのような八つ当たり気味な行動に駆け引きは無く、大人数以外の長所は残念ながら見当たらない。
そんな彼等は追い詰められていると感じ始めると次第にその感情は自暴自棄に染まり始めた。
「ちきしょうがー! ぶっ殺してやらぁー!」
「どこ行ったガキィー!」
「もうやめませんか これ以上戦っても無意味に怪我をするだけです 僕達をこのまま先に行かせて下さい」
「う うるせぇ! 俺達はもう引けねぇんだ! この革命を成功させなきゃ俺達に未来はねぇんだよ!」
「革命って・・・ その先に未来があると本気で思ってるんですか?」
「ガキが知った口きいてんじゃねぇ! テメェも冒険者なら他人事じゃねぇんだよ! 俺達は現状を変える為にここに居るんだ!」
「・・・? 現状を変えて それが何になると言うのです」
「はん! ガキは気楽だな! 自分には先があるって思ってやがる だがな テメェが歳食って体にガタがきたときに嫌でも分かるのさ 戦えねぇ冒険者程役立たずはいねぇってなぁ!
いいか スキルさんは変えられねぇんだよ 疲れたから辞めますは通用しねぇんだ・・・ 全く 馬鹿な選択をしちまったもんだぜ 冒険者なんぞに憧れちまったばっかりにこのザマだ・・・
ギルドなんか再起不能な程の怪我を負わなきゃ生活の保証はしねぇときたもんだ! 最初から俺達には救いなんか無かったんだよ! だったらこの現状を変えようと思って何が悪い!」
大の大人が何故こんなにも賛同するのか。考え無しの人達どころか苦しみ嘆き救いを求め、それでも未来が無いと絶望した人達の、これは最後の足掻きだった。
僕はこの人達を非難する事はできない。
だってただ若いと言う以外、愚直に憧れて先の事など考えず冒険者の道に足を踏み入れた事実まで、彼等と何1つ変わらないのだから。
「だったら・・・ ギルドに相談すれば良いじゃないですか・・・」
「相談して何とかなんならこんな事になってねぇんだよ! あ~あ! 隅っこで管を巻いてる冒険者共を見てきたが それがまさか未来の自分の姿になるなんてなぁ~! おめぇもこのままじゃそうなるんだよ」
そうなのだろうか。それはなってみないと分からない。でも自分がどうなるかの答えを出すのは彼等じゃ無い。
自分自身だ。
だから彼等に思うところはあっても同情はしない。冒険者が得るものは冒険した先にあるのだから。僕は夢破れ人に当たるしかなくなった彼等に引導を渡す事を決意した。




