86・狩られる者?
前回のあらすじ
テオテリカに向かう為、雑木林を進むアネット達。その途上“盲目さん”の能力で罠師の存在を確信した彼等は、しかし周囲の狩人に気取られず罠師を無力化する手出てを見出だせないでいた。
だが咄嗟の思い付きでカルメンに弓を引かせたアネットは、見事罠師を捕らえるのだった。
「で? 他の狩人は未熟な連中として 残りの1人はどんな奴なんだ? 腕の程は?」
「ここらじゃ見ない奴だったな 多分余所者だ 狩人と言うよりは冒険者なんじゃないか? それでいて森の歩き方は他の誰よりも慣れている感じだ・・・
出で立ちと言うか雰囲気と言うか 他の連中とは一線を画しているのが印象的だったな 素人じゃないと判断したのはそれだ」
「その感はアテになんのかよ」
「冗談言っちゃいけねぇ 殺れる相手かどうか 瞬時に判断するのも狩人の重要な作業だ 見誤って傷を負うのも新人の通過儀礼みたいなもんだが 下手すりゃ死ぬんだ疎かにはしない」
「ヤバそうな相手には手を出すなってお母さんも言ってたし 目を養うのは狩人の訓練でよくやらされたな~」
「冒険者寄りの狩人だったとした場合 遠距離も近距離もそつなく熟せると見た方が良いだろうな となると遠くから矢を射ってくるか 藪に身を潜めて剣で斬りつけてくるか・・・ 毒も警戒しなきゃならないとなると一気に突っ切った方が良さそうだな なぁ ここから先も罠を仕掛けているのか?」
「いや ここが最終ラインだ 森に慣れない冒険者ならとっくに引っ掛かってる筈だし 音をたてれば他の狩人が追い詰めるって寸法だ」
「つまり俺達はまだ他の連中に気付かれて無いって事だな これは非常に有利だが・・・ ノクタール お前が孤高の狩人だったとして この場合何処に陣取る?」
「見え透いた罠に引っ掛かる雑魚に用はねぇ 抜けてきた奴とサシよ!」
「だよなぁ・・・ それに向こうも罠を使わないとも限らないし 音を鳴らすだけなんて 温い事はしないだろう」
「地の利は向こうにあるが1人相手にビクついてたって仕形がねぇ 優先順位は陳情書だぜ 意味は分かるな?」
「・・・まぁ な」
最悪誰か1人が・・・の展開も想定しなければならないなんて外の世界はシビアだ。などと感慨にふける時間はない。こうしてる間にも正規ルートでは兵士がテオテリカへの道を閉ざしてるかもしれないし、まだ見ぬ謎の潜伏者にも気を配らなければならない。
歩を止めるのは悪手であると僕達は早々にこの場を後にした。
急ぎつつ急ぎすぎず延々と先行するカルメンの後を追う。森は後どのくらい続くのか。森を抜けた先はどうなっているのか。そんな事しか考えられない程森は未だ果てなく続いている。更には謎の人物からも狙われてるとなると余計足が重く感じてしまう。
気を張り詰めて歩く僕の気持ちなど露知らず、カルメンはいつもと変わらぬ調子で話し掛けてきた。或いはそんな僕の胸中を、やんわり解してくれたのかもしれない。
「アネット さっきのは凄かったね 息もピッタリ合わさってさ 私とアネットが1つになれたって感じ?」
「そうかも知れないね 僕もあそこまで上手くいくなんて思ってもなかったよ 互いの感覚を同調する事で まるでカルメンの体が自分の手足のようになった感触だった」
「わ~わ~ じゃー私とアネットは最高に相性が良いのかもね~!」
「そう・・・ なのかな? ん・・・ミストリア?」
取り留めの無い話に興じていると不意にミストリアが僕の服の袖を摘まんできた。何か気に障る事でも言ってしまったのかプリプリ怒ってる。何だろう・・・
「でもしょうがないよ~ 私達の体が証明しちゃったんだもん」
〔・・・────・・───!!〕
「え~ そうかな~」
「おいガキ共 イチャコラすんのは街に着いてからやれや」
「は~いっ」
「す・・・ すいません・・・」
まだ1人残ってるとは言えここまで何もないとついつい話に興が乗ってしまう。何処に居るのか分からないけど熟練者にして敵を察知できないのだから仕方ない。或いはまったく別の場所に居るのかも?
追手らしい追手にも引っ掛からず不気味な程に順調な道程が続いた。「このまま何も起こりませんように」と心で願ったのが聞き届けられたのか、カルメンから色よい返事がもたらされた。
「もう少しで森を抜けるかも- 見た感じ植生が変わったからね~」
「あぁ 心なしか雰囲気も変わった感じだな って事は渦中の狩人はやり過ごせたって事か?」
「どうだろぉなぁ 戦いの空気は感じねぇが」
「じゃ~ちょっと休憩する? ずっと歩きっぱなしで疲れたよー」
『う~ん でも糸みたい細いのが ず~っと僕達に張り付いてるよ?』
「・・・え それはどう言う・・・ どっちの方向に伸びてるの?」
『うしろ~』
不可解な“盲目さん”の報告に僕は首をもと来た方に向けた。目の前は森である筈なんだけど何気なく見上げた上空には星が1つ瞬いていた。
遥か空の彼方。そこには小さくポツンと色があった。
例え夜になっても僕の眼からは永遠に星が失われてるのだから、遠くに見えてるそれは無機物等ではなく心を携えてる生物である筈だ。鳥? コウモリ? でもずっと同じ場所で飛び続けられるなんて動物に可能なのかな。
『何か飛んできてるよー』
「!」
“盲目さん”の声に僕は腰の剣を抜いて構える。言われた通り星に注視してると下方で一瞬、上空のそれと同じ色がキラリと光った。それは見落としがちになる程小さいものだけど、どうしようもなく目が離せないのは明確な敵意の籠った色を隠す事なく放っていたからだ。
ランドルフさんの鋭い突きを体験していなければ、僕はただボーっとそれを見ていただけだったろう。だからこそこの敵意は攻撃だと判断する事ができた。速い速度で向かってくる光にタイミングを合わせて剣の平の部分で受ける。すると重い衝撃と金属がぶつかる音を響かせ、その感情は火花のように散った。
「え? なになに? え これ・・・ 矢じり?」
「おい・・・ おいおいおい! どっから飛んできた!」
「うしろ! 僕達が来た方向です!」
「つけられては無い筈だぜ!」
手練れの冒険者プラス狩人をして相手を捕捉できないでいる。僕達が狼狽している間にも2射3射と的確にそれは飛んできた。間違いない。相手は此方が見えている。
「カルメン! 狩人さんを空に飛ばせ!」
「え 良いの?」
「こっちの居場所はバレてんだ 相手の場所を把握しなきゃ始まんねぇ!」
「わ 分かった! 狩人さん!」
『おー!』
言われてカルメンは急いで“狩人さん”を空へと飛ばした。森と言う視界の見えない中で獲物を見付けるのは“狩人さん”の専売特許。一目置かれるミスティラさんの娘なら、確実に相手の姿を捉えるだろう。
「見付け・・・ は? はぁあぁぁああぁ~~~! 何あれ! 信じられない!」
「おいどうした! 報告は簡潔に! そして的確に言え!」
「遠いの! むちゃくちゃ遠くから矢を飛ばしてるの!」
「何だそりゃ 相手の居場所が分かったんなら お前も応戦しろ!」
「無理無理無理~! あんなの絶対届かないよー! あれは普通じゃない!」
ベテラン冒険者の警戒の外からの遠距離攻撃。加えて本職狩人を唸らせるだけの超遠距離からの正確無比な精密射撃。ジョストンさん達の緊張感が心を見ずともその声から伝わってくる。今接敵している人物は間違いなく強敵なのだろうと。
「・・・・・・・成る程 敵は遥か後方に居るか・・・ だったらこのまま森を突っ走るぞ! 取り敢えず真っ直ぐ行けば良いんだな!?」
「う うん!」
「アネットは殿について敵の矢を弾け! あれに対処できるのはお前しかいない!」
「はい!」
ジョストンさんの作戦を皮切りに、僕達は直ぐ様行動に移った。此方の動きを察したか矢は雨のように容赦無く降り注いでくる。そしてそのどれもが確実に誰かに当たる軌道を描いている。この技前が狩人さんでないなら何だ? どのみち相当な手練れである事は間違いない。
「おいカルメン! 相手は誰だ! 特徴から誰か心当たりはあるか!?」
「分かんない! こんな距離で当ててくる人なんて居たら 絶対名前知ってるもん!」
「成る程 狩人の目から見てそのレベルなら 相手は流れの冒険者かもな! にしたって何でこのタイミングで襲ってきやがった!」
「ん~ 多分もう少しで森を抜けるってところで 気が抜けた瞬間を狙ったんじゃないかなー」
「クレバーな奴だぜ 相手も自分の腕に自信があったんだろう! アネットに悉く跳ね返されたがなっ! ザマァ見ろだぜっ!」
「よせよせ 逃げるしかねぇ俺達が言っても 負け犬の遠吠えみてぇで悲しくならぁ 問題は奴さんがどこで諦めてくれるかって事だが・・・」
「狩人が1人の場合なら森からは出ないかなー 地面が平らだと獲物の方が足が速いもん 襲われたら逃げ道無くなっちゃうからー 相手が生粋の狩人なら・・・だけど」
「相手は1人 こっちは複数 奴が手練れなら計算は違えないだろ! 俺達も視界が開ければ飛んでくる方向は分かるんだ どうとでもなる!」
希望的観測だけど方針は決まった。相手との距離がある以上逃げに徹するしかないが、それにしたってムチャクチャだ。おそらく上空の星はスキルさんなんだろう。カルメンも空に“狩人さん”を上げてたし。
罠と言い性能と言い。使い手が違うとこうも違ってくるなんて、スキルさんの世界は奥が深い。
「おっ 森が切れてきたぜ! もう少しで森を抜ける!」
ジョストンさんが叫ぶなか、僕は飛んでくる矢と格闘しながら闇雲に走った。言葉の通り不意に足に絡む藪の感触が変わり平地に出た事を実感したけど、それでも走る足を止めない。僕達は一刻も早く緊張から逃れたい一心で、敵の攻撃射程から逃れるようにがむしゃらにひたすら走った。
どの位の時間走ったのか。正直その辺りの感覚は曖昧だけど、気付けば矢の雨は止み静かな空気のなか僕達の息遣いだけが周囲に響いていた。どうやら危機的状況は脱したらしい。そのせいもあってか僕達の足は勢いを完全に失って、ミストリアに至ってはこと切れたのかそのまま倒れ込んでしまった。
もう気を抜いて大丈夫だろうか。後方を気にしつつ僕もそっと地面に腰をおろした。
「撃ってこねぇな・・・ 諦めたか?」
「そう願いたいが 森から出たら出たで 今度は他の連中が待ち構えてるかもな ヘンに絡まれるのも厄介だ 街道は避けて人には注意して進もう」
「どうしても避けらんねぇ時は テオテリカの冒険者って事にしとこうぜ んで帰る途中だって言やぁ無体な事にはならねぇだろぉよ」
「だと良いが・・・」
少しの休憩を挟んで僕達はまた歩き出した。何を言いたいのか分からないけどミストリアの感情は不平と不満で渦巻いている。しばらく無言で歩いているとチラホラと人の感情と思しきものが僕の目に散見してきた。
この場所は街道なんかではない。となると周囲に見られるこれらの色は、認めたくないけど「敵」と言う事になるだろう。相手方も此方を十分警戒してるようだし敵意ともとれる感情も混じっている。
そんな集団が僕達から付かず離れず付いてくるのが何とも不気味だ。もしくはシャイな人達の集いなだけかもしれないけど・・・それは無いか。
正直言うと安心する為にも確認したい気持ちに駆られるけど、不容易な接触はトラブルの元と言う事で無視して先を急ぐ事となった。このまま何事もなくテオテリカに到着できれば良いのだけど。
それにしても・・・
“盲目さん”の言った糸みたいなものって何だったんだろう。僕には見えなかったけど。でも飛んできた矢には感情が色付いていた。普通に考えれば矢に心なんてあり得ない。考えられる答えは矢に人の意思が付着していた・・・だ。
どうやら僕のスキルは次の段階にステップアップしたらしい。もし武器まで色付いて認識できたとしたら今後の戦闘が格段にやり易くなる。これも今回の経験があったればこそかもしれない。
まだ見ぬ謎の狩人さん。貴重な体験をありがとう御座います。
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