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85・狩る者

前回のあらすじ


領主に陳情書を届ける事になったアネット、ミストリアはバードラットの経営する宿「風靡轟く吟遊館」まで行く事に。


そこでバードラットが用意した冒険者、ノクタール、ジョストン、カルメンと共にテオテリカへと出発するのだった。


 テオテリカは領主ベルリンド・コルティネリ。ミストリアの両親が住まう領都だ。距離にしてハルメリーからおおよそ1日の距離にあるらしい。


 どんな所だろうとジョストンさんに訊いたら領主が居る街だけあってそれはそれは栄えているとの事。立派な城壁が街の全てを囲み、外門までの街道も石畳で整備されているとか。スプリントノーゼもそれ相応に発展してるみたいだけど「空気が違うんだよな」だそうだ。


 今僕達が居るのはまだハルメリーの周囲に位置する雑木林の中。情報によるとギャレズリー大佐のハルメリー包囲網は思いの外堅固なようで、僕達は渋々森を突っ切る消去法をとる事となった。


 しかしこれで安全か? と言われると然にあらず。実はこの雑木林も気を抜く事はできない。モンスターも然る事ながら冒険者の中にも大佐側についた人達が居るからだ。


 信じたくはないけれど同じ冒険者でも信条は人それぞれ。皆個々人で思うところがあるのだろう。それに口だすつもりは無いけれど、できる事なら出会したくはない相手だ。


 当然の事ながらガチャガチャ鎧を響かせる冒険者が潜伏してる筈もなく、僕達は一歩一歩慎重に慎重を期して進んでると言う訳だ。これは1日で到着は無理そうだ。



「皆止まってー・・・ ・・・ ・・罠発見」


「罠って 狩人の仕掛けた罠?」


「うん でも~ 印が無いんだよねー」


「印って?」


「誰が仕掛けた罠かって事を 他の狩人に知らせる為の印なんだ- そうすれば誰の獲物かトラブルにならないでしょ? だから自分の罠に印を付けるのが森でのルールなんだよ~」


「明かに故意だろうなぁ 狩人は狩り場を荒らされんのを嫌うし 掟を守らねぇ奴は干されるって話だ 周囲にそれらしい気配はねぇから 警告の意味もあんのかもしれねぇなぁ」


「だねー 仕掛け方もわざとらしいし これじゃ~ 獲物も掛からないもん」


「と言う事は 雑木林の奥 森に狩人が潜んでる可能性は高いって事?」


「ん~ 森を通さないつもりなら絶対待ち伏せてると思う でも一ヶ所に複数で固まってる可能性は低いかな~ 一定の距離をとって獲物が来たら互いに合図を送りあって追い詰める感じ? 今日は風が無いから匂いはそんな気にしなくてもいいけど やっぱ足音は気付かれるかな~? チラッ」



 カルメンはミストリアを意識してるみたいだ。でもこればかりは仕方がない。彼女は森での経験が皆無だし加えて年頃の女の子は色々と気にするものが多いらしい・・・虫とか虫とか虫とか。



〔───・・────・・───〕


「ホントかな~」



 何だかこの2人は出会ってから互いに意識し合っている節がある。それが良い方向に向かってくれれば良いのだけど。かく言う僕も実はカルメンの事は意識してたりする。と言うのも彼女の後を付いてかないと倒木に(つまず)いたり窪みに足がつっかえたり藪に突っ込んだり・・・


 まぁこんな僕達が一緒にいるから慎重になってくれてるんだろうけど、そのお陰で1度も罠には引っ掛かっていない。



「皆止まって・・・・・ これ 見て 鳴子だよ ここからが本番だから気を付けてねー」


鬱蒼(うっそう)としてやがるな アネット お前の感覚で相手が居るかどうか分かるか?」


「体の一部でも出ていればいいんですが 音も無く完全に隠れられると無理そうです」


「アネットって耳良いよね~ 狩人も手練れになると足音からその獲物が何なのか聞き分けられるんだってー」


「ってこたぁ 見付かる事も見越して足早に突っ切るしかねぇってこったなぁ・・・ 行けそうか?」


「人数揃えられたら戦闘は避けられないかな~ 私も狩人さんを空に飛ばしたいけど その時点でバレるからねー でも~・・・勝機があるとすれば ある程度怪我を負わせれば諦めてくれるかもね~ 森で血の臭いを漂わせてたら こっちが獲物になっちゃうもん」


「森は狩人の独壇場 要はこっちが深傷を負わなきゃ切り抜けられるって事だな どっから飛んでくるか分からない矢と 絶えず気にしなきゃならない罠に 追ってくる狩人ってか・・・ そう考えると人間の方がおっかねぇな」


「ここでうだうだダベってても仕方がねぇ 周囲に気を張りながら敵の巣に突っ込むなんざぁ 冒険者の常だぜ」


「カルメン 狩人を相手にする時に 気を付けなきゃいけない事はある?」


「ん~ ジョストンさんの言葉に付け足すなら 矢はかすっても危ないかなぁ 毒とか塗ってあるかもしれないし・・・」


「毒・・・」


「ま そりゃぁ向こうの都合次第だろ 死人まで出したとあっちゃぁ~ 落としどころなんて消えて無くなるかなぁ そうなりゃ戦争だ そんなのは向こうだって望んでねぇ筈だぜ 毒つっても精々が速効性の麻痺毒くらいだろ」


「一応優先順位の確認ですけど 陳情書を持ったミストリアを領主様の元へ届ける 最低でも誰かが陳情書を届けなくてはいけない ですね?」


「うわぁ 責任重大だね」



 人に狙われる。それはスプリントノーゼで経験したからか、ミストリアの心は動揺よりも覚悟と決意が勝っていた。



〔───・・・──────・・───〕

『大丈夫~ ミスティーならできるよ~』

『〔・・────・・・───〕』



 そんな彼女の感情にスキルさん達も乗り気だ。きっと相手の姿さえ捉えられれば水の速射砲が狩人を水の底深くに沈めるだろう。もっとも先手をとる事ができればだけど。


 狩人はかくれんぼの天才。モンスターとはまた違う戦略の彼等に果たして僕達は抗う事ができるのか。静かに藪を掻き分け先頭を歩くカルメンはしかしその歩みを無言で止めた。



「カルメン?」


「・・・静かに」



 普段の彼女らしからぬ小声で返す。どうやら狩人のテリトリーに足を踏み入れたらしい。だけど当の本人はどこか迷っているようだ。おそらく確信が持てないのだろう。



「居そう?」


「ん~ 多分・・・ 何となくそう感じるだけだけど 何処に居るかまでは分からない」


「いや・・ 居るな どっかに潜んでやがる 相手の正確な場所までは分からねぇが 向こうも似たようなもんだろ」


「分かるんですか?」


「何となくだ 戦いの空気ってやつか? 経験からそう言うのを肌で感じんのよ」



 長年の感つまりは経験か。僕だって相手の色さえ見付けられれば向こうがどう思っているのか分かるのに。音も無く藪と木々の遮蔽物に隔てられた僕の視界は真っ暗だ。



「盲目さんはどう? 周りに誰か居るか分かりそう?」

『ここからじゃ無理~ でも感情が漂って来る方向は分かる~』


「え・・・ それはどう言う・・?」

『んー 煙みたいに~? あっちから流れて来てるの~』


「おいおい 何だよそりゃぁ どうなってんだ」


「つまり それを辿っていけば相手の位置を特定する事ができるって事?」

『うん』



 僕の目にはあくまで人体に色付く感情を捉える事ができるだけだけど、どうやら“盲目さん”には向けられる意思が色の筋となって見えているらしい。これは初耳だ。きっと“盲目さん”も日々成長してるのかな。頼もしい。



「皆さん どうしましょう ノクタールさんの言う通り相手も此方に意識を向けているようですが・・・」


「理想を言うなら一撃で仕留める 合図を送られる前にな 戦闘になったら相手にもよるが森を突っ切る 一々相手にしてやる理由はない」


「まぁ妥当か 向こうの正確な人数も分からねぇ 囲まれて狙撃ポイントから狙われるよりゃぁ 突っ走ってった方が遮蔽物もある事だし安全だな で だ・・・ ホントに相手の場所が分かるんだろぉなぁ~」


「う・・・ も 盲目さん?」

『あっちー』



 僕達は“盲目さん”に誘われるがまま慎重にその場所まで移動した。どのくらい歩いたか。短いような長いような微妙な距離で“盲目さん”は止まった。



『見付けた~』


「ん~~~~~・・・ 見えないよぉ?」


「待ってカルメン ・・・ちょっとだけ色が見える 多分体の一部が隠しきれていないんだ」


「見付けたは良いが 本職相手に見付からずに近付くのは このメンバーじゃ無理だぜ それこそ遠距離から仕留めないとな」


「え~~~ 自信無い~~~」



 暗闇の中に浮かぶ色だからこそ僕の目には鮮明に写るけど、様々な情報が目に入る彼等には点を射るレベルで難しいのだろう。どうするか・・・


 1番良いのは僕が矢を放つ。でもそれこそ自信が無い。かする程度でも駄目。外すなんて以ての外。殺さず一撃で無力化しなければならない。カルメンが相手の正確な位置を認識してくれるのが1番効果的なんだけど。



「あの・・・ ダメ元で試してみたい事があるんですが・・・」


「そりゃぁ ぶっつけ本番でやって大丈夫な事なんか?」


「まぁ待てノクタール どっち道向こうのテリトリーには入ってるんだ 感づかれている以上この場を乗りきるしかない が 俺達には打開策が無い だったらダメ元に賭けてみるのも悪い話じゃないんじゃないか?」


「・・・チッ もし本当に駄目だったらどうする こっちから近付いて制圧するしかなくなるぜ」


「遠距離相手に選択肢なんかそれしかないんだ このまま何もせず引き下がる選択も今ならあるが 他にも何人居るか分からない狩人を気にして迂回してたら 多分森からは出られない アネットここはお前に任せる 冒険者なら自ら道を切り開いてみせろ」


「はい・・・ カルメン ここに座って 弓を構えて・・・」



 僕はカルメンを定位置に座らせ弓の弦を引き絞らせた。



「え? ア アネット?」



 僕は敵と対峙する時、相手の出す僅かな音で動作を読む。攻撃の強さ早さをそれから推測し処理する。ではカルメンの武器を構える体と僕の意識を同調する事はできないか。それが僕の咄嗟の思い付きだ。


 僕は後ろから彼女の構える弓に手を這わせ調整する。「はわっ アネット・・・?」それから弦を引く腕を掴んで彼女の感覚とリンクする。



「カルメン落ち着いて・・・ 分かる? 僕が意識する 矢を当てたい場所が」


「え・・・ ・・・あ 分かった 気がする」



 僕がそっとカルメンから離れると同時に彼女は矢を射った。弦の音。それから矢が草をかすっていく音。そして固い木ではない何かに突き刺さる音。


「ぐぅあ」と遠くで微かに聞こえた嗚咽よりも早く、ジョストンさんとノクタールさんは地を蹴っていた。僕達もその後を追うように藪を掻き分ける。


 そのまま戦闘に移行すると思われたけど、僕がその場に駆け付ける前には事は終了していた。彼等が手際よく処理したのか或いはカルメンの一撃が決め手になっていたか。狩人と思しき人物はくぐもった声を漏らしながら2人の足元で(うずくま)っていた。



「あ~! 罠師のおっちゃんだー」


「その声・・・ カルメンか? どうして・・・」


「それはこっちの台詞だよー 森のルール違反!」


「う・・・ それは・・・」


「おいおい 罠師の罠ってなぁお宅等にとっての武器なんだろ? それを仕掛けるってなぁ 俺達が武器を抜くのと同じだぜ 


 だが幸いな事にこっちはお前の命が欲しい訳じゃねぇ だが攻撃を仕掛けられて あぁそうですかって 無かった事にする訳にもいかねぇ 助かりたいなら ここはきっちりと理由を説明する場面じゃないのかねぇ」


「・・・はぁ それは生活の為だよ 俺は罠専門の狩人だ それはきちんと森の生態系が成り立っているからこそ活かせるスキルなんだ それがここ最近モンスターの分布が変なんだ そのせいで動物も姿を隠してる


 罠ってのは攻めて狩る類いのものじゃない 罠を仕掛けたって何日も掛からないなんてざらなんだ 地形を読み 獲物のかかりそうな場所を選ぶのだって簡単じゃない


 そこにきて獲物の数が減っちゃぁ商売なんて出来やしないだ だったら! それこそモンスターなんか全部追い払えるくらい町が強固になってくれる方が良いじゃないか! そうすれば俺達だって安定した生活ができる! そう思う事の何が悪い!」


「別に悪かねぇさ 自分が最優先なんて当たり前の事だ 生活の為だろ? 寧ろ正しい選択なんじゃねぇか? ただな・・・狩る者狩られる者と同じように 立場が違えば正しい正しくないで判断する範疇には無い事だってある 例えば今のこの状況とかな」


「・・・どうする気だ」


「お前の他に狩人は森に何人居る?」


「仲間を売れと言うのか?」



 暫しの沈黙。ノクタールさんの決意は固い。ジョストンさんまでも罠師の答え次第では容赦しないだろう。同様に罠師の人も狩人としての矜持があるのか揺るがない。



「私もさ・・・ 同じ狩人だから森の事は知ってるよ でも町が強くなれば解決するとは思えないんだ だって今よりもっともっと人が増えれば 獲物だってもっと数が必要になってくるもん


 お母さんが言ってたんだ 狩人は肉食動物と同じ 常に獲物の群れからは離れないものだって・・・ もしこの森の生態系が駄目になったって判断したら お母さんハルメリーを出る事を躊躇わないんじゃないかなー」



 カルメンの言葉は説得と言うより同業者同士の何気ない会話に聞こえた。しかしその言葉は頑なな罠師の心を少しずつ溶かしていった。



「・・・狩人の本能か 久しく忘れていたな 獲物を狩れない肉食動物は朽ちていくのみ 自然の摂理か・・・はぁ 俺と後もう1人以外は未熟な連中ばかりだ 皆それを何処かで分かっているんだろう だからうまい話に乗った


 それにしても よく俺の居場所が分かったな 隠れる事に関しちゃ 他の狩人に引けは取らない自信があったんだが・・・ 成長したんだなカルメンは」


「えへへ~ 矢を当てたのは私だけど 見付けたのはアネットだよー」


「アネットって確か盲目の・・・嘘だろ ハハ・・・何てこった まるで突然噛み付かれた獲物になった気分だ・・・ 正直どうやって見付けられたのか気にはなるが・・・それ以上に恐ろしい」





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