80・依頼の裏側で
前回のあらすじ
2度目の襲撃を乗り切ったアネット達。
一方、襲撃の共犯者だったウォルツォの元には、ノクタールとバードラットの奴隷達が現れて・・・
「おはよう盲目さん」
『はよ~』
伯爵様の屋敷にお泊まりして翌朝。僕は希望を新たに目覚める事ができた。でも悩みが晴れた訳ではない。寧ろある疑惑が僕の頭を擡げてしまった。
今回の仕事、僕等の知らない裏側で何かが動いているのではなかろうか・・・そんな漠然としたものだけど僕の周囲にはそれが漂っている。
とは言え確証なんてものは無い。ただ周囲の人達の意識が、一緒に仕事をしていると言うよりは僕達に向けられている違和感・・・みたいな。
おそらくバードラットさんが画策してるんだろうけど、証拠も無いまま馬鹿正直に質問したってはぐらかされるのがオチだ。どうしたものか・・・でも此方に危険が及んだ以上、今後の為にもここは勇気を出して問い詰めなければならない。問題はいつ、どのタイミングで切り出すかだ。
そんな事で頭を悩ませていると、屋敷のメイドさんが「朝食の用意が整いました」とわざわざ部屋まで知らせに来てくれた。
マルティナ達と合流してメイドさんの案内で僕は大きな空間の広がる部屋へと移動すると、他の冒険者達やバードラットさんは既にテーブルについていた。軽く挨拶を交わしているとある事に気付く。
「あれ? ウォルツォさん達はまだ来てないんですね 折角の美味しそうなにおいをしてるのに」
「その事でしたらご心配なく 彼等は今朝方戻りましてね 今は急遽入った別の仕事に向かってもらったのですよ」
「そうだったんですか」
これもちょっとした気付きだったけど、何気に漏らしたリタリーさんの「損したね」の言葉には、朝食にありつけなかっただけではない寂しげな感情が乗っていたように思えた。
食事を終えると帰り支度に追われる冒険者達の姿があった。伯爵家とは何か商談でもしたのだろうか、バードラットさんの持ち込んだ荷物に悪戦苦闘している。
僕は皆があくせく働いている中、頭の中の疑問を問い質すべく1人でバードラットさんの元に向かう事にした。多分マルティナとミストリアには聞かせられない内容になる筈だから・・・
僕は近くのメイドさんに声を掛けて、彼の居る部屋へと案内してもらう事にした。
コンコンコン・・・
ドアをノックして部屋に入ると、忙しなく帰り支度に追われる人達とは裏腹にバードラットさんは1人優雅にお茶を啜りながらゆったりと寛いでいた。これが大店の余裕と言うやつだろうか。
「おやアネット殿 出立の準備は終わりましたかな?」
「はい 普段から整理整頓を心掛けているので 直ぐにでも出れますよ? それよりもバードラットさんこそ荷物も多そうなのに 悠長にしていて良いのですか?」
「私も 諸々の整理は得意とするところですので・・・ それで此方へは何用で?」
「・・・・・・単刀直入にお聞きしますが 今回の仕事 裏で何か動いていたのではありませんか?」
「ほう・・・裏ですか ちなみに何故そうお思いに?」
「これからお話しする事に物的証拠も 証言してくれる人も居ません あくまで僕の主観で話します もし間違いがあったら訂正してください」
僕はこの仕事中、違和感を感じた事、腑に落ちなかった点を順を追って説明した。彼は僕の話を遮る事無く最後まで聞いていたけれど、その心境に困惑した様子は一遍たりともなく、それは残念な事に僕の予想が見事的中した事を意味した。
「なる程 5人で居た所を4人と漏らしたのですか 相手に疑念を抱かせるとは 可愛い襲撃者も居たものです まぁそこで片付けるつもりでいたのでしょうが・・・ しかしそれだと うちのネイブラが犯人と繋がっている可能性もあるのでは?」
「それは無いと思います 寧ろ腑に落ちない点はそこです 奴隷達が彼の護衛をしているのなら堂々と連れていれば良かったのです ですが少人数で・・・ あれでは襲ってくる相手を待ち構えていた と言ってるのと同じじゃないですか そこで思いました 僕達は敵を誘き出すエサにされているのでは・・・と
更に矛盾している事もあります この街までの道中 人や馬車の往来も多く 野営地など安全が確保されているにもかかわらず 過剰な人数を揃えて 逆に問題を起こす事を嫌うと聞いていた街中では人数を減らし その結果貴族宅まで襲撃者が押し寄せる始末 どうにもチグハグです 何故こんな事を・・・ 僕達を襲ってきた人達は一体誰なんですか」
「ふむ・・・ 貴方の懸念がもし本当の事だったとしたら 貴方は怒らないのですか? 自分の知らない所で囮に使われたのですよ? 普通であれば憤慨するのは当たり前なのですがね」
「・・・・それは 理由を知ってからでも遅くはないでしょう これは今後の僕達の関係にも影響する話ですので」
「確かに・・・ ただ此方に悪意が無い事だけはご理解いただきたい これも敵を炙り出す為なのです」
「敵・・・ その敵とは誰なのですか」
「とある貴族と言っておきましょうか どうやら最近ご活躍のアネット殿が目に入ってしまったようでしてね・・・」
「貴族? どうして貴族が・・・ しかもそんな理由で僕達は命を狙われるのですか 間接的に接点があるとすれば・・・バウゼン伯爵? まさかハルメリアの意趣返しとか・・・」
「いえ それとはまた別なのですよ・・・ そうですね 貴方が今後も活動されるのなら これは知っておくべきでしょう ミストリア様が為されようとしている事とも関わりのある事ですので」
ますます分からない。ハルメリアの一件で藪をつついてしまったと言われた方が理解もできるのだけど。気まぐれか・・・或いは暇潰し? それにミストリアと関係するとはどう言う事だろう。
理由は何であれ手を出された以上看過はできない。
「さて どう話したら良いものか・・・ アネット殿は 等級と言われる概念を いったい誰が定めたものか分かりますか?」
「えぇと・・ 人が勝手に としか・・・」
「正確に言うと国 国王です 何故だと思います?」
「序列を作るのなら・・・ その有用性で差別化を図る為でしょうか」
「正確に言うと 管理 ですかね」
「・・・・それで その話と敵の正体と どの様な関係があるのです?」
「まぁまぁ そう焦らずに・・・ さて 国はスキルさんを等級で管理している訳ですが 差別化を図る以上 優遇されるスキルさんも居れば それとは逆に不遇な扱いスキルさんも居るのですね 俗に言うマイナス等級がそれに当たります」
「それは・・・ マイナス等級に定められたスキルさんが 人体に何らかの悪影響を及ぼすから と言う理由でしょうか」
「そんな理由で切り捨てるなんて それこそ国の威信に関わります 寧ろマイナス指定されたスキルさんには 国をも揺るがす秘められた力があるのでは・・・
と 私の勝手な想像ですが まぁマイナス等級のスキルさんは貴方の言う通り 悪影響を及ぼすものが大半です 下手に救いを差し伸べるより 完全拒否の心情を国民に根付かせる方が確実なのでしょうね
当然・・・ それが国の意向な訳ですから 国に忠誠を誓う臣下が従わない訳がない」
「つまり僕の存在は 彼等にとって面白くない? では・・・ 僕にとっての敵とは 国そのものになってしまうではないですか」
「出る杭は打たれる しかし 出すぎた杭は誰にも打てない・・・ 選択の時です 貴方は今後どうしますか?」
どうする・・・ いきなり言われてもどうしようもない。そもそもスキルさんを選ぶ、選ばれるは、一度選んだら途中で変更ができない人生の転換点。
ならば突き進むしか他に道が無いではないか。誰にも打てない杭になるしかない。しかも彼の予想通り、恐れているからこそ叩くと言うなら、そこに活路があるのでは・・・ いや、そこにしかない。
「前にも話した通り 僕の答えは変わりません 自分を守るのも 誰かを守るのも 冒険者にとっては同じですから」
「・・・そうですか その答え 確かの受け取りました」
僕の知るべき答え。それが分かっただけでも今は良しとしよう。とは言え今後も横槍を入れられるのはキツいものがある。
今回はバードラットさんとの利害の一致を見たから助かったようなものだけど・・・ でもそうなると、ここでまた新たな疑問が生まれる。
「ところで 国と敵対するかもしれないのに 貴方は僕に与してしまっても良かったのですか?」
「ハハハ 人の起こす荒波を乗り熟すのが商人の腕の見せ所 それに人と同じ事をして得られる利益など 高が知れていますからね」
それは何とも簡潔で商人らしい答えだった。
★
あの女の乗った馬車を、私は2階の自室から冷たい目で見送った。
悔しい・・・ 2度もあの女に助けられるなんて。あの女が水のスキルさんなんか持っていなければ苦汁を味わずに済んだのに。私にこそ魔法の才能はあるべきよ! そうすればミストリア。あの女よりもっと上手く使ってやるのに!
悔しい! 憎い! 妬ましい! でも・・・
認めなければならない。私にはトラブルをはね除ける力は無かった・・・ 他の人間が出来る事ができないのは何とももどかしい気持ちにさせられる。
それもこれもスキルさんなんてものが居るせいよ。彼等は能力こそ与えるけど使い手にその才能が無ければ真価を発揮しない。
これは一般に言われている事で、だから学園はスキルさんを得る前の準備段階、自身の才能を見付ける場となっているのだもの。
全ては才能がものを言う。
でも好きと才能は違う。下手の横好きでスキルさんを選ぶ人も居るけれど、それでは駄目なんだ。
自分の才能・・・ 探せば何処かにあるのかな。
自分には何がある? 得意なものはなに? 勉強? 運動? 魔法? ・・・どれもパッとしない。勉学であるなら1番ではないけれど微妙に得意と言えなくもないけど。
でも私は貴族よ。スキルさんの能力と自身の才能が噛み合っていなければ意味がない。ではどんな能力が最適か・・・ 自分の才能とは・・・
くそっ! そんな事を考えると、いつもあの女の影が頭にチラつく。これ見よがしに才能を、水の魔法を見せ付けやがって! それに人を見下すあの態度!
襲撃された後も家の廊下でバッタリと出くわした時にあの女は私に向かって言い放った『怪我が無いようで何よりです 下手に動き回らなかったのは賢明でした』
それじゃぁまるで!
私は!
何もしない方が!
良かったと!
言ってるみたいじゃない!
気に食わない! 気に食わない! 気に食わない! 気に食わない! 気に食わない! 気に食わない! 気に食わない! 気に食わない!
そこまで言うのなら・・・ 逆にアイツに無いものを探そう。アイツに無くて私にあるものアイツに無くて私にあるものアイツに無くて・・・私に・・・
あるじゃない・・・・
私は誰とだってお友達になれる。
学園でアイツが手に入れられなかったもの・・・これだわ。今は盲のお友達が居るようだけど、先の見えない似た者通しお似合いじゃないの。だけど私は違う。学園の生徒も商人も上手いこと取り入って、そして操ってみせるわ。
「世界は私の味方よ」
「誰が味方なの?」
?
「え?」
突然聞こえたその声に振り返ると、私の後ろには見窄らしい服の小さな子供が立っていた。その隣にはメイド。
「ちょっと! 部屋に入るときはノックくらいしなさいよ 何よこの小汚ない子供は! この格好・・・首輪? まさか奴隷? 何で奴隷風情がここに居るの! そもそも・・・ 貴女・・・ 見掛けない顔ね 新入り?
ぐっが! ちょっと・・! 放しな・・さい・・・」
何このメイド・・・私の首に手を・・・片手で持ち上げて・・・ こんなの人間の力じゃ・・・
「新入り? 違うよ? 私ねぇ プルトンさんを探しに来たの でも見付からなくって それでガウに聞いたら ここでプルトンさんと同じ匂いがするって」
プルトン・・・ それは私の叔父に当たる人物。色々問題を起こしたルンドレン家の恥。
「プ プルトンは・・ 死んだわ ・・・もう 居ないの 放してっ・・・・!」
「え? 何で?」
「知らなっ・・ 知らないわよ・・・!」
「ハナセ ヒメ ガ キイテル・・・」
「ひっ! 何なの・・・」
私を掴んでいるメイドは聞き慣れない変な声で喋ると割れた。
真ん中で真っ二つに割れた。
正確には人間の皮が割れ、中から大きな人間大の虫が姿を現した。
「モン・・ スター・・・・ 誰か・・ 助け・・・」
「モンスターじゃないよ? 挑戦者だよ? えっと・・ こっちだと~ ハグレ・・ って言うんだっけ? ってガウが言ってた」
「ガ・・ウ・・・?」
「うん! この子ガウって言うの 魔物さんだよ?」
魔物さん・・・? 確かマイナス等級の人間に仇なす最悪のスキルさん・・・だった筈。まさか実在したなんて・・・
「プ・・プルトンは 私の 叔父だった人 なの でも・・・ ハルメリーでモンスターの襲撃にあって 死んだって・・・ ね お願い 放して・・・」
「プルトンさんはご飯くれるから食べないもん! でもそっか~ 死んじゃったんだね 残念」
「じゃぁ・・・ もう良いでしょ? 助けて・・・」
「う~ん どうしよっかなぁ ねぇ このお姉ちゃん食べたい?」
「え? 食べ・・・?」
「ニンゲン ニク タベル」
「待って・・・! 取引・・! 取引しましょ・・・! 助けてくれ・・・たら ご飯あげる・・からっ・・!」
「ご飯くれるの?」
「え えぇ・・・・」
「分かった いいよ 放してあげてっ」
何なのよ・・・モンスターがまだ幼い子供の言うことを素直に聞いている。拙い発音でも人の言葉を話し理解するし、これはコドリン洞穴で私が出会ったモンスターと同じだ。しかもスキルさんを連れているところまで・・・
私は自分をゆっくりと下ろしたこのモンスターから目が離せなくなってしまった。
「? この子が気になるの?」
「ゲホッ・・ ゲホッ・・・ え えぇ・・・ 言葉を話して・・ スキルさん まで・・」
「この子はねぇ 挑戦者の1人だよ 模倣さん? を連れてるの 人に化けるのが上手いんだ」
得体は知れないけど聞けばすぐに答えてくれる。案外素直な子なのかもしれない。でも・・・どうしよう。咄嗟にご飯をあげるとか言っちゃったけど。取り敢えず調理場から適当に何か持ってくれば良いのかしら・・・
「それで どれを食べていいの? ここの人間」
「え? 人間・・・? え?」
「プルトンさんはくれたよ? 人間 皆美味しいって言ってた」
あ・・・ これ 駄目なやつだ・・・
「ね ねぇ 普通の食事にしない? 今行けば まだ使用人の食事があると思うの・・・」
「え 人間くれないの?」
子供が困った顔になった瞬間、隣のモンスターはゆらりと動いた。
「す! 直ぐには無理なの! で でも・・ 用意はできるわ! わたっ 私の家はこの街の門を管理してるから い 色々と融通が効くのよ・・!」
「ふ~ん まぁくれるなら いっか じゃぁ私はもう行くね? その子は置いてくから 人間 用意できたらその子に言ってね?」
「え! そんな・・・!」
待って! 待ってよ! どうしてそうなるの! ねぇお願い・・・
「あっ 私の事は内緒だよ? お姉ちゃんと私だけの秘密~」
誰か・・・
「言ってもいいけどぉ 喋った瞬間にお姉ちゃん食べられちゃうからね? その子結構速いからっ」
助けて・・・
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