79・事態の収束
前回のあらすじ
ルディアと再会し伯爵家の庭で語らっている所に現れた襲撃者達。やはり風の魔法に圧倒され追い詰められるアネット達だが、土壇場でミストリアが『スピーキングNGワード』なる新しいスキルを覚えるのだった。
僕はやがて来るであろう風の魔法に備えた。と言っても足腰が覚束ない今の僕では避ける事も防ぐ事も容易ではないのだが。
どの道なるようにしかならないと覚悟を決めて待ち構えるが、しかし待てども来る筈の衝撃がやって来ない。そればかりか遠くで何やらゴニョゴニョ不明瞭な会話に言い争う声のみが耳に届く。・・・何かあったのか?
いや、多分何かあったんだ。今まで冷静沈着に事を運んでいた襲撃者達の感情に、いつの間にやら目に見えて明らかな動揺が走っていた。
バン! バン! バン!
ミストリアはこの機を逃すまいと透かさず水魔法を連射する。然程効果は無いと分かっていても、混乱に乗ずれば幾らか立て直す時間も稼げるかもしれない。
しかし事態は思いもよらない急展開をみせた。
ズドン! ズドン! ズドン!
それは宙に消え行く水の音ではなく、数多の悪漢達を地に沈めてきた、いつも通りの水の重たい打撃音が見事に甦っており、加えて微かに「ぎゃっ!」と言う悲鳴も混じっている事から、どうやら風の守りはその効力を失ったらしい。
僕が倒れている間に何があったのかは分からないが、場は混乱し慌てふためく感情が入り乱れ始めると、次第に僕の耳鳴りは元の正常な聴力を取り戻していった。
こうも魔法が飛び交えば、然しもの相手も笛を吹くどころの騒ぎではないのだろう。誰に攻撃を集中させるべきか。ミストリアも修羅場を経験した事で、大分それが分かってきたようだ。
僕は自分の体のダメージを確認する。
よし・・・ 動けない程ではない。
「マルティナ!」
しかし現状1人で動き回るのは心許ないので、ここはマルティナと2人、共闘してこの場にあたる事にした。
こう言うシチュエーションの場合、互いに背を預けると言うのが物語の定番だが、僕達の戦い方はマルティナが盾兼障害物。僕はそれを利用して相手の隙を突く戦法をとっている。
だがいくら現状を掻き回したとは言え相手の数は多い。決して油断していい場面ではないのだが、足並みの揃わない敵の攻撃は何処か単調で、マルティナは丁寧に敵の攻撃を防ぐと、僕はその横をかすめて容易に相手の腱を狙う事に終始できた。
やはりいつ何処から飛んでくるかも分からない水の砲弾を、意識せず僕達だけに注力するのは流石の相手も儘ならないようで、それも相まってか何とか五分の状況へと持ち込む事ができた。
そればかりか、ここに来て相手を確実な撤退へと追い詰める急展開が巻き起こる。いや、これこそ自明の理と言うやつだろう。
あれだけ派手な音を立てていれば当然誰かの耳にも届くもので、それが功を奏しようやく助け船が僕達の元へと辿り着いたのだ。
伯爵家に遣える兵士、そして我等が同胞冒険者達。彼等が到着するや襲撃者は昨日と同じように徹底した逃げに入るが、前回とは違い今回は負傷者がいるので収穫は────
「おい! 待てっ! お 俺も連れてけっ・・・・ひゅ・・・・・」
「こいつ 自分の仲間を! 口封じか」
・・・・・・この徹底ぶり。これにはさすがに血の気が引いた。足手まといになった仲間でも平気で殺める人達が僕達を襲ってきた事実。
どうしてこうなった。分からない。知らず彼等の癇に障る事でもしてしまったのか。いつ。何処で・・・
そんな不明瞭な思考が頭の中をグルグル回っていると、いつの間にか現場は丸く収まっていた。僕とマルティナは軽傷。ミストリアとルディアさんは無傷。
結果だけを見れば上々だが、またもや誰かに助けられる形となってしまったのは大きな反省点だ。しかし今は無事生き延びられた事を安堵する事にし、後はただただ流れに身を任せるにしよう・・・
屋敷に戻ると当然の事ながら、先程の出来事を根掘り葉掘り聞かれる事となった。相手は何者か。襲撃されるに心当たりは有るか。
いくら此方が疲弊しているとは言え、貴族宅に押し入ったのだ。取り調べにも容赦がない。
しかしそこは抜け目のないバードラットさん。僕達でなければルディアさんを守りきれなかったのだと声高に唄った。
その際、狙われたのはルディアさんで、おそらく他派閥勢力の差し金だろうと言う所まで話を強引に持っていったのは流石だ。
僕も疲れていたのでそこで何を話されたのか等よく覚えていないが、ルディアさんを守り通した事は功績であるようで、今日は特別伯爵様のお屋敷にお泊まりできる栄誉を頂いたらしい。
まさか警備が厳重なお屋敷の中まで襲ってきたりはしないだろうから一先ずは安心か・・・
いや・・・安心はできなくなった。
襲撃者は言った「異物だから狙われるんじゃないか」と。つまり僕が冒険者で在り続ける以上、この先ずっと付いて回る不安だ。
ならばどうしたらいい・・ 何ができる・・
『アネット~? 心配事?』
「・・・うん 何だか最近 戦闘を経験する度に不安しか残らない気がするんだ
特にスプリントノーゼに来てからは笛の音を聞いただけでダウンして 風に吹き飛ばされてダウンして・・・
正直 自分の不甲斐なさを思い知らされたし この先の事もあって 色々と不安なんだ」
『でもアネットはここに居るよ? アネットが居なかったら助からなかった人も居たし 他の人達が居たからアネットは今ここに居られるの 助け合えたから居られるの』
「・・・そうだね 僕達はパートナー 僕達はパーティーだもの 悩むときは1人で悩まず皆で悩んだ方が前向きな答えも出せるもんね」
そう・・・不安は怖い。では何が不安か。狙われてる事? それは分かってる。でも本当に怖いのは敵の姿が見えない事だ。
誰がどんな理由で僕達を狙うのか。敵の正体とは何か・・・今後の方針としてその解決策を皆で模索しよう。
それにしてもその皆は何処に行ってるのだろう。事情聴取を終え僕達は部屋に案内されたのだが、マルティナもミストリアも部屋を出たっきり戻って来ない。
2人とも今回の事で思うところがあるのか、きっと1人になりたかったに違いない。特にミストリアとルディアさんとは会話中ですら互いの感情が常時ギスギスしていたし・・・
ウォルツォさんも、初日に別行動をしたメンバーが戻ってきたとかで、情報の場所をあたってみると言って出ていった。その際僕も同行を求めたがバードラットさんを始め、マルティナとミストリアにキツく止められた。
そのせいもあり、僕の居る部屋の前には見張りの人が立っている。・・・まったく、守る側が完全に守られる側になってしまうとは情けない。
僕がもっと強ければ彼に付き添って・・・ ケリをつける事ができたかもしれないのに。どうやら僕が憧れる英雄像にはまだまだ程遠いようだ。
そんな事を考え呆けていると部屋の扉が開き、息の上がったマルティナが帰ってきた。
「お帰り 何処に行ってたの?」
「外で素振りしてた」
言葉少なめな彼女は体を動かしても不安を振り払うには至らなかったようだ。疲れた様子で椅子に腰掛けると小さくため息をつく。
やはり魔法の前に為す術がなかったのが堪えたのだろう。その心はまるで先の見えない坂を登っているかのように苦しそうだ。
僕は彼女が少し落ち着いたのを見計らってから声を掛けた。
「どう? 迷いは晴れそう?」
「迷い?」
「うん 何となく そう感じたから」
「迷い・・・・・ 違うわ 多分焦りね」
「焦り・・・ マルティナは何か急いでいるの?」
「・・・・・・今日ね ミストリアが新しいスキルを覚えたらしいの 何でも人の言葉を喋れなくしちゃうみたいなやつ・・・ 他にもね 人の・・・
まぁ 凄いスキルを持ってるのよ でもそのお陰で助けられたし アネットだって効果的なスキルを持ってるじゃない? そこにくると私は・・・・
今日だってアネットを守りきれずに怪我をさせてしまったわ」
「マルティナも・・・ 色々と悩んでいるんだね 僕と同じだ でもマルティナが支えてくれてるから僕は好きに動けるんだよ? それだけでも充分助かってる」
「違う! そう言うのじゃなくて・・・」
物言いたげなマルティナはそれ移行押し黙ってしまった。暫く無言が続くが気持ちの整理がついたのか、自分の気持ちをポツリポツリと呟き始めた。
「以前・・・ 学園の生徒達とコドリン洞穴に潜った事があったでしょ? そこで人の言葉を喋るモンスターと戦ったわ
私は手も足も出ず 逆にそのモンスターに弱点を指摘されたの 私だってギルドの訓練所で仲間とスキルについて語り合ったり 本を読み漁ったりして知識は得たと思っていたわ
でも実戦では役に立たなかった・・・ 今日だってたった一撃の魔法に挫けそうになったもの だからね 今のままではいけないと思ったんだ
だけど どうしたら前へ進めるんだろうって・・・」
なる程、マルティナが焦っているのは自分と人を比較してしまったからだろう。「焦る事はないよ」と言ってあげたいが、こればかりは自分の中で納得できる答えを出すしかない。
「だったら理想像を思い描いてみるとかは?」
「そんなの昔からアネットを守る為って決まってるもの! でも・・・ それ以外 私に目的なんて無いし そんな漠然としたものでは駄目と言われるならそれこそ・・・ どうしたら良いのか分からないわ」
自分のスキルさんを撫でるマルティナの気持ちが移ってしまったのか、“戦士さん”も“盾さん”も気持ちがどんよりとしてしまった。
ただ1つ。
今の彼女の印象は「らしくない」だ。
悩んでいるなんてマルティナらしくない。彼女はいつだって僕の手を掴んで突っ走ってきた。僕はそれに幾度と無く助けられてきたんだ。
だったら彼女の不安を取り払おう。
今度は僕がマルティナの手を掴む番だ。
★
これはどう言う事だ。あんなガキ共に2度も遅れをとるとは、あってはならない事態だ。是が非でも始末しなければ、この道ではもう生きてはいけない。死んだも同然だ。
冒険者なら何人も始末してきた。相手を調べ入念に準備し確実に完遂できるように・・・
そうだ・・・イレギュラーだ。
そもそもマイナス等級がスキルを使えること事態が普通ではない。加えて土壇場で魔法を封じてくるなど、その最たるものではないか。
であるなら・・そう。攻める角度を変えれば良い。遠距離からの狙撃。或いは毒。
此方とて万全を期したが、依頼主が「舐めてかかるな」と方針転換したのが裏目に出たのだ。
物事には相性と言うものがある。今回は偶々噛み合わなかっただけだ。時間はある。
ハルメリーに戻るまでに片付ければ何処ぞの野盗の仕業として処理されるだろう。成果の為なら依頼主もそのように協力する筈だ。
俺はチラリと今しがた拠点へとやって来た依頼主を見やる。コイツも名が知られている者の一人だろうに・・・ 違うか、名が知られているから好きに動けない訳か。
しかしこんな姑息な手段を取るとは、存外その名声も真っ当なやり方で得たものではないのかもしれないな。
まぁどうでも良いが・・・
「では 次の指示を────」
「いやいや おめぇ等に次はねぇから なぁ? ウォルツォ」
「・・・・ノクタール」
依頼主の言葉を遮り、聞き覚えのない声と口調の男が入り口付近から聞こえてきた。コイツは何だ・・・ ノクタール? 確かスプリントノーゼで別れたと言う冒険者の1人か。それが何故ここに・・・ 我々がつけられた?
いや、負傷した者が居るとはいえ、尾行には充分注意した。依頼主がここにやって来た後から現れたと言う事は、つけられたのは依頼主コイツか。
「残念だぜウォルツォ 取っ付きにくい奴だと思っていたが それなりに評価はしてたんだがなぁ それが こんな暗ぇ奴等なんかとつるみやがってよ」
「・・・・そうか お前は初めから俺達に目をつけていた訳か ハルメリーからここまで 大袈裟な人数を揃えるものだと思っていたが なる程・・・
お前がバードラットの懐刀だったのだな まさか放蕩者で有名なお前が商人等に与するとは・・ 思いもしなかった」
「利害の一致ってやつだよ こう見えてあの町の空気は好きなんだ」
「自身の欲するがままに生きる まさに冒険者らしい生き方だ・・・それで こうして互いの正体も露呈した以上 決着を見ないで終われない訳だが・・・ お前1人で何が出来る?」
「冒険者は基本チームだぜ? 1人な訳ないだろぉ それに今回は旦那のところの助っ人も居るしなぁ」
「あの奴隷達か」
「あぁ ありゃ~ よく仕込まれてる・・・」
悠長に会話などしている場合か。俺は腰の剣に手を掛け仲間達に目配せする。目の動きとまばたきによる合図。一斉に飛び掛かれと言うシグナルだ。
しかし・・・・・
バシュウウウウウウウウウー・・・
拠点内は煙玉の破裂する音と、煙幕でその行動を数瞬先に奪われた。周囲から窓の割れる音。敵が侵入してきたのか同胞が外に飛び出したのか判断がつきにくい。
しかし攻めるにしろ守るにしろ屋内に留まっていては不利にしかならない。俺は意を決して近間の窓から外に飛び出した。
だが外にはあの男が言ったように、奴隷達が奴隷らしからぬ気配で俺を待ち構えていた。
感想 評価 ブクマ よろしくです(*´ω`*)
誤字報告ありがとうございます(。>д<)




