78・2度目の・・・
前回のあらすじ
襲撃から逃れたアネットは気持ちを新たに仕事に臨む事を選んだ。各所をまわり最後に立ち寄ったのはルンドレン伯爵家。
そこで再開したミストリアとルディア・ルンドレン。しかし2人の会話からは不穏な空気しか漂わないのであった。
私が言葉を失ってから敏感になった感覚が1つある。それは人の視線。好意、敵意、興味、無関心、中には下卑たものまで。
目は口ほどに物を言う。
相手にどう思われてるのか。実を言うと“水魔法さん”と“失語さん”の合作スキルで相手の本音をこっそりと除き見てたりするのだけど。まぁ概ね予想通りの文字が浮かび上がってくるのよね。
さて・・・
では私の目の前に居るルディア・ルンドレンと言う女子はどうか。こんなの本音を覗くまでもない。彼女は私を嫌っているでしょう。理由はなんなのか・・・以前は知りたいと思った事もあったけど、今となってはどうでもいい。
でもアネットを踏みにじるのは許さない。
〔だって お友達と徒党を組んでいる貴女の方が活き活きとしているんですもの〕
だからつい言葉にしてしまった。貴女が悪いのよ? どうでもいい貴女が貴女の一言でどうでもいい人間ではなくさせたのだもの。
「・・・・ぼ 冒険者になって少し粗暴になったのではありませんか? ゴロツキのような方々に揉まれると やはり心もやさぐれてしまうものなのですねっ」
〔人と接する機会が増えて私も他人に気を遣う事を覚えたと言う事でしょう お陰で人と適切な距離感が保てるようになったと自負しているわ〕
「気を・・・遣う・・・? とても・・そのようには聞こえませんでしたけど? 学園に居た頃の方がまだ可愛げがありましたわよ? まるでお人形さんのように」
〔確かにそうね お人形さんはそこにあるだけで美しいものだもの 愛でられて当たり前なのだから人様の事など気にする必要もなかったのよね 当然貴女の事も・・・ごめんなさいねぇ〕
「っ! ・・・でもその結果が普通の人としての道から外れる事になったのだから 結局のところ間違えたのではなくて?」
〔間違い・・・そうね でも貴女には感謝している面もあるのよ?〕
「・・・は? 感謝?」
〔えぇ もし私が言葉を失わなかったらアネットとは出会えなかったのだもの まだお礼を言っていなかったわね ありがとう〕
「・・・そう フ フフ・・ そう言う事 でもどうかしら 貴方は彼に随分とご執心のようだけど人前で堂々とあんな事をされては ねぇ・・・」
は? ルディア・ルンドレンは意味深に顎をしゃくる。私はつられて視線を後ろに向けるとアネットはマルティナの胸に顔を埋めていた。
アネットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォーーーー!!?
「耳鳴りがする・・・ 多分 魔物除けの笛だと思う・・・・・」
「ミストリア! 周囲を警戒してっ! 昨日の連中かもしれない!」
え!? あっ! 昨日の!? つまり・・ うん! そう言う事ではないのよね!
取り敢えず・・・ 先手を取られて身動き出来なくなる前に、水の魔法でやっておかなければならない事がある。同じ鉄は踏まない。今こそマルティナが今朝方叫んだ「耳栓作戦」を決行する時。
ぶっつけ本番だけど上手くいくかしら。いえやって見せる。水を膜状に発生させてゆっくりとアネットの耳に被せた。どう?
「これって耳栓!? アネット少しは治まった?」
「え? マルティナ? あまりよく聞き取れないけど ・・・うん 耳鳴りは・・・楽になったかな 大丈夫 立っていられる これなら足手まといにはならないよ」
「そう だったら急いで皆の居る所に戻りましょう! ルディアさん・・・だったっけ? 悪いんだけどお屋敷まで案内してくれるかしら 何だかここ 迷路みたいだわ!」
この庭はシンメトリーのように規則性のある造りではなく、古今東西様々な植物を集めましたと言わんばかりに木々が立ち並んでいる。
おまけに生け垣が私達の背丈以上に伸び見通しも悪い。マルティナの言う通り初見では迷いそうな構造になっていた。
「は? なんですか急に 一体どう言う事?」
「私達を狙う悪党が周囲に潜んでいるかもって事よ」
「・・・ここは伯爵家の敷地内 流石にここを襲うバカはいないわ」
「でもスプリントノーゼは色んな派閥があるって聞いたわ 貴女の家と反目している勢力の奴等なら 平気で襲ってくるんじゃないかしら?」
「・・・・・・・どうやら 後で詳しくお話を伺う必要がりそうね」
非常事態だと言うのにルディアは私に不快な笑みを向けてくる。一連の襲撃犯はまさか彼女が?
「まぁいいわ 私に着いてきて はぐれると迷子になりますからね この庭はお爺様の趣味で 様々な土地の植物を取り寄せて造られた庭園なの 四季があるこの国では それはもう管理が大変で専属の庭師が何人も居るくらいなのよ」
足早に歩きつつも緊張感が無いのか庭の自慢話が始まった。しかし言うだけあって図鑑ですら見た事ない植物が高らかに生えている。正直今はそれがネックになっているのだけど。
「それでも気候に合わせて管理しやすく配置されているから ほら そこに庭師が・・・ ・・・あら? あなた 見掛けない顔ね」
「皆っ! その人は庭師じゃないっ」
目の見えないアネットが声を出すと庭仕事をしていた人影はヌルリと庭師らしくない動きで立ち上がった。
「な 何なの貴方はっ!」
「気を付けてっ 周囲にもっと居るかもしれない」
「ちょっと! ここを何処だと思っているの! この庭はルンドレン伯爵家の庭よ! 市井の者が許可なく立ち入って良い場所ではないわ!」
「そんな事は相手だって承知の上で待ち伏せているのよ」と教えてあげたいけど、彼女は誰にでも貴族の威光が通用すると思って無防備だ。
アネット達は油断なく武器を構えている。どうやら大丈夫そうね。ルディアはこのままここに置いていきたいけど帰り道を知ってるのは彼女だけ。盾にする事もできないわ。
「マルティナはルディアさんを優先して守って ミストリアは魔法で妨害を 僕は殿を努める 屋敷まで逃げるのが最優先だから・・・ ルディアさん 案内を・・・」
「わ 分かったわ! こっちよ 付いてきて!」
頭の沸いてるルディアもさすがに普通じゃないと思ったんでしょう。アネットの指示にギャーギャー反論しないのは助かるわ。
ルディアを先頭に迷路をひたすら走り続ける。私の家が庭園を造る時はこんなグチャグチャな道にしないようお父様に打診しよう。
それにしても後を追ってくる襲撃者はいったい何人いるのかしら。道が合流する度にその数を増やしていく。全員お揃いの黒装束でカサカサ音を立てながら追ってくる様は地を這うあの黒い虫のようで気持ち悪いわ。
虫を駆除する感覚で魔法を放つけど、やっぱり対策をとられてるのか水が全て弾かれる。全くもってプチッとつぶれてくれないものかしら。そんな後ろの虫に気を取られていると前方から金属のぶつかる音がした。
前を走っていたマルティナがルディアを庇って敵と応戦してる。どうやら挟まれたらしい。このまま囲まれるのはマズイわね。
そうね・・・魔法が直接効かないにしたってやりようはある。私はマルティナと対峙している敵の足元に水魔法を放った。ダメージは与えられなくても妨害する事はできる。この咄嗟の機転。私も成長したものねっ。
でもこれが予想以上に効果的でぬかるんだ地面に足をとられて体制が安定しないみたい。どうやら足元には風魔法の効果が薄いらしい。一見強力かと思われた風の魔法も実は穴があるのかもしれないわね。
「ちょっと! 庭をメチャクチャにしないで下さらない!? あぁー! もうー!! こっち!!」
天然お嬢様はこんな時にも命よりお庭を優先するらしい。お目出度いわ。それにしても・・・
この襲撃者達は一体どれ程の数湧いて出るのだろう。と言うよりどれ程の数侵入者を許してるのかしらこの家は。お金を掛けるところ間違えてない?
とは言え私達も特別足が速い訳でもないし、いずれは追い付かれてしまうわね。だからこれは仕方ない事よね? きっと彼女も許してくれる筈よ。
〔水魔法さん お願い!〕
『わかった~!』
私は走りながら後方に水魔法を投げ付ける。それこそ地面や生け垣やご自慢の植物達にまで節操なく。アネットもこのタイミングで『プチダーク』を展開して敵の視界を塞ぐ事に専念した。私達息ピッタリね!
「ちょっとーーーーーーー!! 何やってくれてるのよーーーーーーー!! 庭を維持するのがどれだけ大変か 貴女分かってるのーーー!?」
「今はそんな場合じゃないでしょ! 立ち止まらないで さっさと走って! 逃げるわよっ!」
「もーーーーーーーー!!」
必死な形相で怒鳴り散らすルディアには気の毒だけど、敵が追ってこないところを見ると妨害は功を奏したらしい。
「・・・・・いったん中央の開けた場所に出るわ ここからだとそこを通らなければ屋敷に戻れないの! ブツブツブツ・・・」
また昨日のような開けた場所・・・昨日の記憶がフラッシュバックする。そもそもこの襲撃者がルディアの手先でないなら、どうして貴族宅で襲ってくるのかしら。もっともこの場所は襲撃にはもってこいの場所だけど。
考えたくはないけれど、こう言う地形が彼等に有利だから? もしこの庭の地理も事前に把握していたら?
正直嫌な予感しかしない。
でも私達は走るしかないのよね。森のような生け垣を数度曲がると彼女の言う通り、先程までの狭かった道から一気に開けた空間へと出た。
そこは中心が丘のように盛り上がっていて真ん中に東屋が設えてある。さっきまで乱雑に植えられていた植物達も、ここでは均等に揃えられて周囲には色とりどりの花が出迎えてくれていた。
それと同じように黒とりどりの襲撃者達も私達を歓迎してくれていた。待ち伏せ。どうやら私達は上手い事相手にここまで誘導されたらしい。そうとしか思えない。
「お 来た来た 後ろの連中は撒いてきたか でけぇ音たてて 冒険者ならもっとスマートに片付けなきゃ及第点はやれねぇな」
「おい 無駄話をするな とっとと片付けるぞ」
「いいじゃねぇか どうせここがゴールだ続きは無ぇ そもそもテメェ等が昨日しくんなきゃ こんな所に来る必要も無かったんだぜ?」
「な! 何なのよ! あなた達はっ!」
「あん? 見ての通り不審者だよお嬢様?」
何か1人だけ周囲と毛色が違う。何と言うか俗物っぽい。暗殺者と言うより冒険者っぽいわね・・・冒険者?
「何故・・・ 僕達を狙うのです・・」
「さぁな 世の中異物を嫌う奴も居るからじゃないか?」
「おい もう良いだろう 仕事にかかるぞ」
「ヘイヘイ 悪く思うなよ? 冒険者ってのは いつだって理不尽と隣り合わせだからな」
先手必勝。私は躊躇う事無く相手に魔法を放った。でも結果は変わらず水は弾かれる。どうやら事前に持続性の風の魔法が張ってあるらしい。向こうも準備万端って訳ね。
そうこうしている内にマルティナと襲撃者の1人が交戦を始めた。撒いてきた連中が合流して来ないのは救いだけど、不利な状況が圧倒的不利な状況になってしまう。でもこんな時に私にできる事ってどこまでも妨害だけなのよね。もどかしいわ。
『プチダーク~』
アネットがマルティナを援護するようにスキルで黒い煙幕を張る。しかし・・
「「渦巻く風よ 眼前に漂う闇を払え ウィンドブラスト!」」
昨日耳にした文言と共に風が吹き荒れてアネットの『プチダーク』は霧散してしまった。やっぱり昨日の魔法使いも来ていたようね。
「へぇー ホントに盲目さん連れた奴がスキルなんて使うんだ」
「気を付けろ! 対象は妙なスキルを使うぞ!」
「分かってるよ でも情報通り耳がバカになってんだろ? こんなガキ相手に───」
『ダークビジョン』
「─────あ? おい 何だこれ・・ おいーーーー! てめっ! 何をした! 何だこりゃー! 何も見えねぇぞ! おいっ!!」
「チッ! 言わんこっちゃない・・・」
「おい! 笛! ホントに効いてるんだろな! え!? 」
「ミストリア! 一番奥の右の人を狙って!」
何で分かるのかしら。アネットは実際に笛を吹いてる人間の位置を見事に言い当てた。私は躊躇わずそいつに攻撃を集中する。案の定水も風の壁を前に霧散するけど、集中砲火する事で邪魔をする事はできる。
『うおおおお~~~!』
ズドドドドドドドド!!
水魔法の攻勢に気をとられてる間にアネットはペチャクチャと五月蝿かった男の足の腱を切り払った。この様子だと笛は効果を発揮しなかったようだ。良かった。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
『アイ・アンノウン』
スキルが放たれたと同時にガタッとマルティナと応戦していた内の1人が倒れ込む。それを見た襲撃者の1人は「この・・」と漏らすとアネットに襲い掛かっていった。
しかしアネット。筋骨粒々な相手には簡単に押し倒されちゃう可愛い体をしてるけど、小手先を得意とする輩には見事な軽業で翻弄していく。相手も決して弱くは無いのだろうけど、ここは本調子のアネットの独壇場だ。
でも襲撃者は冒険者との熱いバトルを所望している訳ではない。対峙していた相手は咄嗟に横に退くと、そこに突如として突風が吹き荒れた。
「「吹き荒ぶ風よ 可の者の体躯を穿て ウィンドブラスト!」」
文言の違う詠唱から繰り出された風魔法は、先程の『プチダーク』を払ったものとは異なって、まるで風で出来た壁でも叩き付けたかのような音でアネットを軽々と吹き飛ばした。
「「吹き荒ぶ風よ 可の者の体躯を穿て ウィンドブラスト!」」
続けざまアネットに向かって魔法を放つ魔法使いだけど、今度はマルティナが盾を構えて彼の正面に立った。
ドンー! と言う衝撃音が振動となって私の元まで伝わってくる。だけどマルティナは盾を構えたまま耐えている。根性あるわね。
でも盾越しにもダメージがあったのかマルティナは苦痛に顔が歪ませていた。アネットも見た目通り打たれ弱いらしく、さっきの一撃が存外大ダメージとなったのか中々起き上がれないでいる。
他の襲撃者達は攻撃してくる様子がない。どうやら後は風の魔法だけで充分と読んだらしい。
「「吹き荒ぶ風よ 可の者の体躯を穿て ウィンドブラスト!」」
させない! 水で防げるかは分からないけど、飛んでくる風の壁に向けて私は魔法を放った。バンバンバン! と本物の壁にでもぶつかったような音がして水は弾ける。そのまま変幻自在な風の牙は今度は私へとその矛先を変えた。
ドン!! と言う衝撃を受けてから体が宙を舞ってから地面を何度か転がる衝撃をこの身に受ける。
『ミスティー!』
『〔ミスティー!〕』
まったく・・・幼気な女の子に平気で暴力を振るうとか、この男達はどんな性格をしているのか・・・ でも私とアネット、マルティナまで崩れて、残された1人に恐怖を与えるには充分だったらしい。
「あな!・・・ あなた達・・ じ 自分が何をしているか わかっ 分かっているの!? 上級貴族のルンドレン家の者に 手を出せば ぶ 無事ではすまないわ よ!」
だから・・・貴族宅に平気で侵入する連中に貴族の威光が通用する訳ないでしょうに。ここに至って場違いな事を言ってるルディアに無言の圧力を掛けると、彼女は後ずさった拍子に段差に踵を引っ掛けて後ろに転んでしまった。
せめて道を知ってる彼女だけでも逃げてくれれば助けも呼べるのに、こんな時だからこそ持ち前の口八丁で相手を言いくるめてくれないものかしら。
「い いくら欲しいの・・! 私を逃がしてくれるなら おかっ お金を払ってあげてもいいわよっ!」
どうやらダメみたい・・・
自分だけ助かろうとするルディアを嘲笑うかのように、無情にも男は魔法の詠唱を開始した。
「「吹き荒ぶ風よ」」
アネットは何とか立ち上がる事はできたけど意識が朦朧としている感じ。私がダメージを受けた拍子に水魔法に耳栓が破れて、笛の音が彼に届いてしまったのが原因かも。
させない・・・何でもいい。兎に角これ以上風の魔法を食らってはダメ。バンバンバン! バンバン・・・! 何度水を放っても相手には届かない。魔法の詠唱も止める事ができない・・・ ここまでなの?
「「可の者の体躯を穿て」」
マルティナも次の魔法に備えてアネットの前で盾を構える。今の彼女にはそれしか打つ手が無い。ルディアは・・・震えてばかりで使い物にならない。
どうする・・・どうすれば・・・
どうするもこうするも私には水の魔法をぶつける事しかできない。例え効果が無くっても防ぐ事ができないとしても、力を振り絞って水をぶつけるしかない。
パンパンパンパンパンパン!
「「ウィンドプラチュチョ!」」
・・・・・・・?
シーーーン・・・・
え? 魔法が・・・来ない?
「おい 何してる」
「? 魔法が・・・ 「「吹き荒ぶ風ょ きゃのみょにょの体躯をみゅがて ウィンじょびゅラちゅちょ!」」」
「ふざけているのか!」
「しょんにゃわけにゃい!! でも言びゃぎゃっ! うんま! うっま・・・きゅ!」
「・・・・・ 何だ どうなってる・・・ 何か変だぞ・・・ おい これは・・・お前らの仕業 か・・?」
いったい何を見せられてるのかしら。お前等の仕業かと言われても知らないわよ。そんな目で見られても困ってしまうわ。
『〔スピーキングNGワード〕』
〔え・・・失語さん? これはあなたが?〕




