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76・張り付く悪意

前回のあらすじ


ネイブラの提案でとある場所に連れてこられたアネット達。そこで目にしたのはこれから慰み物にされようとしている子供達だった。


それを目にしたマルティナとミストリアだが、駆け付けたウォルツォにより事なきを得る。

帰路についたアネットだったが、突如体調に変化が表れたのだった。

 


 キィィィィィィィーーーーーーーーン・・・



 慣れない環境に当てられたのか耳鳴りと頭痛、加えて平衡感覚にまで支障を来す程に僕の体調は悪化していた。


 今にして思えば“盲目さん”に指摘された時仲間に自己申告していれば良かった。ここまでは騙し騙し歩いてこれたものの、道半ばにして僕の足はついに止まってしまった。


 僕の世界は暗闇だと言うのに目玉がグルグルして気持ち悪い。壁に手を突かなければ立ってすらいられない状態にまでなっている。目が回るってこう言う感覚なんだろうか。



『アネット~ 大丈夫~?』


「・・・・・・ん? アネット? ちょっと・・・どうしたの? 大丈夫? どこか具合悪いの?」



 “盲目さん”の声にマルティナらしき感情がグラグラ揺れながら近付いてくる。返事を返したかったけど口を開いたら吐きそうな気がして僕は口を横に強く結ぶ事しかできなかった。


 僕達の様子に気付いたのかミストリアもネイブラさんも不安そうにグラグラしている。



〔──────────── ───〕


「そ そうね! 少し休憩しましょう アネットゆっくり座って 壁にもたれ掛かって!」



 マルティナ達に介護されながらゆっくり腰を下ろすと言われた通り壁に背中を預ける。それで常態が良くなる訳ではないけれど安心感が違った。皆それぞれ僕に話し掛けてくるけれど耳なりのせいか近くに居るのに遠くから話し掛けられてるみたいに聞こえてる。不思議だ。



「環境が変わると体調を崩す人もいますからね 加えてここは空気も悪いので そのせいかもしれません」



 そうなのだろうか。人混み然り洞穴然り、今まで環境の変化でこんな状態になる事はなかった。もしかすると僕の体調が悪くなったのは、先程の出来事が心労として加味されたからかもしれない。


 しかしここに来て僕の体調を更に悪化させる情報が“盲目さん”からもたらされた。



『アネット~ 周りに悪い人達が居るよ~』



 悪い人達? 耳鳴りのせいで遠くの音を拾えない僕は吐き気に見舞われながら未だグラグラする目で周囲の状況を確認した。すると建物の角から姿を現したであろう悪意を含んだ感情がヌラァ~っと染み出てくるのを捉えた。


 これが音に訊くスライムと言うやつだろうか?



「なっ! 何よアンタ達! さっきの連中の仲間なのっ!?」



 悪い状況に悪い事態が重なる。これは偶然と思いたいけれど金品目的のようには思えない。突然の事に躊躇していると少し離れた別の場所からも同様の悪意が現れる。動けないでいる僕達は見事周囲をグルリと囲まれてしまったようだ。



「仲間かどうかは分からないけど 確実に僕達を狙ってる 皆・・・ 気を 抜かないで・・・ さっきの人達とは 毛色が 違うから・・・」



 目の前の彼等に浮わついた心は微塵も無い。奴隷達を囲っていたあの男達が荒事に慣れている喧嘩屋だとしたら、此方は獲物を仕留める事を生業とするハンター。


 おそらく会話は通じないだろう。喧嘩であるなら和解の道も望めるが、ハンターが狙うのは獲物。結果あるのは殺るか殺られるかなのだから・・・


 マルティナとミストリアも緊迫する空気を機敏に感じ取ったか、気を張り詰めつつも僕を庇うように前に立った。


 しかし彼女達だけでは手に余る気がしてならない。今まで訓練でこそ人と対峙する経験はあっても、本気で命のやり取りをした事は無かった筈。ネイブラさんも自ら戦う人には見えないし。もっとも今の僕が一番のお荷物なんだけど・・・


 いざと言う時それが足を引っ張らないか、下手したらウォルツォさんに頼りきりになってしまうかもしれない。しかしこの状況「動けません」は通用しない。僕は不調ながらも壁に手を突いて剣の柄を握りしめると覚悟を決めた。



「4人・・ 情報通りだ」



 男のくぐもった低い声がそう聞こえた気がした。それを皮切りに彼等は動き出す。その間無駄話の類いは一切無い。慣れた仕事でもあるように複数ある内の3つの感情が此方向かって詰めよってきた。


 マルティナは条件反射的に剣を抜く。ウォルツォさんも冒険者なら武器を帯びているだろう。ミストリアは武装していない。しかし強力な魔法がある。ネイブラさんは護身用に何か所持しているのだろうか? と言うより戦えるのだろうか?


 残るは状態不良の僕・・・


 しかしそこは日頃の訓練の賜物か、牽制の為ミストリアが躊躇する事なく魔法を放った。


 が、思いも寄らない出来事が目の前で起きた・・・らしい。


 その威力で幾多の敵を地面に沈めてきたミストリアの水の魔法。しかし聞こえてくるであろう相手の嗚咽と水のぶつかる音が聞こえてこない。代わりに聞こえたのは風鳴りと肌に感じる明確な湿気。



「なっ! ミストリア!?」



 どうやら何かが起きたらしい。ミストリアの感情は途端に困惑色に変わった。隣に居たマルティナも信じられないものを見たとばかりに固まっている。



「え・・・何? どうした・・の?」


「水が・・・ミストリアの魔法が消えちゃった・・」



 動揺する彼女達だけど相手はそれが然も当然とばかりに動じない。その直後盾が剣と接触する音が辺りに響いた。動揺しているマルティナだけどイゼッタ先生の教えが活きたのか敵の攻撃にちゃんと反応できたようだ。



『アネット右~』



 “盲目さん”の声に僕は咄嗟に右を向く。すると別方向、壁沿いから迫ってくる感情があるのが見えた。弱った獲物を狙うのは狩りの定石。礼節を重んじて戦う騎士とは根本的な部分が違う。


 相手は素手なのか、それとも剣を振りかざしているのか。どの道焦点が定まらない常態で近付かれるのは不味い。悠長に剣を抜いてる暇はなさそうだ。僕は覚束ない足腰をフル活動して横に大きく飛び退いた。


 僕の状況に気付いたミストリアはすかさず水を放つが、それは迫る相手に届く事なく虚しく霧散してしまう。そんな駆け引きにならないやり取りで僕達はいつの間にかウォルツォさん達から離されてしまっていた。


 相手はまるで狩りでも楽しんでいるかのように小手先であしらっている。きっと地形と戦力と僕達を分析して余裕と踏んだのだろう。でも足手まといの僕にだってできる事はある。



「盲目さん・・・っ」

『プチダーク~』


「2人とも! 今のうちに・・・!」



 状況を判断した“盲目さん”が闇の霧を相手の周囲に展開した。この隙にウォルツォさん達と合流したいところだ。体勢さえ立て直せれば戦うにせよ逃げるにせよまだ何とかなる筈だ。



〔───!〕

「ちょっ・・! ぅん!」



 敵の視界を潰した隙に僕は2人の手らしき部分を掴むと重い体を動かしてウォルツォさん達の所に向かう。



「「渦巻く風よ 眼前に漂う闇を払え ウィンドブラスト!」」



 しかし同じ台詞が多重に折り重なり合う奇妙な声が聞こえてから数瞬。うねるような風が突如僕達の周囲を撫でるように駆け抜けた。



「え・・この風って 魔法!? 不味いわ風で靄が消えちゃってる!」


「そん・・な・・・」



 これが魔法か。ミストリアの水どころか僕のスキルもこれで封じられた事になる。まだ『アイ・アンノウン』と言う奥の手もあるけれどあれが使えるのは1人に対してだけ。しかも連続しては使えず暫くのインターバルを必要とする。


 まぁ1人は確実に潰せる訳だけど。そしてもう1つの手。



『ダークビジョンっ』


「!? ん・・ 何だ・・? 目が・・・」



 此方のスキルは相手の視覚に直接的作用するスキルだ。魔法で防げるものではない。しかしこのスキルも連発はできないのだ。だがここにきて初めて相手方に動揺が走った。つまり本気にさせてしまったと言い換えてもいい。


 油断なくにじり寄る敵。出し惜しみはしてられない。



「盲目さん!」

『アイ・ア─────────』









 ピィィィィィィィィィィィーーー!!


 虎の子を繰り出すのと同時に僕達から少し離れた場所で甲高い笛の音が辺りに鳴り響き渡った。



「皆さん! こっちです!!」



 直後ネイブラさんの大声が聞こえた。彼が笛を吹いたのか? 何か策でもあるのだろうか。しかし「こっち」と言われても「はいどうぞ」と相手が通してくれる筈もない。


 案の定敵達はもう自分を持ち直している。仲間がやられる事など初めから想定済みか、弛む事なく僕達を包囲し続けた。


 しかし手練れの筈の彼等の意識は状況に何かしらの変化があったのか一斉に別の何処かへと流れる事になる。彼等の注意が向かう先。何だろう。そこにはまた別の感情の集団が存在していた。


 次に起こった出来事は敵対していた彼等がその集団にも敵意を向けた事。互いに合図があった訳ではないけれど敵意が交錯した瞬間が戦闘開始の開始であったかのように双方が同時に行動を起こした。



「チっ! 話が違うぞっ どうする」

「前金を貰ってる以上 それなりに仕事をしなくては我々の名折れだ やるぞ」

「おうっ」


「風の魔法を使う者がいます! 斥候の存在にも気を付けて!」

「任せろっ!」

「1人は周囲を探れ!」



 彼等はネイブラさんの援軍だろうか。誰に言われたでもなく散開すると直ぐ様戦闘が始まった。敵の狙いは僕達だった筈。それが今では完全に意識がそれている。全力を傾けなければならない相手と言う事だ。頼もしい。



「ちっ! 厄介な!」


「攻め立てろ! そいつに魔法を撃たせるな!」

「了解!」

「残りは剣使いを抑えろ!」

「剣使いはウィンドカーテンの効果が付与されています! 接近時は突風に気を付けて!」



 鉄と鉄がぶつかる音に混じって風鳴りも聞こえる。敵も準備をしてきたのだろうけど援軍は数の力でそれらを押し退けていった。やがてその音も聞こえなくなると辺りに静寂が帰ってくる。


 どうやら僕達は窮地を脱出できたらしい。



「ネイブラさん大丈夫っすか?」

「あいつ等手慣れてやがるな 無理と判断したら 速攻引きやがった」


「私は平気です 皆さんお怪我はありませんか?」


「私達は大丈夫よ! それよりもアネットはっ!? 調子悪そうだったけど どっか斬られてない!?」



 マルティナは人前にもかかわらず大袈裟に僕の体をあちこち確認してきた。それにハッとしたミストリアも何故か興奮気味で色々触ってくる。



「だ 大丈夫・・・ 斬られてはいないと思うから・・・ それより・・ネイブラさん この人達は」


「彼等は私の奴隷達です 店で話した通り私は少々特殊な身の上ですからね 出掛ける際は密かに護衛がつくのですよ」


「そうなのですか 僕達は冒険者なのに 彼等を退けられられなかった・・・ とんだ失態です」


「気を落とさないで下さい 向こうには風魔法を使う者がいました 明らかにゴロツキではありません 言いづらいですが・・・本格的に狙われたのかもしれませんね」


「やっぱりマイナス等級持ちは狙われやすいのでしょうか・・・」


「それは何とも・・・ それより いつまでもこんな所には居られません 早く店に戻りましょう」



 僕はマルティナ達に支えられながらバードラットさんの店まで戻る事にした。安全が確保されても耳鳴り目眩はまだ余韻を残している。この体調不良は彼等の仕業だろうか。思えばミストリアにも“盲目さん”のスキルにも的確に対処していたし・・・


 とは言え。あれこれ考えるのは後にしよう。今はいち早く撤退してこの身を休ませたい。敵の事も気になるけどマルティナとミストリアには休息が必要だ。










「成る程 耳鳴りですか・・・ それはおそらく魔物避けの笛ではないですかね 本来人の耳には聞き取りづらい音なのですが アネット殿の鋭敏な聴覚には 耳鳴りとして聞こえたのかもしれません」



 宿に戻ると僕は部屋のベットに寝かされた。横になった事で多少は楽になったか頭がクラクラする症状は治まったようだ。


 その間、看病と称してマルティナとミストリアが色々と(せわ)しなかったけど今はされるがままになっておこう。それで2人の気が紛れるのならそれにこした事はない。


 暫くするとバードラットさんとネイブラさんそしてウォルツォさんが、てんやわんやしている僕達の部屋を訪れて今に至る。



「耳が良い と言うのも考えものですね まさかそれが塞ぎようの無い弱点になってしまうなんて・・・」


「そんな笛を街中で吹くとか 確実にアネット潰しにきてるじゃない! おまけにミストリアの魔法を全部防ぐわで 完全に攻略されてる気分だわ!」


「用意周到・・・ 多分あなた方が出会ったと言う奴隷商の男達とは別口でしょう 対応の仕方と言い いくらなんでも的確な駒を揃えるのが早すぎる もしかするとハルメリーに居る頃から既に彼等から目をつけられていたのかもしれませんね」


「何でよ! アネットは人から恨みを買うような事なんかしてないわ!」


「相手からはアネット殿が御馳走に見えたのかもしれません 好みは人それぞれですから 肝心なのはこれからどうするか・・ですが」



 どうするか・・・ 僕には戦いますか? それとも逃げますか? と言うニュアンスに聞こえた。



「どうもしません 仕事は続けます 例え僕達が狙われているとしても 護衛対象を守るのも 自分の身を守るのも やる事は同じです


 今の僕に大きい事は言えませんが 弱点が判明した今こそが正念場 冒険者を続けるなら足らない部分を補っていくしかありません」


「だが お前達が狙われていると分かった以上 依頼主の元に留め置くのはリスクしか無いのではないか? バードラットさん 今回彼等には手を引いてもらった方が良いと思うのだが」


「まぁまぁウォルツォ殿 相手が何者か分からない以上 私個人の敵・・・と言う可能性もあります もしかするとアネット殿達なら(くみ)し易いと 徐々に周囲から削っていく作戦なのかもしれません こう言う時こそ流されず どっしりと構えていれば良いのです」



 この人の胆力は相当だ。これが人生経験の差と言うやつだろうか。それはまさに壁のように頼もしく、僕は彼の気概に勇気付けられた気がした。





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