71・新しい依頼は・・・
前回のあらすじ
ラトリアの一件が無事解決するも当事者にはまだ乗り越えていかなければならない壁がある模様。
そんな中ギルドの立ち話でギルドマスター(ランドルフ)が洞穴で誰かを探しているとの噂を耳にする。
ラトリアの一件から数日。
ミストリアに何か心境の変化があったのか、選り好み気味だったギルドの仕事も掲示板から手早く剥ぎ取るようになっていた。
と言っても屈強な冒険者達に混じって朝の争奪戦を勝ち抜ける程ではないので、余り物と言えば余り物なんだけど。
それでも町中のお手伝いから雑木林や森の中までと、場所を選ばなくなったのは大きな一歩だろう。躊躇っていたモンスターとの戦闘も、数を重ねる毎に「殺す事」への忌避感も薄れて、今や立派なパーティーのアタッカーとして立ち回っている。
しかし冒険者として立派に成果を挙げているにもかかわらず、当の本人はどこか納得してないご様子。熟せど熟せど未だ“失語さん”の有用性に到達していないからだろう。
もしかしたらその焦りが彼女の無作為な仕事選びへと駆り立ててるのかもしれない。
前向き・・・と言うか前のめりになって転んでしまわないか心配ではあるけれど、あれこれ自分で考えるのは良い事だと思う。
そんな日が幾日か続き僕達は今日も今日とてギルドに顔をだすと、挨拶もそこそこカウンター越しのポリアンナさんから不意にお声が掛かった。
「あ・・ アネット君 ちょっと良いかしら」
「おはようございますポリアンナさん どうしました?」
「あぁ うん その・・ちょっと 私に付いてきてもらえる?」
どうしたんだろう。普段のポリアンナさんとはちょっと違う気がする。取り敢えず託児所にソフィリアを預けてから僕とマルティナとミストリアはポリアンナさんの後に続いた。
「皆様お待ちしておりました」
ギルドの奥にある部屋まで連れてこられると、そこにはバードラットさんの部下でコンシェルジュのマデランさんがいた。
何だろう。実はラトリアの件がまだ尾を引いているとか・・・
「あの 本日はどうされたのですか?」
「はい 実は商会よりアネット様個人に仕事の依頼をギルドにお願いしたく 此方に伺った次第です それに伴いまして アネット様には事前にお話を通しておこうとご足労願いました・・・」
良かった。取り敢えずラトリアの事ではないらしい。にしてもカストラ商会から直接の依頼って何だろう。
と思って待ってるんだけど・・・ここまで話したマデランさんはポリアンナさんが未だに個室に留まっているのが訝しいのか言葉が止まったままだ。
そんなポリアンナさんもこの空気を気にしているご様子。重い・・・
「私はっ アネット君の担当です! それにギルド長からくれぐれも気に掛けるようにと お達しを受けてるんです それに・・・
冒険者個人への依頼は 表向き禁止になっているんですから それが 誰の どの様な依頼であるのか 目を光らせるのは当然の事でしょう!?」
自分がマデランさんから邪険にされてると思ったのか、ポリアンナさんはすかさず彼の胸の内に抗議した。彼女の台詞に個室の女性陣は「うんうん」と同調する。
3対1流石に勝ち目はない。
「確かに・・・ これから話す内容は反対される可能性も含んでございます ですのでこうして正式に仕事を発注する前に 話をすり合わせる場を設けさせていただきました それに・・・
今回の依頼は是非にと 会頭から念を押されていましてね ともすれば皆様方の成長の一助になるかもと・・・」
「それは・・・ どう言う事でしょう」
「お願いしたい依頼の内容と言うのがですね セルマレイ公爵領 スプリントノーゼ内の会頭の護衛だからです」
「ス! スプリントノーゼ!? あんな所にアネット君を行かせられるわけないでしょ! 貴方分かった上で言ってるんですか!?」
「当然 全て承知の上で申し上げているのです」
突如声を荒げたポリアンナさん。でもバードラットさんからは既に街の実状については聞きいてるので正直「そこまで?」と言うのが感想だった。
けど。現役ギルド職員のこの慌てよう。実はまだまだ恐ろしい事が裏で犇めいているのでは・・・
「駄目よアネット君! スプリントノーゼは兎に角治安が悪いの! 君みたいに可愛い男の子が通りを歩いてごらんなさい! 間違いなく人さらいに連れてかれちゃうわ! それだけじゃないの! 特に・・・マイナス等級持ちの人は狙われやすいのよ・・・」
あぁそう言う事か。確かにマイナス等級=奴隷と言う印象がこの世界の共通認識にまでなっているのだから、フリーのマイナス等級が呑気に表を歩いてたらそれは確実に狙われると・・・
つまりそれ程までの治安の悪さと言う事。ここハルメリーで盲目である事を指摘された事はあっても誘拐される事はなかった。そう言う事だ。
「護衛の仕事と言っても 他の冒険者の方にもお声掛けをしておりますので そうそう心配なされるような事にはなりません 如何なスプリントノーゼと言え 全くの無秩序と言う訳ではございませんので
それに今回アネット様に依頼を持ち掛けた理由としましては 本来の仕事内容よりもスプリントノーゼと言う街を 実際に肌で感じていただく事が目的である・・・と 会頭より伺っております」
「だからと言って それがスプリントノーゼである必要はありません! アネット君の担当として看過できないわ!」
ポリアンナさんの心はマデランさんに対する不信感と怒りで満ちていた。僕を思っての発言だろうけど、今回に限ってはそれに異を唱えたいと思う。
それはバードラットさんがこの仕事を薦めてきた理由として、きっと足踏みをしている僕達の背中を押す為だと思ったからだ。
何となく分かってはいた。
今の僕達は理想を追うだけで現実を知らない。思わず目を背けたくなるもの、周囲が忌避する様々な事を知り経験しなければ、冒険者としての成長は望めないだろう事も。
もしかしたらこの仕事は僕達を見極める意味も込められているのかもしれない。
「ポリアンナさん 心配してくれるのは大変嬉しいのですが この話 個人的に受けてみたいと思うんです と言っても パーティーメンバーと話し合ってからですが」
「どうして!? ・・・とっても危険なのよ?」
「ポリアンナさんの様子から それはとてもよく伝わりました でも今の僕達に必要なのは 知る事 だと思ったからです
現実と向き合って生きていく為には 知らなかったでは済まされない事が多い マイナス等級持ちだからこそ 人より多くを知らなければ 普通に前を向いて歩いていく事ができないのです」
「アネット君 私はっ・・・ やっぱり心配なのよ 一ギルド職員として個人の感情を差し挟むのが良くない事くらい分かってる でも・・・
君は目が見えないの! 普通とは違うの!
酷い事を言ってる自覚はあるわ だけど普通の冒険者だって帰ってこない人だっているの なのにハンデを背負う君が無事でいられるとは思えないのよ」
冒険者と言う危険な仕事を許してくれても、やっぱり心配する気持ちが尽きない、それは家族を想う気持ちにどこか似ていた。
「ハンデがあるからと危険は待ってはくれません いざと言うとき動けない どうしたら良いのか分からない 冒険者はそれではダメなのです
的確に対処する為にも理解すると言う事は きっと何よりも求められる作業の1つ 僕は自分でこの道を選びました 選んだからには何一つ取りこぼしたくない その為にも立ち向かって行くしかないのです」
「君は・・・強いのね ・・・分かったわ 危険に赴く冒険者を信じて待つのもギルド職員の勤めだもの でもいい? 危ないと感じたら退くのも勇気だからね? その線引きを間違えて戻らなかった人は沢山いるんだからっ」
「はい でも・・・ 街中での護衛ですよ? ちょっと大袈裟すぎません?」
「いいえ! スプリントノーゼは魔窟よ! あの街に出向いて戻らなかった冒険者は実際にいるの!」
「アネット様 スプリントノーゼは諸々言われておりますが 刃傷沙汰で人を殺める事態を好みません 街の総意に逆らったらどうなるか・・・ 街に住まう者なら誰より心得ておりますから
寧ろ金銭関係でトラブルとなり 奴隷に落とされて街から戻れないケースが大部分を占めます ですのでそう言う場所に近づきさえしなければ問題はございません」
「そう言う」が「どう言う」場所を指してるのか分からないけど、護衛の仕事なのでそう言う場所とは無縁だろう。
「それで・・・ 僕としては受けてみたいと思っているんだけど2人はどう思う?」
「私は盾役よ? アネットが危険に立ち向かうならそれを守るのが私の役目なんだからっ」
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「うん・・・ それに ミストリアもやる気みたい」
満場一致で決まった今回の依頼だけど、護衛はバードラットさんのスケジュールで動くので、向こうでの滞在期間は下手すると一週間以上掛かるかもしれないと言われた。
一週間以上・・・そんな長期間家を空けた事はないし、ソフィリアの事も叔母さんの事も心配だ。でもこれも冒険者として避けては通れない。これも経験と思って呑み込む事にしよう。
「や-----だ-------!!」
自宅に戻って今回の仕事を家族に報告すると、話を聞いていたソフィリアがぐずりだしてしまった。
「アネットお兄ちゃんいなくなっちゃうの や------!」
「ごめんねソフィリア ちょっと長い間お家を留守にしちゃうけど 絶対ソフィリアの所に戻ってくるから ね?」
「そうよソフィリア だからちゃんと良い子でお留守番して お母さんのお手伝いをしないとダメよ? 私達がいない間 家を守るのはソフィリアの役目なんだからね?」
「うぅ~~~~・・・うえ~~~~ん!」
「私達の事はそんなに心配しないで あなた達は自分の事を第一に考えなさい? それと危ないと思ったら絶対に無理しない事 良いわね?」
「はい」
「分かってるわお母さん!」
オフェリナ叔母さんも背中を押してくれるけどやっぱり不安みたい。それはそうだろう。目の不自由な僕が何日も家を空けて、しかもいきなり知らない土地に行こうって言うんだから。
僕も僕自身が心配だ。でも思うところもある。
だって初めて行く知らない街に初めての遠征。ドキドキするけどワクワクもする。マデランさんが言うにはスプリントノーゼに到着するまでに野営を挟むんだとか。
そんな初めてだらけの冒険に冒険者としての資質が問われる。厳しい数日間になるかもしれないけど、真っ暗な僕の世界地図に新しい何かが書き込まれるのは少し嬉しくもあるのだ。




