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68・ハルメリー慰霊祭

前回のあらすじ


バードラットは状況を打開すべく町の有力者を集め町内会議を開いた。

話し合いの結果、毎年行われている記念祭は「慰霊祭」として催される運びとなった。


全てはオルソンをハルメリアに対面させる為に。


 今年のコドリン記念祭は急遽、ハルメリー慰霊祭として執り行われる事になった。いつもなら大通りは朝から大にぎわいとなるのだけど、今年は心なしか出店の数も控え目で例年のような馬鹿騒ぎにはなっていない。


 この日だけはハルメリーの冒険者達も依頼は受けずに祭りに興じるが、彼等も例の襲撃事件に思うところがあるのか、どこか(わきま)えている様子だ。


 しかしやはり鎮魂の気持ちか雰囲気を味わいたいのかは分からないけど、会場の広場に入れなかった住人達と一緒に冒険者も大通りに集まって通りはごった返している。


 広場の中の様子はどうか。


 去年までの記念祭なら、それこそ朝から場所取りをしないと式典を目にする事はできないのが慣例となってるけど、今年は故人の家族を優先して広場に招く流れとなるそうだ。


 亡くなった方の正確な数は分からないが、広場には収まりきらない程の人で埋め尽くされている事から、かなりの人がその生涯に幕を下ろした事が窺える。


 ちみに我が家では直接記念式典を目にしたものはいない。もっとも僕は盲目だしオフェリナ叔母さんもマルティナもソフィリアも花より団子で、式典うんぬんより祭りの雰囲気を味わう方に注力するのが我が家のスタイルだからだ。


 しかし今年は事情が違う。


 実はバードラットさんの計らいで貴賓(きひん)枠として、僕達は一般人が立ち入れない主催者や貴族が座る場所に特別に入れてもらっていた。


 その為か一緒に来たマルティナとラトリアは各所お偉いさんが集まっている中で緊張しているのかぎこちない。ミストリアは何の感慨も浮かばないようで平然としている。


 オルソンさんも歳と名声に同様・・・とは言い難く、どうにもハルメリアが気になるらしく心がそわそわと落ち着かないらしい。先程から気取られないよう辺りをキョロキョロしている。


 そんな彼等の心情とは無関係に、広場からは時折誰かのすすり泣く声が耳に届き、ここに集まる誰もが心寂(うらさび)しげな気持ちを心に宿して悲しみに暮れていた。


 その様相の最中(さなか)、式は恙無(つつがな)く執り行われたのだけど、不意にあげたマルティナの「げ! 何でアイツが式に参列してるのよ!」と言う声で予定は順調に進んでいる事が窺えた。


 次いで壇上に立ったのは司祭様だろうか、お祈りが始まると辺りはしんと静まり返る。そして町の外壁にある鐘楼の鐘が数度鳴らされ、人々は今は亡き帰らぬ人達に祈りを捧げ故人との別れを惜しんだ。


 何人かの偉い方のお言葉を賜り町長のお話が終わると一応の式典はこれにて終了となる。


 さて・・・僕達の本番はここからだ。








 式の前日──────


 僕達はバードラットさんと作戦の打ち合わせの為、彼の所有するお店に集まっていた。その場に呼ばれた人物は僕とマルティナそして当事者のラトリア。ミストリアにオルソンさんと・・・ディゼル。


 最初ディゼルと顔を合わせた女性陣は明らかな嫌悪感を示して、マルティナに至っては「何でコイツがここに居るのよ!」とバードラットさんに食って掛かった。


 事を荒立てまいとやんわり対処するバードラットさんが言うには、今作戦の肝はディゼルなのだとか・・・う~ん想像がつかない。


 しかしディゼルもディゼルで僕達に対する嫌悪は彼女達に負けていない。特に僕に向ける気持ちは何と表現したら良いのか分からない複雑な感情になっていた。



「おい! バードラット! 何でコイツらがここに居るんだ! 式典の事で話があるんじゃなかったのか!?」


「はい 勿論で御座います 今回私はこの慰霊祭を成功させるに足る人材を集めたつもりですよ?」


「一般庶民なんか参加させて 一体何の意味があるんだよ! 1人は(めしい)だぞ!」


「意味なら御座いますとも ディゼル様が今作戦を完遂された暁には 公爵家から謝辞が送られる事になります その為の人員は彼等でなければならないのですよ」


「はぁ? だから! 何でそこで公爵家が出てきて そこにコイツらが絡んでくるんだよ!」


「それは此方(こちら)に居られる女性 ミストリア嬢こそ このコルティネリ領の領主 ベルリンド様の愛娘だからです


 そしてミストリア嬢は この式典の成功を誰よりお望みであり ディゼル様がそのお手伝いをされる事を 何より所望しておられるからです」



 と言う文言が彼の口から出た途端、ミストリアの感情は冷たく氷点下まで下がっていた。多分顔にまで出ているかもしれない・・・



「は!? 公爵・・・ え?」


「ディゼル アンタ以前ミストリアに剣を抜いて集団で襲い掛かったんですってね 返り討ちにあったみたいだけど・・・ これって立派な不敬罪になるんじゃないかしら?」



 マルティナは弱味は握ったとばかりに口撃し始めた。今までの鬱憤も溜まっていたせいか怒りとか歓喜が混然一体となっている。



「あ・・ あれはアネットを狙ったんであって そこの女!・・・ ミストリア・・様を狙った訳じゃねぇ! それに・・それは既に終わった話だろ!」


「そうね! どう言う訳かアネットがギルドから一週間の謹慎を食らってねっ!」



 やはり時間は禍根を無くしてはくれないらしい。互いの悪感情がそれを良しとしないのか・・・ しかし今日集まったのは喧嘩をする為ではない。ラトリアの事件を解決する為だ。



「マルティナ 僕は大丈夫だから それにディゼルの言う通り その話はもう結論が出てるんだ 納得出来ない気持ちも分かるけど いつまでも過去を引っ張っていたら先の話なんか出来ないよ 僕達には何より優先してやらなきゃいけない事がある筈だよ?」


「うぅ・・ そうだけど・・」


「ディゼル様もこれを期にご自分の言動を(わきま)える事を学ばれた方がよろしいですな


 貴方がお父上の後をお継ぎになられるのでしたら尚の事 何時如何なる時も 貴方は人から品定めされるのですよ? 特に苦難や苦境に陥った時こそ注視されるものです」


「ケッ またそれかよ・・」


「アネット・・ 何だか君達も大変だな」


「お主ら とっとと話を始めんかい」



 ラトリアは呆れるように呟きオルソンさんからはツッコミをいただいた。


 バードラットさんからの言葉はこうだった。ハルメリアを拝もうにもガードが固く、家族ですらお目にかかれない程厳重に保管されている。現にディゼルも間近で見た事がないとか。


 そこで式典を行うに際しハルメリアを表に引っ張り出そうと言うのが作戦だ。今回はただのお祭りではなく慰霊祭と言う重要行事である為、町長も独断では断れない状況を作り出したとの事。


 そこで式の終了時、半ば強引にハルメリアをオルソンさんとご対面させようと言うのがバードラットさんのたてた作戦だ。その時間稼ぎに奮闘してもらおうと、今日ディゼルがこの場に呼ばれたらしい。



「はぁ!? そんな事の為に俺は呼ばれたんか!? 親父はあの剣の事になると神経質になるしよ! どうせ後でゴタゴタして面倒くせぇ事になるのは分かってんだ! やってられっかよ!」


「ハッハッ ディゼル様もいい加減ご自分の意思をお父上に示されてもいい頃合いなのではないですか? 貴方は将来はどの様になさりたいのです 誰しも自分と向き合うべき時期 そして立ち向かう相手は居るものです


 それから目を背けていたら 貴方はいつまで経っても()()()()()のままですよ?」


「な! 何だと!?」



 親子であり家族でもある町長とディゼルとの間には、どうやら確執めいたものが渦巻いているらしい。


 ディゼルは何故(なにゆえ)(いきどお)るのか。


 彼の連れてるスキルさんは“戦士さん”。一度は冒険者を目指したらしいが、結局彼とギルドで会ったことは一回もなかった。


 親が望む子供の将来。

 子供が望む親の姿。


 その行き違いが互いを認める事を良しとしないのかもしれない。ディゼルは将来どうなりたいのか・・・





 式当日───────


 あの後なんやかんやと揉めはしたが、結果的に彼はその役を引き受けてくれた。そして式に参列した事からも、どうやら父親と向き合う決心をしたらしい。


 式終了時、ディゼルは父である町長に話し掛けた。僕達はその隙に台座に鎮座ましましているであろうハルメリアの元まで、いそいそとオルソンさんと共に向かった。


 しかし剣の周りには普段あまり表には出ない宝剣である事にお偉いさん方も物珍しげに集まっている。その中を申し訳なさげに割って入ると、オルソンさんをハルメリアに御対面させた。


 最初こそ感慨にふける様子でまじまじと見ていた彼であったが、突如むんずと無遠慮に剣を掴み間近でじっくり舐めるように見回し「ぐぬぬ」と声を漏らした。



「おい! 何をやっとるか!」



 するとディゼルと話をしていた筈の町長は、やはりハルメリアの事が気が気じゃなかったのか、剣にたかる僕達の元に突っ込んできた。



「町長・・ これはどう言う事だ!」


「オ オルソン・・・・」



 オルソンさんは駆け付けてきた町長にハルメリアを突き付けた。本来居る筈のない彼の姿に絶句する町長。



「ぐぬぬぬぬ・・・・これは紛れもなく ワシらが作った剣ではない! 真っ赤な偽物じゃ!」



 名工オルソンのその一言に周囲からどよめきが起こり始めた。辺りの様相に混乱したのか、或いは絶対にバレてはいけない真実を吐露されたからか、町長はオルソンさんの手を掴むと「来い!」と半ば強引に連れ去ろうとした。


 故人を偲ぶ慰霊祭で一悶着起こすのもあれなので、僕達は今作戦の関係者と共に連れ立って町長の後を追う事にした。



「オルソン! これは偽物なんだな!? 本当に! 偽物なんだな!?」



 広場から程なくした場所にある何処かの建物に入ると、町長は開口一番オルソンさんに詰め寄った。



「あぁ 間違いない! ワシが剣の細工を施すときにコッソリ自分とガルトランドの名を 素人に分からんよう入れたのよ!」


「っ! 何と言う事を~・・・!」


「当時は何分若かったしな記念に名を刻んでおきたかった ちょっとした茶目っ気じゃよ だが問題はそこじゃない おいディダル! お前この剣を何処で(こさ)えた!」


「うぐ・・・ 私ではない・・・ 10年程前 とある貴族にハルメリアを拝借したいと要請があったのだ・・・


 その貴族はここの領地の者ではないが コドリン洞穴発見時からハルメリー発展の為 それなりの額をいただいたと先代の・・父からそう聞いていたからな


 だから剣を借りたいと言われた時に 私はその願いを無下にする事ができなかったのだ だがその貴族の悪い噂もチラホラ聞いていたからな ・・・悩みはしたが相手は上級貴族 町長ごときの立場では断れんかったんだ


 それがまさか剣が偽物にすり変わって戻ってこようとは・・・ 本来ならすぐにお前に確認させるべきだったが 多大な寄付を賜った貴族と事を構える選択が 私にはどうしても選べなかった


 例え偽物だろうと遜色違わない現物がここに有るのだからと自分に言い聞かせて・・・ 結局今の今まで誰にも話す事ができなかったのだ」


「それで ハルメリアを借り受けた貴族って何方(どなた)なのですか?」


「・・・・・・・・バウゼン伯爵」



 どうやら線が繋がったようだ。





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