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65・ミストリアの望むこと

前回のあらすじ


裏でルディアと共にナディラスを貶める企てをしていたグレドリーは、バードラットの手先に捕まって薬付けにされた。


一方、ルディアに接触を試みたバードラットは会話の末、協力関係になることとなった。


「一応確認するけど 本当に彼女が そんなことを言っていたのを聞いたんだね?」


「は はい・・・ 何だか普段と様子が違ったので こっそり後をつけたんです そしたら廃墟で知らない男の人と会っていて 最初は逢い引きかなと思い聞き耳をたてていたんですが その・・・ナディラスさんを(おとし)めるような事しようとしてて・・・」


「まさか 本当に彼女がそんな事を・・・ 重ねて聞くけど その言葉は真実なんだよね? 虚偽・・・では無いんだね?」


「ほ 本当です先生! 他の皆にも聞けば分かります! 今までだってルディアさんが裏で・・・ そう言う事してるって それで・・その ミ ミストリアさんにも・・・」



 宿に入ってすぐの開けた場所にくつろげるスペースが確保されているのか、僕達は訓練と気疲れからそこのソファーにどかっと身を任せていた。


 僕達の元に馬車で駆け付けた女の子、リーデットさんによれば同じ学園のルディアなる女生徒の(はかりごと)らしい。標的はナディラスさん・・・のみならず過去にはミストリアにもちょっかいを出していたとか。


 彼女が学園から退く原因にもなった出来事は直接ではないとは言え、そのルディアと言う女生徒に原因があるだろう。


 ・・・と、その話を直接耳にした2人だったけど、ナディラスさんは「それで?」と言った感じで全く動じない。ミストリアも多少感情が虚ろったものの、気持ちの切り替えができたのか取り乱す事はなかった。


 この珍事。依頼ではないにせよ護衛と言う意味では僕達冒険者の出番はここまで。ここから先はファムエルさんの裁量に委ねられる事になる。



「あのっ ミストリアさん その・・・が 学園では冷たくしてごめんなさい 私 周りが怖くって貴女の事避けてて・・・・」


〔・・・──────・・・──〕


「気にしてないって・・・ でもっ! そのせいで貴女は喋れなくなったんだし・・・私にだって責任がある・・・し」


〔───・・・─────・・・─〕


「そんな・・・うぅ ・・分かったわ その ダンジョンで戦ってくれて 助けてくれてありがとう」



 ミストリアがどう言った言葉を紡いだのかは分からないけど、言った方も言われた方も心の中に蟠っていたものが解けた気がした。勇気を出して謝罪をしたリーデットさんに続くように、此方を遠巻きに見ていた幾人かの生徒も同じく謝罪をし始めた。


 ミストリアは孤独を感じていたみたいだけど、本当は孤独なんじゃなくて彼女とお友達になりたいと思っていた子達は案外いたのかもしれない。


 そう考えるとミストリアから人間関係を奪ったルディアと言うと女生徒のした事は予想以上に罪深い行為なのかもしれないと思った。



 ★



〔私 冒険者になるわ〕


「え それ・・・本気?」



 あの一件が終わって落ち着いた頃合いで私は自分の思った事を打ち明けた。夕食時の一家団らんの空気を乱すつもりはなかったけど、言うなら家族が一堂に集まる今しかないと思った。



「え・・て言うか貴族って冒険者になれるものなの? そう言うのってミストリアのご両親と相談した方が良くない?」


〔家督を継ぐ人間であるなら無理でしょうけど 私は幸い女で 今となっては貴族としての価値も無いに等しいわ それに冒険者になりたいと言うのは 実を言うと副次的な目的でもあるの〕


「副次的?」


〔そうね・・・私は 私と同じ境遇の人 そしてこれからそうなる人達の為の指標になりたいと思ったの 早い話が今のアネットと同じになりたいって事よ〕


「アネットと同じって ・・・そりゃぁ盲目で冒険者って言う肩書きは ある意味目立つんだろうけど・・・」


「え 僕? 僕の話?」


「ミストリアがアネットみたいな冒険者になりたいんだってさ」


「そうなの? ん~・・うん ミストリアならなれるんじゃないかな 対人戦の時に何だかんだで最後まで残ってたし」


「そうだけど・・・そう言う問題じゃなくって────」

〔私はアネットに希望をもらったわ 私を暗闇から救い出してくれたの 私にはまるで素敵な王子様みたいに見えるわ 別にお姫様になりたい訳ではないけれど 皆がアネットのように生きられたらそれはきっと救われる人達が増えるって事だもの〕


「あぁ~・・ つまり! アネットみたいになれれば助かる人が増えるって言いたいんだってっ」


〔はしょらないでよ・・・ でもまぁ その為にはまず私がきちんと失語さんのスキルを使えるようにならなくちゃだけどね〕


「貴女がスキルを使える事で人が救われるって言うなら協力するわっ でもよく決心したわね」


〔今日 私に謝ってきた子達がいたでしょ? 心からの謝罪って・・・問題を問題としてきちんと受け止めているから出る言葉だと思うの


 自分の非を認めて 間違いを口に出せるって凄い事だわ 学園にいた頃の私ではできなかったでしょう でもあの子達は勇気を出して前に進んだわ 私も・・・変わらならなくちゃって思ったのかもしれないわね〕



 マルティナは何だか納得してくれたみたいだし、これで堂々とアネットを観察する口実を得たわ。もちろん個人的に楽しむ為でもあるけれど『予見の目』なんて超常的なスキルを知ってしまったら期待しちゃうじゃない。


 “失語さん”にだってきっと凄いスキルが眠っている筈。だからアネットをもっと理解してスキルさんの力を引き出す秘訣を手に入れるのだわ。









「おはようございますポリアンナさん 今ちょっとお時間いただいても構いませんか?」


「アネット君っ えぇもちろん構わないわよ? どうしたの?」


「実は────────」



 朝になったので私は冒険者登録をする為にギルドにやって来たのだけど、このポリアンナとか言う職員アネットになれなれしいわね。彼は人の助けがなくっても1人でちゃんと歩けるの。


 それを何? わざわざカウンターから出てきて手を握る必要ある? 見なさい。マルティナがワナワナ震えてるわ。



「え!? ミストリア様・・・さんが職員冒険者登録? え・・それ 大丈夫なんですか?」


〔問題ありません〕


「いや でも・・・ 領主様 お家の方に相談した方が・・・」


〔今の家族はアネットです 彼とはよく相談しました 貴女の言う家族の方がどなたかは存じませんが 全く問題ありません〕


「は・・はぁ・・・」



 冒険者登録って試験があるものと思っていたけど、アネット達から聞いてた通り名前を書いて説明を受ける。たったそれだけだった。


 学園では入学をするのにも卒業するのにも人を(ふるい)に掛けると言うのに・・・ そう言えばこっちに来てから一度も()()の姿を目にしてないのだけど。


 一体何処にいるのかしら。



 ★



「ね? 冒険者登録って簡単だったでしょ?」


〔そうね ちょっと拍子抜けだったわ 仕事を請け負う身なのだから厳しい審査があると思っていたもの〕


「冒険者って聞くと冒険に駆られる者ってとらわれがちだけど 実際はダンジョンで資源を取ってくる事を奨励されるもんね」



 それについては私も疑問に思わなくもないのよね。アネットは冒険者を微塵も疑ってないみたいだけど、命が掛かってるんだから名前を書いただけの人を危険地帯に突っ込ませちゃダメでしょって。


 これも本音と建前の一種なのかな。



〔ところで・・・私達以外のマイナス等級の人達の姿を全く見掛けないのだけど 彼等は何処に居るのかしら〕


「え?」



 そう言えば・・・ 気にしてなかったけど私も普段見掛けないわね。ハルメリーには居ない・・のかしら? そんな訳ないわよね。



「あの・・・2人とも その事なんだけど マイナス等級のスキルさん持ちの人って扱いが酷いらしいんだ その・・・聞いた話だと 捨てられたり 奴隷商に売られたりするって」


「何よそれ まさか自分の親がそんな事・・・」



 と言い掛けて言葉に詰まった。だったらアネットだって・・・



〔本当に・・・そうなのかしら もしそれが本当だったら詳しく知りたいわ〕


「・・・そう・・ね でもどうやって調べればいいんだろう ギルドに聞けば教えてくれるのかな」


「ん~ どうだろう 冒険者ギルドはあくまで冒険者を管理する組織だし その組織を運営するのは優秀な人材である筈だから 一般にマイナス等級と言われてる人達とは縁がないかも でも詳細を知ってそうな人なら心当たりがあるんだ」


「心当たりって・・・ まさかあのエセ商人じゃないでしょうね ダメよ! ディゼルみたいな小悪党と手を組んでるようなヤツ!」



 む~・・・最近アネットとあの商人との距離が近い気がする。そりゃ商人なんだから色々な情報を持っていそうな気はするけど、段々とアネットがあの悪漢に染められていくような気がして心配なのよね。


 学園の生徒達の宿の手配をあの商人に斡旋(あっせん)してもらったとか言うし。



「でもマルティナ 彼なら分け隔てなく 知るべき事は知ってると思うんだ」


「ぐっ でも・・・そう お金っ! あの商人の事だからどうせ対価を要求してくるに決まってるんだから!」


〔商売をする訳ではないのだから そんな法外な値段を請求されたりしないわよ それに もしもの事があれば私が家の名前を出せば良いのだわ〕


「えぇ~・・・」



 まぁ私も気にはなったけど、元々ミストリアのやりたい事と合致するのだし、私が横からしゃしゃり出る事でもないんだけど・・・


 妙な事吹き込まれて妙な事になんなきゃいいんだけど。はぁ~言葉の刃を盾で防げたら楽なんだけどね。



 ★



「成る程 それで私の所に相談されに来られた訳ですね ならば不肖バードラット ミストリア様の御為 誠心誠意お手伝いさせていただきたく思います」


〔そうですか それではよろしくお願いしますね〕



 驚いたな・・・詠唱無しの水魔法。それを自在に操って文字を操り足らない部分を補う。ハルメリーに来る前は病に臥せってると聞いていたが。これはアネットと接触して変わったと見るべきか・・・


 どちらにせよ優秀で有用だ。



「それで・・・ハルメリーのマイナス等級保有者は何処にいるか ですか ・・・なるほどそれをわざわざ私の元まで聞きに来ると言う事は お利口な答えを聞きに来た訳ではないと言う事ですね?」


「ギルドは畑違いな気がしたもので」


「そうですね 前もって言っておきますが これから話す事に関しては一切の配慮は致しません ただあるがままを述べさせていただきます ・・・そう緊張なさらないで下さい


 結論から申すと一部を除きちゃんと社会に溶け込んでいますよ 普段見掛けないのは自らの意思で出たがらない傾向が強いからでしょう 何だかんだ相応の経験はしている筈ですから」


〔つまり普通に生活はできていると〕


「だったら下向いて生きる必要ないじゃない 何で堂々としないのよ」


「まぁ 収入があるとは言え 彼等がそこでどの様な扱いを受けているかは また別の話ですので」


「は? 何よそれ・・・」


「つまり問題が問題として取沙汰されなければ それは問題にはならないと そう言う事です」


「じゃぁ影で酷い扱いを受けてるかもしれないって事!? それなら・・・訴え出ればいいじゃない!」


「はっはっは そんなのは役人にお金を掴ませれば終わりですよ そんな事よりも彼等にとっては自分達の食い扶持が無くなる方が問題です


 果たしてこんな自分を雇って暮れる所はあるのか そう言った部分はしっかりと教育されるでしょう ここ以外にお前の面倒を見る場所はないってね」


「・・・腐ってる」


「国に(つか)える人間 貴族 役人 兵士 その全てが品行方正で 汚れる事の無い聖人とでも? それを言うなら冒険者だって 詩に歌われる英雄のように称えられる者達ばかりになる そうではないですか?」


「それは! じゃぁどうすれば良いのよ このままじゃあまりにも救いが無いじゃない」


「そうでもないですよ 現にその環境を変えられるかもしれない可能性が今 貴女の隣に座っているじゃありませんか」


「ミストリア・・・・・」


〔・・・どうやら 自分が思っている以上に 爵位とは重いもののようですね〕


「彼等の境遇はまだマシな方です 問題は幼くして奴隷商に売られた者達ですね 彼等はまずまともな扱われ方はしないでしょう


 控え目に言って家畜以下 使い捨ての道具 それこそ様々な用途で文字通り 使用されます」


「このハルメリーで そんなことが横行しているって言うの!?」


「大っぴらには執り行われませんが 裏でこっそりと奴隷売買は存在してますからね ハルメリーでも もしかしたら日の当たらぬ所で苦しんでいる人が居るかもしれません


 が 業者の殆どが 隣の領地セルマレイ領のスプリントノーゼと言う街からの買付けが多いです」


〔セルマレイ・・・・〕


「そう言えば 学園の課外授業で来られた生徒様の中に セルマレイの公爵令嬢が居られたような・・・」


〔そうですね 彼女とはいずれキッチリと話をしなければならないでしょう でもまずは 私が失語さんの有用性を証明しなければ始まりませんね〕


「ミストリア様 お望みのものが御座いましたら是非私めにご用命下さい カストラ商会の名にかけて必ずや貴女様のご期待に答えさせていただきます」


〔カストラ商会 覚えておきましょう〕



 何やら思惑があるようだが、さてさて公爵令嬢様は何を見せてくれるかな? これでもし公爵家が動く事態になれば私はその先端に触れている事になる。ここは一気に公爵家に近付くチャンスだ。絶対に逃す訳にはいかない。


 そうなると此方もそれなりの誠意を見せなければならない。ちょうど情報も手に入った事だし、ここで披露しても良いか。



「そう言えばアネット殿 例の件で 実は進展がありました」


「例の・・・ ラトリアの件ですね?」



 この件。全てを明かしてしまっても構わないが、あまり深入りさせて()()目をつけられては敵わない。ここは情報を精査して適宜与えた方が良いだろう。


 彼には今後ともその見えない目で立ち回ってもらわなくては困るからな。





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