表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/357

64・ルディアの野望

前回のあらすじ


ギルド前で起きたいざこざを回避したアネット達は一路宿へ。


その途中1台の馬車が物凄い速さで近付いてきたことに一同警戒するが、中から出てきたのは学園教師ファムエルと1人の女学生。


気を許したところに以前知り合ったコンシェルジュのマデランがアネットの耳元で「問題は解決した」とささやいた。


 俺はある人物の依頼で建物の物陰からギルド前の様子を窺っていた。その依頼内容って言うのが、ある貴族のガキ1人を()めるって仕事だ。正直くだらねぇと思っても収入が絡んじゃ仕方ねぇ。金さえ手に入れば何だってやるさ。


 やり口はこうだ。


 まず偶然を装って相手にぶつかる。その衝撃で怪我が悪化したふりをして最寄りのギルドで話し合って平和的に解決する。


 それだけだ。


 こっちの狙いは相手が冒険者との間にトラブルを起こした・・・依頼主はその既成事実が欲しいんだそうだ。一体何がやりたいんだかね。


 お・・・アイツだな? 学園の制服。特徴も一致している。見るからに貴族のお嬢様って感じだ。気に食わねぇ。さて標的が動いたところで俺達も行動に移すか。



「いてー! いてーよー!」



 ハッハッハ。大の大人が子供の前で泣いて転がる姿は滑稽だな。が、そんな事しなくちゃならねぇのは、テメェで踏み外した人生のツケだ。恨むんなら自分の不甲斐なさを恨みな。



「そぉー! そっち! 金貨!・・・10枚で・・はぁはぁ・・・はぁ・・」



 クソがっ! 自分の役目はちゃんと果たせよな! そんなだから俺等のところまで落っこちてくるんだよ。そしてあのガキ! 自分の家が金持ちなだけでこれ見よがしに大金をちらつかせやがってっ! ますます気に入らねぇ。


 あぁくそっ。あの野郎金持ってトンズラしやがって。逃げられるとでも思ってんのか? 目先の事しか考えられねぇバカがよ。


 面倒くせぇな。どいつもこいつも・・・



「おい 次の奴に伝書鳩を飛ばせ 俺はそっちに合流する 残りは金掴んでトンズラこいたバカ共捕まえて教育してやれ 勿論金貨は忘れんなよ」


 ・・・・・・・・・・。


「おい 聞こえたのか? とっとと動け・・」


 ・・・・・・・・・・。


「おい! お前ら 何処へ行った!?


 ふんぐっ! 何だテメ・・ェ・・」



 くそ! 口を塞がれて・・・意識が・・・

 薬・・・か・・・














 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・ん・・


 ・・・んだ?・・・


 ジャラ・・・・・・


 チッ 鎖かよ・・・


 ハッ・・・どうやら下手こいたらしい。ったくついてねぇな。クソが誰だよ俺の邪魔しやがんのは。・・・あの段階で妨害されるって事は手の内がバレてたか、あのガキが護衛を雇っていたか。

 

どっち道この分だと仲間もやられてるんだろうな。



「おや 気付かれましたか?」


「あぁ? 誰だよ・・・・・おぃ まさか・・アンタかよ・・・ バードラットさんよぉ」


「おや 私をご存知で?」


「そりゃ この町でアンタを知らねぇ奴は ガキかモグラしかいねぇ で? わざわざ手厚いもてなしをしてくださった訳だが 何か旨いもんでも食わせてくれんのかい?」


「申し訳ない 接待する為にご足労願った訳ではありませんので ただ私個人として貴方に聞きたい事があっただけですよ」



 まずいな。仲間を奴の店の近くで彷徨(うろつ)かせたのが裏目に出たか。



「言っとくが こっちは別にアンタの顔を傷つけようとした訳じゃねぇんだ 仕事だったんだよ」


「そうなのですか 実は今朝がた宿から私の元まで急の知らせがありましてね どうやら店先でコバエがたかっていると・・・ 私の店から何やら貴方方の好きな甘い匂いでも漂っていたのですかな?」



 正直バードラットを敵に回したくねぇ。回したくねぇが依頼してきたのは貴族だ。そっちも敵には回せねぇ。どうする・・・



「あ あんたに迷惑かけちまったのは謝るよ 悪かった・・・ 俺も仕事だったんだ! ギルドに来る学生に因縁つけろって それで金渡されて・・・ 俺達だってこの道で食ってんだよ 貰うもん貰ってトンズラこく訳にはいかねぇだろ?


 ・・・知らなかったんだよ! あのガキとアンタに繋がりがあったなんて 俺は何も聞かされてねぇ! 誓って本当だ!」


「ふむ 私共といたしましても 店と客 それ以上でも以下でもありませんが・・・


 ただ彼女は公爵家のご令嬢でして このハルメリーの しかも私の縄張りで不手際が起きれば それは直接カストラ商会の信用に繋がる


 貴方の謝罪1つと釣り合いがとれるとでも? しかしご安心ください ご令嬢には迎えの者を(つか)わせたので 今頃は宿でお寛ぎいただいている頃でしょう」



 やけに足が速ぇな。やっぱ何処からか情報が漏れてたか、或いは飛ばした伝書鳩に細工でもされたか。


 いや・・・依頼主も貴族とは言えただの小娘、そっから情報が漏れた可能性だってある。仕事は失敗したが本人が無事だってならまだ助かるチャンスはある。



「そ そうかい そりゃ良かった・・・ だったら もういいんじゃないか? 今回は行き違いがあったって事でよぉ 勿論 仕事は失敗したって報告するし 縁も切る! 今後はあんたに迷惑かけねぇように 努めるからさぁ なぁ?」


「当然 問題なんて無いに越した事はありません ただ・・・最初に申した通り 今日この場にお招きしたのは 極々個人的な理由を解決したかったからに他なりません」


「な 何だよ ・・・その理由って・・・解決って 何・・だよ」


「はい 実は今回 王立学園の皆様がご宿泊される際 名簿を拝見させていただいたのですが

 その中におもしろい人物の名をお見掛けしましてね


 ルディア・・・ ルディア・ルンドレン」


「そ・・そいつが何だってんだよ・・・」


「ルンドレン家は伯爵位 かの家は実に面白い人物を輩出していましてね 最近までこのハルメリーに滞在していたのですが


 残念な事に先日不可解な死を遂げられました モンスターの襲撃で餌食になったとか はたまた暗殺されたとか・・・


 その者の名は プルトン・・・


 ねぇ グレドリーさん 彼の部下だった貴方の方が私より彼を良くご存知ではないですか?」


「ア・・アンタ・・・どこまで・・・」


「知っているか ですか? そうですね 例えばこの町をモンスターと共に襲撃した犯人は 彼を追ってやってきた とか 隣の領地で違法薬物を精製していたとか でも 私が聞きたいのは ハルメリーで冒険者相手にやらかした おいたの方です」


「おい・・ た?」


「えぇ 実は私と懇意にしているお方が あなた方が詐欺に使用していた とある物品を所望しておりましてね


 本来は現物が手に入るのが理想なのですが 何か情報だけでも・・・ と思いまして だから貴方をご招待した次第なのです


 ねぇ グレドリーさん 貴方はその当初からプルトン氏の部下だったのですよね?」


「ま! 待ってくれ・・・ 何を聞きたい! どれの事を言ってるんだ! お 俺だって全てに関わってた訳じゃねぇんだ! 身に覚えの無い事だってある!」


「まぁ 何年も昔の事ですから 全てを思い出せと言うのも酷な話でしょう ですので・・・」



 ガラガラガラガラガラガラ-・・・・



「これらの薬物を使用して 貴方の過去を振り返ってみようと思うのです ちょっとした旅ですね」


「は? ・・・ふ・・ざけ ふざけんな! こんなことっ して! たぁ ただで済むと思ってんのか!? はぁはぁ・・・っ こんなのがバレたら ア・・アンタだって綺麗なままではいられねぇ!」



 あぁ・・・そうか。



「私はねグレドリーさん 自分の店を・・権力を大きくするのに 裏で何もしてこなかった訳ではないんですよ 正直に言うと あなた方のしてきた事や している事に対して何も言うつもりもありません


 ただね 今 私の欲しているものが 貴方の頭の中にある・・・ それだけなのです」



 どんなに見ないふりしても否定しても暴力で蓋をしても過去は断ち切れない・・・



「アンタ・・・ 狂ってる・・・」


「他人を利用し 人生を狂わせ それに対して良心の呵責も無い貴方が それを言いますか」



 それがようやく俺に牙を剥いてきやがった訳だ。



「なぁ~・・ 待ってくれ・・ 少し時間くれよ・・・ そうすりゃ何か思い出すかもしれねぇからよ? な?」


「学園の皆様も あと数日もすれば帰途に()かれるでしょう それまでに何らかの答えは出したいものでしてね」


「あ あぁあ・・・あぁ~~・--!!」



 ガラガラガラガラ・・・・・


 どうやら本当に俺の命運は今日ここで尽きるらしい・・・



 ★



 私は宿泊する宿の3階から、窓越しに広がる雑木林と廃墟群を何をするでもなくボ~っと眺めていた。ただこの景色を目に何も思わない訳ではない。


 私の実家・・・


 今はもう廃墟になっているかもしれないその場所と、ここから見える景色がほんのりと似ている。眼下の情景に何処と無く切なさを感じながら時が経つのを待っていた。


 歴史の教科書によればこのハルメリーは昔戦争の舞台になったとか。その背景が政治であるなら今の私の境遇と何処か似ている気さえする。


 私の故郷。ルンドレン伯爵領はこれと言った産業が無い。ダンジョン自体も少なく僻地と言う事も重なって人工は少ない。その代わり自然豊かで空気は清らか、悪く言えばそれしかない。


 いっそ観光産業にでもシフトすれば? と思っていた矢先、現当主である父の先代つまり私のお爺様が御存命中、あれよあれよと領地はセルマレイ公爵家の直轄地となっていた。


 幼いながらに「どうして?」と思って両親に訊ねても「難しいから」と理由を教えてはくれなかった。たぶん大人の事情と言うやつだろう。


 で。


 私達はどうなったかと言うとセルマレイ領内のスプリントノーゼと言う街に引っ越す事になった。そこからの生活はどうなったかと言うと一言で言って好転した。


 ここは夢の世界だ。人がいっぱいいる。毎日がお祭りのような場所だった。あっちではできなかった贅沢がこっちではできるようになった。どうしてここに来ただけでこんな暮らしができるようになったんだろう。


 でも私が成長するにつれ贅沢を維持する為の競争がこの街を支えていると知る事になる。


 街の玄関口でもある全ての門。この街で絶対に無くてはならない防衛の要。そしてこの世の天国と外の退屈な地獄を隔てる境界線。


 私の年齢の折を見て祖父から公爵家と取引し、この門の全権を任された事を明かしてくれた。贅沢の正体はこれか。こんな暮らしができるなら目を瞑って領地を明け渡す気にもなるだろう。


 そのまま順風満帆に日々を過ごせるとも思ったけど現実はそんなに甘く無かった。私の視線が自分の事から外にも向くようになると、この交通の要衝とやらがかなり問題の起こる場所だと言う事が分かった。


 今にして思えば父の顔はスプリントノーゼにやって来た頃からどこか陰っていたようにも思う。こうなると分かっていたら父は祖父の取引に反対したかもしれない。


 そしてそんな父に追い討ちをかけるように頭を悩ませる出来事が起こった。


 父の弟。私にとっての叔父プルトン。彼が何やらやらかしたらしい。何でも冒険者ギルドと揉めたとか。目くじらをたてる程の事なのかと思ったけど、事は私が思ってる以上に深刻だったみたい。


 自分の家を傷つけられたと嘆いていた。


 私が王都の学園に入学した頃にも叔父は色々とやらかしたそうだ。まぁ記憶に無い叔父の事などどうでも良いと、当時の私は新天地に心踊らせたものだった。


 しかしそんな頭お花畑も学園生活を送る内に現実は非情である事を思い知らされる事となる。先ずは貴族と平民。持つ者持たざる者との差。更に貴族階級の差。才能や実力と成績。そして容姿。


 あらゆるものが露骨に比べられる世界に叩き出されたのだ。この競争社会で人は努力と苦労を知るのだけど、中には他人の足を引っ張るやり方に光明を見出だした輩もいる。


 ここに来てどうでも良いと思っていた家の汚点が表に出始める事になったのだ。最初は軽い噂から、話は次第に大きくなって私は貴族の面汚しと影で囁かれるまでになった。


 冗談じゃない。私が何をやったって言うの? 私のせいじゃない! 私は知らない!


 この噂はどうすれば払拭できるの? 努力して優秀であれば良いの? ・・・違う。そんな事してもクズ共は私を逃さない。目立てば目立つ程邪魔をしてくる。だったら・・・


 私もこの連中みたいになればいいじゃない。


 他人を巻き込んで仲間を作って、誰にも何も言わせない環境を整えればいいのよ。自分に矛先が向けられない為には他の誰かが犠牲になればいいのだし。幸いな事にこの学園には目下誰の目にも止まる人物が2人もいるんだし・・・


 ミストリアとナディラス。


 2人とも公爵家の令嬢で成績も容姿にも優れる。きっと気に食わないと思う子達も多い筈ね。貴女達が他者からの嫉妬に苦しんでくれる分だけ私は学園の主席に近付けるんだから。


 ルンドレン家の「恥」を拭う為。私の人生の為に沈んでいってちょうだい。











 眼下に広がる廃墟群。


 今頃ナディラスはどうなっているかしら。こんな廃れた場所に連れ込まれて傷ものにでもされていれば万々歳ね。


 私もね・・・ここまでするつもりは無かったのよ? でも貴女が悪いの。今まで地道に築き上げてきた周りとの関係を、魔法の才能に()かして壊そうとするんですもの。


 それだけは駄目・・・譲れないわ。栄光は私が手に入れる。誰にも渡したりはしない。


 そう言えば。小さい頃に実家の窓から見た夕日はここと同じように綺麗だったっけ。さて・・・そろそろ結果が出る頃合いかしら。下に降りてお出迎えしてあげましょう。


 傷付いて歪んだ顔を前に優しくしてあげるなんて最高ね。














 え・・・・


 うそ・・・


 何でソファーで悠々と(くつろ)いでるのよっ。それに周りにいる連中は・・・昨日一緒に洞穴に潜った冒険者達。それにミストリアまで。何で。


 そう・・ そう言う事。グレドリー達は見事失敗したって訳。どうする。連中はどうなった。まさか捕まった? それは不味い。奴等から私の事が漏れる可能性もある。


 そうだわっ。確か成功の有無にかかわらず伝書鳩を受け取る手筈になっている。急いで廃墟群に行かなきゃ。それにしても腐っているとは言え、熟練の冒険者を名乗る連中なら何とかしてくれると思ったけれど、どうやら私の見立てが甘かったようね。








 薄暗い・・・ランタン持ってくれば良かったかしら。連絡が入る場所はここであってる筈よね。



「鳩は・・ まだ来てないのかしら それとも・・・」



 作戦決行時からそれなりに時間は経っている筈なのに・・・まさか本当に全員捕まった? 自分には仲間や手駒がたくさん居るって豪語していたのに使えないヤツ!


 どうしよう・・・もしバレたら相手が公爵家となる。しかも私の家はアイツの領内・・・


 そ・・そうだわ。ワタシは騙されたと言う事にしましょう。ならず者と貴族の令嬢。どちらの言い分が正しいかなんて誰が聞いても明らかなんだし。



「あぁ・・・あ あ・・あ~ぁああ」


「誰!? ・・・ ・・・・」



 不意に聞こえたうめき声に体がビクッとなる。返事が無い。聞き違いか? いや微かに引きずるような足音が聞こえる。不審者? 慌てて飛び出してきたから帯剣していない。


 徐々に近付く不気味な足音に緊張が走る。廃屋となった崩れた建物から人影らしいものが覗いた。夕日を背負って顔は暗いが特徴的な顔には覚えがある。



「・・・・あなた・・ グレドリー・・?」


「あぁああ~~~~~! あああああ!!」



 と呻き、ヨダレを垂らしながら虚ろな目をして呆然と立ち尽くす姿は明らかに常軌を逸してる。何? 何なの? こんな事をナディラス達はこの男にやったと言うの? ・・・何と無く違う気がする・・・



「お初にお目にかかりますルディア嬢」


「っ!?」



 おかくしなったグレドリーの背後から1人の男性が私の声に返した。そこにいたのは見た目中年の男性だけど、壊れた人間を前にしてこの落ち着きよう、そしてこの無機質な目がグレドリーとは逆の意味で恐ろしさをはらんでいた。


 考えたくなくてもグレドリーを変えたのはこの男だろう。しかも私の事まで知っている。知った上でここに立っている。壊れたグレドリーを連れて・・・


 これは「危機的状況じゃないか」と私の防衛本能は警鐘を鳴らした。



「私の事を知っているなら そこで止まりなさい! 私の身に何かあったら伯爵家が黙っていないわ!」


「えぇ 心得ておりますとも ルディア・ルンドレン様 私も貴女に不手際をする為に赴いた訳ではありません ただ少々お話でも・・・と思いましてね?」


「話・・・?」



 グレドリーの様子から薬物か或いは何かのスキルか。相手が私を知っていると言うのなら、企ては全てバレたと思っていいわね。人をここまでするコイツはセルマレイ公爵家の人間なのか?



「貴方は何者です! 話がしたいと言うのなら まずは名乗りなさい!」


「おぉ これは失礼を・・ 私はハルメリーで商いをしております カストラ商会の商会長 バードラットと申す者


 驚かれたと思いますが此方のグレドリー君には 個人的に聞きたい事があっただけなのですがね それを引き出す為に薬物を複数回使用したら 言わなくても良い事までベラベラ喋り出すものでして」


「そう・・・つまり その情報を元に私を脅すと?」


「とんでも御座いません むしろ私は貴女と友好をと考えているのですよ」


「友好? 何故・・・そうなるの 彼から色々聞いたと言う事は私が誰に何をしようとしたのか 既にお分かっているのでしょう? 友好を結ぶならそちらの方々になさった方が後々有利になるのではなくて?」


「権威 と言う意味ならそうなのかもしれませんが 個人的に彼女達の性格は受け付けませんね それよりも 人との繋がりに重きを置く貴女にこそ好感を覚えます


 貴女は他人が望んでいる事を機敏に感じとり その欲求を叶える事に長けている筈だ でなければ人を体よく操る事などできない


 しかし このまま突っ走れば貴女は必ず破滅します そこでどうでしょう そろそろ違う道を模索してみませんか」


「違う・・・道?」


「えぇ あ~ あれ・・ ほら 空を見上げれば この季節ですと丁度あそこですね 一番星


 確かに一番と名がつくだけあって 名実ともに特別なのでしょう だけど時間が経てば その星もあっという間に幾千幾万の星の(またた)きに霞む むしろその広大な星の情景こそ心打たれると思いませんか?


 冒険者 商人 職人 そして貴族 それぞれに星があるように ルディア嬢 貴女には貴女にあった輝き方がある」


「・・・・・・・」



 そうなのだろうか・・・ 成績でも実力でも容姿でも、きっとその他でもナディラス達には敵わない。1番には輝けない。私にあるとすればせいぜい・・・



「周りの子達・・・・」


「貴女は人の感情の機微に聡い 皆で誰かを叩く一体感で纏めずとも 別の方向へと導く事もできる筈です そこで紡がれた関係は きっと学園1位の座よりもずっと価値がある おそらくは生涯にわたってね」



 確かに。


 主席。1番。1等賞。それらの栄誉も周囲の人間が評価をするから価値が生まれる。決めるのは周りの人間。だったら・・・その人間側を操った方が世界を自分の好きなようにできるんじゃないか。



「どうでしょう 今後の事について私と少しお話ししませんか 私は仕事柄貴女の抱えている問題も理解できますし 効率の良い運用方を提示できるかもしれません」


「口がお上手だこと そうやって私に取り入って その実伯爵家に近付きたいだけなのではないの?」


「フフ・・ スプリントノーゼはハルメリーには無い魅力が有りますからね 勿論お声掛けしたのも打算あっての事です


 あそこは一見 全てを貴族が取り仕切っているように見えますが 裏で動いているのは商人 彼等はただ商人が提供しているものを(むさぼ)っているに過ぎません


 実は我々カストラ商会もスプリントノーゼにとある店を構えておりましてね その方面の方々には贔屓にしていただいているのです もしかすると貴女や伯爵家の悩みを振り払う一助になれるかもしれませんよ?」



 人1人を壊し、その隣でのうのうと能書きを垂れるこの男は信用できるのか。しかしこんな非道な行いを臆面もなく披露する辺り、含むところはあっても騙すつもりは無いのではないか。


 この男がどういう人間かは分からないけど、話だけでも聞いてみる価値はあるのでは。何せ私の選んだ道はこの男のそれとさほど変わらない所にあるんだから。


 この男が人を道具にしたように、私も利用できるものは何でも利用しよう。学園の子達もそしてこの男も・・・





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ