60・ギルド報告会
前回のあらすじ
無事洞穴からの帰路につけたアネット一行。
各々抱えた思いを一歩前に進めた事でファムエルさんの思惑は一応の成功を見る。
しかしその途上、エルヴィラさんからのいきなりの告白を受け困惑するアネットだった。
あんな出来事があった翌日。
僕にマルティナ、ミストリア、ルミウス、エデルとリッタ、そして何故か昨日の女生徒・・・名前は確かナディラスさんはギルドの訓練所に来ていた。
それは何故か。端的に言うと昨日の反省会。つまり模擬戦の敢行である。
皆それぞれ昨日の体験に思うところがあったのだろう。その心に宿る思いは真剣そのものだった。
しかしその前に・・・・
昨日の帰り道でひと悶着あったのは言うまでもない。全ての元凶エルヴィラさんだ。
「結婚を前提にお付き合い」・・・とかいきなりの突飛な発言を側で聞いていたマルティナとミストリアは、人目があるにも関わらず彼女に食って掛かった。
場は一時騒然としたが、ギルドへの報告の折りに話をつけると言う事で一応の収集がついたものの、険悪な空気の中で僕は誰に何と言ったら良いのか分からず、心労までもが覆い被さる帰路となった。
学園の生徒達とは途中でお別れとなる。僕達冒険者組にはまだギルドへの報告と、互いの情報の擦り合わせもあるのでそのままギルドに向かう流れとなった。
その際ファムエルさんも僕達と一緒に動向する運びとなるが、相変わらず危険の矢面にたった事がショックだったのか未だ目を覚まさない。
ギルド会議室。
到着早々女性達の戦いの火蓋は切って落とされた。ランドルフさんの一喝で押し黙り3人ともシュンと項垂れてしまった。
役者も揃い場も落ち着いたところで、僕達は今回の出来事についての話し合いに入る事にした。
「それで? 軽く報告は受けたが 一体何があったのじゃ」
「以前話に出た 人の姿に動物の耳と尻尾を生やした人物・・・と言うかモンスターに遭遇しました 僕達は今回の仕事で2班に別れて洞穴の探索に向かったのですが その際それぞれのグループに1匹づつ 彼等は接触してきたみたいなんです
僕達の所に現れたのは女性で『試す』と称し そのまま戦闘になりました」
「私達の所に来たのは狼みたいな頭した 二足歩行の男のモンスターだったよねー でも人の言葉喋ってたし モンスターなのにスキルさん連れてたし・・・んでメチャメチャ強かった」
「あぁ 奴は戦士さんを連れてたな 武器ではなく素手での戦闘を得意とするタイプだった 単純に強いと言うのもあったが とても戦い慣れていると言う感想を抱いた」
「此方は狩人さんだったな 力強さじゃなく 持ち前のスピードで撹乱してきたって感じだ それに加えて出血スキルとか反則だぜ」
「それと気配・・・ と言うか 音が全く聞こえなかったよね 武器が振るわれる際のちょっとした風切音が聞こえただけだった」
「マジかよ アネットでそれか・・・」
僕とルミウス、エデルとリッタは矢継ぎ早に彼等の評価を口にした。敵とは言え技量は相当なもので悔しいけど素直に評価する以外に言葉が出てこない。
「それで 何故お前達はそんな奴等と出くわした? もっとも何かを試す と言っていたのなら 偶然と言う訳でも無さそうだが」
「その事なのですが 巫女様からの伝言を預かってきたと言っていました 恐らくその伝言を受けるに相応しい相手を 戦闘行為をもって試したんだと思います」
「巫女・・・ 洞穴内部の状況は謎も多く モンスターの営み等 どの様になっているのか 今尚解明されていない部分もあるが
人の言葉を話し 巫女なる存在も居る事から ある程度の社会構成が出来上がっていると見るべきじゃな して その伝言とやらは受け取ったのか?」
「はい 『お前の世界に暗雲が立ち込めた時 私の元まで来ると良い 太陽は空の上だけにあるのではないのだから・・・』 と」
「お前の世界にか これまた随分とスケールの大きい話じゃのぉ ・・・それにしてもこの文言からは敵対する意思は見受けられない様に思う それどころかむしろ助けようとしている・・・と捉えるべきか?」
「もしかしてこの前のモンスターの襲撃 その再来でしょうか 結局あの子供も逃げてしまって 未だ消息は掴めていないのですよね?」
「確かに 今ありそうな可能性としては その線が濃厚じゃが しかし各地のモンスターの分布も元に戻りつつある様だし 時が来るまで鳴りを潜めているのやもしれぬな」
「でもさー あのモンスターが言ってたんだけど あの方って言うのが その巫女だとして 目と耳と口がきけるんなら違うんじゃないかー とか言ってたよ? ねぇエデル・・」
「あぁ そうだ確かに・・・ そんな事を言っていた気がする そこから察するに彼等の探し人は健常者ではなかったんじゃないか? つまり此方のグループには失語さんを連れた彼女 そっちにはアネット
そもそも全ての人類に宛てた警告なら その2人である必要は無いんじゃないか? 戦闘で試すと言うのなら 強い冒険者なんてそこらにゴロゴロ居るんだし それこそ俺達である必要は無い
何となくだが 君達2人を呼び寄せたいと言う意図が隠れている様に思う」
「成る程な つまりは2人の共通点 どちらもマイナス等級のスキルさんを連れていると言う点で一致しとるか
連中はそんなスキルさんの能力を欲している と言う見方もできる訳じゃな であるなら 奴等にも何かを成し遂げたい目的がある と言う答えも出てきそうじゃ」
「おいおい 危なくて上層にすら行けなくなっちまったじゃねぇかよ どうすんだ? アネット」
「多分だけど 大丈夫だと思う 彼等がその気だったら僕達を拉致する事は容易くできた筈だ でもそれをしなかった
彼等の目的がスキルさんの能力とした場合 絆を育まなければならない分 力ずくと言うのはむしろ逆効果だと思う
従って僕達のどちらかに宛てられた伝言であったとしても 時期が来れば必ず洞穴の 彼等の元まで行く事になるし 彼等はただ待てば良いだけだからね
伝言を伝えた時点で 彼等の目論みは全て成功していたんだ」
「まてまて 何で連中の所に行く事が確定なんだ? 何の根拠もない世迷い言と同じ様なもんだろ」
「それは・・・ 何故そう思うのかを この場で口にするのは・・・ ちょっと躊躇われる・・・かな」
僕はそっとエルヴィラさんに顔を向けた。複雑な思いをしていた彼女だったが、話す決心がついたのか毅然とした態度で言葉を綴った。
「その事については 私から説明しよう・・ だがその前に これから話す事は他言無用に願いたい これが外部に漏れた場合 下手をしたらアネットはこの町に居られなくなる可能性があるからだ」
「お・・大袈裟だな でも分かった 誰にも口外しないと約束しよう エデルとリッタも いいな? 特にリッタ」
「ひっどー! 言わないもん! 大丈夫だから!」
「端的に言うと問題はそのスキルにある
『予見の目』と言う 盲目さんのスキルなのだが 完全に未来予知と言って過言はない 精度はほぼ確実に当たる
いつ何処に行き何をすれば良いか それさえ順当に熟こなせば思い通りの未来になるだろう
巫女とやらが同じ盲目さんを連れているのかは知らないが 何らかのスキルを有し此方に接触してきた可能性は高い
ただ1つ『誰に会いに来た』など その正確性が欠けているのが気になるが 未来は不確定の部分も多いからな これから起こる出来事が大規模であるなら 目的の為の行動を的確に絞り込む事ができないのかもしれん」
「な 何か 突拍子もない話だな・・・ もしかしてアネットも使えるのか? その予見の何たらってスキル・・・」
「僕は使えないよ そのスキルを修得できる予兆はあったんだけど 望む人生とは違うなって思ったら 覚えなかった」
「確かに・・ これが事実ならアネットは四六時中 誰かに付け狙われる事になりそうだの そればかりか 世の盲目さんを連れた人達にとっては 最悪の事態になりそうじゃわい」
「実際 私のいも・・・ 知人は! そのスキルのせいで家族から死んだ事にされた挙句 ほぼ軟禁状態の生活を送っているからな」
「うわぁ・・・」
「ともあれ かもしれない未来の話を ここでしても始まらん アネットは洞穴に赴く際は暫くは腕のたつ冒険者にくっついとれ ワシから話は通しておく
それと今回の依頼人はどうした 仕事の事で話をせにゃならんと言うに・・・」
「それなら医務室で 今も気を失ったままだと思います」
「やれやれ まぁ一通り報告は受けた 皆の者ご苦労だったの 今日は疲れたじゃろう 早々に帰って次に備えてくれ
もっとも・・・ これからもう一戦控えておる連中を残して・・・ 解散っ!」
と言うランドルフさんの声の後、僕とマルティナ、ミストリアとエルヴィラさんの4人だけが部屋にとり残された。
誰が何を言う訳でもなく先程から重たい空気が室内を包み沈黙が続いている。大人数で集まってる時より部屋が狭く感じられるのは気のせいだろうか。
しかし黙りこくっていても始まらないと、最初に口火を切ったのはマルティナだった。
「で? どうして結婚を前提としたお付き合いとか いきなりそんな話になったんですか!?」
マルティナは半ば敵意にも似た感情をエルヴィラさんに向けるが、等の本人はどう感じたかおくびにも出さず、ツラツラとあるがままを伝えた。
「確かにいきなりだったかもしれない だが 過ごした時間の長さは さして重要ではないと思う 例えば 互いに言葉を交わさずとも 剣を交えればその人となりが窺い知れる様に 少し接してみれば 相手の持つ人間性と言うものは 存外見えるものだ」
「そんな達人の領域でアネットを計らないで下さい! 普通はもっと時間を掛けて お互いを知った上でゴールするものでしょう!? 大体アネットの何処に惹かれたんですか!? それとも一目惚れですか! ちょっと短絡的すぎやしませんかね!」
「マルティナ落ち着いて・・・ エルヴィラさんも詳しい説明をお願いします 正直貴女とは昨日今日会った様な間柄 それがいきなり交際に発展するなんて あまりにも唐突すぎますよ
もしかして 妹さんの事と何か関係があるんですか?」
「有り体に言えば・・・そうだ 妹が言うには お前と懇意にする事が 私達姉妹にとって吉兆を齎す事になるらしい
2人には言っていなかったが 先程の話し合いで盲目さんを連れているのは知人と言ったが 正しくは私の妹だ だが置かれた境遇に関して嘘偽りは無い 私は妹に絡まる鎖を解いてあげたい一心なだけだ」
「つまり好いた惚れたの浮いた話では無いと そう言う事でよろしいのですね?」
「肯定だ・・・・」
「だったら初めからそう言ってくれれば良いじゃないですか! 紛らわしい!」
「それを正しく説明をするとなると 家の恥部にも触れなければならないし 『予見の目』の事もあるからな おいそれと口に出す訳にもいかなかったのだ
それに 騎士道一筋に生きてきた私だ 異性との付き合い方など 剣を交わす事以外与り知らん!」
「まぁ・・ そう言う事なら・・ お お付き合いとかはダメですけど 適切な距離を置いての友人関係でなら許可します 私はアネットの家族ですからね! それを決める権利があるのですっ!」
〔・・・! ・・・・・!〕
「その事なんだけど エルヴィラさんの都合がついた日にでも 妹の・・・シルヴィーさんに会いに行こうと思うんだ
同じ盲目さんを連れていると言う事もあるし スキルに関しても情報交換とかしてみたいからね」
「・・・・え?」
「うむ 実のところ 妹の方こそアネットに会いたがっているのでは・・と 思ってもいたのだ
シルヴィーは普段からそのスキルを両親や私の為にふるっていたのだが あの日初めて『私達に』と自分を含めた あの子もあれで年頃の娘だしな 異性に興味が沸いても何ら不思議はないだろう」
「・・・・・」
「それとマルティナ 僕が妹さんに聞きたいのは 何もスキルに関してだけじゃないんだ
例の巫女の伝言 あれが何らかの予知とした場合 必ず何かが起こる事になると思う ならそれは 何時 何処でどの様な形で起こるのか 妹さんの『予見の目』の助言を貰わなければならないと思うんだ」
「ぐ ぐぬぬぬぬ・・・そ そう言う事なら私も付いていくわ! 家族ですもの! 当然守る義務がある筈だわっ!」
〔・・・! ・・・・・・!〕
そこに何故かミストリアまで一緒になって鼻息荒く首を縦にしている事から、その時は彼女も一緒に同行する事になりそうだ。
しかしエルヴィラさんも本来の騎士としてのお勤めもある事から、出立の目処は全く分からない。「伝言」の事は気になるが来るべき日の為に僕も鍛練を積みつつ気長に待つ事にした。
そして翌日。
僕達は反省会と言う名の模擬戦に明け暮れる事となったのだ。




