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6・“盲目さん”スキル

あらすじ


アネットは私が守る!

『アネット大丈夫~?』

「う・・・うん」



 今朝がたあんな事があったせいか帰り道が怖い。無心で薪を割って考えないようにしてたけど、また町中を通らなくちゃと考えると鼓動が激しくなってくる。



「今日はギルドには行かないでそのまま家に帰ろう」

『だね~』



 帰りが遅いとまたマルティナを悲しませてしまう。僕は勇気を振り絞って帰路への一歩を踏み出した。


 大通りは普段と変わらない。これだけの人混みなら絡まれる心配もない筈だ。兵士の人もいるだろうし。それにしてもどうしてディゼルは僕を狙うんだろう。やっぱり僕がマイナス等級って呼ばれてるから?


 今こうしてすれ違う道行く人も、心の何処かでそう思ってるんだろうか・・・









「ただいま」


「おかえり~」



 家に帰るとトテトテと可愛い足音で駆けてきたソフィリアが僕を迎えてくれた。そのまま僕に抱き付くと顔をスリスリしてくる。この子の温もりに家に辿り着いた実感がわいてようやく安堵した。



「ただいまソフィリア ・・・ねぇ マルティナはいるかな?」



 家の中はオフェリナ叔母さんが夕げの支度をする音が響く。でも普段とは違うのはその音が1人分である事。マルティナはいつも叔母さんの手伝いを欠かさないのに。



「お姉ちゃん どこかに出掛けてるよ~?」



 ・・・それは買い物であると信じたい。彼女の気性を考えると1人でディゼルのところに乗り込んでもおかしくないのだし。そう思うと段々不安になってくる。探しに行った方がいいのかな。



「ただいま~────」

「マルティナ!? ・・・よかった」


「・・・ただいまアネット お帰りなさい」


「うん ただいま」

『ただまー』



 良かった・・・ちゃんと戻ってきてくれた。自分にとって大切な全てが無事であった事がこんなにも安心できるだなんて初めて知った思いだ。



「マルティナ あの・・・今日は助けてくれてありがとう」


「あ・・・うん」


「あれ?」


「ん? なに?」


「いや・・・何か色が・・・」


「色?」



 何か僕の目にうっすら色が写ってる。それはちょうどマルティナと同じ位置にある。僕は側にいたソフィリアと夕食を作ってる叔母さんとを見比べた。すると2人にもマルティナと同じような色がついている。


 何・・・これ。


 そう言えばディゼルが僕を斬ろうとした時にも何かが見えたような気がした。あの時は怖い思いしかなかったけど、思い返してみれば真っ暗な僕の世界の中で黒い何かが揺らいだ気がした。


 叔母さんとソフィリアはフワフワした色。マルティナはハッキリした色に見える。人によって違うのかな。何だろう。



「ううん 何でもないよ・・・」



 目を擦ってもシパシパしても消えたりしない。明らかに見えている。でもこれ正直に言って大丈夫なやつかな・・・ マルティナにはもう心配かけさせちゃってるし、もし目に不調をきたしたとかだったら余計不安にさせちゃうかも・・・


 取り敢えず話すにしても今日は止めとこう。うん・・・


 夕食を終えて夜。


 僕はベットに横になってこの目の事を“盲目さん”に訊いてみた。



『それは ハートフォーカス だよ~ 人の心が色付いて見えるの~』

「心が? つまり・・・気持ちって事だよね それが色で・・・ これがスキル」



 スキルさんはその名の通り様々なスキルを授けてくれる。でも属に言うマイナス等級と呼ばれるスキルさんにはその恩恵は確認されないとされてきた。


 これはその常識が覆された瞬間でもある。



「でも・・・心かぁ 色でね~ 取り敢えず・・・これ絶対人に言っちゃいけないやつだ」



 誰にだって知られたくない気持ちはあるし、こんなのが世間に露呈したらマイナス等級がますますマイナスになっちゃう。



「盲目さんも心が色付いて見えてるの?」

『うん アネットの心はキラキラ~』

「キラキラ・・・してるんだ 僕って」

『でも他の皆がボクを見ると凄く嫌な色になっちゃうんだ それが悲しくて痛くって だから隠れてたの~ でもね アネットはボクを見てもキラキラしてたんだ~』



 むかし大人の人に苛められてたスキルさん達がいたけれど“盲目さん”も同じ目に合っていたのかな。そう思うと何だか悲しくなる。だって今日の僕と同じ気持ちだったなら、とても辛くて痛いから。だからせめて温かくなるよう僕は“盲目さん”を抱きしめた。



「僕も盲目さんの心が見えるよ? とっても綺麗な色してる」

『えへへ~♪』



 眠る前の微睡(まどろ)みの中“盲目さん”との会話は僕に安らぎを与えてくれた。


 思えばマルティナやソフィリアや叔母さん“盲目さん”の支えがあったからこそ今の僕がここにある。誰かが側にいてくれる事がどれ程救いになっているのか、目が見えなくなってよく分かった。


 僕は“盲目さん”と寄り添い、満たされた気持ちで眠りについた。








「おはようアネット!」


「う うぅぅ・・・ん マルティナ?」



 窓から射し込む光はいつもより弱い。鳥達の声も遠くで僅かにしか聞こえない。何だろう。起きる時間にはまだ早いと思うけど。



「どうしたの? まだちょっと早いよ?」


「ほらっ とっとと起きて さっさと着替える!」


「・・・え?」



 マルティナはおもむろに布団を引っ剥がすと僕の寝巻きをむしりとった。後はされるがまま強引に普段着へと着せ替えさせられて、むんずと手を掴まれると無理やり外へと連れ出された。



「え? え? マルティナ? 何・・・?」


「朝の運動! アネット体力無いんだから体動かして鍛えないと! ・・・立派な冒険者になれないじゃないっ」


「え・・・」



 それは初めて聞く肯定の言葉だった。マルティナが認めてくれた? 今までマルティナがどんな色をしていたのか分からないけど、今はハッキリと力強く色付いている。



「わっ・・・」



 気恥ずかしかったのか、彼女はそれ以降黙ったまま僕を手を引いて走り出した。家の前の小道から大通りに出て人のまだ少ない道を走り続ける。前を走るマルティナの背中に僕はソッと「ありがとう」を言った。










「ふぅ~」


「ぜぇぜぇぜぇ~ぜぇ~・・・はぁーはぁーはぁー・・・」



「ちょっと・・・アネット? どうしたの 朝っぱらから汗だくになって」



 おかしい・・・子供の頃から冒険者ごっこしたり素振りしたり薪割りまでやってるのにマルティナに追い付けない・・・ これはきっと彼女が年上の人だからだ。僕もマルティナと同い年になれば体力も上がる筈・・・



「はぁ~ はぁ~ ちょっと・・・運動を・・・」


「マルティナ あまり無理なことさせちゃダメよ?」


「わかってるわよ! でも毎日ちょっとづつやってけば きっと体力もついてくわ!」



 毎日続くらしい・・・どうやら日課になりそうだ。朝食も終わって仕事の時間になるとマルティナは僕の手を引いた。



「マルティナ?」


「さっ! 薪割り場まで行くわよ?」


「え? ついてくるの?」


「当たり前じゃない あんな事があったのよ? 一人でなんか行かせられないわ!」



 あんな事があったからこそマルティナを巻き込みたくないのだけど・・・ もし僕と一緒の所を見られたら今度は彼女が標的にされないかとそれが心配だ。



「大丈夫よ 何かあったら私がアネットを守るわっ」


「う うん」



 それは本来僕が言わなきゃいけない台詞なのでは? 僕はここでも手を引っ張られてしまった。











「アネット お前ちょっと筋肉がついてきたんじゃないか?」



 仕事の終わりに親方のモーリスさんは僕の背中を擦りながら言った。だとしたら嬉しい。この仕事を始めてかれこれ1年。それは僕の理想とする偉丈夫に近付いてる証拠なのだから。


 そもそも薪割りの仕事を選んだ理由も「お金を稼げて体も鍛えられる」と思ったからで、ここで多少は仕上がった体になってもらわないと困る。何せ肉体労働をしている筈の僕がマルティナより体力が無いのはさすがに見過ごせないからね。


 仕事場を後にして僕は大通りにある冒険者ギルドに寄る。今日はジョストンさんが稽古をつけてくれる日だ。そのジョストンさんだけど、彼は(れっき)とした現役の冒険者だ。


 冒険者と言っても活動内容は色々あるらしい。例えばダンジョンでひたすら資源を集める人やダンジョンの奥を目指す人。世界に散りばめられているダンジョンを巡る人。


 ジョストンさんは鉱石を掘る採掘師の護衛と言う名目でパーティーを組み定期的に潜っているそうだ。本当は世界を旅して色んなダンジョンを見てみたかったらしいけど、結婚して子供ができてからはそれはできなくなったと溢していた。



「お アネット! 来やがったなぁ?」


「ジョストンさんこんにちわ」


「おぉ こいつがジョストンの言ってたヤツか おいおい ほんとに盲目さん連れてるぞ」


「ちょっとジョストン大丈夫なの!? 目が見えない子に剣持たせるなんて 何考えてるのよ!」



 ジョストンさんの周りには2人の人物がいた。1人は男性もう1人は女性だ。人の心が見えるようになってからはどうしてもそこに意識が向いてしまう。それによるとこの2人は本気で驚いているようだ。まぁこれが普通の反応なんだよね・・・複雑だけど。



「いいからお前らも来いよ 面白いもんが見れるぜ?」



 僕は彼等の後に続いてギルド本館の裏手にある訓練所までやって来た。いつもそこで稽古をつけてもらってる。


 その稽古や如何に。


 ジョストンさんは「習うより慣れろ」の方針なのでほぼ実戦形式で行われる。勿論手加減はされてるものの不真面目と言う訳ではない。モンスターと戦うのに必要な知識を教えてくれるし、スキルの事だって教えてくれる。



「お願いします!」


「おう」



 僕はいつも通りに剣を構えた。スキルを得てから初めての実戦だ。これを上手く戦いに活かせないものか。まぁそんなものやってみなければ分からない。それこそ「慣れろ」だ。


 ジョストンさんの心の色を見る。本気ではないけど気を抜いてる訳じゃない。何と無く「いつでもいいぜ」と言われてる気がした。


 あれこれ考えてみても彼には遠く及ばないのだから尻込みしてても始まらない。なので思い切り剣を打ち込む事にした。


 僕は普段から音を頼りにしている。家での生活も外を歩く時も仕事をしている時も。そんな生活をずっと続けてきたせいか、僕の振るった剣をジョストンさんがどう受けてるのかが不思議と分かった。


 それと同じように彼の剣がどう飛んでくるのかも音から判断できる。足運びを含めればジョストンさんの攻撃を躱す事も十分可能なのだ。


 そして今回は音だけじゃない。色が付け足された事によって相手の出方が今まで以上に理解できるようになった。それをよく観察すると僕の攻撃にも余裕の色が薄くなる箇所がある。


 僕はそれをひたすら狙い続けた。


 そう。目的は嫌がらせ。何せ真っ向から打ち合ってもリーチも違えば体重も力も何もかもが違うんだから。ジョストンさんがその気ならば彼の剣をガードしても吹き飛ばされてしまうんだ。


 だから嫌がらせをして心が揺らぐ瞬間を狙う。それは中々難しいんだけど、思えばスキルのお陰で僕は今まで以上に長い時間斬り結べていた。


 そうして打ち合っている事数ごう。ついにその時がきた。僕の攻撃を嫌って明らかに変色した感情と足音。次は確実に強めの攻撃がくる。なのでそれに合わせて僕は一歩前に出た。



「!?」



 そのタイミングがジョストンさんには意外だったのか。彼の心は一瞬で形を変える。そして攻撃の手を咄嗟に防御に変えさせる事に成功した。



「嘘だろあのガキ ジョストンとまともに斬りあってるぜ」


「ホントに目が見えてないのよね?」



 ジョストンさんはここに来て初めて後ろに大きく飛び退いた。



「アネットお前 何か変わったか? ・・あぁそうか さてはスキルだな?」


「はぁ はぁ・・・っはい!」


「そうか・・・じゃ こっちもスキル使うぜ? 《戦士の装甲/ウォーフレーム》!!」



 ジョストンさんがスキルを使った瞬間、僕を圧迫する力が体全体にのし掛かってきた。これがプレッシャーというやつなのだろうか。本気? 戦意? 殺意? どれか分からないけど明確で濃い色が全身から沸きたっている。



「おい!! ジョストン本気か!? 下手すりゃ死ぬぞ!!」


「バッカお前 洞穴に潜りゃこれが常じゃねぇか これが凌げねぇようじゃ どの道ダンジョンなんか無理だぜ?」


「そりゃっ! そうだがよう・・」


「ちょっと坊や!? 気を付けなさいよ!?」



 気を付ける? どうやって・・・ ジョストンさんはゆっくり近付いてくる。まるで大きな岩の塊が転がって来るような圧迫感に僕の体は硬直する。


 ダンッ!!!


 地面を強く踏み出す音と振動が僕の体に響く。彼は真っ直ぐに振りかぶって────



 ──────反応が・・・



 ───────────



 この危険信号に僕は咄嗟に後ろに飛んで剣を前に出し攻撃が防げる事を祈った。それが通じたのか木剣と木剣がぶつかる音がする。でもその衝撃は痛みとなって僕の腕まで駆け登ってきた。



「いっ! ・・・・た!!」



 彼はぶつかった瞬間に剣を止めた。振り抜いてはいない。それでこの威力。僕は痛みのあまり剣を手放してしまった。



「これが戦闘系のスキルってやつだぜ?」


「あーーーーーーーーーー!!! ジョストンさん!!? 何やってるんですか!!」


「げ・・・」



 いつの間のか時間になってたのか受付嬢のポリアンナさんが訓練所に入ってきた。助かった。



「あぁあ~ こんなになっちゃって・・・ アネット君立てる? ジョストンさんには後できつーーーーくお説教しておくから 今日はもう帰りなさい」



 ポリアンナさんに言われたのだから仕方ない。僕はジョストンさんにお礼を言ってギルドを後にした。


 それにしてもあれが戦士のスキルなのか。それではじめてモンスターと対等。コドリン洞穴はもしかしたら僕が思っていた以上に危険な場所なのかもしれない。





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