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56・女子各々の戦いと葛藤

前回のあらすじ


休憩と言う名の決闘を終えたところに、異様な気配の自称人外を名乗るケモミミと尻尾をつけた女性が現れた。



 私は今学園に入学する前の出来事を思い出していた。それはある日の昼下がり、実家に迷い込んだ一匹の猫の事である。


 私はその可愛さに一目惚れし、両親や使用人にバレない様こっそり餌をあげたりダッコしたりとそれはそれは可愛がっていたのだが、公爵令嬢の私が人目を憚ることなど難しく、終には家中を巻き込んだてんやわんやの大捕物(おおとりもの)となってしまった。


 しかしこれが中々に捕まらない。


 猫は迫り来る使用人達の手を掻い潜り、見る見る木を駆け上がるとそのまま高い塀を飛び越えて姿を消してしまったのだ。


 いつもは「ニャーニャー」鳴いてはトテトテすり寄ってくる、その愛くるしさに心を奪われていたが、いざ身に危険が迫ると今まで自分に懐いていたのと同じ生き物なのかと思うくらいの俊敏さにビックリして呆気にとられたものだった。


 そんな当時の光景が今まさに私の眼前で繰り広げられていた。



「おせぇおせぇ そんなんじゃ ハエが止まっちまうぜ?」


「モンスターの分際でちょこまかと!」



 冒険者の2人にマルティナとそして兵士を含めた計7名が、あの日の使用人達と同様一匹の獣相手に手玉にとられていた。



『ミスティー・・・』

〔分かっているわ・・・〕



 私としてもこの状況は何とかしたい。“水魔法さん”も戦いに加勢したがっているが、簡単に手が出せない由々しき事態が先程巻き起こった。


 それは冒険者(男)が大きく武器を振り上げ渾身の一撃とも思える攻撃を振り下ろした時の事。


 モンスターは御自慢の俊敏さで避けるものと思われたが、あろう事か体毛で覆われた太い腕の部分でその重い斬撃を止めてしまったのだ。



「はっは~! それで攻撃のつもりか? これならヒステリー起こした女のビンタの方が 何倍もマシだぜ!」



 そしてこのモンスター。強靭な体だけでなく戦士としての技量も兼ね備えているようだった。


 冒険者(男)が今まさに攻撃され様としているところに、前衛を任された盾役のマルティナが割って入りスキルを発動する。



『ブロック~』

『ク~』



 素人目にもその動きには無駄が無いように思えた。モンスターの攻撃は盾によって防がれる筈だった。しかしその衝撃の音はいつまで経っても聞こえない。その代わり耳に届いたのはモンスターの声だった。



「練度がなってねぇなぁ そんなもん常に発動してなきゃ 今からそこを防ぎますよって 相手に教えてるようなもんだぜ? やるなら全身硬化くらいはしねぇと こうやって 破られるんだぜ?」



 モンスターは足でスッと盾の下の部分に触れると、そのまま勢いをつけ上に蹴り上げた。


 マルティナに聞いた話だが本来「ブロック」とは衝撃を和らげたり、防いだ衝撃を相殺する効果があるらしく、つまりモンスターのこの行動は「ブロック」の効果を発揮させない崩し方として理に適った所作となる。


 事実。盾ごと腕を持っていかれたマルティナは体勢を崩されモンスターの攻撃を真正面から受けてしまい、冒険者(男)と共に1メートル程後方に吹っ飛ばされていた。


 問題は。


 私の水魔法をモンスターにぶつけても、果たして有効なダメージを与える事ができるのか。その一点に尽きる。


 仮に効かなかったとしても手数で攻めれば陽動にはなるか? 或いは水の塊を口の中に突っ込んでモンスターの気道を塞ぐか? 躱される気もするけど・・・


 どの道失敗すれば真っ先に狙われるのは私だ。しかも私には攻撃を防ぐ手立ても逃げる算段もない。つまり下手に手の内を見せる訳にはいかない。


 やるからには確実にトドメを刺せる一回のみ。



「えぇい! まどろっこしいですわね! モンスターなんぞ炎で丸焼きにしてやれば良いのですわ!」



 ナディラス・・・こんな時は彼女の無鉄砲な性格が有難い。お陰で良い弾除けになる。だがそんな彼女の攻撃にモンスターのとった行動は私に1つの兆しを与えてくれた気がした。


 剣での攻撃はこれ見よがしに体で防いで見せるくせに、彼女が放つ炎の魔法だけはきっちり全部避けるのだ。


 まぁ炎がかすってご自慢の体毛が(ちぢ)れでもしたら目も当てられないし、もしかしたら防御能力が低下するのかもしれないが、相手が嫌がるならそこに活路があるに違いない。


 もっとも・・・嫌がると言っても彼女の放つ炎魔法は兵士の振るう剣撃にも劣り、先程から少しもかする気配すら無いのだが。


 それでも余裕をもって躱すモンスターは炎がお気に召さないのか、着実に距離を詰めてナディラスの眼前に迫ろうとしていた。


 バシャッ・・・・


 私は咄嗟にモンスターへ向けて効くかも分からない水の魔法をぶつけた。



「あ? んだこりゃ・・・」



 バシャッバシャッバシャッバシャッ・・・


 まるで効果が無いと分かっても、それでも私は何度も水の魔法をぶつけた。



「おいおいおい ここに来て水遊びかよ」


「ちょっと! 貴女が水で濡らしてしまったら 相手が燃えなくなってしまうじゃないですの!」



 私は震える体を行使して彼女を庇うように前に出た。



「ミストリアさん 貴女・・・」


「へっ 勝てねぇと分かっていて 友の為に自ら盾になるかよ・・・ 泣かせるじゃねぇか


 で? それに引き換え・・・ 後ろで固まってる有象無象共は何なんだぁ!? やる気あんのかこの野郎! 腰から垂れてる剣はお飾りかぁ!?」



 私はモンスターの気が逸れている間に後ろ手の彼女に水文字で作戦を伝えた。



 ★



 私の名前はリーデット。


 もし物語の登場人物の中に私が居たとしたら、多分町娘BとかCとかその辺りだろう。


 学園では他者を貶めるのが趣味のクラスのリーダー格。ルディアの取り巻きの1人を演じている。


 演じていると言うは別に彼女の事なんかどうでも良いし寧ろ嫌いなタイプだけど、そうでもしなければクラスでよろしくやっていけない立ち位置にいるからだ。


 味方の内は頼もしい。


 実際クラスでも彼女の側に居た事で、まるでクラスの上位者にでもなったかの様な優越感を味わえたし、何より周りに気を配る必要が無いのは正直言って楽だった。


 しかし一度(ひとたび)誰かを標的にするとこれが中々にエグい。


 そんな彼女の提案がモンスターと戦っている人達の預かり知らぬ後方で繰り広げられていた。



「ねぇ あの人達が戦っている最中に 何とか隙を見て逃げられないかしら」

「で でも帰り道分からないよ?」

「道知ってるのって 冒険者の人達なんじゃない?」

「ねぇ どうしよう・・・」



 と言う議論が先程から小声で協議されている。が・・・全く打つ手が無いせいで今もって決議を見ずにいる。



「誰かが冒険者の人を呼んでくるしかないんじゃない?」

「え そ そうね・・・ でも誰が行くの? 大勢で行ったら気付かれちゃうよ?」



 しかし話の流れが「誰が」になると、皆一斉に視線をルディアに持っていき、然も同調してますの姿勢をアピールする。つまり誰もがその「誰」になりたくないし、誰も自分で結論を出したくないと言うのが答えだ。


 そして協力している自分は当てないでね()のサインを送る。



「じゃぁ メルファさん 行ってくれる?」


「え? わ 私? え? え?・・・」



 こう言う時にきっちり「押し付け」と言う答えが出せるのがルディアと言う女生徒だ。めでたく指名されたメルファも「どうして自分が?」と言う思いだろう・・・私もそう思う。


 彼女は一言で言って運動音痴だ。


 女子も授業の一貫として剣術を習う機会があるが、まずまともに剣が振れない。グラウンドを走っても毎回周回遅れをするような子だった。正直選抜するには最も相応しくない選手だろう。


 そんな彼女に何故白羽の矢が立ったのかと言うと、それはぶっちゃけ後でどうとでもなる子だから・・・


 彼女は休み時間に1人で本を読んでいたりする子で周囲との交流も少ない。そして何より平民だ。


 そんなルディアが今までメルファをいじらなかったのは、いざという時の当て馬にする為だったのかもしれない。



「え? 何で私が・・? む 無理だよぉ」


「は? お前行けよ クラスで何の役にも立ってないじゃん」

「そうだよ お前が行けよな」

「早く行けよ!」



 こう言う時の団結力は凄いものだ。ルディアに指名された事と自分達が助かりたい一心で皆執拗に彼女を責めた。


 可哀想に・・・矢面に立たされた彼女は泣きながら震え顔面を白くし脂汗をかいている。


 そんな彼女の表情を冷静に見ている私・・・







 何でこんな事になっちゃったかなぁ・・・


 学園に入学が決まった時は大変だろうけどこれから素晴らしい学園生活が私を待っていると思ってたのになぁ・・・


 だけどいざ蓋を開けてみたら見事期待を裏切られた。


 そう・・・このクラスの中で間違っているかなど些末な問題。重要なのは多数が正義それに逆らう者が悪である。


 その多数を纏めるのがルディアであり、彼女の決断と言葉がこのクラスの正義と論じても間違いではない。


 皆何かを決める時はまず彼女の顔色を伺う。それは物事の正否を踏まえても、ルディアの言葉に従った方が波風が立たないからだ。


 だが・・・



 何かを決断する時。誰かの顔を気にするのは果たして本物と言えるのだろうか。



 横目でチラリとミストリアさんとナディラスさんを見やる。


 彼女達は冒険者でも兵士でもない。私と同じ年齢の女の子で同級生だ。それが誰に言われるでもなく自らの意思で戦いに参加している。


 何故? 何の為に? 分からないけど、それでも自分の足で立ち向かっている彼女達の姿が私は格好いいと思ってしまった。


 同時にどうして自分は此方側に居るのだろうと・・・そんな思いが不意に去来したのだ。


 戦う術を持たないから?


 もし私と言う人生に物語があるのなら、ここで決断をしなければ私は一生町娘BとかCから抜け出せない。


 でも抜け出してどうする? それから先思い通りに事が運ぶと?


 私はあの2人の様な才能は無い。でも思った事をそのまま口に出せないのは思いのほか窮屈だ。


 誰かと仲良くなりたいのならあからさまな否定は良くないだろうけど、それでも他人の顔色を窺って自分の意見を圧し殺す付き合いに果たして価値はあるのか。


 決断を他人任せにしてれば楽だろう。


 そうやって多数決の力で切り離されたクラスの子達の、恨みがましげな視線が何とも言えず嫌だった。


 多数が正義で少数が悪なのだから仕方がない・・・


 違う。


 多数に荷担する事で自分は正しいと思って安心している自分が居たに過ぎない。


 ここは教室ではない。それどころか只今戦闘の真っ最中。互いに命が掛かってる。


 私達の決断は、か弱いメルファと私達の代わりにモンスターと言う驚異と戦っている人達の命を盾にしようとしている決断だ。


 仮に今日助かっても明日からはどんな顔をして生活すれば良いの? 私は今後他人の顔を真面に見る事ができないと思う。


 こんな恥ずべき決断すら他人任せにして良い筈ない。



「わ 私が行ってくる・・・」


「え・・・」



 そっとメルファの肩に手を掛けると彼女の怯えと震えが伝わってきた。


 でも顔は見ない。


 誰の顔を見ること無く決断した。


 これで良い。


 しかしこのあと私の決意は無に帰す事となる。



「で? それに引き換え・・・ 後ろで固まってる有象無象共は何なんだぁ!? やる気あんのかこの野郎! 腰から垂れてる剣はお飾りかよっ!」



 戦いに集中しているものとばかり思っていたモンスターは、しかしちゃっかり後ろの無害な私達まで把握していたのだ。


 折角バレない様に冒険者の元まで行こうと思ったのに! クラスの総意に逆らってまで決断したのに! 洞穴から戻ったら次は私が指を指される番だとも覚悟したのに!


 そればかりか剣を下げてる私達を小バカにした物言いは、普段自分達の生活の一部でもある剣術の授業を全否定された様に感じた。


 自分でも不思議だったけど嘲笑われた事にどうしてこんなに腹が立ったのか、このモンスターに一矢報いてやろうと言う気概が沸々と心にたぎった。



 ★



「動けるかマルティナ」


「えぇ 何とか・・・」



 危なかった。咄嗟に後ろに跳んでいなければ手痛いダメージを貰うところだった。それにしてもまさかこんなモンスターが居たなんて。


 俊敏で攻撃は当たらず、当たったと思ったらその攻撃は体毛で弾かれる。人の言葉まで流暢に話して戦闘技術も遥か上。


 そればかりかモンスターがスキルさんを連れているなんて反則じゃない! しかもあれは見間違う筈もない“戦士さん”。どうやら相手のモンスターは武器を使わず自らの体で戦う格闘家スタイルのようだ。


 冒険者はスキルを使ってモンスターと互角と聞いていた。それがこんな上層でスキルさん持ちのモンスターと出くわすなんて事があるのだろうか?


 あったら既に噂になっていておかしくないし、新米冒険者がおいそれと洞穴に入れる筈もない。つまりこの状況は普段では絶対に有り得ない非常事態と言う訳だ。


 正直この非常事態に立ち向かった感触として勝ちは望めない気がする。


 ではどうするか・・・


 今モンスターはミストリアと炎魔法を使う女生徒に気をとられているので、私は咄嗟にこの洞穴の地理を知り()つ素早さに長けたリッタに向けて目配せした。


 無言でそれを受けとったリッタも私の言いたい事が何かを理解したのか静かに頷くと、その機会を静かに窺った。


 魔法組2人は一見善戦しているが、しかしその攻撃は空を切り水は弾かれ、最初と比べると心なしかその威力も落ちている気がする。限界が近いらしい。


 それは相手のモンスターも気付いている様で、避ける(さま)に若干の気の緩みを感じた。


 その緩んだ隙を狙い合図を送ると私はエデルと同時に攻撃を、リッタは洞穴の入り口方面へと全力で駆けた。


 如何に新米とは言え咄嗟にこの判断と行動を熟せたのは称賛に値するのではないか?


 幸いここは洞穴の上層部。道を順当に戻れば出口辺りで手練れの冒険者達が(ひし)めいている筈。後はその冒険者達がここに雪崩れ込んで来るまで時間を稼げば良いだけだ。


 その為の足止めをすべく私達の攻撃は、しかし敵に防がれる事無く虚しく空を切った。



「え?」



 耳についたのは女の子の声。


 それは私のものではない。


 リッタだ・・・



「おいおい 俺を置いてどこ行くつもりだ? 1人でお帰りとか寂しいじゃねぇか」



 反対方向に走った筈の自分の前に、まさか一瞬とも思えるスピードで立ち塞がるなんてリッタも思っていなかっただろう。思わず声が出てしまったようだが、そこは(こな)れた冒険者か。


 彼女はこれぞ条件反射と言った手際で、両手に持った二刀のナイフを一閃するが、モンスターは紙一重のところを余裕をもって躱すと、そのままクルリと身を(ひるがえ)しリッタの背後に回った。


 当のリッタには眼前から突如敵が消えたように見えたのかもしれない。上下左右、相手を視認すべく首を振るが、モンスターは自分を知覚される前に背後からリッタの首根っこを掴むと、片手で軽々彼女を持ち上げ私達の方へと投げ飛ばしてきた。



「リッタ!」



 私達は2人で彼女を受け止めるが、その勢いや凄まじく衝撃で後に倒れ込んでしまった。急いでリッタの状況を確認するべき所なのだが、私は偶然・・・本当に偶然リッタではなくモンスターの居た場所に目がいっていた。


 しかし本来なら敵が居た場所に居るべき相手が居ない。視線を泳がすより面で把握する。それを訓練で習っていたのが功を奏した。


 ある物体が一瞬で私の眼前に現れると、それは今にも蹴りを繰り出そうとしているモンスターの姿だった。


 私は多分考える事もせず無意識に盾を構えていたと思う。この理想的な反応速度。これで防げない筈が無い。



「ブロック!!」


「だ~から~・・・ まるわかりだっての」



 自分でも花丸をあげたくなるような所作でさえ、あっさり対応してきたモンスター。


 私の盾を先程と同じく衝撃を与えず(さば)くと、そのまま空中で回転してもう片方の足で・・・多分蹴りを・・・繰り出して・・・


 顎の辺りをかすって・・・衝撃は・・・あまり感じな・・・・い?


 でも・・意識が・・・白く・・遠退・・く







 ・・・ティナ・・


『マルティナ 大丈夫~?』

『ぶ~?』


「ん・・・ え?」



 スキルさんの私を呼ぶ声にハッとした私は自分が今倒れている事を把握した。朦朧とする視界に入ってきたのは洞穴の景色と地面で倒れている兵士達とエデルとリッタ。


 何とか2人に近寄ろうとしても体が言う事をきいてくれない。一体どうなってるの? モンスターは?


 辛うじて動く首を回すと、今まさにモンスターの魔の手がミストリアと女生徒の寄り添う2人に伸びようとしているところだった。



「させ・・ない・・・」



 誰かを守らなければならない盾役が意識を刈り取られ地に伏すなど、あってはならない醜態だ。


 失態を取り戻すべく何とか立ち上がろうとするが、まだ回復が見込めない。今の自分にはただこの状況を見ているしかないのか。


 意識が飛ぶ前は威力もあった2人の魔法も今や見る影は無く、火も水も敵を止める事さえ用を成さない。もう後ずさるしか手は残されていないようだった。



「ここまでか・・・・はっ! 所詮はガキのお遊びだったな」



 ゴツッ・・・・ゴロゴロゴロ・・・


 万事休す。


 と、誰もがそう思ったときだった。何処からともなく弧を描いた少し大きめの石が、見事モンスターの頭部にヒットした。


 まぁ・・・だから何だと言う程度のものだったが、モンスターの気を引くには充分だったようだ。



「あ? お次は石の投げ合いっこか?」



 石が飛んできた方。モンスターが視線を向けた先。そこには先程まで集団で固まっていた女生徒達の1人が息を切らせて立ちつくし、恨みがましげにモンスターを睨み付けていた。


 モンスターは視線を下に向けると自分にぶつけられた石を拾い・・・



「ホレ 返すぜ? ちゃんとキャッチしろよ?」



 と言い放つとあくまで軽い動作で、それでいて尋常ではない速度で腕を振り下ろした。


 手から放たれた物体は普通そんな速度では飛ばないだろと思わせるスピードで、女生徒の顔のすぐ横、髪の毛を巻き上げると洞穴の壁へと激突した。


 ゴッ!! だか、バン!! だか、聞き慣れない重低音を響かせると、石は衝撃で砕け散ったのか、或いはそのままめり込んだのか、パラパラパラ・・・と砂が落ちる音だけを残し静寂が辺りを包んだ。


 その事実を確認するまでもなく現実を思い知らされた女生徒は、意気消沈してその場にへなへなと力無く座り込んでしまった。



「おいおい こんな狭い洞穴でションベン漏らしてくれるなよ? 臭くてかなわねぇ カッカッカ!」


「それを撒き散らすのは 貴方の方ですわ!」



 自分達に打つ手無し。そう思った矢先。先程まで戦っていた炎を操る女生徒が吠えた。


 するとミストリアは自らの背で隠していた人の頭部くらいの水の塊をモンスターに向かって投げつけた。


 それを最後の悪足掻きとでも思ったのか、ご祝儀代わりかモンスターもそれを真面に食らってやった。


 が・・・しかしそれが不味かった。













 バシャッ・・・・


 ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーー・・・・・


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああぁぁああぁぁああぁあーーーーーーーーー!! あぁぁぁああぁぁぁああぁぁーーーーーー~~~~~!!」



 ぶつかった水は弾けると同時に物凄い勢いで蒸気を辺りに放出し始めた。どれ程の熱量か。それは少し離れた私の所まで熱気が届いて肌を撫でていった。


 丈夫さに定評がある体毛も、流石に熱湯には敵わなかったらしく、先程まで余裕綽々(しゃくしゃく)だったモンスターは、今やあまりの熱さに地面を転げ回っている。



「これぞ私とミストリアさんの魔法の共演! ウルトラファイヤー熱湯アタック ですわ!」



 甚大な被害を受けたモンスターは、残念なネーミングセンスに突っ込みを入れるどころではない。今も「ギャーギャー」叫びながら転がり回っている。


 どうやら2人で寄り添っていたのは、ミストリアの水を炎で沸騰させる過程を気取られないようにする為の演技であったらしい。



「あぁもう! 五月蝿(うるさ)いですわね! 弱い者いじめをするのは趣味ではないので 今度こそじっくりと火葬して差し上げますわ!」


〔それとも水をたらふく飲み込んでの 溺死がお望みかしら?〕



 魔法を出し切り疲弊したと思われた2人は、しかし巨大な火球と水球を産み出している。



「ひ! ひぃいいぃ~~~~!!」



 さしものモンスターももう戦う余力が無いのか、それでも最後の力を振り絞って脱兎のごとく洞穴の奥へと消えていった。



「ふん! さすがはモンスター 尻尾を巻いて逃げる姿がお似合いですわね」



 どうやら窮地は脱した様だ。



「エデル・・・リッタ? 他の人達は・・無事?」



 急いで安否を確認したところ何人か負傷者は出たが奇跡的に死者は出ていなかった。取り敢えずは一安心・・・気が抜けたところで、あのモンスターが妙な事を口走っていた事を思い出した。


「こっちはハズレか もしかしたら もう片っ方の集団の方に居るのか」


 どうやら誰かを探していたらしい。そもそもあの強さにして死人が出ていないと言うのもおかしな話だ。


 もしかして手加減されていた・・・?


 よそう・・・それよりも今は冒険者として皆を速やかに安全な場所へと待避させなければならない。


 そして一刻も早く情報を共有し、もしかしたら同じようなアクシデントに見舞われているかもしれないアネット達に捜索隊を派遣してもらわなければならない。


 出来ることなら今すぐにでもアネットの元へと駆け出したいが、今の私では自分すら守れない。彼を助ける為に彼とは逆の方向へ進まなければならない自分が心底悔しかった。





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