52・ファムエルの思惑
前回のあらすじ
学園の教師ファムエルさんからの依頼を受けることにしたが、そこにミストリアが進んで手伝うと名乗り出てきた。
「本当にいいんだね?」
因縁のある相手と、しかもダンジョンでの仕事を手伝うと言い出したミストリアの決意はとても固かった。表面に恐怖はあるけれど奥底には強い輝きが瞬いている。
「う・・・う~ん・・・」
「あ 変態が起きた」
ミストリアに怒濤の勢いで迫った挙げ句撃沈した元教師と名乗る男性ファムエルさんが夢の世界から帰還した。
印象が最悪だったのかミストリアのみならずマルティナにも大不評だ。
「えぇと ファムエルさんでしたっけ 貴方は少しご自身を抑制する事を覚えた方がいいですよ?」
「え あ あぁ・・ すまない・・・ 好きな事には自分を抑えられない性分なもので・・・ それで幾度か失敗してるのに またやってしまうとは・・・ ホント 申し訳ない」
「それで校外学習と言う事ですが 生徒さん達はもう来ているのですか?」
「いや その前に宿の手配やら下調べやら しなくてはならない事もあったしね 何より 事前に君と会ってみたくて 生徒達は隣街に残して一足先にハルメリーまでやって来たんだ」
「え・・ もし僕と渡りをつけられなかったらどうするつもりだったんですか・・・」
そう言われて「あっ」とか漏らしてるこの人は教師として大乗なんだろうか・・・
「そ その時は他の冒険者にでも頼むさ」
「言っておきますけど 僕は冒険者として強い訳では無いですよ? 新人ですし・・・ それに洞穴だって殆んど上層部にしか行った事がありません」
「別に生徒達に実績を積ませたいとかじゃないよ ただ 学園と言う檻から出て 外の世界に触れてほしいだけなんだ
彼等の日常には無いものを見て触れて そこから何を感じ考えるのか 凝り固まった思考や概念だけで世界が作られている訳ではないと知ってもらいたい・・・学園の中ばかりにいると そこら辺がどうにもね
と言っても 何の刺激もないんじゃ散歩と変わり無いから 程よい感じで頼むよ」
詰まるとこ冒険をお望みか。まぁダンジョンなんだし適当に歩いててもモンスターには遭遇する。期待には応えられそうだ。
「ところで ハルメリーには僕のクラス 生徒30名が泊まれそうな宿ってあるのかな?」
「それなら私を頼ったのは正解です」
僕はファムエルさんを伴ってバードラットさんが経営する店にやって来た。
宿屋に対する知識は無かったので、この町の大店と称される彼に聞けば、何かしらの答えを得るだろうと言う算段だ。
「王都の学園の生徒様ともなれば さぞ名高い貴族様も在籍されている事でしょう であるなら 彼の方々に見合う格式高く歴史ある宿であらねばなりますまい
となると この町でその条件を満たせるのは 私をおいて他には居りません 必ずや皆様のご期待に添える宿を提供いたしましょう 手厚く対応をさせていただきます」
「そう言っていただけるのは願ってもないお申し出なのですが 今回はただの課外授業なので さほど予算が有る訳ではなく・・・」
「ハハハ問題ございません ハルメリー最高グレード 『風靡轟く吟遊館』 をご堪能いただき 学園内外に宣伝していただけるのでしたら お値段は これこれこれ・・・ と・・・」
「え これだけで良いのですか?」
「はい これだけで結構で御座います ですので またハルメリーにお越しの際は・・・」
「成る程 これだけの値を提示されては無下にはできませんね!」
彼等の話し合いは纏まったようだけどバードラットさんには1つ釘を刺しておかなければならない事がある。
「あのバードラットさん 接待と称して生徒さん達を歓楽街に放り込まないで下さいね? 年齢的に僕とさほど変わらない年頃の人達らしいので」
「ハッハッハ 勿論時と場合と相手は選びますとも とは言え もしご要望がございましたら綺麗所は揃えて御座いますので それとなくお伝えしていただければ・・・」
「バードラットさん!」
「ご冗談を 中には本当に貴族位を持つ生徒も在籍しておりますので ・・・何か失礼があったり粗相をされては後々問題になってしまいます」
「ご安心ください 彼女達もプロです そこら辺は心得ておりますとも ご心配でしたら確認なさいますか?」
「そ そうでね 大切な生徒にもしもの事があっては教師として失格です 安全かどうか 私が身を呈して確かめなければなりますまい」
「あの・・・ ファムエルさん?」
「大丈夫だともアネット君 こう言う下準備をする為に僕は一足先にこの町にやって来たのだからね!」
心をピンク色に染めたファムエルさんはバードラットさんと2人。行ってはいけない何処かへと消えていってしまった。
・・・この人が学園の引率者で生徒の未来は大丈夫なんだろうか。
★
「おいディートリッヒ! 食事はまだ出来ないのか? ちゃんと厨房まで行って聞いてきたんだろうな!」
「う うん ちゃんと行ったよ 食事は・・・まだ少し時間がかかるみたい」
「まったく勘弁してもらいたい スプリントノーゼは我がウィンスター子爵家の派閥の方々が多数在籍されてる街 もう少しグレードに配慮してくれなくては示しがつかないな」
「全くもってそうですよね! ロダリオ様! あの糞教師俺達を何だと思ってるんだか! 折角ロダリオ様が宿の手配をして下さったのに アイツそれを無下にしてこんな安宿に押し込めやがって!」
「ゼル君 学園では貴族も平民も平等なんだから ここでは『様』は付ける必要は無いんだよ?」
「は はい! ロダリオさん! そう言えば今回ハルメリーの洞穴に潜るんですよね 何でも現地の冒険者が護衛につくとか」
「ダンジョンの表層は何処も大した事が無い 今回はただの授業なんだし下層には下りないだろう ただの気晴らし ピクニックさ」
「流石ロダリオさん! となると見所は護衛の冒険者ですかね 自分は騎士爵家なんでどんなヤツが来るのか気にはなります」
「冒険者か ウィンスター流と比べると戦い方が野暮ったいのがな」
「確かに粗暴な感じはしますね」
「ま 彼等にも学ぶ事はあるだろう・・・ そうだな 一手お相手できないものだろうか」
★
男子は馬鹿ばっかりだ。どうしてそこまで上下関係にこだわるんだろう。承認欲求? それとも支配欲? 分からない。
まぁ・・・女子も表に出さないだけで裏では男子と遜色無いかもしれないけど、表面に出ない分まだマシかもしれない。
「ねー これ可愛くな~い?」
「うんそれ可愛いー」
「だねー」
可愛いか? そこは問題ではない。
何気ない会話も肯定しなければ距離を置かれる切っ掛けを与えてしまう。つまり間違いかそうでないかは二の次なんだ。
グループのリーダーは絶対。
ルディア・ルンドレン。家は伯爵家。
私の所属するグループのリーダーだ。表面上は良い生徒を演じてるけど陰では陰湿なイジメを量産する親蝿そのもの。
目下標的にしているのは、ここスプリントノーゼを統治するセルマレイ公爵家の令嬢ナデュラス・セルマレイ。
・・・バカなの?
相手は公爵家のご息女よ? 学園では平民も貴族も平等とか言われてるけど卒業後は? あなたの家は公爵家派閥の一員なのよね?
ナデュラス様だけじゃない。
この女は同じ公爵家のミストリア様まで苛めて学園から追い出した。何で? 妬ましかったの? 容姿・家柄・成績。どれをとっても私逹より優れてたからって・・・
卒業と同時に距離を置いた方が賢明かしら。
「ねぇ 今回の課外授業ってダンジョンに行くのよね だったら あの子1人ダンジョンに置き去りにしてみない?」
「え 流石にそれは不味いんじゃ・・・」
「平気じゃない? アイツ魔法ひけらかすくらい得意だし 1人でも何とかなるっしょ」
「だよねー」
いやいやいや・・・公爵家のご令嬢が行方不明になったら誰が責任とるの? 先生の首どころか学園も危なくなるのよ? あなたの経歴も泡になるのよ?
同じグループに所属する私にも・・・
でも「それはダメ」と言えない私がいる。ホント・・・勘弁してほしいわ・・・




