表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/348

4・いじめっこの心

あらすじ


マルティナに心配かけさせてしまった。



 僕は夜寝る時にカーテンを閉めない。それは朝起きた時の日の光を肌で感じる為だ。今日は快晴。今日はちょっと薄曇り。微かに土の匂いがする今日は雨。


 目の見えない暗い世界でちょっとした気温の変化は、僕に世界の彩りを与えてくれる。その些細な刺激は、どこかで人とは違う僕もこの世界の一部である事を再認識させてくれる。



「お兄ちゃん ごはーん」



 しんみりと感慨にふけっていると、トテトテ可愛い足音をたてながらソフィリアが僕を呼びに来た。今朝僕を起こしに来たのはマルティナじゃない。昨日マルティナはあれから一言も話さなかった。ただ最後に「おやすみ」と、それだけ言って出ていってしまった。


 でも起こしに来てくれたのがソフィリアで助かった。僕にはまだマルティナに掛ける言葉が見つからない。



「おはよう」



 食堂で掛けられたマルティナの声は素っ気なかった。こんな身勝手な僕に愛想を尽かしてしまったのかな。心配を掛けてる自覚はある。でもどこかで「頑張って」と言ってもらいたいと思うのは贅沢なのだろうか。



「おはようマルティナ おはようございます叔母さん」


「おはようアネット君 今日はちょっとお寝坊さん?」


「そうですか?」



 今日は可愛いソフィリアが手伝ってくれたんだ。服を間違えたりボタンをかけ違えたり、グチャグチャしちゃったりしても全然許容範囲。多少の遅れなど全く問題ないのだ。


 いつもの食事風景。


 お腹が満たされれば機嫌も直るだろうと思っていたけど、口数の少ないマルティナは何やら思い詰めてる様子だ。ここは藪をつつくより静かに去った方がよいだろう。



「それじゃあ 仕事に行ってきますね」


「ええ 人には気を付けてね」



 気を取り直して薪割り場まで行こうとする僕の背後から1つの足音が追ってくる。この音はマルティナだ。どうやら後を付いてくるらしい。それならそうと隣に来てくれればいいのに。


 いや・・せっかくの気遣いだ。このまま気付かないフリをして仕事場まで行くとしよう。でも人混みに紛れるのは逆に心配させちゃうよね。ここは裏の小道を大通りに沿って歩こう。そうすればマルティナも安心してくれる筈だ。



 けど今日に限ってはそれが良くなかった。



 ★



 今日もいつもの様に外で遊ぶ。やる事と言ったら決まって冒険者ごっこ。これで決まりだ。伝説の勇者のパーティーになりきって町を探索したり大人には「行くな」と言われてる森に行っては遅くまで遊ぶ。


 周りが何と言っても関係ない。何たって俺は「特別」だからな。俺が一声掛ければ何人もの子分が集まるんだ。たまに他のグループとかち合ったり、アーキア人? だか肌の色が違う奴もいるけれど、ここは俺等の縄張りだ好きにはさせねぇ。


 喧嘩して勝って子分を増やして勇者の俺の功績の一部にしてやる。


 だけど数が増えるとダメな部分ってのも見えてくるんだよな。その中でも一際小さい奴がいて、そいつのせいで俺まで捕まった事がある。何かにつけて「悪い事はやめようよ」とか抜かしやがって空気を乱すんだ。


 そのくせ冒険者ごっこをしていると決まって「いれて」と言ってくる。「自分は冒険者になりたいんだ」と言う割には他の奴に勝ったためしがない。


 正直そいつが来ると途端につまらなくなるんだよな。皆も口には出さないが顔がそう言ってんだよ。


 ある日仲間の1人がそいつをからかい始めた。「弱いくせに冒険者なんか無理なんだよ!」と、次第に周りの奴等も一緒になってからかいだしたが、それはそれで楽しかった。


 俺も冒険者ごっこに託つけてそいつを叩きのめすと皆喜んだ。まるで悪者を退治している様で気分も良かったし以前の面白さが戻ってきた感じがした。


 それでもそいつは懲りずにやって来る。さすがにウゼェ・・・ でもいじられ役を進んで引き受けるんならこれはこれで良いんじゃないか?


 くそ雑魚チビやろうにはお似合いだしな。


 それから俺は「勝手に選ぶな」と言われていたスキルさんを選んだ。俺も冒険者になりたかったから選んだのは当然“戦士さん”


 その夜おやじにこっぴどく叱られた。



「町長の息子が戦士などになってどうする!」

「冒険者なんぞそこら中で問題を起こすクズ共だ!」

「アイツらはただ資源を持ってくればいいんだ!」

「国の兵士は何をやっている! 自警団を組織しなければ手が足りない!」

「冒険者なんぞ碌でもない!」



 家に帰れば親父の冒険者を愚弄する怒号を聞かない日はない。冒険者になって伝説に唄われる勇者になれば皆喜んでくれると思ったのに・・・


 ある日からあいつが俺達の所に来なくなった。


 聞いた話だと何でもマイナス等級のスキルさんに魅入られたらしい。まぁそもそもあんなチビじゃ冒険者なんて無理なんだし丁度良かったんじゃないか?


 だけど暫くしてそいつは木製の剣を杖代わりに歩いてるのを見掛けるようになった。剣? バカじゃねぇのか? 目が見えなくなったくせにまだ夢を見てやがる。俺なんか親父に怒鳴られたってのによ。


 本当に気に食わねぇ・・・



「おい 何やってんだよ お前目が見えないんだろ?」


「え 歩く練習・・・冒険者になる為にもね」


「はあ? 何も見えないお前が冒険者になれる訳がないだろ」


「そんなのやってみないと分からないよ 最近は何とか外を歩けるようになったし 君のいる場所も何だか分かるんだ」


「はぁ~・・親父も言ってたぜ? 冒険者は問題ばかり起こす碌でもない連中だってなぁ」


「僕は君のお父さんじゃないよ 君も冒険者に憧れてたんじゃないの? もう諦めちゃったの?」



 俺はキレた。


 何でこんな気持ちになるのか分からねぇ。分からねぇけどコイツを殴らずにはいられなかった。俺は親父に拒絶されたのにお前はその道を進むのか。そう思うとますます腹が立った。


 俺はそいつに掴みかかって何度も何度も殴りつけた。正直俺は何が何だか分からなくなっていた。


 俺は何をしてるんだ? 何がしたいんだ? 今でも冒険者になりたいのか? 冒険者になってもおやじは絶対に反対する。じゃぁ諦めるのか? 諦めて・・・ それで・・・ 何をすればいいんだ・・・?


 アイツをボコボコにしてやった。


 こう言う身の程知らずに現実を教えてやってると思うと気分はスカッとした。親父も冒険者を嫌っていたしこれで間違いはない。


 それでもアイツは剣を捨てなかった。その都度蹴飛ばしてやる。ムカつく奴だ!


 俺がスキルさんを選んでからと言うもの、親父の俺を見る目は冷たくなった。俺達の家族は段々と冷めていった。もうどうしたら良いのか分からない。


 俺は何がしたいんだ・・・


 今日もアイツが通るのを路地裏で待つ。アイツにも現実の厳しさってのを教えてやればいい。冒険者なんか諦めさせればきっと俺の気分も晴れる筈だ。


 何かが見付かる筈なんだ。



 ★



「よぉ アネット 最近見ないから逃げちまったと思ったぜ」


「ディゼル・・・」



 彼は町長の息子ディゼル。よく僕に絡んでくる子だ。何でいつも僕にこんな事してくるんだろう。昔は良く一緒に遊んだ仲なのに。


 冒険者になりたいのなら僕を相手にするよりもギルドに行って稽古をつけてもらう方が断然為になる。そう言っても分かってもらえない。



「お前まだそんな()()()()持ってんのかよ 冒険者になりたいなら俺みたいに真剣持ってなんぼだろ? まぁお前の家は役立たずの誰かさんのせいでずっと貧乏だから 本物の剣なんて買えないだろうけどな?」


「「「「ハッハッハッハッハ・・」」」」



 シャンー・・・・・


 この音は・・・鞘から本物の刀身が抜き放たれる音だ。ディゼルいつも誰かと一緒にいる。今日は周りに4人か。



「アネット お前ギルドに通って剣の練習してるんだってな・・・ だったら俺もお前に稽古つけてやるよ おらっ」



 ヒュッヒュッと僕の顔の前を剣先で遊ぶように何度も刃が横切っていった。それを見た取り巻き達は「おぉ~」と言う感嘆の声を漏らす。



「ごめん 僕これから仕事なんだ ディゼルもこんな所にいないでギルドで練習した方がいいよ?」


「今はお前に稽古つけてやるって 言ってんだろっ!」



 僕の言葉が火をつけたのかディゼルは剣を大きく横に振りかぶった。彼なりに気を使ってるのか「ビュオッ」っと刀身の平たい部分で僕の頭部を叩こうとする。



「あ? 何で避けんだよ」



 それは避けなきゃ痛いからだけどディゼルはそれが気に食わなかったらしい。頭に血がのぼった状態でメチャクチャ剣を振ってきた。僕も退くけどお仲間も引いてるみたい。皆距離を置いていた。



「何で・・・当たんないんだよ・・はぁ・・はぁ」



 ギルドで本物の剣を持たせてもらった事があるけどあれは重い。僕にはとても重くてとても使いこなせる気がしなかった。それは僕より体格が良さそうなディゼルも例外ではなかったようで、数度振っただけで息が上がっている。



「僕だって何もしてない訳じゃないよ 生活する為に 夢を追いかける為に 必要な事をしているんだ ディゼルは今まで何をやってたの? 戦士さんと一緒に冒険者を目指してたんじゃないの?」


「う・・・・・うるさい・・・うるさい!!」



 ダッダ・・・ダ!!


 音の感じから最後の踏み込みが強い。ここから来る攻撃は彼の力量からして振り下ろす以外選択はない。下ろすモーションに入る前から横へ避けて、踏み込んだ足とは反対の足が地面に着地する前、通り抜け様にその足を引っ掻ける。


 ディゼルは振り下ろす動作に乗った自分の体重を制御できずに勢いと剣の重さに引っ張られて前のめりに転倒した。


 ズザァアー・・・カランカランカランー・・



「いっ・・・・でぇ・・・」



 重い物体が引きずられる音と鉄の響く音。ディゼルの嗚咽が耳に入った。



「おい! お前らそいつを捕まえろ!!」



 ディゼルの怒号にお仲間4人は即座に動いた。それぞれの音なら聞き分けられる。どこから来るかも。でもこの人数を全ていなせるかと言うと話は違ってくる。


 自分なりに何とか足掻いてみたものの呆気なく捕まってしまった。こうなると僕には振りほどけない。そこに剣を拾ったディゼルが怒りに支配されて迫ってきた。



「お・・・おい 流石に斬るのは不味いぜ」



 取り巻きの言葉から相当頭にきている事が窺える。



「うるせぇよ・・・こいつはそこまでやらないと分からねぇんだ」



 駄目だ。本当に斬られる・・・


 ディゼルの感情を理解した僕はこれから起こる現実に凍り付いた。



『だめ~ いじめないで~』



 咄嗟に僕とディゼルの間に“盲目さん”が割って入った。ディゼルはそんな行動をとった“盲目さん”を前に固まった。僕も固まった。


 何故ならそれは()()()()()とされる事だったからだ。


 スキルさんは言葉を話しスキルと言う恩恵を与えてくれる。時には自分の意思でスキルを使う事もあるが、身を呈して庇うなんて事は聞いた事がなかった。



「な!?・・・・・・・・」





「おい!! お前たち何をやっている!!」



 この状況に各々困惑していると路地の奥から鎧の音を響かせた兵士達がやって来た。その音に混じりマルティナの足音も聞こえてくる。どうやら助けを呼んできてくれたらしい。



「こ・・・これは冒険者ごっこをしていただけですよぉ」



 取り巻き達は僕を離すと急いで兵士達に取り繕った。マルティナはその隙に僕の手を引くと町外れの薪割り場の近くまで連れてきてくれた。


 ここまで無言で歩いてたマルティナの足が止まる。



「・・・った よかった無事で・・」



 その声は些か震え「すんすん」と鼻をすすり僅かに泣いていた。この時のマルティナの感情が不思議と如実に伝わってきた。怯えと安堵。その二つが交差して彼女は体を震わせていた。



「怖かったんだからね!!」



 振り向き様に大声をあげるとマルティナは僕を力一杯抱き締めてきた。



「もう少しで取り返しのつかない傷を負うところだったんだから!・・・・・何でアネットばっかりこんな目に合うのよ! 私が・・・私が守らなきゃ・・・」



 マルティナはそれだけ言うと突然僕を突き放し「助けてくれてありがとう」を言う前に家の方へ走っていってしまった。


 マルティナにはお礼を言えなかったけど“盲目さん”にはちゃんとお礼を言わなきゃね。



「盲目さん 今日は助けてくれてありがとう あの時割って入ってくれなければ 大怪我するところだったよ」

『アネットはボクが守る~♪』



 “盲目さん”は僕の足元で嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ