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372・事後報告

前回のあらすじ


アジトを脱出したアネット達は作戦通り門でトラブルを引き起こす。定刻通りジョストンにナイームを引き渡したアネットは、脱出したアーキア人の無事と作戦成功を祈るのだった。

「は? ・・・え? ちょ・・・どう言う事よ・・・」



 街のゴタゴタの中を這々の体で帰った・・と言う態度で屋敷に戻った僕達は、門で何があったかを創作を交えながらルディアに報告した。


 昼が夜になった事は邸内でも騒動になっているようで、彼女を含め使用人達も落ち着かない様子で困惑している。そこに降りかかる門での騒動はルディアに更なる追い討ちを掛けるに十分だった。


 こうしてる間にも次々と屋敷を駆ける足音は慌ただしく、どうやらあちこちで起こるトラブルの報が邸内に入ってきてるらしい。その様相に彼女は半ばパニックになりかけていた。



「いやぁ~ いきなりの事で俺達も面食らったぜ」

「到着した武具を見に行ったら あんなトラブルに巻き込まれるんだからなぁ」

「荷台が1つぶっ潰れてたけど 人が挟まらなくてよかったぜ」



 まるで他人事のように言葉を羅列していくターヒル達。内心楽しんでる彼等をよそに僕はちょっとの罪悪感とバレやしまいかとヒヤヒヤして正直気が気じゃない。



「待って待って待って・・・! アーキア人達の暴動? 何で急に・・・ それで肝心のナイームはどうなったのよっ」


「さぁ? 何たって暴動だからな 逃げたのか巻き込まれたのか 確認しようがねぇよ」


「タイミングが悪かったな」

「でもあんな大規模な事を仕出かしたんだ きっと前々から準備してたんだろうぜ」


「そんな・・・ それじゃ私の計画が・・」



 僕達の報告を聞いてガックリ肩を落とすルディア。今や街の敵ナイームを捕縛して自身の糧にするつもりが、計画が頓挫した事で野望ごと水泡に帰したのだから彼女の落ち込みようは筆舌に尽くしがたいものがある。


 まぁ言い換えればユシュタファ達の勝ちって事になるのだけど・・・



「ま そう悲観すんなって 何にだって失敗は付き物なんだからよ」


「簡単に言わないで! せっかくのチャンスが不意になったのよ! ・・・でも連中が勝手に暴発したんならこっちには関係ない訳だし・・・ これを利用して何かできないものかしら・・・ ブツブツ・・・」



 う~ん・・・この転んでもただでは起きない精神はある意味凄いものがある。見習いたいとは思わないけど否定もできないのがもどかしい。



〔ハルメリーに根を下ろすだけで満足しときなさい 欲張ると録な事にならないわ〕


「フン よそ者が知った口きかないで ここにはここの事情と言うものがあるのっ」



 普段どこか周囲を軽んじる彼女にしてはいつになく慎重な心持ちになっている。この問題はそれだけ彼女にのし掛かる難関なんだろう。


 とは言え現状僕等には関係がない・・・事になってるのだし、此方が気を揉む必要はないのだけど、ナイームがハルメリーで裁かれるとなったらルディアにバレるのは時間の問題だ。


 ・・・恨まれるんだろうな僕達は。


 ユシュタファ達は楽観的だけど、その際のルディアと言う貴族の暴走は町を不幸にし兼ねない。それはバウゼン卿やプルトンさんで経験済みだ。そうなるとやっぱり僕等に関係ないはない。


 関係大有りだ。


 そんな事で頭をモヤモヤさせてると部屋の扉がノックされ1人の使用人が入ってきた。彼ないし彼女はルディアの元まで近付くとそっと彼女に耳打ちする。



「──様 御当主様が────回の件で派閥の────」



 その瞬間彼女の心境に劇的な変化が表れた。明らかな動揺。僅かに聞こえた派閥と言う言葉。どうも想像以上に問題が膨れ上がっているようだ。


 何と無くだけどこれ、全然大丈夫じゃないやつでは・・・



「きょ 今日は家に滞在する事を許可するわ でも仕事は終わったのだし明日の朝には出ていってね それじゃこれで失礼するわ」


「おう 一応聞いとくけど報酬は出るんだろうな」


「バカ言わないで 成果が無かったんだから出る訳ないでしょ」


「チッ ケチかよ」



 まぁそれは仕方ない。だけど騙しておいて平然と金銭要求できるユシュタファも大概だ。それにしても使用人のしたルディアへの耳打ちは少々無視できないものがある。


 それを部屋を出ていく彼女を見送って皆に説明した。



「あの・・・何か揉め事が起きたみたいだよ?」


「揉め事?」


「うん 僕達のした事で問題が起きて それで当主・・・つまりルディアのお父さんに呼び出されたっぽい あと派閥がどうとか・・とか」


「ふーん まぁ街があんなになっちゃ 問題って言えば問題だよな」

「ハハハ 貴族も大変だ 俺の知ったこっちゃねぇけど」


「もうちょっとは親身になりなさいよ 私達は無関係な人まで巻き込んじゃったんだから・・・」


「あ~確かに それで俺達が怪しまれても面倒だしな」


「そう言うつもりで言ったんじゃないんだけど」


「確かに引け目もあるけど これからどうなるのかは心配だよ 街の事もヤーデフさん達の事も ・・・僕達の事も」


「だったらよアネット ちょっと盗み聞きしてこいよ 得意だろ? そう言うの」


「え~・・・」


「ちょっと! アネットを不審者みたいに言わないでっ」


「貴族のゴタゴタなんかに興味ねぇけど 当事者としちゃ知っといた方がいいかもな」

「情報掴んどきゃ早めに逃げられるしよ」

「そうそ 家に帰るまでが仕事だぜ?」


「わ 分かったよ・・・」



 マルティナとミストリアは「止めときなさい」って言ったけど内に(わだかま)る心配は待ってるだけじゃ解消しない。なので後ろ髪は引かれるもののユシュタファの言う通り1人で盗み聞・・・調査する事にした。


 僕がルディアに用がある体で屋敷内をうろついてると廊下の角の向こうから男性どおしの会話が聞こえてくる。その内容から使用人のやり取りではない対等な立場の対話で、かつ使用人の言葉遣いでもない。


 たぶんルディアのお父さん、ここの当主様だろうか。声色から芳しくない状況が窺えた。足音は複数人、その中にルディアもいるのだろう他とは明確に違うヒール音がした。彼等は僕が後をつけてるとも知らず疑う事なく歩いてく。


 彼等も自宅で尾行されるとは露程も思わない筈。そのまま部屋へ入っていったので僕は部屋の外から壁に耳を当てた。扉にベタッと張り付いていては不審者この上ないけど、壁に寄り掛かってれば体調不良で言い訳がたつ。


 でもさすがに壁越しではこもった音になってしまう。とは言え完全に聞こえない訳でもない。そんなくぐもった音から察するに他愛ない会話から始まったそれは早速本題へと切り替わった。



「─────ドレン伯爵家にとっても無視できない事か────」

「そうれはど────」

「実はア────どうやら──暴走──」

「───の騒ぎはそう言──しかしそれで────」

「それに関しては娘が────」

「寝耳に水の話で 本当は今日───誓って言いますが 私はこの件────」

「────実は貴殿の与る門で───」

「そんなまさかっ だったらまずい事に────」

「ですので直ぐにでも──────」

「分かった 情報が───次第報告を──」



 切れ切れに聞こえる内容からでも焦ってる感が伝わる。どうやら僕達は貴族ですら焦らせる事をやらかしたらしい。会話に気をとられた僕は彼等の足音に気付かず、不意に開けられた扉から現れた彼等と鉢合わせてしまった。



「ん? お客人かな? ・・・盲目 なぜ盲が我が邸内にいる」


「お父様 この者は私が連れて来ましたの これはこれで面白い芸を披露しますので マイナス等級にも違った使い道があるのではと最近模索してましたのよ」


「なる程な しかしマイナス等級ごときが邸内をうろつくなど我が家の恥だ 身分卑しい者は外の馬小屋にでも繋いでおくのが相応しかろう」


「そうですわね 以後気を付けますわ」


「うむ ・・っと こうしてる暇はない 早々に調査を開始せねば 我が家の信用に傷がついてしまう」



 ルディアの父君と複数の客人は僕など無かったかのように足早に立ち去ってしまった。それにしても彼女がどうして今のような性格に育ったか何と無く察した。



「ね ねぇ 何かあったの? 急いでるみたいだけど・・・」


「貴方こそここで何をしてるのよ この街での貴方の立場は 事実はどうあれ奴隷に等しいのよ?」


「えと・・・ 僕はその こ これからの事について相談と言うか 話があって 君を探してたんだ」


「・・・ふぅん まぁいいわ 実は今回の事で我が家は大変な事になってるのよ」


「そうなの?」


「ええ 貴方達 門でトラブルに巻き込まれたんですってね 実はその時に何人かが街の手順を踏まずに出ていったらしいの」


「へ へぇ・・・」


「一般にスプリントノーゼに入る際には名前の記入が義務付けられててね 逗留するにせよ簡単な説明がされるわ その中に街を出る時の決め事もあって 名簿に書かいた自分の名に線を引く決まりになってるの 何でだと思う?」


「・・・ええと 管理・・する為?」


「正解 規則を破った者に街は容赦しないわ 何処までも探して必ず報いを受けさせる」


「で でも外に出てった人を探すなんて無理じゃない? 何処に言ったかも分からないのに・・・」


「フフ そうね ・・・貴方だから教えてあげるんだけど 実は名前が書かれた名簿って 伝書鳩なの」


「え・・・伝書鳩?」


「そう 伝書鳩・・・ でね 線が引かれてない宛名には伝書を送る事ができるのよ」


「それってつまり・・・追跡・・・ だったら街にいたナイームを探す事だってできたんじゃない? だって名前が書かれていたんでしょ?」


「街中だったら探す必要がないわ お抱えのスキル保有者はあくまで脱獄した人間を探す事に特化してるのだもの」


「特化・・・だから何処までも探せる・・」



 まずい・・・これで探されたらナイームは兎も角としてヤーデフさん達にまで矛先が向けられてしまう。他にも逃れたアーキア人がいるかもしれないし。そうなったら・・・



「ねぇ その・・・街から出て捕まった人って どう・・・なるの?」


「良くて罰金 但し法外な値段だけど それ以外だと奴隷落ちかしら この街で奴隷になるってどう言う意味か分かる? 人権なんて無い 権力者達のオモチャよ」


「オモチャ・・・」



 どうしよう・・・皆に相談するべきかな。するべきだよね。でも既に彼女のお父さんが動いてる訳だし今更止めようがない。どうやったら止められる。


 もし止められるとしたら彼女しか・・・



「あの・・・ゴメン その 街のゴタゴタは僕達のせい なんだ・・・」



 言った・・・言ってしまった・・・



「・・・そう そうなの まぁ何と無くそんな気はしてたけど」


「え・・・」


「別に確証があった訳じゃないわ 本当に何と無くそう思っただけ でも今回の事で分かったわ・・・あの子が 貴方を特別扱いしたのにはやっぱり意味があったのよ 貴方は普通じゃない


 私はこの街で育ったの 日々の生活の中で他のマイナス等級がどんなだかつぶさに見てきたわ でも貴方は彼等とは違う 明らかに違うの 普通の人に混じっても遜色なくて それどころか冒険者にまでなっている 貴方は自覚してないみたいだけど それがどれだけ凄い事か分かる?」



 彼女の中で何が渦巻いているのか、興奮した様子で僕の両肩に手を置いて熱弁し始める。



「そんな人間が裏でコソコソやってこの始末 有り得ないと思いつつ もしかしてと心のどこかで思ってた 許せるか許せないかと言われたらもちろん許せないわ でもいいの 貴方はこうして話してくれたんだもの」



 そう言いながら両肩に置かれた手はどんどん力がこもっていき、程よく整えられた指先が僕の肩へと食い込んでくる。



「分かる? 私の気持ちが 裏切られた事への怒りと悲しみと悔しさと同時に 街の鎖から突破した あの子が特別扱いしたマイナス等級・・・いいえ 貴方と言う未知が今 希望という光と共に手の中にあるんだから」



 キリキリと万力のような力で食い込む指先と、押さえられない気持ちとか入り乱れて、訳分からない感情で僕に迫ってくるルディア。女の子ってこんなに力があるんだ・・・


 痛い・・あと怖い・・・



「どうせ貴方の事だから逃がした人を心配して告白したのでしょう?」


「う うん・・・ゴメン」


「いいの いいのよアネット 貴方のそう言う素直なところ素敵だわ だったらこの状況をどうにかできるのは私しかいないって分かっているのよね?」


「う うん・・・」


「フフ ウフフフフ 聞き分けが良い子は好きよ ・・・ねぇ貴方 私の物になりなさい 私に仕えるの ちゃんと成果を上げればたっぷり可愛がってあげるから」



 両肩に置かれた手はスルリと首元を通るとそのまま僕の頬を撫でてくる。でもその少し甘ったるい声色の底には名状しがたい黒い欲望のようなものが溢れんばかりに渦巻いていた。





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