368・アジト侵入
前回のあらすじ
準備期間としての9日間を有効活用する為にアネット達は坑道の確認や、アジトの情報のすり合わせを行った。
「フフフ 今日の午後には武具が到着するわ ご親切に武器だけじゃなく防具もつけてくるなんて気前が良いじゃない」
「き きっとハルメリーに新しくやって来た貴族って事で 町もルディアに期待してるんじゃないかな やっぱり経済を大きく動かしてくれるのってお金を持ってる貴族だしね」
「正解~ 平民の貴方も私のありがたみが分かってきたようね」
時は経過し今日は作戦決行日。準備は入念に行って作戦も頭に入れたけど、いざ当日となると言いようのない不安が心に貼り付く。
ルディアとの何気無い会話にさえ緊張が走るのは彼女を騙す事への罪悪感か、或いは悟られまいとする危機感か・・・ どちらにせよ胸がドロドロでドキドキするのは変わらない。
「それで確認なんだけど 伝書鳩には装備の調整が必要って書いてあったんだよね? って事はルディアの出陣は明日以降って事でいいのかな」
「そうね 本当は私の兵だけで十分なのだけど せっかく気を使ってくれたのだから ここは貴族として ちゃんと宣伝もしといてあげないとね」
「う うん ここの兵士が武功を上げればハルメリーにも注文が入ると思うし町の皆も喜ぶよ そうすればルディアの名声も益々上がるだろうしね」
「そうね ・・・そうよ スキルさんが居なくても私はここまでできるのよ 後は結果を待つだけ アネット 貴方もあの子に拉致られたよしみで よく働けば褒美を与えてあげるわね」
「・・・うん 頑張るよ」
作戦成功を確信して有頂天になってるとこ悪いけど、これからその作戦なんで僕はお先に失礼する事にした。事が済んだ後の彼女がどんな心境になるのかは・・・終わった後で考えよう。
屋敷から出てブランディーゴファミリーアジトから少し離れた場所まで移動する。そこで皆と落ち合う手筈になっていた。
そこに集まったのはハルメリー組7名。ヤーデフさん等は別動隊だ。
「おい ルディアのヤツどうだった」
「何か 舞い上がっちゃってる感じかな」
「ハッ お目出度いな だが都合がいい アイツにはこのまま幸せな幻想を抱いててもらおう」
「問題は武具が到着する時間だよね 遅くてもダメだし 早くてもダメ ・・・ところでヤーデフさん達の準備は整ってるのかな」
「抜かりはないだろ 連中もファミリーのアジト周辺に潜伏してる ヤツの仕込みが発動と同時に俺達も行動を開始するぞ」
〔もう一度確認だけど ナイームの拉致が最優先 無理に戦闘はしない これで良いのよね?〕
「ああ 戦闘は極力避けろ 接敵したらその時はその時だ それとナイーム自体も色々仕込んでるだろうから気を付けろよ 前もそれで逃げられたからな」
「あれ何かの毒だったのかな 鼻とか喉やられた気がする・・・ん? 何か 周り騒がしくない?」
「え? そう? 何も聞こえないけど」
〔・・・いいえ 遠くの方で鈍くて重い音がしてるわ 地鳴りかしら〕
「いや 足音だね それもかなりの数の・・・ ヤーデフさん達かな」
周囲が建物に囲まれてるせいか音も反響して段々とよく聞こえてきた。それは間違いなく人の集団行動から出る足音なのだけど、それにしてはかなりの急ぎ足だ。と言うより目的地に向けて必死に走ってる様子が窺える。
ヤーデフさん達にしては違和感があるな。
「お そろそろ時間かな」
「ヤーデフの仕込みだよ」
「そう言えば その仕込みって何? 詳しく聞いてなかったけど」
「ん? ナイームの居場所を周りの奴等にばら蒔いた」
「・・・え」
「今頃ブランディーゴファミリーのとこに他の組織の連中が雪崩れ込んでるところじゃね?」
「ちょ ちょちょ・・・何考えてるのよ!」
「ああ? これでやり易くなっただろ 周りはアーキア人だらけ 顔は俺達しか知らねぇ アドバンテージはこっちにあるんだぜ?」
「それはっ・・・ そうかも・・しれないけど・・・むぅ」
「ま どんな感じになってるかなんて分からないし 出たとこ勝負だな」
「現場の熱気も上がってきてるみたいだ そろそろ俺等も向かおうぜ」
「おう」
ヤーデフさん等の仕込みが無事発動したらしく、耳から伝わる音の感じからコソコソ潜入しなくてもいい感じに現場は混乱で仕上がっていた。
「おい! ナイームって奴はどいつだ!」
「ナイームは何処にいる!」
・・・等々。開けた円形の広場にはひたすら「ナイーム」の名前が溢れかえっている。半ば脅しに近い質問にアーキア人はただただ「知らない」と答えるばかりだけど、別組織の面々は「隠してる」としか思ってないのか、終いには暴力が出る一面も見てとれた。
心の内が分かる僕からしてみれば、ここのアーキア人達は本当に何も知らないのか皆一様に当惑するばかり。どうやら幹部の人達の間でしか彼の存在は認知されていないらしい。
「ここは俺達の居場所だ! 何処の組織か知らないが シマを荒らすなら俺達も戦うぞっ!」
「アーキア人ごときが 一丁前にでけぇ事抜かしてんじゃねぇぞ! てめぇ等はここじゃ奴隷なんだよ! 奴隷は奴隷らしく バカみてぇに俺等の質問に答えてろやっ!」
「ふざけんな! 俺達は奴隷じゃねぇ! もうこの街の住民なんだ! ここが家なんだ!」
「そうだ! 俺達は俺達の居場所を守り抜くっ! 野郎共! 戦いの時だっ! ぶっ殺せぇぇー!!」
「「「おおおおおお!!」」」
ヤーデフさんの言った通り、敵の存在はここを居場所と思うアーキア人の心にすんなり火をつけた。パッと見、義憤に駆られる彼等の数はそれなりだけど、侵入者もそれなりだ。
ここまで煮詰まれば互いに血を見ない訳にもいかないだろう。
「・・・目的の為とは言え 犠牲者が出るなんて」
「こんな街で生き残るって事は いずれ通る道でもあるんだ 逆境に立ち向かう事で団結力が強くなるならいいじゃねぇか」
〔こんな時だしいちいち突っ込まないけど 納得できそうにないわね でもアネット 彼等の決断を無駄にしない為にも このチャンスは絶対に逃せないわ〕
「そう言う事だ これからアジトに強襲をかける ひよって迷子になるなよな」
僕達はユシュタファの事前の調査でアジトと思しき建物の裏手から侵入を試みた。不用心にも施錠はされてないらしく、扉は軽く押すだけであっさり開く。あまり自衛の観点には目を光らせてないのか呆気なく内部に入り込む事ができた。
事前の説明によると建物は4階構造となっており、元々何に使われた建物かは分からないけど、人が普通に生活するには微妙にチグハグな広さで構成されてるらしく、きっと商用の為の建物だったのだろうけど、街が街なだけに扱われた商品が何だったのかはあまり考えたくない。
盲目な僕には建物全体の大きさの把握は無理にしても、別組織もここに突撃してるのか、遠巻きに言い争う声が聞こえてくる。あと金属通しがぶつかる音も・・・
そんな音に注力していると別の区画から此方に走る1人分の足音が近付いてきた。
「おい! そこのお前! 外はどうなってんだ! ・・・? そいつ等は何だっ!」
「それよかドメリコに命令させた方がいいんじゃねぇのか? 外じゃ他の組織の連中が襲撃かけてきてんぜ アーキア人共は交戦してるみてぇだがよ どの程度生き残れるか・・・」
どうやらここのファミリーの一員と思しき人物は、アーキア人であるユシュタファを仲間と勘違いしたらしく疑う事なく話し掛けてきた。やっぱり1人1人ちゃんと把握している訳ではなさそうだ。助かるけど・・・
「なっ!? くそっ! ドメリコの野郎は今貯蔵庫だぞ 異変に気付きゃいいが・・・」
「あっそ ここには居ない訳ね」
パシュ・・・ヒョオオオォォー・・・
手筈通りユシュタファは窓の外に向けて音の鳴る矢を放つ。
「!? は? お前・・・何やってんだこんな時に! 何だそれは!」
「鏑矢だよ 知らねぇのか? ドメリコはここには居ねぇって合図を 外の連中に知らせたんだよマヌケ」
「??? は? ・・・お前 ・・・ここのアーキア人じゃ────」
「違ぇよ バーカ」
ザシュ・・・!
「ギャッ!!」
容赦がない。困惑して動けないでいる相手に間髪入れず斬りかかるユシュタファ。こう言ってはなんだけど、躊躇とか良心とかはないのだろうか。もっともこの状況でそんな事口にしようものなら、返ってくるのはグチグチとした愚痴だろうけど。
そのまま流れるように階段を駆け上り、僕達は周囲の混乱に乗じて最上階4階に到着した。彼女の話ではこの階でナイームを見たとの事だけど、一般のアーキア人でもここまで来れるところを見ると、本当にアーキア人は警戒されてないんだと感じる。
言い換えれば眼中にないとも言えるんだけど・・・
とは言えここが目的地。先に待つのが何であろうと進むしかない。そんな進路の到達点。その奥まった広目の部屋には数人が固まっていた。
「アーキア人の武器の携帯を許した覚えはねぇ その格好・・・まさかこの騒ぎを引き起こしたのはお前等か? おおかたコイツを狙ったってところか」
真ん中に座すボスと思しき人物は、静かな物腰でありながらもドスの効いた声で聞いてくる。対照的に周りにいる人達はどこか心がオロオロしていた。
「お前 ユシュタファか?」
「何だナイーム 知り合いか」
「ああ 前に誘因剤の件で俺を追い掛けてきた奴だ まぁ昔馴染みみたいなもんだな」
「馴染んだ覚えはねぇよコウモリ野郎 俺達がここに来た理由はテメェの首だ」
「首 穏やかじゃないな そこまでして誘因剤を消したいのか」
「俺が消したいのは薬とアーキア人との繋がりだ テメェを持ち帰る事でその因果を絶つ」
「どいつもこいつも・・・必要だと言ってみたり 要らないと言ってみたり まぁどちらにせよ 動機は欲な訳だから麻薬としての効果はあった訳だ 結局最後はお貴族様に持ってかれたがな」
「見誤ったな この街の本質は支配とコントロールだ 人やモンスターを操る薬を貴族がほっとく訳ねぇだろ」
「ここのアーキア人を見ろ 操るだけなら薬はそれ程必要ない 誘因剤にあったのは可能性だ 俺は未来を奪われたんだ だが只じゃ転ばない 連中 俺を単なる運び屋と思ってるらしいが薬の知識は俺の頭の中にもある 再起はできる」
「お前こそ外の騒動を見てみろよ とてもやり直せる環境じゃなさそうだぜ?」
「・・・俺が捕まらなきゃいいだけの話だ 元々大々的に手を広めるつもりはなかったんだ 地味に手狭にやってけば誘因剤は失くならない 幸いここのファミ──────」
「いいや お前は手放す事に決めた」
ナイームが台詞を言い終わるよりも前にボスはすんなり彼を切り捨てた。人間関係の儚さかこれまた躊躇がない。利害だけの繋がりなんてこんなものなのかもしれない・・・何か虚しい。
「はぁ? ・・・ちょっと待て ・・・話が違うぞブランディーゴ!」
「貴族に見限られたお前を拾ったのは 薬の有効性とアーキア人である事が隠れ蓑になる利点があったからだ そいつ等はお前と同じよそ者だろ? こんな堂々と動けるのはバックに貴族が付いてるからだ 違うか?」
「へぇ よく分かったな」
「認めたくないが ここじゃ貴族は絶対だ オマケにお前の存在がバレちまった以上 その時点でナイーム お前は俺等の厄介者になったんだよ」
「・・・ああ そうか そうだな 立場なんてそんなものだ はぁ~・・・支配者層の一部にでも食い込めれば安泰だと思ってたんだがな」
「ナイーム 本当に良いものは奪われるか潰されるかだ 誘因剤だっけか そいつはアーキア人の秘術に留めとくべきだったんだ」
「そうだな そうするよ ところで俺は手放される・・で いいんだよな?」
「ああ」
その瞬間ナイームは自身の腰にある筈の何かに手を伸ばした。しかし手に掴む筈の物はいくら手探っても掴めない。
「おっと お前の探し物はこの袋か? 以前ユシュタファがこいつにやられたって聞いたからな 警戒しといて正解だったぜ」
「なっ!」
手癖の悪さに定評のあるターヒルは、スキルで潜伏して既にナイームから袋を奪っていた。切り札を奪われてさしものナイームも焦りが滲む。
「逃げられたら面倒だ おいアネット」
「盲目さんっ 練習の成果を見せる時だよっ」
『はぁ~い プチダーク!』
「っ!? 何だこれっ 目が くそっ! 真っ暗で何も見えない! どうなってんだ!」
『プチダーク』を自在に操れるようになった事で彼の目に黒い靄を張り付ける。彼は手でそれを払い除けようとするけれど自然生成された煙とは違う。
これはスキルでスキルには意思が宿ってる。大量の虫が獲物に群がるように、これを排除するのは困難を極める筈だ。
〔ついでに口も塞いじゃいましょう〕
ミストリアの水魔法がこれでもかともがくナイームの自由を拘束する様に口を塞ぐ。パニック状態で口腔まで塞がれてはもう逃げるどころじゃない。それが証拠に過呼吸を起こして倒れてしまった。
自分等でやった事だけど、これ大丈夫だろうか。かろうじて鼻で息はできてるものの、のたうつ彼は地獄の縁にいる気がする。
「何だそりゃ 気味悪いな 盲目がスキル使って 失語さん連れた奴が魔法使うってか こりゃ骨が折れそうだ」
「ここまできて戦おうってのか? お前等は包囲されてんだぜ」
「この業界 ナメられたら周りから食い物にされんだよ 俺達の顔に泥塗った落とし前は テメェ等の命で支払ってもらおうか」




