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365・秘密の坑道

前回のあらすじ


セブラとの会話からブランディーゴファミリー周辺を探る事となったアネット達は、ターヒルの“斥候さん”の追跡で目当てのアーキア人の痕跡を辿るのだった。

『クンクン・・・んー これ違う こっちかな? クンクン・・・』

「近そうか?」

『跡が新しくなってるねー アーキア人の臭いで さっきの屋台で肉料理を食べたから痕跡がバッチリ残ってるー たぶん30分くらい前にここ通ってるよー』


「そんな事まで分かるんだ 凄いね」


「こいつの斥候さんは 体の一部がちょっと付着しただけでも後追えるからな まぁまず逃げるのは不可能だぜ」

「さすがに時間が経ったら無理だけどな このアーキア人は食いしん坊で助かった」



 そんなお肉の臭いを辿って僕達は段々と人気のない場所へと入り込んでいった。表の顔と違ってここは寒々しい。時たま流れる風がとても冷たかった。



「閑散としてるわね でも隠れるにはうってつけね」


〔オマケに建物も高くて日も当たらないのが余計雰囲気を出してるわ〕



 これだけ死角に恵まれれば潜伏場所には事欠かないけど、地元民がこの特性を知らない筈がない。怪しいアーキア人が居れば、すぐさま何処かの組織に垂れ込みがいきそうな気がする。



「・・・それでも微かに音が響いてるね 全くの無人って訳じゃないみたい」


「一軒づつ扉叩いて聞き込むか?」

「待て待て ターヒルの解答待とうぜ」

「どうやら到着したみたいだぜ 斥候さんが建物の扉の前で止まってる」

「民家の中? ファミリーから逃げてるんだろ? 普通に生活できんのかな」



 僕は注意深く扉に近付いて耳をそばだてた。屋内の音に集中するけど人の気配はない。2階ないし3階にでも居るんだろうか。それでも足音がすれば気付く。



「盲目さん この建物の中に人は居そう?」

『こっちを意識してる感じはしないね~ 音もしないから無人じゃないかな~?』


「となると変だぜ 臭いがここで途切れる事になる」

「てか 寝てんじゃね?」


「ん~ イビキも寝息もしないから やっぱり誰も居ないんじゃないかな」


「扉に耳くっ付けただけで分かんのか?」

「分かるんじゃないか? そもそも盲目で冒険者やれてる時点で普通じゃないんだ 他の人にはない何か持ってても不思議じゃない」


「人が居ないならちょうど良い 中で待たせてもらおうぜ」


「俺等客人じゃないけどな」



 そっと開けた扉に鍵は掛かっていなかった。ギィィときしむ音がしても奥から人の反応する感じはない。やっぱり無人なのかしんと静まり返り屋内は埃っぽい。それだけでも人が生活を営む環境ではなさそうだ。



「空き家・・・か? 家具は置かれてるけど 何と言うか 生活してるようには感じないな」


〔テーブルに埃が積もってるわね 棚の上とかなら分かるけど 真ん中のテーブルがこれだと人が住んでる形跡にはならないわね〕


「ほんとにここに居るの?」


「どうなんだ? 斥候さん」

『あっちの部屋ー』



“斥候さん”の指摘で奥の部屋へ行っても然程の変化はない。強いて言うなら周囲の面積が狭まったのが音の感覚で認識できるくらいか。



「物置かしら 大したもの置いてなさそうだけど」


「いや そうでもねぇ 大発見だ その棚と棚の間 見てみな」


「これは・・・地下倉庫に続く扉 かしら」


「倉庫かどうかは兎も角 臭いはここに続いてるぜ」



 僕達は恐る恐るその扉を開けた。やはり地下倉庫なのかそこには階段が設えてあるらしい。ゆっくりと降りた先は部屋などは無く一本の通路が続いてるだけだった。幅はせいぜい大人2人がすれ違える程度。しかしこれだけで大当たりの予感があった。



「ご丁寧にランプが置いてあるぜ」



 シャッと手持ちの道具でランプに火を灯す。その瞬間皆の心に恐れのような不安が過る。



「この通路・・・手彫りか?」


「ほんとだわ 何処まで続いてるのかしら」


「なる程 ここを使って移動してる訳だ」


「ん? 待って 普通に外歩けるなら ここ必要なくない?」


「こんな街だぜ? 何かあっても不思議じゃないだろ」


「それを言われると身も蓋もないわね」


「折角ランプまで用意されてんだ 招待状とでも思って先に進もうぜ」



 歩きながら壁に手を添える。この坑道、街に許可貰って作られた感じがしない。街の意にそぐわない誰かの意図によって作られた感がある。ラフィーの言う通り「こんな街だから」で説明つくけれど、実生活に必要な私道なんだと思いたい。


 そんな不可解な通路を歩いていると僕の耳に届くある符牒を捉えた。



「待って この先から人の声がするよ たぶん3人以上いる」


「・・・俺が先頭で行く」


「大丈夫そう?」


「大丈夫も何も ここの連中にナイームの事聞きに来たんだぜ 話をしなきゃ始まんねぇだろ 後はその連中が協力的なのを祈るだけだ」



 そう言うとユシュタファは警戒するでもなくズカズカ音を立てながら堂々と突き進んでいった。近付くにつれて話し声も大きくなるけど、相手も此方の存在に気付くと話し声もピタリと止む。



「誰だ アデューロか?」


「アデューロ? 知らない奴だな」


「っ!? アーキア人・・・どうしてここが」



 そこは通路より多少広く空間が儲けられており、複数人で密会するには調度良い広さが確保されていた。そして僕達の目の前には5人。みんな固まって此方を警戒している。



「痕跡を辿っただけだ 別にお前等の生活の邪魔をしに来たんじゃねぇよ ちょっとナイームって奴の事知ってるか 聞きに来ただけだ」


「ナイーム・・・お前等もあいつを探しに来たのか 何処の組織のもんだ」


「冒険者だ ハルメリーのな」


「ハルメリー・・・そうか 外から追ってきた口か 残念だがここに奴は居ない」


「だったら居そうな場所知らないか?」


「居そうな場所か・・・それなら───」

「待て お前等本当に冒険者か?」



 さすがに会ってすぐ此方を信用する訳にもいかないか。何せ本来僕達よそ者が来る筈もない場所に来てる訳だから不審に思われても仕方ない。



「こっちのは貴族のボンボンだが それ以外は全員冒険者だ」


「いや 別にボンボンと言う訳ではないが・・・」


「嘘だっ 盲目さんに失語さん連れた奴が冒険者な筈ないだろう!」

「盲目の・・・もしかしてお前 アネットって名前じゃないか?」


「え えぇ そう・・ですけど」


「ヤーデフ 知ってるのか?」

「噂でな ハルメリーで盲目の冒険者が現れたってな 眉唾だと思ったが 本当に居たとはな」

「このなよっちいのが冒険者? 見えねぇなぁ」


「よく言われます・・・」


「んで? お前さん等 奴に何の用だ 会ってどうする」


「用があるのは奴の首だ ハルメリーで急遽入り用になったんだよ」


 

 ユシュタファを確かめるように彼等は暫し沈黙した。しかしどこか得心がいったのかヤーデフと呼ばれた人物は僕達を拒絶するでもなく話を進める。



「そこのボンボンが居るって事は貴族と繋がりがある訳だな ・・・交換条件だ こっちの言う事を訊いてくれるならお前さん等に協力しても良い」


「あまり変なもん吹っ掛けられても払えねぇぜ こっちは自力で探す事だってできるんだ」


「この街の事を分かってねぇな 檻なんだよ 檻 その鍵はとある伯爵家が握ってる だが自由じゃねぇ 奴等もこの街の一部だ 総意には逆らえない そんな街のトップが切った奴だぜ? 拘わったら録な事にならないぞ」


「言ったろ 欲しいのは首で友達になりに来た訳じゃねぇ」


「ああそうだ 首が欲しいんだよな だがその首を他の連中も欲しがってるとしたらどうだ ナイームの事は調べたよ俺達なりにな ヤバイ薬作ってたんだろ? だがこの街の連中なら薬のレシピより奴の首を欲しがるね


 いいか? 奴は今 この街の厄介者リストに名前が載っちまってるんだ つまりその首は今や金より高値が付いてんだよ」


「金より? 分かんねぇな 秘密裏に薬を作りたいとかじゃなくてか?」


「功績だよ功績 公爵家はこの街の連中にゲームを仕掛けたのさ 今や奴の首は 名を上げたいって連中の格好の獲物って訳だ」


「賞金首みたいなものかしら 気持ち悪いわね」


「なる程 ここの事情は分かった で? あんた等は俺達に何をさせたいんだ そんで本当に奴の居場所を知ってるのか?」


「ああ知ってる だがお前等だけでは手が出せん だから互いに協力しようって話だ ・・・俺達はここから出たい」


「いいぜ 乗ってやる」



 考える間もなくユシュタファは即答した。覚悟を決めた彼女は止まらない。ましてや足掻こうとするアーキア人は彼女にとっての仲間だ。躊躇う理由もない。



「おい待て そんな事ここで決めてもらっては困るっ ちゃんとルディア様に報告を───」

「あの女が俺達に話持ってきた時点で怪しいと思ってたんだよ 案の定 裏があったって訳だ で? この話を聞いて貴族のお前はどうする」


「それは・・・っ」



 急な選択を迫られたロダリオに焦りと迷いが去来した。貴族ぜんとしなくてはと言う使命と、正しい行いをしなくてはと言う私情。兼ねてからの悩みが現実となって突き付けられる。



「ロダリオ 君はルディアに付いていてあげてよ たぶんこれ以上僕達の側にいると君の立場が危うくなる気がするんだ」


「アネット しかし・・・」


〔貴族の失敗は親子の縁ですら切られる事もあるのよ あの子の野望の為に貴方が犠牲になる必要はないわ〕


「だが・・・」



 彼の中の葛藤の末、心に傷を負いながらも自身にとっての着地点に立ったロダリオは静かに答えを口にした。



「・・・分かった 最後までいれなくて済まない」



 そう言うとロダリオは1人坑道を戻っていく。彼の背中に皆は何を思うのだろう。この場合、直に心を覗ける僕は目を背けるべきなのか・・・



「話を振った俺が言うのも何だが いいのか? 仲間なんだろ」


「友達や仲間だとしても皆それぞれ優先順位はありますよ だったら背中を押してあげるのも仲間の役目じゃないですかね」


「へっ お人好しだな いいぜ 気に入った」


「さて 俺達は話に乗ると決めた 具体的にどうするんだ」


「俺達でブランディーゴファミリーを叩く 連中がナイームを匿ってる 奴等が欲しいのはこの街での地位じゃなく金だ」


「お金・・まぁ必要だろうけど 皆が狙ってる中で上手くやれるんですかね」


「奴等は交渉下手だ 節操無く部下を増やして数で押しきろうって算段だ ナイームの件がなくてもいつかは淘汰されるだろうな だがお前達には奴の首がいる 実際 時間はそうないだろう」


「連中を叩くのは分かった けど肝心のお前等はどうすんだ 出たいって言ったって出れないのが問題なんだろ?」


「だから俺達も奴の首で交渉しようと思ってるんだ」


〔と言うか そもそもあなた達はどうしてスプリントノーゼから出られないの?〕


「ん~・・・最初は出来心だった 面白そうな街があるって聞いたから来てみたんだが 親切な奴と出会って羽目を外して・・・気付けば文無しだ 借金まで背負わされて逃げられない」

「ここのアーキア人は皆そうだ 甘い話に釣られた俺達にも責任はある だからって命や人生を奪われていい事にはならないだろうっ」

「諦めた奴は大勢いるよ そんな連中にファミリーは声掛けて手下にしてるんだ」



 きっと最初からそうするつもりで近付いたんだろう。その手口の程は分からないけど気が緩むような甘言には気を付けないと僕等もこの街の一部にされかねない。



「ねぇ・・・気になったんだけど この坑道をずっと掘り進んでいったら外に出られるんじゃないかしら」


「いや無理だ 以前外壁の側でそれをやろうとした奴がいてな バレて捕まったよ その後小耳に挟んだんだが どうやら地下の変化は土魔法使いに感知されるらしい」


「だったらここもバレてるんじゃ・・・」


「そうでもない 深く掘らなきゃ地下室の一部と思われてるのか この坑道も放置されてるし同胞以外ここで会った事もない」


「だったら ここは何の為に作ったんだ?」


「これも先人の試行錯誤の1つさ 今じゃ東西南北 あちこちに行き来できる もっとも 門の側には作れないがね」


「だが近くには作れる訳か・・・なぁ 奴の首で交渉っての つまらなくないか?」



 そう言ったユシュタファの心に黒い靄が掛かった。





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