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359・ユシュタファの理由 アネットの理由

前回のあらすじ


ギルドで出会したユシュタファ一行とアーキア人集落の族長ワッハーブ。互いの見地の違いから言い争う中ルディアが間に割って入る。別室にて話し合った末、ルディアの口から「この町のアーキア人は私の庇護下に入る」と言う台詞が飛び出るのだった。

 ・・・ん? 聞き違いかな? 今庇護下にって。



「おいおい 何言ってんだ?」

「庇護下って何だよ」



 ギルドの応接室から出てきた3人は僕達の予想を裏切り三者三様、分かりやすい色に染まっていた。ルディアは勝ち誇り、ワッハーブは光明が差し、ユシュタファは何だかグチャグチャしている。


 明らかに拗れた感が否めないけど、更に信じられない言葉がユシュタファの口から続いた。



「・・・コイツの提案に乗る事にした」


「は? ユシュタファ?」

「マジかよ」

「どうしちまったんだ?」


「・・・・・・」



 ターヒル達が次々に質問を投げ掛けてもユシュタファは一向に理由を語りたがらない。彼等の頭は疑問符でいっぱいだろうけど僕の頭も掻き回される。


 ギルドの応接室でいったい何が語られたのか。


 ユシュタファの様子を見るに、彼女の望みに即した提案だったのだろうけど、それと引き換えに苦渋の決断を迫られる何かを飲み込んだ・・・そんな感じがする。


 どのみち一学生の身とは言え、貴族家の名代で動くルディアの行動が僕達に軽い筈がない。何を企んでるかは分からないけど、このまま彼等だけで歩き続けても角が立たない着地点には辿り着けない気がする。



「出立の時期は後で報告するから それまでに準備は済ませておいてね」


「では私もこれで失礼させてもらおうか」



 自分の用事は済んだとばかりにさっさとギルドを後にするルディア。彼女程ではないにせよ、肩の荷が下りた調子で同胞に一言残して立ち去るワッハーブ。それを見送るような形で取り残された僕達は唖然とした空気に包まれた。


 しばしの沈黙の後、ため息ともとれる声がユシュタファの口から放たれる。本人も泣く泣く覚悟を・・・と言うより諸々諦めたのか、その言葉に覇気は無かった。



「はぁ・・・お前等 次の仕事だ」


「仕事?」

「仕事の話をしてたのか?」


「ああ スプリントノーゼに行くぞ」



 ★



 他人の口車に乗るのは納得いかない。掌で操られてる感じがムカつく。他人から与えられるチャンスに乗るのは不愉快だ。俺達は差し出された餌に食い付く魚じゃない。獲物は自分で狩ってこそだろう。


 だが沼から這い上がれないように、走っても走っても好転する兆しが見えない。問題を片付けても片付けても先にあるのはまた次の問題だ。俺はいつまで走ればいい。どうすれば今を抜け出せる。



「・・・なぁユシュタファ? 何でスプリントノーゼなんだ?」

「もう俺達しかいないんだし そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」


「・・・誘因剤にケリをつけるぞ」


「誘因剤 もしかして製造元が見付かったのか?」


「ああ スプリントノーゼの貴族が囲ってるんだそうだ あの女が言うにはそこにナイームが関わってるらしい」


「ナイームか 俺あんまアイツの事知らないんだよな」

「コウモリ野郎だよ 集落を出入りして小銭を稼いでる奴さ ちょくちょく外に出てきてはアーキア人と接触して商売してるんだ」

「でもよ 薬は貴族が囲ってるんだろ? そんな相手に手ぇ出して俺達大丈夫なのか?」


「そこら辺はあの女が何とかするんだろ 伯爵家らしいからな だが気を許したりはしねぇ アイツ俺等を利用する気満々だからな 俺達もアイツを利用すんのさ」


「にしたってお前よく納得したよな 貴族の庇護下だぜ?」


「冗談 ハナから囲われる気なんざねぇよ スプリントノーゼは内情も土地勘も皆無だからな 道案内は必要だろ」


「なる程 で? 族長はどうなんだ 提案を受け入れたのか?」


「ああ 二つ返事だったぜ 自分をアーキア人と言っておきながら簡単に落ちやがった 心のルーツが無いんだよ 中身が空っぽだと金や物や地位で満たさなきゃ安心できないんだろ」


「ハハ 可哀想にな」

「それで 俺達は組織自体を潰すって方向でいいんだよな」


「話を詰めた訳じゃないから詳しくは分からねぇが もしあの女の目的が薬を奪う事だったら・・・」


「だな 俺達の目的は誘因剤の抹消だ」

「あの子 どう見ても俺達に協力したいだとか 町の為って殊勝なガラじゃないよな」

「貴族らしいって言えば 貴族らしいのか?」


「何だっていいさ ここらで一区切りつけねぇと俺達は次に進めねぇからな」



 そうだな・・・一歩一歩着実にだ。そうすりゃいつかは辿り着ける。俺の望むアーキア人の理想に。














「待って! 僕達も連れてってよ」


「はぁ?」



 あれから数日。スプリントノーゼへ出発ってなった矢先にアネット3人組が揃い踏みで来やがった。こいつ等が来る理由なんざ言わずもがなだが面倒くせぇ・・・


 何が面倒くせぇって、こいつは自分の感情優先で行動する奴だからだ。ワッハーブの時もそう。本来関わりねぇ筈がわざわざ首突っ込んでくるあたり、おかしな使命感にでも駆られたんだろう。


 こう言う奴は金払ったら終わりじゃねぇんだ。終わってからもズルズル引きずるんだよ。アイツも言ってたが俺達とは見てる世界が違うんだろう。


 価値観、考え方が違えばいずれどこかでズレる。


 それは本質やら根幹に触れた時こそ表れるんだ。俺等がこれからやるのはただの仕事じゃねぇ。アーキア人の沽券と主張の問題だ。アネットの出る幕はねぇ。


 正直邪魔だ。



「帰れ これは俺達の問題だ」


「あのっ ・・・あの日から僕なりに考えてみたんだ それで 君達の抱える問題を君達だけで解決するのは難しいんじゃないかって


 君達以外の誰かが話の輪に入らないと おかしな方向に突っ走っちゃう気がして もちろん君達の思いを否定する訳じゃないんだけど 同じ町で一緒に暮らすならこれは僕達の問題でもあるから・・・」


「はぁ~ お前何か勘違いしてるようだからこの際ハッキリ言っておくが 俺達は別にお前等とよろしくやりたい訳じゃねぇんだぜ そう言う女々しい事望んでんのは集落の連中だ アーキア人と仲良くやりたかったらワッハーブにでも声掛けろよ」



 貴族とは言えルディアなんぞにも平気でケツ振る老害だ。現に集落も貴族と誘因剤の上がりが無くなった途端瓦解した。再建するでもなく立ち上がる気力も無い。依存体質なんだろうよ。


 いい機会じゃねぇか。この際自分で歩く事を集落の連中なりに覚えるべきだ。



「あらいいじゃない 手伝ってくれると言うのなら歓迎するわ」


「ルディア テメェな────」

「雇い主は私 どうするか決めるのは私よ それに水魔法を操るミストリアさんがいてくれれば 道中の飲み水に困らなくてすむものね」


〔貴女も勘違いしないでね 私とマルティナはアネットを手伝うのであって 貴女の目論見に協力する為ではないわ〕


「構わないわよ 私の目的は半分果たせたようなものだし 貴女こそ現場を水でグチャグチャにしないでね」


〔輪を掻き回すのが得意な貴女に言われたくないわ〕


「勘弁しろよ 仕事中ずっとこれが続くのか?」


「前途多難だな 不安になってきた」

「頼むから馬車の中で口喧嘩とかしないでくれよ?」


「まぁ今回はあくまでアーキア人の関わる案件だ 向こうでは彼等が主軸として動く事になる なのでアネット達はその補佐として協力してほしい その方針で如何でしょうルディア様」


「そうね それで構わないわロダリオ アネット達には移動しながら仕事の内容を説明するわ」


「クソが 俺等に拒否権ねぇってか」


「まぁまぁいいじゃん 人数が多けりゃやれる事も増えるって」

「初めての土地だし 俺ちょっと心細かったんだよね」


「お前等なぁ・・・」











「え・・・誘因剤を?」


「今回の仕事はスプリントノーゼ内で確認された薬の製造施設の壊滅と関係者の捕縛が目的だ」


「今更だけど僕達だけで大丈夫なの?」


「人数を不安に思うのも無理はない しかし向こうにも動きがあってな 誘因剤を手にした貴族と売ったアーキア人との間に亀裂が生じた」


「つまりアーキア人はお役御免って訳よ そこを叩くわ」


「それって ほっとけば勝手に自滅するんじゃない? それにユシュタファ あなた誘因剤を撲滅するなら相手はアーキア人じゃなくて貴族って事になるじゃないの」


「それは問題ないわ 彼の望みはアーキア人が抱える問題であって それが誘因剤であれアーキア人の手から離れれば良い訳だし 貴族に切り捨てられたアーキア人の事なんて私の知った事ではないわ」


〔マルティナの言う通り それこそほっとけば勝手に解決するじゃない わざわざ出向く意味が分からないわ〕


「そもそも私個人の目的は誘因剤撲滅ではなくてハルメリーの求心力になる事よ 町のアーキア人通し それどころか彼等と住民との関係さえバラバラ だから誘因剤をばら蒔いた悪党の成敗をもって私とアーキア人の成果にするの 町にとって彼等が有益である事の証明になればアーキア人への見方も変わるのではなくて? そうすればバラけた関係も自然と纏まりを持つのだわ」


「凄い ちゃんと考えてたんだね でもユシュタファはそれで良かったの? その・・また貴族の下に纏まる事になりそうだけど」


「俺達は俺達の抱える問題を解決するだけだし そいつの奴隷になるつもりもねぇよ それに施しを受けたいなんて考えてる奴はどこまでいっても変わりゃしねぇ それこそ俺等の知ったこっちゃねぇよ それよりもお前等だ 何で首を突っ込んできた 何もメリット無ぇだろ」


「ん~・・・ メリットって考え方とは違うけど 僕達はそろそろ違いから生じる何かについて考えなきゃいけないと思ったんだ 部外者がアーキア人の問題に踏み込むのを君が嫌うのは分かってる だけど『違い』って部分は人種だけじゃなくマイナス等級にも当てはまるんだ」


〔私達はこれからマイナス等級支援に舵を切るわ そこに人種は関係ない でも残念な事に様々なところで差別は生まれるの それは貴女も痛感してるでしょう? きっと『違い』を認識した時点で私達は同じでいられないんだわ〕


「そりゃそうだろう 見た目が違うってだけでこれだぜ あげく考え方 価値観まで違えばもう絶望的だな でも良いんじゃねぇか? それが自然だ」


「そうかもしれないね でもさ・・・僕達は今馬車の中で同じ時間 同じ普通を共有してるんだ 個人のレベルなら全然絶望的じゃないよ 僕は全体が変わる事を望んでる訳じゃないんだ 不当とか排除とのか差別じゃなく せめて区別って認識に持っていけたらなって思ってるんだ


 だからこそ僕は 君達の抱える『違い』からくる問題にも向き合うべきだと思ったんだ 何より同じ町に住む住民なんだしね」


「まるで片想いだな お前が一方的に想ってたって相手も同じとは限らねぇんだぜ もっと現実見ろよ お前が思ってる程それは簡単な問題じゃねぇんだぜ」


「そうだね そうかもしれない でも僕には盲目って強みがあるんだ」





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