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358・ユシュタファとワッハーブ

前回のあらすじ


ダクプリの残党と思しきギガンティスと名乗る集団を払ったユシュタファ一行はその内面が既に疲れを見せていた。「ギルドに顔だそう」と提案するアネットに拒否するユシュタファだが、察したターヒル等が誘導してギルドへ。しかし扉を開けた先にいたのは彼等の嫌悪する集落の族長ワッハーブだった。

 ギルドホールは別に社交の場と言う訳ではない。本来は冒険者が仕事を得て仲間とプランを話し合う控室的役割がある共有空間なのだけど、今その場所は冒険とかけ離れた理由からピリついている。


 ギルドとは縁遠い筈のアーキア人集落族長ワッハーブ。対するは彼を嫌悪する集落外のアーキア人一同。彼等はまるで仇敵とでも出会したかような色して族長を睨んでいた。



「子供は成長が早いな 最後に見たのは背丈がまだ今の半分程の頃だったか」



 今にも抗争が勃発しそうな雰囲気の中、まるで童の頭でも撫でるかのような口調のワッハーブ。自分を軽んじるような態度が余計感情を逆撫でるのか、反射的に出たユシュタファの言葉にはたっぷりの敵意が乗せられた。



「テメェ何しに来やがった」



 彼女の中ではもう完全に敵なんだろう。久し振りの再会にも拘わらず、悪い意味での溢れる感情から社交辞令すら返す余裕がない。周囲に人の目があるにも拘わらず険のある態度を崩さないのが彼等の関係性を明確に表した。


 正直僕も「何故彼がここに?」と言う思いが頭から離れない。バウゼン伯爵がハルメリーから去り、集落は今立ち行かない状況と聞かされてはいたけれど・・・やっぱり関係があるのだろうか。



「なに アーキア人の進退を冒険者ギルドにも相談しようと思ってな」


「は? 聞き違いか? 何の冗談だ」


「冗談などではない 極めて真摯な話だよ」


「情けねぇな 今まで散々外は録でもないと吹聴してきたくせに 旗色が悪くなった途端 恥ずかしげもなく見下してた連中に尻尾振るってか」


「同胞の未来の為だ 私の頭1つで切り開けるなら尻尾くらい いくらでも振ろう」



 腰の重そうな重鎮がここに来るからには本当に後がないのだろう。言葉の節々に偽る色は見えないけれど、一度失った信頼は修復困難なようで、見る影もないかつての長にユシュタファ一同嫌悪感と懐疑心を深めた。


 ここまで悪感情を募らせるユシュタファ達にとっての集落とは何なのか。一周して逆に興味が湧く。



「何が同胞の未来だ 自分の権力を取り戻したいだけだろ 集落はどうなったよ 見事に崩壊したって聞いたぜ?」


「そうだな ある者は去り ある者は迷いの道から抜け出せず 皆光を失ってうつ向くばかりだ このままでは集落どころか個として終わる だからここにいるのだ お前達が仲間の為にと奔走するのと同じだよ」


「一緒にすんな 俺達は誰かの操り人形じゃねぇ 自分の意思で立って歩いてんだ 他人の金と薬物に魂売った クソみてぇな集団と同列に見てんじゃねぇよ」


「集落が優れているとは言わないが この町の通り以上の品が並んでいたのも事実だ それでも離れる決意を持つ者を私は否定しない どんな形であれアーキア人の血は残るのだからな」


「気色悪い言い方すんな テメェ等のせいで俺達まで変な目で見られんだよ もう集落の存在自体が迷惑なんだ ぶっ壊れて清々するぜ」



 自分の意思で生きていこうと決意したユシュタファ達には、アーキア人の巣窟と言う集落の存在がどうにもならない目の上のコブだったらしい。


 外にいる僕達にも集落は危険で近寄りがたい場所として認知されている以上「気味が悪い」と言う印象が世のアーキア人全てにのし掛かって不思議はない。


 そんな意識が彼等を差別と言う見えない鎖で繋いだとしたら、ユシュタファにとって集落も族長もそして僕等も何もかもが害悪でしかなったのだろう。それらが歩み寄る意思を見せない彼女の言葉から伝わってくる。


 ところが族長も族長としての見地から譲れない思いがあるようで、ユシュタファのトゲにも屈せず淡々と言葉を(つづ)っていった。



「果たしてそれは集落だけの問題かな? なぜ集落を形成するに至ったかを考えれば自明だろう 我々アーキア人との差異 見た目が この国の者には受け入れられなかったからだ 


 当然 我々は我々を理解して貰おうと何度も歩み寄った だがその(ことごと)くが嫌悪と共に突き返された それが集落創設の歴史であり今お前達が直面している問題だ」



 見た目に違いがあると言うだけでこんなにも心が離れてしまうものなのか。人は集団で生きる生き物であるならば、グループが出来上がるのは極めて自然だ。


 族長の言葉が本当なら彼等の境遇は彼等だけの問題ではなく、僕等の側も集落結成に加担したとも言える。そしてこの問題は同じ町に生きる僕達も目を背けるべきではない。誰かがどこかで間に入らなければ、この関係はいつまで経っても改善を見ないだろう。



「僕は貴方を含めてアーキア人を奇異の目で見たりはしません」


「ハハハ それは当然だ 盲目の君と我々とではその世界観からして違う 健常者が君を理解できないように君も我々を理解できない もっとも余計な些事にとらわれない君は ある意味幸福なのかもしれないが


 しかし我々は否が応にも目に写る現実を受け入れざるを得ない 違いの大小は明確な認知となって現実の距離に置き換わる 何を語るか何を成すかではない 見た目と言う違いこそが相互を隔てる幅を生み出すのだ だからこそ君達は君達で我々はいつまでもアーキア人なのだよ 


 ユシュタファよ お前が走る理由はおおむね我々の通ってきた道と本質的に変わらない それはお前がアーキア人を意識する以上 永遠に解決しない問題と向き合い続ける事を意味する」


「はっ 小難しい事並べやがって・・・上等だ やってやるよ そもそも失敗したお前の言葉なんぞ聞く価値なんかねぇしな」


「いいや 他者の失敗からこそよく学ばねばならない 成功だけがお手本ではないのだよ かつて私もこの命題と向き合った事がある 家族を犠牲にしてまで求めた問いは 結局のところ互いの架け橋には至らなかったがね」



 そう話した族長の胸に痛みが走った。世の中正しい事ばかりでできてないのは分かる。そんな中、葛藤に悶え生きてきた自身の経験を、次代を担う(ともがら)に伝えようとする彼の心境に偽りはない。


 そんな思いですら心の距離が邪魔をしてユシュタファには届かないのが何とも歯がゆかった。



「はぁ辛気くさいわね 程度の低い言い争いに付き合わされる此方の身にもなって下さる?」



 僕的に2人の会話には看過されるものがあったけど、ルディアにとって価値を見出だせる内容ではなかったのか、気だるそうに間に割って入ってきた。もちろん下心も忘れずに・・・



「ああ? ・・・お前まだいたのかよ」


「なっ! こいつ・・・フ フフ 良いのかしら? 私の目的は話を訊いてくれそうなアーキア人であって 別にあなた個人でなくても良くってよ?」



 どうにも彼女の動きはハルメリーで自分の配下を作る事に一貫している。アーキア人どころかギガ何とかにも声を掛ける辺り節操がなく、自身の影響力を町全体に広げようと言う思惑が透けた。


 その意気込みは活動的と言えなくもないけど空気が読めないとも言える。



「どなたかな」


「私はルディア・ルンドレン あなた困っているのよね だったら私の提案に乗らない? そうすれば伯爵家があなた達をバックアップするわ」


「おいテメェ! 何勝手な事言ってんだ!」


「勝手? 何を決めるかは本人の自由でしょ? それにあなたにも平等に声を掛けたじゃない 同じアーキア人でも断ったのはあなたであって彼じゃないわ」


「ぐっ・・・」


「・・・お嬢さんは我々に何を求める そして何を与えてくれるのだ」


「おい! 話を聞こうとしてんじゃねぇ! また道具にされてぇのか!」


「私の力が及ばなかった以上 耳を閉ざすのは愚策だ 失敗したならば別のアプローチを試せばいい 声を掛けられると言う事は警戒すべき事ではあるが 求められていると言う事でもある これをチャンスに変えられるかは本人次第だ 覚えておきなさい」


「上から言いやがって・・・っ いいぜ 聞いてやるよ テメェの話ってやつをなぁ もし下らねぇ話なら俺がテメェをこの町から追い出してやるっ」


「纏まったようね 少々機密性のある話だし ここではなんだわ ギルドで部屋を借りましょう」



 そう言うとルディアはユシュタファと族長を伴ってギルドの奥へと消えていった。



「あの女の子 泣くだろうなぁ」

「ユシュタファのやつ 曲がった事が嫌いだからよ」

「つったって 俺達だって品行方正って訳じゃないぜ? 間違った方向に行く事もやるしよ でもその後気付いて絶対荒れるんだよな」

「でもあの子はダメだろ 最初から俺等を利用する気満々だ」



 ユシュタファの過激な言動は今に始まった事ではないらしく、彼女と彼女に近付く大半の人間は反感をかって泣きを見るんだとか。


 でも人を見る目はあるらしくユシュタファが気を許した人通しの仲は良好。ルシュディー少年達からも「兄貴」と一目置かれるのがその証拠・・・らしい。


 ターヒル達とそんな話をしながら時間を潰していると、応接室から戻ってきたルディアがホクホクしながら高らかにこう宣言した。



「これからこの町のアーキア人は私の庇護下に入るわっ」





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